第一章 神隠し

目に見えないモノ……


 ――――下猪午後0時の時


 朝の光が見え始めた時に寝たせいか、昼になろうという時間に目が覚めた

 。

 倉庫街というのはホコリを誘い、ゴミの匂いを出し、日陰の涼しさを楽しませてくれる。普通の人間が嗅げば不快になる臭いも、日陰者に適して生きている俺の様な人間は、こうした搬送業者のみの倉庫街は生きていくのに最適だと感じる。


 酔い覚ましもかねて、湯を沸かし、珈琲の用意をする。

 ポケットに入っている香草煙草の口を切り、湯を沸かしている火に香草をつけると、大きく吸い込む。

 紫煙を吐き出すと、眠っていた脳細胞が起きてくる。

 沸かした湯を挽いた珈琲豆にかけコップに注がれた珈琲の匂いを楽しむ。


「感慨に浸ってる所申し訳ないんですが、ごちゃごちゃになってる部屋に、まとまってない書類、食べかけの食事ともうになってるんで、何とかしてく下さい。」


 気持ち良い朝が、あっさり現実に戻される。


「マルデリアン……」


 この倉庫のオーナーのディージブの一人娘

 元々取り壊されるはずだった倉庫を流れ者とはいえ借りてくれた俺に感謝してなのか度々こうして、家事をしてくれるマルデリアンを寄こしてくれる。

 ありがたいのはありがたいのだが、ほとんど助手並に、ここで管理業までやってるから溜まらない。

 お世辞にも華街といしてのブロンテで、年頃の女性が夜には暗闇だけになるこの倉庫に出入りしてるのは危ない。


「女の子があまりこんな辺鄙な倉庫街出入りなんてしている事がわかったら、危険な人間が待ち伏せさせられて襲われるぞ?」


「元戦場の鬼と言われたディージブの娘ですよ?

 ………でも確かにこの倉庫街ではないですけど、最近って呼ばれる事件が起こってるみたい。」


「単に逃げたとかじゃないのか?」


 歓楽街では風俗で働いているのが辛くなり、街そのものから逃げる人間もいる。

 店としても特別借金もない風俗嬢なら、気にもしないが、人気嬢などになると店側としても体裁を整える為に、神隠しや、いなくなった理由などをでっちあげ店側の問題ではないとする為に方便を使う。


「だったいいんだけど、いなくなってるのが女性だけじゃないの……」


「というと?男も攫われているのか?だったらマフィアの粛清とかだろう?」


「それだと、実際のマフィアの人間達が探したりしないよ。それこそ逃げたとかならそれはありそうだけど……」


 珈琲のお代わりを注ぎながら、香草を吸う……


(気になる点はあるんだが、決定的な状況証拠が少ないな……ただここら辺の情報はイアンかジンカの二人が握っているだろう。二人がそれを依頼してきたらまた別だが……二人とも現実主義の塊だからな。少ない情報で神隠しには飛びつかんだろう。)


「まぁとりあえず、そんな話があるなら、さっさと帰った方がいい。」


「そうね……夕方までには帰る事にする。

 とりあえず溜まってる洗濯から始めましょうか?」


 にっこり笑うマルデリアンは、服がはいったままの籠を持ち上げると、そのまま洗濯を始めた―――


 いやそこは触らないで、いやそのエロ本は見られたくない物!!

 いやすいません。店の女の子を事務所で呼んで遊んですみません。だから、だから忘れた下着を外に干すなぁぁぁ!!

 いやそれ年代物のウィスキーなんだから残ってるの少なく見えるけど残ってるの、捨てないで―――!!


 ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー


 散々な目にあった、本当に散々だ。

 倉庫は綺麗になった、仕事を受ける事務所も全て綺麗になった。

 散らばっていた書類も纏められて、綺麗になった


 でも……俺の心は汚された……


「レイプされた女性の気持ちってこんな感じなのか……泣くしかないな本気で……」


「そんなに掃除されたくないなら、日ごろから整理整頓、掃除、片付けを行って下さい。」


 正論だ正論だが、正論で人のプライベート荒らす言われはない……と言いたかったが、たぶん更なる正論で潰されるのがオチだ。

 それに今は涙こらえている時だ、気持ちの整理も落ち着かないときに言葉の暴力など受けたら再起が出来なくなる。


「何か失礼な事、考えているでしょう?」


 ジト目でこちらを睨むマルデリアン………

 この娘は本気でおじさんという生き物を大切にしない存在だ………

 だが弱く心が傷ついている人間に出来る事は


「いや…別に――――」


 無表情で返す事だ。


 ようやくマルデリアンの用事が終わったようで、日が沈み始める頃に店の手伝いがあると、店に帰っていった。


 正直もうこないでくれ……店子を心配する立派なオーナーになりつつあるが、正直一週間に一回でもきつい事なので、と心の中で願いながらマルデリアンの姿を見送った。



 夜時間にして下猿午後9時の時

 晩酌にとウィスキーを飲みながら、奥の窓を開けて夜の星を肴にしていた時間に、ドアをノックする音……

 ドアが開くとやってきたのは細見ながらもするどい目と鎧の下に機能的な筋肉を生やす男、歳にして30後半くらいの騎士、殺気をいつでも発散できるのを内包しつつ、相手を牽制している。

 このブロンテでこんな男は一人だけ、警備隊長イアン・マッケンローその人である。


「相変わらずな場所だな……。」


 倉庫内に入るなり、下に置いている書物を拾いながら、イアンはため息まじりにこちらを見てきた。


「ありゃ……イアン?なんの用だ?もう仕事は終わりだろう?」


 正直こんな時間に来るイアンの話はどうしても嫌な予感がするのだが、こいつは礼儀をきちんとしている。

 たとえ場末のこんな倉庫街で生息している人間でもきちんと手土産をわすれない。

 そういった意味ではの一人なのだが……


「仕事は終わっている。ただなどうしてもおまえに用があってここにやってきた。

 ほらイシュケ産のウィスキーだ。」


「おぉぉ!!また本場のウィスキー持ってくるとは!!」


 イシュケ産とは気が利く、ブロンテでもいい酒の流通できているのだが、本場のとなるとどうしても南東に位置する街ではどうしても、本場ものというのが手の入りにくい。

 飲みかけのウィスキーを一気に煽ると、空いたグラスにイアンが持ってきたウィスキーを注ぐ

 強烈な蒸留水のライ麦の香が倉庫内に充満する。


 香草に火をつけ、ふだんより深く吸い込み、この匂いと溶け込んだ味を確かめる。

 美味しいウィスキーだからこそ香で楽しませてくれる故に出来る楽しみ方だ。


「相変わらず、おいしそうに飲むなおまえは……」


「まぁ……少し前まで趣向品というのはなかなか楽しめなかったからな。こうした香草を含めて、今では生活の生きる糧になってる。」


「そうか……まぁ喜んでくれたなら良かった。

 それよりは本題に入らしてもらうぞ?」


 ウィスキーを一口ぐびりと飲んだ俺は、そのままイアンの次の言葉を待った。


「もう噂ぐらいは知ってるかもしれないが、巷で神隠しと称した人がいなくなる事件が多発している。

 歓楽街という性質上、客や店の人間のトラブル、金銭からの逃亡、不法奴隷売買等、あらゆる線を洗ってみたのだが、には引っ掛かるが、引っかからないのもある事件が多い。」


 イアンが潰しているのだから、おおよそまでは多発している多くは解決に導かれるだろうと思う。

 だが同時にどれにも引っ掛からない案件があるという事は、これはそれ以上出てこない可能性があるという事だろう。


「特に行方不明というのは、被害者の身内または保護者からの申告でようやく事件を探せるので、どうしても後手にならざる得ない。

 しかも事件という物は、警備という体制上ブロンテ自治員が構成している組織がそれを見極めていくので、俺達がそれの対応をするのもその事件の全容を自治員が導き出した結果に構成しなくてはならないので、防備というのができない。」


