奴との戦い

クロバンズ

奴との戦い

——常闇が世界を支配していた。

その中で空に輝く月光が僅かな光を放っている。

夜の帳が落ち、静まり返った周囲。

就寝の準備をして、今まさに眠りに就こうとしていたその時。


『——』


"とある音"を俺の耳は捉えた。


「ッ!」


俺はその音を聞いて意識を覚醒させる。

俺の本能が直感する。

"戦い"が始まると——


俺は周囲の状況を確認する。

シンと辺りは静まり返り、薄暗い暗闇が世界を支配している。

その中で空に輝く月光がこれから始まるの戦いを静かに見守っているようだ。


「——」


再びその音が俺の耳を刺激する。


間違いない。奴だ。

この空間に奴がいる!

俺は静かに息を潜め、奴の存在を確かに自覚する。

それは微小な、けれど確かな音。

俺の心を憎悪を増幅させる忌まわしい音。


(——くる!)


俺が警戒心を露わにしていると、その音はこちらに近づいてきた。


(ッ!速い!)


反射的に動き、奴の攻撃を回避する。

そしてすぐさま側に置いてあった『武器』を右手に取り、構える。

そして気配を消した奴を捜索する。


(どこだ?どこにいるっ!)


周囲を見回すがいっこうに奴は現れない。


「くそっ!」


絶対に逃すわけにはいかないのだ。

奴をこの手で始末しない限り、俺に平穏は訪れない。

絶対、絶対に殺してやる。

この手で、その命を屠る。

過去の忌まわしき記憶と決別する為、俺は奴を殺さなくてはならない。

そう、俺には忌まわしき記憶があるのだ。

身体中を奴らに刺され、苦しみ悶えた記憶が——


「ッ!」


俺の視界にそのおぞましい姿が一瞬過ぎる。

俺は目を見開き、右手の武器を放射させる。


「喰らえッ!」


奴を殺すための最強の武器、その発射口から直線上に絶殺の一撃が放出される。


(やったかっ!?)


確実に俺の攻撃は奴に直撃したはずだ。

暗闇の中では奴の死体は確認できないが、根拠のない確信が、俺の中に安堵の感情を生む。

だが。


『——』


「何!?」


——その音は、消えない。


動揺と驚きを含んだ声をあげながら、警戒心がさらに高まっていく。集中していく精神の中で恐怖という感情が僅かに湧き上がるのを、俺は本能的に感じていた。


「くっそ……!」


何故だ。

確かに奴に俺の攻撃は直撃したはず。

殺し損ねるなんてありえない。

俺は過去にもこの武器を使って奴らを殲滅してきた。

今回も例外ではないはずだ。

考えられるとするならば——


「ま、さか」


脳裏をよぎる一つの可能性。

だがそれは信じたくない。しかしこの状況では信じざるを得ないだろう。


「一匹じゃ……ないのか?」


なんてことだ。まさか俺の血を狙う者が複数いるとは。

こうなったら仕方がない。


「……俺を本気にさせたようだな」


俺は左手にあるものを構える。

それは。


「いくぞ……二刀流!」


右手と同種のもう一つの『武器』。

俺はソレを構え、戦闘態勢を整える。


「来るなら来い!一匹残らず皆殺しにしてやる」


もはや出し惜しみしている場合ではないようだ。

全力で奴らを潰す。

もう奴らに、俺の血をくれてやるわけにはいかない。

そう思った次の瞬間。


『——』

「そこかァッ!」


再び背後に奴の音を捉えた俺は二つの武器を用いて先程より広範囲の攻撃を繰り出す。


「この世界から消え失せろオォッ!」


俺は咆哮をあげた。

そして攻撃を繰り出すこと数秒。奴らの気配は完全に消え去った。

奴の命は完全に潰えた。

完全にその命を刈り取ったのだ。


「ククク、ハハハハッ」


笑いが込み上げてくる。

そうだ俺は勝ったのだ。"奴ら"に。


「俺の、勝ちだ」


どうだ。思い知ったか。

俺は言い放つ。

勝利宣言を!


「この俺のッ!勝利だッ!この!害虫どもがあああぁ!」


その時だった。


「——うるさーーいッッ!!」


轟音。

突如として響いたその咆哮に、俺の心臓はドクンと脈打つ。

まさか……という言葉が俺の脳裏をよぎる。

やがて、ズン、ズンと。

その足音はこちら近づいてくる。


バンッというドアを明け放つ音。

その音の原因はすぐに判明する。

突如戦場に、もとい俺の部屋に鬼のような形相をしてその人物は踏み入ってきた。


「夜中に何やってんの!?うるさいのよ!」


鬼の咆哮のごとき口調で声をあげるのは——俺の母である。


「……あ、いや、あの、蚊が複数部屋にいて……」

「はぁっ!?そんな事で大声で叫んでたの!?なによ、両手に殺虫スプレー持って!さっさと寝なさい!」


バン!と扉を閉められ、俺は硬直する。


「そういえば明日も……学校だったな」


そう呟き、再び俺は布団に身を潜らせた。



俺と奴らの戦いは続く。

戦いの歴史は紡がれていく。


今までも、そしてこれからも。

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奴との戦い クロバンズ @Kutama

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