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…って、何か今の言い方、おかしくなかった?


しかもまだ抱き着かれたままだし…。


「あっあのさ、離れてくれない? 挨拶なら済んだでしょう?」


「いや、まだだ」


そう言ってわたしの顔を大きな両手で包み込んだ。


「んっ」


「ん~!」


そして、キスされた。


唇にっ!


さっきよりも上回るほどの悲鳴が、学校中に響いた。


わたしも悲鳴を上げたかったけれど、彼の口で塞がれては何も言えない。


幸いなことに(?)触れるだけのキスで、すぐに離れた。


「なっ…なななっ!?」


「キスまで、なら許してくれるんだろう?」


「誰がいつ、そんなこと言ったのよ!」


わたしが言ったのは、『これ以上、変なことをしないように』だ!


…『これ以上』?


コレ…って、キスって意味?


まさか、コイツっ!


そういう意味として受け取ったの?


「前々からお前のことは気になってたしな。オレもそろそろ本気になりたいところだったし、ちょうど良いな」


そう言って軽々とわたしを抱き上げた!


視線が痛い! ざくざく刺さってる!!


「キスだけで惚れさせてやるよ」


「何をバカなことをっ…!」


頭に血が上り過ぎて、上手く言葉が出てこない。


「お前、気持ちイイこと好きだしな。絶対に夢中にさせてみせる」


自信たっぷりに微笑む彼の笑顔を間近に見て、思わずクラッ…とくる。


…やっぱダメだ。


この男は危険過ぎる。


なのに動けないし、抗えない。


それなら…。


「じゃあ…見せてもらいましょうか? アンタの本気とやらを」


受けて立つしかない!


「ああ、良いぜ? そうじゃなくちゃ、おもしろくない」


「言ってなさいよ、自信家。わたしは甘くないわよ?」


「上等」


彼は満足そうに頷いた。


甘い空気なんて流れない。


挑むように、お互いを喰らおうとするがごとく、ピリピリした空気が流れる。


けれどそれも心地良いと思ってしまっているあたり、わたしもおかしくなっているんだろう。


…彼のせいで。


「そんじゃ改めて、オレのことは広喜って呼べよ?」


「ヒロ…キ」


口ごもりながらも名前を呼ぶと、彼…ヒロキは嬉しそうに笑った。


「ああ、カナ。そう呼べよ」


香奈っていきなり名前の方で呼ばれると、心臓に悪いんですけど。


前は委員長とか、前田という苗字で呼ばれていたから、急に変わると心臓に悪い。


でも悪い気はしない。


「お前をオレのモノにする。他のヤツになんか、渡さねーからな」


「ふふっ。頑張りなさいよ?」


わたしはぎゅっとヒロキの首に抱き着いた。


「そんじゃまあ、せっかく観客がいることだし?」


その言葉の意味を悟って、思わず顔をしかめる。


「…変態」


「公然プレイってのも、悪くねーだろ?」


「…選択、間違えたわね」


「嘘付け。本音は嬉しいクセに」


ムッとしたので、思わずわたしの方から彼にキスをした。


三度起こる悲鳴。


しかし構わず彼の唇を貪る。


ヒロキは嬉しそうに笑っていた。


きっと本当に嬉しいんだろう。


わたしと…キスすることが。


そしてわたしも感じてしまっていた。


ヒロキとのキスの、気持ち良さを…。



【END】

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許せるのはKissまで! hosimure @hosimure

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