「理屈はわかるんだが、お前たちのできる範疇ではそれが限界だろう?」


「その通りだ、その為におまえに頼みたい。」


「依頼の内容は自治が発見できていないまたは解決出来てない《神隠し事件》の全容を探る事でいいのか?」


 俺の発言にイアンは軽く頷くと、持ってきた鞄の中から、おおよそイアンの中で振り分けたのであろう行方不明者リストを出してきた。


「こちら俺と他三人くらいで自治員が出したのとは別に探った不明リストだ。

 信憑性が高いとは言い難いが、それでも自治よりかは幾分精度は上がってるはずだ。」


 まぁ自治の方にも顔だしてもいいんだが、それよりかは街の娼婦に聞いた方が早いだろうな。


「自治の方に残ってる資料も見てみたい場合は……」


「基本的はそれは止めてもらいたいが、それだとおまえの依頼としては都合がわるいのだろう。イアンによる情報の要請としての伝文開示を許してもらえるようにお願いしておこう。」


「助かる……できるだけこちらの資料のみで探ってみる。」


「いや……あくまでもおまえに依頼する上での必要な事はこの神隠し事件の全容を解明してもらう事、それ以外はあくまでも警備隊としての俺の立場程度でしかない。」


 ある程度は依頼者の要望をのむのも商売上のルールなのだが、その依頼内容によっては客観的な思考で業務を見ていく必要がある。

 無能であっても自治の情報も必要になってくる。

 特に神隠しというワードで認識してなくても、住民から出された情報にはなにかしらのヒントが見えてくる

 中にはその情報を無意識に捨てている何て事もある。

 なにが必要か何が不必要かなどは事件解明で手をつける人間が取捨選択するべき事、情報にある無数の物を拾わないのは論外だ。


「まぁ善処はするよ。短いとはいえブロンテの警備体制を担ってるおまえの役割はわかるからね……」


「助かる……イシュケ産も無駄ではなかったという事だな。」


「まぁこれに関しては特別な意味を持ちそうだがな……ブロンテでもイシュケは遠いだろ、流通がきっちりしていても相当の高さになるはずだぞ?」


「基本的には海路からの輸送だな。魔法を使った物なんてのも昨今では行われているらしいが……ともあれこのイシュケ産のウィスキーの値段は目が飛び出す程という訳でもない。一般王都より少し安いぐらいの値段だ。」


「そうなのか?

 ブロンテはパロマディス大陸の南しかも中央の都市だから、陸路、海路共に遠い状態だから交通での不便な部分で運搬が悪いと思っていたんだが……」


「おまえがこっちに越してきてから、王都までの陸路整備が進んでな。南端の廃国までの整備を行うらしい。」


「そうか……また始まるという事か……」


 王国と廃国との戦はかれこれ数年に一回程度行われている。

 領土的な物が絶対的に大きい、王国は海路挟んで東に世界最大の国家の一つ京皇国ミヤスメラギノクニを隣国に抱えている。国力、武力、経済力、そして歴史とどれをとっても王国の何倍もある京皇国ミヤスメラギノクニは脅威以外の何物でもなかった。

 故に王国としても廃国の領土を奪って国力、武力を揃えて京皇国ミヤスメラギノクニに対抗出来うる状態にまでもって行きたいというのがある。

 廃国はそもそもの南の開墾が追い付かず、常に攻めてきている王国の領土の開拓された資源を元手に大きく国を作りたい野心から王国に攻めている。


 こうした領土的野心の戦では長期的な物が起こり、街の整備より街道や砦等の戦争までの足掛かりが大きく前進する。

 今回運輸に陸路の整備が大きくなっているのも大きな戦の前触れという事だ。


「ともあれ、今回の件はおまえに任せる。

 ブロンテの警備という点ではジンカに最大の権力を与えられているが、事件の解明となるとどう絡んでくるのか等の提示が多くてな、それにそれだけの人員を割けないのが現状だ。

