青春letter〜誰かの物語〜

時を秘める想い

 こんな話がある。

山奥の使われてない郵便箱に投函した手紙は、いつの日か必ず相手に届く。


 ぼくの生まれた町には都市伝説めいた噂が

多くあったが、何故かこの噂だけは祖母も知ってる古くから言い伝えられたばあちゃんより長寿な話らしい。


 別に信心深い訳ではないし、このたぐいの話はいつもなら鵜呑みにはしないのだが僕は噂の郵便箱の前に立っていた。


 家から自転車で1時間以上ほどかかり、電灯が少なく、舗装などされてない獣道。その端にポツンと忘れられたように置かれた赤い郵便箱は所々サビている。


 なんの変哲も無いこの郵便箱にどれだけの想いが詰まっているのだろうか。


 何度も誤字が無いか確認し、何度も文章を書き換え、何度も見直した手紙。


 伝えられそうにない想いを、届けられない気持ちを、書き連ねた1つの便箋に込めた。


 自分の書いた手紙が相手に届いて欲しい反面、届いて欲しくないような気もする。こんな意気地なしのぼくには、この伝説が丁度良い告白だと思う。


 届くはずのない手紙を入れ、心を縛り付けていた糸がほつれていくのを感じていた。


 彼は誰にも見られないように、すぐに想いが詰まった場所から離れるため、夕日が沈む帰り道を力一杯漕ぎ出す。


 妙に熱い頬と短い髪の合間を風が通り過ぎ、涼しくなるのがやけに心地良く、忘れられそうになかった。


 それが嬉しくも苦しくもあることに若かった彼は知らない。

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