第3話:王様に会いに行く





 海に近い場所にある街、ベアブック。


 ここは、近くにある火山であるソア山をバックに雄大な山と海を一望できる街である。

 ━━━、そこは住みやすい街だ。

 そこそこ栄えて今日も活気溢れる声が露天のあちこちから聞こえる。



 ギャー!!

 助けてぇーッ!!


 ダーンッ!


「へっへっへ!オラオラァ!!」


「いいとこじゃねーか!食い物も金もたんまりだぁ!」


 武装した男達が街を蹂躙する。

 その掲げる旗は、最近勢力を伸ばしつつある近くの帝国の旗だった。


「略奪は好きにしていい!!

 我々に逆らったらどうなるかを見せしめろ!」


 ウォー!!

 帝国の兵士たちはガラの悪い雄叫びを上げる。


 このベアブックの街の住人は、ただ静かに身を寄せ合って大人しくするか、逃げるしかない。



 …………さて、話を戻すが、

 この街には、ひとつだけ。

 絶対にルールが、ある。



 それは…………





 ━━━━ズドォォォォン!!!





「なんだ!?」


「軍団長閣下!噴火です!!」


 兵士が、爆発するように黒煙の火山灰を吹き上げるソア山を見て叫ぶ。


 ━━━━その瞬間、逃げていたはずの住人が全員足を止めて山を見る。







 ━━━ピキュイックワァァアアアアアアァァゥゥゥゥゥゥゥン!!!!






 瞬間、火山の出す音とは違う、


 明らかに何かの鳴き声が響く。






「……レデュームだ……!」






 誰かがそう呟いた瞬間、街の住人は一斉に家々の壁へ殺到する。

 あまりの出来事にただ帝国兵が見ていると、老若男女、あらゆる人間が家々の壁近くに打ち込まれた金属製の杭、そこにつながれた頑丈な鋼鉄の鎖に自分たちの手足や胴をつなぎ始める。


「な、なんだ!?」


「悪いことは言わんから、死にたくなければあんたらも捕まれ!!


 そして祈れ!!


 レデュームがとな!!」


 街の住人がすべて鎖に繋がったその時、再びドォン、と火山が爆発する。




 ━━━ピキュンクワァァァァァ……


 ズン、と煙を引き裂いて現れる翼と爪。


 ずい、と燃え盛る火口から、赤い体表を持つ巨体がグイッと腕にように使われた翼の力で押し出される。






「━━━ふわぁぁぁ……よく寝たわぁぁ……!!」




 プルプル震える3本角と鋭いくちばしを持つ、羽毛のない鳥のような顔。

 あるいは、元の世界では『翼竜』と例えられた姿を見せる。






「おっはぁぁぁよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


 ━━━ピキュイックワァァアアアアアアァァゥゥゥゥゥゥゥン!!!!





 しかし、翼竜とは思えない屈強な翼を広げ、それを動かすのに相応しい引き締まりつつも逞しい体躯を持つ。


 その名は、



「流石は『空の大怪獣』と言われたレデューム様。

 ただ翼をお広げになっただけで、恐ろしさや神々しさをこうもあらわにしてしまうとは……!」




 うにゅ、と巨大な翼の怪獣━━━━レデュームは声の方向へ視線を向ける。


 長く豊かな黒髪に、赤いややはだけた衣装を持つ美しい女性━━━いや、『女神』が立っていた。


「うぉ!女神様だ!

 おはよー!良い天気だね!!」


「ええ、もう間も無く火山灰が街に降り注ぎそうな、絶好の怪獣日和ですわ♪」


「そかー!よくわかんないけどそうだね!

 うん、そうだそうだ!!」


 レデュームは、女神ハティの言葉に楽しそうに答える。

 以外と懐こい性格で可愛らしい、とはハティ談だ。


「所で、レデューム様?

 ちょっと乗せて行っていただきたい場所がございます」


「あー!そっか、ゼドラの所だ!

 あいつ怒りんぼで女神様だけだとすぐがおーって暴れるもんね!」


「はい……お話が早くって助かります」


「良いよ!

 で……あのグルグル君がもう一匹の付き添い?」


 と、一柱と一匹が空に視線を送ると……










「飛ぶな、飛ぶな、飛ぶな飛ぶな飛ぶな飛ばないでぇ……!!」


「レデュームよ……火山の大魔神、ソア山下ろしの主よ……どうかそのまま眠ってくれ……!」


「なんだ……これは……?

