案内に従って薄暗い庭を回っていくと、屋敷の一番奥に8畳ほどある居間のような部屋がありました。畳ががれ、普通は工程の終わりの方で壊す床板や根太ねだも取り払ってありました。

「なんで床と根太、先にやっちゃったんですか?」

「腐ってたんだよ……そんなことより床下をよく見てくれ」

 彼は心底困った顔をしてみせました。

「……なんか、あるだろ」

 LEDライトを手渡され、剝き出しむきだしになっているその部屋の床下を見て、私は言葉を失くしました。


 骨です。

 人間の、10歳位の大きさの子どもの骨でした。

 とても古いもののようです。

 一人や二人分ではありません。


 突き固められた土と砂利の上、この部屋の壁に沿うように、ひざを抱えた胎児の姿勢で横倒しになった子どもの骨が間隔かんかくを置いてぐるりと並んでいます。

 そして、四方を囲む骨だけでなく、部屋の奥の壁の三等分した右側の点あたりから部屋の中心へ向かい、それから弧を描くように右の壁へと数人の骨。

 玄関から部屋の奥を向いて立ったとき、「四」の字から四角の中の「ノ」の部分を除いたように並べられていました。

 おそらく十数人分の骨があったと思います。

 丸いしゃれこうべが、暗い中で白っぽく見えました。


「これ、なんですか?」

「知らん……施主せしゅに電話しても知らんと言われた」

「やっぱり、教委きょういに連絡した方がいいんじゃないですか……警察とかともうまく折衝せっしょうしてくれそうですし」

「でも施主が『見なかったことにしてくれ』だと」


 現場監督は困惑の極みでした。


「もう下のやつはこれ見てみんな逃げ腰で……あんたこういうの他んとこで見たことないか?」


 あるわけありませんでした。


「ちょっと外の空気吸って、仕切り直しましょうよ」


 拝み屋か坊主を呼ぶべきかとぶつぶつ言っている現場監督と連れだってそこを出て、とりあえず落ち着こうということになりました。


 私は霊感だとかそういうものは持っていないし、あの場所から不吉な感覚が立ち昇るとか寒気がするとかそういうものも全く感じませんでした。


 ただの土埃の匂いと、古い石置き家屋にある藁臭さ、それから妙に乾いた空気。


 その中で私が感じたのは、何が目的だかわかりませんが子どもの死体をこういうふうに並べた、当時生きていた人間の怖さでした。



   <おわり>

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江山菰 @ladyfrankincense

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