彼の匂いはなぜか「おいしそう」

新世界

第1話

 あ、いい匂い。何の匂いだろう?

 廊下を歩いてたら香ったこの匂い。時間はもう下校時刻。近くにお店はないし……?

「匂いが強くなってきた。この部屋か」

 気になって扉を開ける。そこには、一人の男子生徒がいた。

「あ」

「どうもっす。何ですか?」

 男子生徒は、何やら皿洗いをしていた。

「あ、もしかして、匂いしてた? やっべー」

「あの……この匂いって」

「そう! ハンバーグ!」

「ハンバーグ!?」

 男子生徒は笑いながら頭をくしゃくしゃかいた。

「腹減ってさー。作っちゃった♪ やっべー」

 その時、私のお腹が小さく鳴った。

「あ、良かったら食べる? 一つあるよー」

「え」

「あ、ケチャップもあるからさ……って、いらない?」

 彼の申し訳なさそうな顔に、私は思わずその皿を手に取っていた。

「いただきます」

 夕焼け空、他の生徒たちの笑い声が聞こえてくる中、そのハンバーグからは、青春の味がした。

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