 どういうことなのだ……?」


 口々に祈りと嗚咽を漏らす町の人々に、困惑の表情を帝国兵たちは見せた。


 ふと、バサバサと音が聞こえる。

 上を見れば、なんとドラゴンが建物の上にやってきた。


「ドラゴン……!?」


《どけ!人間!!》


 と、建物から降りた赤い竜は、急いで街の噴水に備え付けられた鎖を加え、器用に体に巻きつけ始める。


 見れば、火山に住むモンスター達が街に急いで降りてきては、頑丈な建物の柱や打ち付けられた鎖に体を縛ったりして何かに備え始める。


「どう言うことだ!?そこのお前、説明しろ!!」


「さっき言われただろ!?

 レデュームが飛ぶんだ!!」


「たかがモンスター一匹が飛ぶだけでこの騒ぎな訳がないだろう!?」


《愚かな人間めが!レデュームは我らモンスターなどのようなではない!》


「何ィ!?」


 その時だった。


 ヒュゥゥゥ……


 それは、そよ風のような風だった。

 しかし、モンスター達や街の皆が山の方を見て固まり目を見開く。


 ……ヒュルルルルルルルルルル……!


「ん?」


 帝国兵が山を見る。

 すると、奇怪な物体が遠い空を飛んでいた。


 それは、例えるなら黒い皿のようで、


 青白い光を淵に漏らしながら、回転して空を飛ぶ。


「なんだ……?」


《ああ、なんと言う事だ……!!》


 一瞬それを見ていた帝国兵の脇で、まるで傅くよう姿勢を低くするドラゴン。


 疑問符を浮かべる最中、再び風が吹く。


 そして、風の方角を見たとき、帝国兵は理解した。








「じゃ追っかけるから掴まっててー」


「はい♪

 ふふふ、あなた様が飛ぶ姿をこんな特等席で見れるだなんて……!」


 女神ハティが頭の二つのツノの片方に掴まったのを確認し、レデュームが巨大な赤い翼を広げ、バサリと一つ羽ばたく。



 瞬間、山の斜面を下るように、強力な風が巻き起こる。

 降り積もった火山灰を巻き上げ、森の草木を吹き飛ばすほど強い風が━━━








「うっ……!」


 街を突風が襲い、帝国兵達が吹き飛ばされそうになる。


「なんだこの風は……!?」


《レデューム……火山の巨大なる翼の魔王……いやもはや『魔神』と呼ぶべき生きた災害……!》


 ドラゴンが風に耐えながら、そう言葉を漏らす。


《ただ飛ぶだけで、我らは頭を垂れ地に伏して通り過ぎるのを待つこと……!!》


 その瞬間、もはや宙に浮きそうな突風と共に、砂嵐の舞う中映る瞳に、飛び立つレデュームの姿が見える。



 ブワァッサァッッ!!!!



 たった一度の羽ばたきで、火口を大きく跳躍するよう飛び出して、火砕流のような突風を下に巻き起こす。


 進むもう一つの羽ばたきで、山の斜面へそうよう姿勢を直す。

 その勢いで低地の樹々が葉を散らし、舞い降りたレデュームの影に入った瞬間根ごと吹き飛ばされる。


 空の大怪獣、火山の魔神。


 その正体は、超音速で飛ぶ巨大な生物。


 音速、それは空気の密度の関係で低地であるほど遅くなる。


 レデュームは、地上に影が映る程度の高度ですら、音速を超えて空を飛ぶ。






 それはつまり、


 その影が映し出される大地は全て、


 空を飛んだ衝撃で吹き飛ばされ、跡形もなくなるという事。






 迫る空の影に、帝国兵は一瞬で死ぬことを理解した。

 抵抗も無意味と一瞬で諦め、影の背後から迫る嵐に巻き込まれ吹き飛ばされる。


 哀れ、身体を固定しなかった帝国兵達は皆悲鳴すらかき消すレデュームの羽ばたきに巻き込まれ吹き飛ばされていく。


 その日、街はかろうじて原型を保ち、帝国の侵略はなくなった。





 レデュームが、根こそぎ全てを吹き飛ばしたのだ。






         ***


「おーい、ぐるぐる君ー!!」


 ……それ、もしかしてオレの事か?


 回転をやめて、にゅ、と顔を出してみる。


「あ!!この前のぶつかりそうになった亀ちゃん!!」


「そういうお前は、なんかギュオウっぽいデカイ鳥」


 鳥?羽毛はないか。


「鳥じゃあないよ!レデュームだよ!」


「じゃあオレはジンガイだ」


「ジンガイ!!おけ!!」


 というか、頭の上に何乗っけてるんだ、レデューム。

 てか、女神なんでお前ほくほくした顔なんだ?


「……はっ!!

 どうもジンガイ様!ゼドラ様の場所へお送りするために、こちらの空の大怪獣レデューム様の力を借りましたわ!」


「そりゃあいいがなんでそんな嬉しそうなんだよ」


「だって……バカな人間の街が突然のレデューム様によってボロボロになるのが……うふふ、とてもとてもいい光景で……♪」


 怖いな、この女神。


「そりゃいいけどさー!!カメちゃんわたしについて来れるぅ!?