 捜査過程においてのおまえのやり方は任せる、必要な情報提供も部下に命じておく。

 」


「ありがとよ。とりあえず今晩にでもざっと資料を見直した後、明日にでも取り掛かるとするよ。

 まぁこれだけの情報では何日かかるといった決める事はしにくいが、とりあえず十日を目途に一応事件の終りと継続を報告する。

 真新しい情報はつどつど報告する。」


「了解した……では頼んだ。」


 イアンは少し安堵した顔を浮かべると、俺の奨める酒をくいっと仰ぎ、持っていた葉巻を軽く吸った後、退出した。



 ウィスキーの入ったグラスと灰皿を資料のある机に持っていくと、イアンの調べた限りの物に目を通す。

 ざっと見ただけでも共通というのはブロンテに住んでいる程度、後はブロンテから出た訳でもないのに、友人、家族、知り合いに気づかれる事もなくいなくなっている。


 被害者一人目  ユシュア・キーシュ  24歳 女性

 捜索願届 赤猪月12月の七日

 部屋の中で休んでいた間にいなくなり、そのまま三日帰らなかった家人が自治員に報告、捜索願いが受理された。

 その後足取りを追って、捜索隊の元いくつかの物品が出てきたが、どれも発見に至らない物ばかりである。

 証言としてはいなくなる前日の物ばかりで、当日いなくなった時に彼女を見た者はいない。

 友人に酒場「ディーシヴマッシヴ」の看板娘マルデリアンがいる。


 被害者二人目  コルデアン・シュミット  33歳 男性

 捜索願届 黄羊月8月の二十日

 仕事中に外に買い出しに出掛けたまま、寮にも帰宅してこなかった、同僚が不審に思い捜索を行ったが、どこからもコルデアンの情報が出てこず捜索願いが受理された。

 仕事仲間や寮の人間等40人体制で捜索を行ったが、物品すら出てこなかった、ブロンテの出入管理の役所にもそれらしい人間が出入りした情報もなく、外に出た等の証言も得られず、ブロンテ内でいなくなったと思われる。


 被害者三人目  シャーロット・ゴース  13歳 女性

 捜索願届 赤龍月6月の四日

 友達と公園で遊んでいた折に公園外れに遊具が出た為取りに行った際にいなくなっている。日中という事もあり、人の往来も多かったが、主だった証言もなく情報もなく二日が過ぎ、捜索願いが受理された。

