おっさんと料理教室 三品目『肉じゃが』

 俺は月曜日から金曜日まで、サプリメント工場で働いてます。


 朝から晩まで、汗かきベソかき、あくせく働いているよ。


 そうそう実は良いことがあったんだ。


 なんと長期のパートになれたよ。


 やったね。とりあえず助かったぜ。

 

 真面目に必死に頑張って、仕事をした甲斐があったってもんよ。


 パートのおば様がたが「あの人は親切で頼りになるわ」と上司にしてくれたらしい。


 イエーイ!

 ありがと〜お。


「とにかく笑顔を振りまくんだぜ、俺!」


 俺が日頃心がけてること。


 俺、あんまり女性受けする顔じゃない。


 なんなら怖いとか言われちまう。


 だからね、笑顔が大事です。

 

 モチのロンでイケメンじゃないしね。


 イケメンな奴はそれだけで人生がお得だよね。

 羨ましいぜ。


 まっ。

 うらやんでも仕方ない。


 俺は一生この顔だ。


 男は顔じゃないぜ、真心だよ。







 先生、こんにちは。

 今日は三回目の料理教室だ。


 あれ?

 今日は男どもが、もう席に座っている。


 どうした。

 どうした。


 美しき妖精のような先生の前には、俺と80歳のじいさんしかいねえ。


 俺はあまり女性にグイグイいけるほうではない。


 俺と真逆でじいさんはすごい。


 先生と楽しそうにおしゃべりしてる。


 俺は先生に味噌汁が上手に作れましたとだけ報告をした。


 すぐに席にひっこんだ。


 生徒やろうたちがやけに静かだな。


 今日の授業は難しいのか?




 さあ授業の始まりです。 


 肉じゃがです。


 肉じゃがか!


 煮物の王道だね。大好きだよ。


 食べるだけなら。


 主役はじゃがいも、豚肉か牛肉さ。


 あとの材料は、玉ねぎ、人参に絹さやです。

 

 お好みでしらたきやグリーンピースもどうぞだってさ。



 じゃがいもくのって、こんなに大変だったんだね。


 包丁使ってさ、くぼんだとこ、芽を取るのか。


 ゴロゴロ、ゴロゴロ。


 手から転がる。


 こんなでこぼこ、ムッキー! いらつくな。


 猿山のサル並みに騒ぎ出したいぜ。


 えっ? ピーラーを使え?


 こりゃ良いわ。



 もう豚肉炒めてんだね。


 いい匂い。



 出汁投入。

 へえ、そこで出汁だしの授業がきいてくるんだな。


 ……ダシだけに。


 分かった? 親父ギャグだよ。

 ギャグにもなってない? 

 俺はなに一人でツッコミ入れてんだ。



 俺がじゃがいも一個と格闘している間に、同じグループの奴らがほぼやってくれた。


 作り方をおさらいしとこ。


 もう出来上がったの?!


 へえ、圧力鍋ってのは、そんなに時短になるんかい。





 いただきます。


 美味いですっ。


 涙が出るほど美味いです。


 ホクホクじゃがいもが、たまらねえな。


 お代わりしちゃお。


 出来立ての肉じゃがは最高だった。


 別れたカミさんが作った肉じゃがを思い出しちゃった。


 あいつのも美味かったな。





「ここで私事ではありますが」


 どした? 先生。


 急に先生は顔を赤らめて話しだした。


「結婚いたしました」


 ええーっ?!


 まじショック! ショック……。ショックぅ。


 ガーン。


 頭に岩石が落っこってきたような衝撃。


 ハートブレイク。


 割れた。


 壊れた。


 シュンとなる俺。


 だからかあ、男どもが静かだったのは。


 先に耳にした奴がいたんだな。


 はあ。



 まあ結婚しても、美人は美人だし。


 楽しいから料理教室はこのまま通い続けるか。



「相手は……」


 嘘だろっ!!


 おいっ。



 俺の横の80歳のじいさんがすっと立って、なんと美人の先生の隣りに寄り添ったあっ!


 まっ…マジっすか。


 俺はあっけに取られて、肉じゃがを食べる手が止まる。


 

「私、年上好としうえずきなんです」 


 いくらなんでも年上過ぎじゃああ〜りませんか、先生。



 上手くやりやがったな。


 じじい。



 俺でも頑張ればイケたんじゃねえの。


 あ〜あ。






 先生、さようなら。


 また、来週〜。(涙)







          おしまい♪






 

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おっさんと料理教室 天雪桃那花 @MOMOMOCHIHARE

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