 わたし結構速いよ!!」


「お前が追いつかれる心配をしろ。

 案内を頼む」


「おけー!!!付いてきてぇぇぇぇっっ!!」


 って速い!!

 一瞬で距離が離されただと!?!


 顔出したままじゃあ、追いつけない!!



 キュルルルルルルルルルルルル!!!!



 オレは、こうやって回転して飛んだ方が速い。


 だが、あのデカい鳥──レデュームは、チラチラこっちを見ながらたまに手加減するように減速しては、近づいたら引き離してくる。


 こんなに速い奴は、ギュオウの親戚のウネウネ触手野郎以来か……!!




「───もうちょっとゆっくり飛ぶー!??」




 余計なお世話だ!!

 クッソ……お前の生命力を見ているが、そんな強さの光だけはありやがる……!!


 追いつくのは……無理か??




「んぎゃあっ!?!ストーップ!!!」




 と、アイツが突然急停止する。

 オレの方が止まるのは得意だ。

 両手両足の炎を調整して、奴の隣に止まる。




「……にしても、なんだありゃあ?」



 異様な気配だ。

 オレのように、マナを集めて何か邪悪な力に変えている。


 いつの間にかたどり着いた島の上、何かがいた。






「くははははは!!

 余は今復活した!!

 世界は、世の手のよって闇に飲み込まれる!!」




 恐ろしい顔、重厚な鎧……?そして角。

 やたら爪の長い腕を掲げた空に、光る禍々しい文様に、やたら集めやがったマナ。


 なんだアイツ?

 人間……じゃあないよな??



「あ、魔王。もうそんな時期ですのね?」


「「まおー??」」


「ええ……ここの星の闇の魔力が溜まるとなんだか生まれる、人間よりちょっと強い魔族の中でも割と強い生物ですわ。

 もう出る時期でしたのね……」


 へー……


「……てか、やばくねぇか?」


「まおーが何かはまぁよく分かんないけど、マズイよあれは……!」


「ええ……こんな事態になってしまうとは……」


 ひしひしと、この距離でも感じる威圧感。

 今はまだ静かだが、何かのきっかけにパチンと弾けて全てを飲み込むような圧倒的気配がする。





「肩慣らしだ!!

 島を一つ消すのもまた一興よぉぉぉぉぉ!!!」




 まおーが、集めたマナを邪悪な力に変えて、島へ落とす。




「消え去れぇい!!


 黒死暗黒衝撃波ダークネスカオスブレイクゥ!!」




 島へ向かった邪悪な力は、大地に当たる寸前で大きく膨らみ、島を包む。






「ふははははははははははっっ!!!!」















「……あーあ、死んだな。あのまおー」


「なんでよりにもよってあの島なのかなぁ??」


「まさか、知らずとはいえあそこへ撃つなんて」





 広がる邪悪な光。

 それを撃ち抜く、もっと恐ろしく巨大な力である

青白い光。


「何!?」


 それは寸分の類もなく、魔王の身体を包み込む太さで直撃する。



「ぐぅぅわぁぁぁぁぁ!?!?バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」



 ドォン!!!


 ……いや、あれで生きてるのか、魔王。

 かすかに命を感じる。








 ───ペギャァアアアアアアアアアッッッ!!!










 その時、切り裂かれた黒い邪悪な力が霧散する程の迫力の声が響く。



「キレてるね、分かるよー」


「なんつー圧だ……!!

 あの魔王とか言うのと比べ物にならないぐらいの……!!」


「ふふ……畏れてください。


 あの方こそ、星の支配者たる怪獣を治める怪獣の中の怪獣……!」




 ズン!!


 そいつがただ大地を踏みしめただけで、周りの空気が変わる。



「誰ぅあぁれどぅあぁぁぁぁ……!?!?

 せっかく気持ちよく寝てたのを邪魔した野郎はよぉぉぉぉぉぉぉ……!?!?!?!」



 パンッ、パンッ、


 破裂するような音と共に、結晶のような背中の突起たちが青白く明滅する。





「喧嘩なら買うぞゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?!???!」




 ペギャァアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!





 そいつの目は、憎悪に狂っていた。

 そいつの顔は、闘志で燃えていた。


 そいつは…………オレでも『勝てない』と思わせるプレッシャーを纏っていた。





「アレがゼドラか……!!」






 ペギャァアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!……クゥゥゥン……!!





          ***

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異世界激震!怪獣総進撃《ファイナルウォーズ》!! 来賀 玲 @Gojulas_modoki

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