いつか、また
黒羽カラス
第1話 ありがとう、さようなら
寝落ちしたらしい。顔を上げると目の前のパソコンが午後十一時を知らせる。取り敢えず終了させた。
床に脱ぎ捨てたパーカーを拾って羽織る。ポケットには財布を入れて部屋を出た。
「
「わからないわ」
「来年には高校受験が控えているんだぞ」
「わたしに言わないで! わからないのよ!」
いつもの内容だった。両親に気付かれないように壁際を通る。
「
母親の一言で足が止まる。
美由紀は二つ下の妹で何年も顔を見ていなかった。
病院で今も眠っている。生命維持装置に繋がれ、生きている。幼い頃の交通事故が原因で植物人間になっていた。
僕には関係ない。
外へ飛び出してコンビニを目指す。
「どこへ行くの?」
ガードレールに座っていた少女が話し掛けてきた。水色のワンピースは空の色と似ている。
「……コンビニだけど」
「それならわたしと付き合ってよ」
少女は長い髪をかき上げて笑う。明るい表情が印象的で、ほとんど無意識に近い状態で僕は頷いていた。
連れて行かれた先は小さな公園だった。遊具は少ない。ブランコと滑り台があるだけ。
「こんな広いところが貸切だよ」
少女は長い髪を弾ませて走り出す。子供っぽいと思いながらも見事に釣られた。追い掛けるように走っていると笑顔になれた。
その後、バカみたいにブランコをこいだ。高さを二人で競った。
幼少の頃に戻って滑り台を楽しむ。少女が後ろから押してきた時は少し慌てた。
楽しい時間を一緒に過ごすと、別れが寂しくなった。偶然の一回で終わると思っていたから。
でも、そうはならなかった。少女との交流は続いた。深夜、コンビニに出かける度に出会い、バカみたいに走って公園で遊んだ。
今日もへとへとになるまで駆け回った。心地よい疲れで眠気がきた。生欠伸で目を擦る僕に、帰ろう、と少女から話を切り出した。
別れ際、少女が
「わたしはいなくなるけど、この世界を楽しんでね」
今日が最後と知った僕は、ただ、悲しかった。
翌日、僕は病院にいた。母親はベッドの側で泣きじゃくる。父親は窓の方を向いて肩を震わせていた。
ベッドで息を引き取った妹は、いつの間にか髪が長くなっていた。顔も少し大人びて口元には微かな笑みが見て取れる。
「……この世界を……楽しむ、よ……」
僕は言えなかった言葉を口にした。
いつか、また 黒羽カラス @fullswing
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