 公園からの足取りの一つに遊具近くにシャーロットの靴が置いてあった。

 しかしその付近でシャーロットぐらいの少女を連れている人間は見られず、また悲鳴や強引に連れていったなどの荒い状況も見つからなかった。


 被害者四人目  ゴルワン・ビシュビト  53歳 男性

 捜索願届 黄牛月2月の十三日

 ブロンテ華街にて女と一晩居た時にトイレ行った際にいなくなっている。

 部屋に帰ってこなかった娼婦がホテルのフロントにトイレを見てもらいいなくなっている事がわかった。

 ホテルのフロント自体やそこまで安くはなく、またフロントにはいつでも動けるように常時フロント員が待機している。

 フロント員はゴルワンがフロントを通って外に出ていないと証言。

 二日以上音沙汰が無かった為、捜索願いが受理された

 ブロンテから少し離れた精鉄所のオーナーという事もあり、事件性が高いと思われる。


 被害者五人目  ワルズ・シャネール  72歳 女性

 捜索願届  黄兎月4月の二十六日

 ブロンテで小間物屋を営んでいた時にいなくなったと思われる。

 朝店を開店する所は向かいの酒屋の店主が確認、いつもと同じく店の前を掃除していた。

 その後常連客が昼過ぎに訪ねていくと店は開いていたが女性の方はいない状態だった。

 店の常連客はその後、家の方にも足を運んでみたが反応がなく、不信に感じた客はそのまま家の家主と家族に連絡、家族は遠方の為に、家主が家を確認、もぬけのからだった。

 高齢の女性の為、店と家共にいない状態で、立ち入る場所に全くいなかった為、その日の内に捜索願いは受理された。

 高齢の為、捜索隊は警備隊からも出向、25人で捜索したが、出てくるものは全くなかった。


 年齢、性別、職業、全て現状関わりがない。

 強いて言えば俺個人の知り合いが知り合いといった程度だ。

 とりあえず、人相を含めて、行方不明者の素性をもう少し詳しく調べる必要がある。

 順番的にはマルデリアンから当たるのがいいだろう。

 昼の酒場の仕込み時の方が、夜の忙しい時間よりかはマルデリアンに接触しやすいだろうしな。

 塾に通う時間も加味して、時間を調整しよう。


 最近ではブロンテで読み書き程度の学力水準を上げる政策をジンカ自身が領主に圧力をかけてやろうかと打診しているが、現状仕事の兼ね合いで働き手を学び舎に取る時間がないというのが大半である。

 ジンカとしては経済成長の野心を叶えるにはどうしても学力一定以上は必要という考えだ。もちろん政策まで進める人間がゴロゴロいれば、現状の地盤を固める段階で足かせになり兼ねないので、見極めは必要だろうが、ジンカ自身も元貴族の人間だったので、勉学を持ってるが故に、家を捨てた状態でも身一つでこの街を支配出来るほどの椅子に座れた。

 ジンカ自身がこのブロンテを更に巨大にする野心を持っている以上、それを支える人間は一人でも愚者は少ない方が良いというのが本音だ。

 その為に試験的にマルデリアンなどのある一定以上の余裕と時間が組める人間には学び舎を提供し、そこで商売の力をつけてもらおうと思っていた。


 翌朝昼前に起きた俺は、昨日の資料をざっと再度読むとメモ用紙にさっと書くと、そのまま外で資料を燃やした。

 残していても、持って行ってもこうした物は問題にしかならないので、手元から離す最良は燃やして消してしまう事だ。


 火が鎮火するまで見届けた俺はそのまま消し炭をより分け、消し忘れがないか確認、全て燃えているのを終えると、そのまま酒場「ディーシヴ」へ向かった。


 酒場通りはこの時間は、その店の味を確かめられる時間にもなる。

 この時間は店主などがようやく起きるか起きないかの時間であり、その店主の行動が見て取れる。

 ここで店主が店を開けるまで仕込みをしたり、酒を吟味するなど客に合わせた行動をするか、店が開く前だからと早朝の娼館遊び、またはカジノに行ったりする。

 全てが必ずとは言えないが、店を構える主として、前者の様に客に提供する物を吟味する物は酒場としては少し一歩進んだ店だと思っているし、現状をそうした店が大きくなってきている。

 後者は酒場の特性をただ酒を提供し、どの酒にといった物ではなく塩辛い肴で良いと考える安酒場という認識なのだろう。

 確かに安ければいいというのもいるし、カジノで金を摩った人間などがやけ酒にと使う場所として使う場合もある。

 だが結局一見客程度の人間が付き合わず、長く常連になってくれる人間はつきにくい。

 この時間特有とも言うべきブロンテの昼の顔が見えてくる。


 とりあえずディーシヴの酒場の裏手の扉をノックすると、店主にマルデリアンに情報を聞こうと尋ねた。


「マルデリアンは今店の仕込みを始めたばかりだから、少しの時間ならかまわないが、どうしたここが終わったらお前の所に弁当届けに行くだろう?それじゃあだめなのか?」


「まぁ……この後尋ねに行く所が多いからな、マルデリアンを最初にしておきたかったんだ。」


「なんだ久々の仕事絡みか?」


 店子の心配というか、単純に娘が入り浸ってる男の素性を洗い出そうといった感じだろうか?

