時を過ごした想い

 季節外れの雨が降る仕事終わりの帰り道。予報には無かった雨が私の髪を濡らす。


 あの日もこんな雨だった。


 土埃と雨が混ざる匂いが不思議と自分の昔の思い出を甦らせた。



▲ ▲ ▲



 中学生になったばかりの帰り道。数少ないクラスメイトの1人の男の子と一緒に神社で雨宿りした。


 彼は傘を持っておらず、丸刈りの髪をかき分けるたびに水滴を辺りに飛ばしていた。


 クラスでは女子と男子で別れるため、あまり話したことはない。


 2人とも何も話さず屋根から雨の音しか聞こえない。向こうも気まずそうに俯き、私もただ遠くを見つめていた。


 何も起こらない時間が粛々と進み少しずつ体が冷えて震えが止まらない。くしゃみをしたら彼に気づかれるかもしれない、そう思い必死に鼻を抑えた。


 もぞもぞとする鼻の奥のむずがゆさを力強くギューっと人差し指と親指で挟んでいた。


 しばらく夢中になって抑えていたら、ふと隣に気配を感じた。


 横に少し濡れたカッターシャツを着た彼が几帳面に折り畳んだ学ランを私に向けて立っていた。


「んっ」


状況を理解できない私があたふたしてると


「んっ!」


と強引に彼は学ランを押し付けた。


「あっ、ありがとう」


 そう伝えると、彼は自分のカバンを頭に付けて、降りしきる雨の中をかき分けるように走り去ってしまった。


 1人神社に取り残された私は手元にある少し濡れた学ランを肩にかける。


 思ってたより大きな学ランは濡れていて冷たいけど暖かい。


その時の私は彼の優しさが嬉しくもあり、同じくらい残念に感じたのだ。



▲ ▲ ▲



 あの後、彼とは少し話をする程度のクラスメイトぐらいの仲で、それ以上には発展しなかった。


 今になってはいい思い出かもしれないが、何年前のことかも忘れたほど昔の話だ。


 でも‥今年の夏は帰ろうかな、住み慣れてきた都会から住み忘れた田舎に戻るのは久しぶりだ。


 久しく会っていない彼はまだいるのかな、あの時、耳まで真っ赤にしながら私に学ランを渡してくれた彼。


 あの時の彼が私のカバンを見ていたらどうなっていたのかな?私は今ごろ故郷で暮らしていたのかな?


 なんの変哲も無い私のスクールバッグの教科書の隅に置かれた折りたたみ傘を。









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青春letter〜誰かの物語〜 @tanajun

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