第22話 幕間 工作員の反省

 ランファルたちの救出と居場所の確保を完了したアルファルドは誰もいない月下の下青紫色のウィンドウを展開しながら一人思考を巡らせていた。

 計画の第1段階は成立した。なんとかやっとここまで辿り着いた。この分なら『崩壊』もなく幼年期を終えてくれるだろう。

 手元のウィンドウにはいくらかの数値とグラフが表示されている。ユウキの現在の精神状態がどれだけ安定しているか、どれだけのストレスに耐性を持っているか。そして崩壊にどれだけ近いか。

 進行そのものは順調といっていい。

 被検体のメンタルは安定しているどころか自主性も発揮し、このヒンノムにも高い適応力を発揮している。数値的にもかなり良好。これなら半永久的に崩壊の心配はない。

 ため息をつきながらウィンドウを閉じる。



 実際のところアルファルドの仕込みはハーフの一族の侵入と盗賊団の撃退、そして最初にユウキを獣人に襲わせたことだけで終了していた。ランファルたちがトンネルを掘っていたことは知ってて無視していたし、正門での粉塵爆発も巻きこまれようともすぐに復活できる権限を持っていた。


 ハーフの一族にあえて村に潜入させてユウキに戦争を経験させる。それがアルファルドの用意した試練の第1段階。

 獣人たちの手によって命の危機を与えさせ、ユウキに生きようとする意志を発露させる。それが第0段階。


「第0段階がデカかったな。仕事をさぼってまで仕込んだ甲斐があったもんだ」


 珍しく独り言をぼやく。


 第1段階の後はユウキが助けようとしたから助けただけ。借金など返せる手段などいくらでもあるし、何よりログアウトしてしまえば済む話。ユウキがランファルたちを助けようとしたから協力してやったに過ぎない。

 まぁ監視下から放して危険な敵地に侵入させたのは賭けではあった。だが結果的には用済みで邪魔な村周辺の獣人を掃討でき、かつさらなる実戦経験を積ませられたことは大きい。なによりユウキが自分の意志で戦ったということが大きかった。


 まるで子供の自主性を尊重する親みたいだな。そうアルファルドは自嘲する。

 実際アルファルドのポジションとしては彼女の親に近い。精神の成長を促進し、見守る。

 親としてはあまりに愛のない教育ではあるが。親になるにはあまりに年齢が近すぎるが。


 だが彼自身も気づいていないことがあった。

 親になるということは、家族になるということは使命や仕事だけではやっていけないことを。

 ユウキとともにいることで自分の精神にどれほどの影響が出ているのかを。

 そしてヒンノムで暮らしていた3年間が自分をどう蝕んでいたのかを。


 アルファルドは知らなかった。

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貴方を救うたった一つの冴えないやり方 留確惨 @morinphen55

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