67.脅し
繭にすっぽりと包まれた人間は血走らせながら眼を大きく見開き、絶えず口から小さな声を垂れ流していた。
「···ろす···お······こ···。」
「こいつはなんて言ってんだ? 」
「···隼人と同じですね。」
「隼人? ハヤタじゃなくてか? 」
「あぁそうでした。まだ皆さんに伝えてませんでしたね。実は勇者ハヤタと賢者サヤカも理と同じで異世界から飛ばされてきたらしいんです。ハヤタの方は隼人が本名で彩華は名前は変わらないそうです。で、理と隼人は何やら幼なじみらしいんですよ。」
「へぇー。そうだったのか。なんか衝撃の事実ってやつなんだろうけど理の話聞いたあとだからなぁ···。んで、その隼人と同じってのはどういう事だ? 」
「“魔王を殺す”この言葉に聞き覚えがありますよね? 」
そう言われてバティはハッとした。
「地下牢で隼人が言ってた···。」
「そういう事です。」
そしてバティがもう一度よくよく耳を澄まして聞くと確かに聞こえた。
「···す。魔王を殺す···。」
「お、おい。これって相当危なくねぇか? 」
「えぇ。まだ今は動く気配がないですがもしこの繭の意味が|羽化する前(・・・・・)ということなら早急に処理する必要があるかと。」
それを聞くなりバティは弾かれたように理の元へと飛んでいった。
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側近が近くにいなかったからウィッチと隼人でどうするのか相談することにした。
正直、僕だけではもう考えが浮かびそうにない。
「ねぇウィッチ。この量の魔人を火葬するにはどうすればいいと思う? 」
「そうだねぇ···。流石にこの量だと一気にってわけにもいかないしね。手分けして何ヶ所かに分けて山積みにしてから一気に燃やすしかないかな。あたいならそうするよ。」
「俺もそれがいいと思うな。というよりこの量だとそれしかない気がする。まぁでも最後の判断は理に任せるよ。」
「うん。でも僕にも意見が浮かんでるわけじゃないからウィッチの意見を採用でいいと思うな。ただ、問題というか、あの重量の魔人をどうやって山積みにするのかとか考えなきゃいけないことはいくつかあるからそこはみんなと話しとかないとね。」
「そうだね。そしたら一旦集めるかい?」
「うん。そうしよう。」
そうしてみんなを呼ぶために立ち上がって振り向いた時だった。
「理〜!!! 大変だ!! 」
そやって大声を出してバティが慌て気味に走ってきた。
余程のことらしく僕の前に着くなり息付く間もなく口早に話し始めた。
「ハァハァ、ま、繭が···ハァ、繭が出てきたんだ。」
「ん? 繭? 一体なんの話? 」
たしかバティは側近たちと一緒に魔人の解体をしていたはずだ。
それが突然繭とは一体全体、なんの話なのかさっぱり見当がつかなかった。
魔人の解体と繭との間に一切繋がりというものが見えないからだ。
そしてその答えはだいぶ息も落ちついてきたバティが口にした。
「魔人の頭に穴開けたらそっから繭にくるまれた人間が見えたんだ。それで···いや、直接見てもらった方が話が早い。百聞は一見にしかずとも言うしな。とにかく着いてきてくれ。」
「あ、うん。」
「おーい! レンたちもこっちに来てくれー! 」
「おー、なんか見つかったか? 今行く。」
こうして10人全員とアルシアが先程まで側近たちで解体していた魔人の前に集合した。
「で、繭ってなんの事だい? あたいらにはいまいちピンと来ないんだけど。」
「それは見たらわかる。まずはこいつの頭ん中を見てくれ。」
そう言われたのでまずは僕から覗くことになった。
バティに促されて額に空いた穴に顔を近づける。
初めは薄暗い場所に目が慣れずぼんやりと何かがあることしか認識できなかった。
それも段々と目が慣れてくるとそこに何がいるのかが見えてくる。
それはバティの言った通り、繭にくるまれた人間だった。
目が合った。
その瞬間だった。
「ヴォァァァァ!!! 」
そんな叫び声を上げたかと思うと繭の中で人間が暴れ始めた。
「お、おい! 何が起きた!? 」
「目が合った瞬間に中の人が暴れだしたんだ。でも何が···。」
そこで側近たちはみな後悔を表情に滲ませる。
みな肝心なところで気を抜いていたのだ。
「みんな今すぐ離れろ!! 」
「え、何が···。」
「いいから! 早く!! 説明はあとだ! 」
そうバティが捲し立てるので僕らは一斉に魔人から飛び降りた。
バティたちを除けばここにいるみんなは何が起きたのか一切理解出来ていない。
それでもバティの必死さに緊急事態であることを察していた。
「ね、ねぇ。あれは一体何があったの? 覗いた瞬間に暴れだしたけど。」
「済まない。俺の不注意だった···。実はな、あの繭にくるまれた人間なんだがずっと言葉を呟いてたろ?」
「そう言えば何か聞こえたような気もする。あれはなんて言ってたの? 」
「···隼人と同じさ。“魔王を殺す”。そう言ってたのさ。」
「呪い···。そういう事でしょ?」
「あぁ。」
そう言うとバティはレンに拘束されてすっかり意気消沈したアルシアの方を向いた。
「おいアルシア。てめぇどこまで知ってんだ? 知ってること洗いざらい全部話せ! 」
バティの剣幕にアルシアは体をビクッと震わせた。
そしておどおどと答える。
「お、俺は何も知らない···。何も···何も知らないよ···。」
すると今度はそれを見かねた側近がアルシアの方に歩み寄った。
その顔は僕が側近に初めて正体を明かした時と同じ顔をしている。
あの時の側近の怖さを身をもって知っている僕にはその顔は一種のトラウマと言っても過言ではないものだった。
そしてその顔でアルシアの胸ぐらを掴んで顔を額が触れそうになるほど近づける。
「ここまで来てまだシラを切る気か!? まだ魔族のことを裏切り足りんのか!? なんならお前のことは今! この場で! 細切れにして捨ててもいいんだぞ? さぁ、喋れ!! 」
しかしアルシアもここまで来て意地になったのか顔をそむけながら必死に澄まし顔を作っている。
「へ、へん! 今更お前らがどうなろうが俺の知ったこっちゃない! おいらには喋る気なんてないからな! さぁ煮るなり焼くなり好きに、ッ! ギャァァ!! 」
その言葉を言い終わるより先に側近の堪忍袋の緒が切れた。
見ると側近の鋭い爪によって右の二の腕が削ぎ落とされていた。
その断面からは大量の赤い血が滴り落ち、白い骨がよく見える。
「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!! 」
「彩華さん、煩いので回復魔法掛けてください。」
そう言われて彩華は顔を真っ青にして冷や汗を大量にかきながらアルシアに回復魔法をかけた。
すると一瞬で腕が復元されていき、元の状態へと戻った。
「ハァハァ、側近、てめぇ···。」
「おや、まだ喋る気になりませか。仕方ない。ならもう一度···。」
そう言って側近が構えるとアルシアは慌てだす。
「ま、待て、待ってくれ! わかったよ。は、話すから。話すから。だからこれ以上は、な? 頼むから、な? 」
「はぁー。初めからそう言えば良かったんですよ。さ、全部喋ってもらいましょうか。」
そしてアルシアが彼の持つ情報を淡々と話し始めた。
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