 勿論なんて職業はあまりお目にかかれないし、ジンカ程貴族出でもほとんど名前を聞いていた程度だ。

 酒場の元戦場帰りの男が陰者と言われてわかるわけがない。


「まぁな、依頼人は秘密だが、最近起きている神隠しについて調査する必要があってな、確か被害者の一人がマルデリアンの友達だったと聞いたんだが?」


「あぁユシュアの事か……もう二年も前の事だからある程度傷は治ってきてるんだが、どうもな。出来れば穏便に聞いてくれ、お前の仕事の邪魔をする気はないが、マルデリアンが悲しむのは男親としては許せないもんでな。」


「ちょっと待て、ユシュアが居なくなったのは二年前の赤猪月12月なのか?」


「なんだ知らなかったのか?」


「月の年は知っていたんだが、二年前というのは知らなかった。」


「以前から神隠しみたいな事は多かったんだが、はっきりと捜索まで出されて証拠遺留物を見つけても音沙汰なしだったのはユシュアが最初だな……

 俺もその捜索隊に参加していたから、そこら辺は覚えてるよ。」


 なんとマルデリアン前にいい情報源が手に入った。


「発見された物というのは?というかどこまで捜索したんだ?」


「一応ユシュアが立ち入りしそうな所から始めて、郊外とおまえが住んでる倉庫街も当たっていた。

 物品が見つかったのはちょうど郊外の草むら付近だった。見つかったのは服だった。

 ユシュアのおふくろさんから確認取ったんだが、その日に休んでいた時に着ていた服によく似ていたと言っていたな。」


 服が似ていたという可能性もないわけでもないが、情報として草むら付近で服が取られているのは大きい情報だ。

 いなくなっているマルデリアンから人物像を聞くにしても、その前段階の行動指針として行き先を大まかでも手に入るのもありがたいと思う。


「親父さんの目から見て、その服を見た時の印象はどんな感じだった?

 誰かに捕まって脱がされた風だったか?それとも自分から脱いでそこに捨てた風だったか?」


「いや誰かにみたいな争われた感じではなかったな、むしろ自分から脱いだみたいな感じではあるんだが……ちょっと違う感じもしていてな。」


 ディージヴが少し俺の回答になかった感じなのか、言葉を詰まらせる。


「というと?」


「服が荒らされた感じがなかったのは本当だ。汚れは多少あったとしても、それは落ちた際に土や草がついた程度だったしな。

 もし争ったりした形の過程で脱げたというなら、服は不自然な破けた後なんかもあると思うんだよ。

 それにこれはなんとなくの俺の勘なんだが、あれは自分から脱いだ感じかな……いやといった感じか。」


 脱いだじゃなくてか……


「いや……全くの勘なんだが、自分で脱いだという割にきれいだったんだ。

 だから、外でもし脱いだとしてそんな綺麗に服が置いてあるかと思ってな。

 むしろ脱ぎ散らかした感じの服になると思うんだよ………」


 なるほど、まぁ性的趣向的な快楽で露出癖だったとしても、そんな服を脱ぐというのもおかしい、なんとなくディージヴが見た光景がわかってきた……


「結構いい情報だったかもしれない。少しその場所が気になるから調べてみる。

 ありがとうディージヴ。マルデリアンには後日聞くと言っておいてくれ。」


 現場に行く方が先だと思った。

 捜索から二年以上も立っているとはいえ、現場の洗い出しは早い方が良い。

 経過、現場の保全、証拠の物品、どれも時間と共にうすれ見つかりにくい物になっていってしまう。


 しかし単なる行方不明事件だけ程度に思っていたが、これは思いのほか大きな事件になっている可能性があるな……としての能力がいかんなく発揮されそうだ。

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陰の梟~Scatola misteriosa~ 悪徳商人備前屋 @bizenya

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