Memory Crystal ~記憶の結晶~

鳥皿鳥助

第1話






 この白しかない場所には無数の結晶が散らばっている。この部屋では数少ない色の付いた物だ。


 この様々な色をし奇妙な石、世界によっては魔石だのコアだの呼ばれているらしい。

 そんな物体が何故こんな所に集まるのか。

 それはここが“生まれ変わる魂達が記憶を捨てる場所”だからだ。


 僕は何者かって?

 僕はここの管理人をしている者だよ。名前は無い。

 僕を創った神わく「数が多すぎて名前を付ける気にすらならない」らしい。

 酷い人(?)だよねぇ。


 この結晶は上の方を通過する魂から鳥の糞のように……いや、例えが悪いね。

 赤芽球が脱核するようにポトポトと落ちてくる。


 魂は基本的には清流のように緩やかに……それでいて素早く流れていく。


 そんな記憶の結晶だが僕は時々面白そうな奴を選んで中身を覗き見している。


 選ぶコツは結晶の大きさや形だ。


 例えば縦に細長いだけの結晶はあまり面白くない。世界に大きな影響を残さず生きただけの人間だ。

 これはあんまり面白くない。


 その反面太い結晶は腹を抱えて笑うほど面白い。

 太い結晶は総じて長さが短い物が多い。


 僕が覗くのは後者のような面白い結晶だ。


 自分に他人の記憶が流れ込むことに違和感や痛みなどは無い。

 そう作られたから。


 ……でも以前“不死の王”とやらの記憶を覗いたときは記憶の量に思わず狼狽えたことがあったなぁ~……実に懐かしい。

 もう数千年前の事だ。

 だがそんな不死の彼も最後は神の目に止まってしまい、僕の知り合いを派遣され討伐されてしまったっけ。


「さてさて~……今回の結晶は~……これに決めた!」


 今回僕が選んだのは最近数の増えたとても小さな結晶だ。

 形的には面白くないだろうがこれなら原因究明という名目の元覗くことが出来るだろう。

 最近は結晶を覗いてばっかりで“仕事”をサボってたのがバレて叱られたが……コレなら大丈夫だろう!


「ニシシ!我ながら妙案!そんじゃいざ!拝見!!」


 いつも通り右手で結晶を握り、そのまま手を胸に当てる。

 すると結晶が徐々に発光していき記憶が僕に流れ込んでくる。


「ふむ……」


 どうやらこの記憶の持ち主は小さな頃から虐められていたらしい。

 親にも教師にも警察にも……誰にも相談できずに溜め込んでしまった。

 そんな事がただの人の身で出来るわけがない。すぐに限界がくる。

 そうして限界を迎えてしまった“彼”は自殺してしまった……


「つまんない!やられたらやり返せよ!復讐は被害者の義務だよ!?」


「ヤッホー、遊びに来たよ~……ってどうしたの?そんなに荒れちゃって」


 結晶があまりに詰まらなさすぎて唸ってる所に『J』が突然現れた。


『J』は神と同等かそれ以上の権限を有する者だ。

 その癖して僕以上に好奇心が強い。

 だから時々僕の居るこの空間に結晶を見にやってくる。


「あぁ、『J』か……久しぶりだね。理由を知りたい?」


 僕はさっきまで覗き見ていた結晶を無言で渡す。

 僕の渡した結晶を持って『J』はしばらく固まる。

 しばらくすると彼女は特に顔色を変えずに結晶返してくる。


「あんまり面白くないね。でもちょうど良いや。これっぽい結晶を何個か貰っていくね~」


『J』はそう呟き結晶の山から適当な結晶をいくつか回収して消えて行った。


「あっ、ちょっ……もぉ~……事情説明するの僕なんだよ?」


 自由奔放な『J』はもう既に居ないが報告が面倒で思わず愚痴とため息がこぼれる。


「とりあえず……これ報告しなきゃいけないかなぁ……はぁ~……めんどくさいなぁ……」


 僕は『J』が乱雑に掴んでいった為に破損したいくつかの結晶を持ちながら頭を抱える……





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