第5話 世界一ではない魔法使いと、国を壊した救世主。
ごりごりと何かを削る音がした。
目を開けると、木製の天井が見えた。
「フラヴィア!」
聞きたかった声がして、その姿で視界がいっぱいになる。
「り、」
「まだ声は出さないほうがいい。あの糞野郎が数ヶ月はかかるって行っていたから」
糞野郎?
私はどうして生きているの?
「フラヴィア。俺とお前はあの糞野郎に助けてもらった。あいつは真性の悪魔だが、なぜか俺たちを助けてくれた。治癒魔法を使って、瀕死状態から救ってくれた。しかもこの小屋まで提供してな」
糞野郎?きっとマヌエルのことだ。
どうして、なんで?
何をしたかったの?
「マヌエルは、滅ぼされた隣国の王子だったらしい。その復讐を手伝わされたんだ。お前は」
リッカルドは、投げやりにそう言って、私の首元に手をやる。
「包帯を替えよう。薬も塗らないと」
王を殺して、国を滅ぼした「救世主」は、この国の民に救世主となった。
この国の中枢は汚職で腐りきっていて、私の住んでいた村はまだよかったけど、ほかの村は税や作物の取立てが厳しくて、民衆から不満が高まっていたみたい。
この国の名前は変わってしまったけど、民衆の生活は豊かになり、民は救われた。
それでも私は多くの人を殺してしまった。
こうして生きているのは、許されないことだ。
「フラヴィア。また変なこと考えてるのか?俺は、お前が生きててくれてうれしい。これからも一緒に暮らしてくれ」
胸の中で罪の意識がいつも私を責める。
それでもこうしてリッカルドを過ごせるのは嬉しい。
「フラヴィア。俺は、お前を妹してじゃなくて、ちゃんとそう、人生の……そうだな。相棒として考えている。お前はどうだ」
相棒。
相棒?
妹じゃないからいいんだけど。
「私もだよ。リッカルド」
すっかり喉が治り、声が出せるようになった。
世界一ではなかった魔法使いのリッカルドと、国を壊した救世主の私。
私たち二人は今日もひっそりと森の中で暮らす。二人だけで。
世界一の魔法使いと異形の救世主〜たとえ世界を敵に回してもあなたと一緒にいたい〜 ありま氷炎 @arimahien
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