第38話 国を救いし者達

「おはよう、ルナ。とうとうこの日がやって来たね」


「うん。イーゼンセン帝国に今回の行為に対する賠償金請求と不可侵条約締結するんだったよね。そこで力を見せつける事になるなんて初めてで緊張するけど頑張る」


「多分初めてじゃなくても緊張すると思うよ。だって国同士のやり取りに関わることになるんだから。私たちの行動や態度次第でいい方向に向かったり悪い方向に向かったりもするからね」


 復興終了を祝う大宴会の日から3週間後、とうとうこの日がやって来た。会場の準備や王都の警備体制を整えたり、今回イーゼンセン帝国側に要求する内容の確認等の準備はなかなか大変ではあったが、それも今日の王城での会談で全てが終わる。


「えっと…… 確か今日の昼頃に王城の特別会議室に集合して皇帝が来るのを待ってれば良いんだっけ?」


「そうそう。出迎えと特別会議室までの案内はエルテス2世直属の部下がやってくれるみたいだからね」


 準備を済ませた俺とユーラは、王城内の食堂で朝食をルスマスたちと取った後、まだ時間が3時間程残っていたので、会談に対する緊張感を解消する為に広大な王城内の許可されている範囲内で散歩をしたり、魔導騎士団たちとの魔法と剣の撃ち合い等をしていた。


 そんな感じで過ごしていると、時間がいつの間にか3時間近く過ぎていたので急いで集合場所の特別会議室へと向かう。その場所には既にエルテス2世や文官長、クルウェイクに魔導隊の隊長等この国の中枢を担う人物が勢揃いしていた。


「お、来たか」


「すみません。時間ギリギリで」


「大丈夫だ。では、最終確認を始めるぞ」


 こうして集まった皆でイーゼンセン帝国に対する要求の最終確認をする。結果、今までにやった打ち合わせの時に出た物から殆んど変更は無く、皇帝が後に開催される勲章授与式の開会式始めに王都の民に対する謝罪の言葉を言って貰うのが追加されたのみだ。


「イーゼンセン帝国皇帝がすんなり認めてくれれば良いんだけど、そうも行かないよね」


「まあ、そうだろうな。高確率でごねるだろう。我が国よりも遥かに大きく強大な国の皇帝が、向こうから見て弱小国家も良いところの我が国に戦闘で負けたあげく賠償金を払い、更にその国の民に対して謝罪する事になるなんてプライドが許さないだろうから」


 て言うか、そんなプライドのかたまりである帝国皇帝をよく呼び出せたものだ。俺がその立場だったら絶対に行かないだろう。全面戦争を即決するかもしれない。


 そんな会話をしていると、1人の近衛兵が会議室に入ってきて皇帝が王城に到着し、今こちらに向かっていると言う事を知らせてきた。遂に皇帝との会談が始まるとだけあって、この場に緊張が走る。


 そして待つこと10分、遂に帝国の皇帝が2人の剣士と共に俺たちの待つ特別会議室に入ってきた。


「ふん! エールテス王国ごときが俺を呼び出すとはいい度胸だな! まあ、仕方ないから来てやったぞ」


 案の定と言うべきか、超上から目線で入室してきた皇帝。俺たち以外の人たちは慣れているようで、この態度には反応を示さずに早速本題に入る。


「ではイゼンよ、単刀直入に申す。王都を襲撃して多数の死傷者を出し、王城の兵士たちに飽きたらずに非戦闘員である者を殺し、我を暗殺しようとした。その際の復興費用や、殺された者の家族に振り分ける分の金剛貨1000枚と、王都の民前での謝罪を要求する!」


 エルテス2世がそう言うと、イゼンが反論する。


「そんなの受けるわけないだろう。第一、俺の送り込んだ精鋭がやられたのはお前たちが強かったわけではなく、単に奴等が雑魚だと油断しすぎただけだ。最初から本気でいけばお前たちなど!」


「その雑魚にお主の送り込んだ精鋭が負けたのは事実だろう? 我らにはその精鋭たちに1が居た。そう言う事だ」


「じゃあそいつと俺が連れてきた2人を戦わせてこっちが負けたらお前たちの言う条件を認めてやろう。言っておくが、帝国内でも最強クラスの魔法剣士だからな」


「分かった。それではルナ、よろしく頼むぞ」


「分かりました。エルテス様」


 こうして、王城の広い庭でイゼンの連れてきた剣士2人との手合わせをする事になった。最強クラスの魔法剣士と聞いているので、最初から魔力全開+強化魔法で剣を構える。


 2人が身体強化魔法を使い、土と風属性を纏った剣で斬りかかって来るのを身体能力と動体視力を駆使してで避け、持っていた闇月剣クラバルナと蒼氷剣アイヴァで斬る。


 何とか持ちこたえた2人は、多数の斬撃を繰り出す技を同時に仕掛けて来た。それを全部受けるかいなした後の彼らの隙を見逃さず、そこに氷矢アイスアローを叩き込んで完全に制圧した。


(エルテス2世も無茶なことを言ったもんだ。この2人を制圧しろなんて。まあ、上手くいって良かった)


 その後要求を全て通すことに成功し、今回の会談をもってイーゼンセン帝国とエールテス王国との全面戦争は回避され、関係改善に向けて努力する事も決まり、これにて会談は終了した。


「ルナ、お主やるな! まさか本当に無傷かつ迅速にあの2人を撃破するとは」


「これでもギリギリでした。お陰で魔力消費が激しかったので物凄く疲れましたけど、エルテス様の要望には答えることが出来ました」


「ああ! 本当によくやった! そう言えば、これから勲章授与式があるから最後それに出席してもらえれば、これで我からの依頼は全て終わりだ。報酬はその後に渡すからな」


 そして、1時間程の休憩の後に勲章授与式が始まった。約束通りに皇帝イゼンを最初に出し、1番目立つ場所で民衆に向けて土下座で謝罪させた。突然の光景に王都の民は戸惑いを見せるも、直ぐに思い思いの罵声や卵を投げつける等の行為を15分もの間し続けた。


 その後、民衆たちの歓声の中俺たちへの『救国者』勲章の授与が行われた。


「お前ら本当にありがとうなぁ!」


「吸血鬼の嬢ちゃんの凄い魔法のお陰で古竜に殺されずに済んだ! ありがとう!」


「なあ、皆。これからあの冒険団の事を『国を救いしシュパーガ・者たちデスランデス』と呼ぼうぜ! コイツらならこう呼ばれるのに相応しいだろう!」


「確かにそうだな! よし、皆で一斉に行くぞ。せーの!」


「「「ありがとう!『国を救いし者たち』! 一生忘れないからなぁ!!」」」


 こうして名誉ある『救国者』の勲章と、民衆から『国を救いし者たち』と言う称号を貰い、イーゼンセン帝国とエールテス王国の問題を解決することに成功した。



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蒼氷の吸血鬼~俺を討とうとした冒険団と共に依頼解決してたらいつの間にか国を救いし者たちと呼ばれてた~ 松雨 @shado5t5

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