66.繭
火葬と決まったのはいいがその方法も問題だった。
何せその数があまりにも多い。
目の前には5〜6mの巨人が巨万と横たわっている。
その大きすぎる肉体を灰と化すにはそれ相応の火力が必要だし何より場所が必要だった。
変な場所で燃やしてしまうとせっかくある程度片付いてきた町がまた元に戻ってしまう。
そうやって僕の中で逡巡を巡らしていたがどうにも考えが浮かばず埒が明かなかった。
いつも通り側近に意見を求めようとしたが当の本人は真剣な眼差しで一体の魔人と向き合っていた。
そこにはバティとコウ、ブラッドもいる。
魔人の仕組みを少しでも解明するためだ。
―――――――――
「さて、始めますか。」
そう言ってバティから借りた大きめの剣を片手に側近が魔人へと近づく。
「俺としちゃあんま気の進むことじゃないが頼むわ。」
「頼まれました。じゃあまずは腹を割いてみようと思います。」
そう言って側近は腹の上によじ登り、剣を突き立てた。
そして人肉が割かれる不快音と共にその傷口から赤くドロドロした液体が溢れ出てくる。
思わず目と耳を塞ぎたくなるような、そんなおぞましい光景だった。
ある程度傷口が広がると側近はそこを底辺として三角形の形に肌をくり抜いていく。
バティの剣も切れ味抜群な業物なのだがそれでも側近は切りにくそうにしている。
体格に見合うだけの皮膚の硬さや肉質をしているのだろう。
戦いの時は理のお陰で誰一人として魔人に触れる機会すら無かったが、もしまともにやり合っていれば下手をすれば傷一つつけることも出来ずに無様に屠られていたかもしれない。
「ふぅー。肌をくり抜くだけでも一苦労ですね。」
そう言って側近は額の汗を拭う。
そしてバティたちの方を向くと右手で手招きをした。
バティたちとしては人の体の中を覗いているのと同じなわけで、できることなら見たくもないのだが今の状況では仕方がない。
誰もが半ば諦めつつ言われた通りに登った。
「見てくださいよこれ。巨大化したからどうなっているかと思いきや我々と大して変わらない構造してますよ。」
そう言って胃やら腸やらを指さしている。
少し上に見えている心臓も人間のものとさして変わらないように見える。
この様子からして臓器に人との違いは見つけられないだろう。
そう思ったのは側近もバティたちも同じなようで自然とみんな上の方へと足を運んでいた。
目指すは顔である。
その顔は理の闇魔法によって首をへし折られたせいで白目が若干飛び出し、眼から鼻から口からと至る所から水が垂れている。
腹の傷口と同じで見ていて気持ちの良いものでは無い。
そしてその顔には唯一、人間とは違う部分がある。
「しっかし、この頬の線はどんな仕組みなんだよ。見てるだけで鳥肌が立つような色してやがる。」
「たしかにそうですね。アルシアの持ってた水晶と同じ色してますね。彩華さんの話にも同じような色の話がありましたし死の女神、もしくは呪いを象徴する色ということでしょう。」
「呪い、かぁ。たしかによくよく考えて見りゃ呪いでも何でも使わなきゃ俺たちみたいなちっぽけな人間をこんな馬鹿でかい魔人に変えるなんて無茶な話だよな。そんな恐ろしいもんを信仰させられてるかと思うと人間ってのも不憫なもんだな。」
「そうっすよね。僕たちみたいに魔法が使える連中は女神の加護を受けてるっすけどなんかこれ見ると途端に不安になってくるっす。」
そう言ってコウは引きつった笑顔を見せた。
まぁそれも無理のない話で、これまで何も考えることなく信仰してきた相手がこんな恐ろしいことをする存在だったと発覚すれば不安がるのは当然だ。
そして自ずと1つの考えに辿り着く。
“魔法って本当に安全なんだろうか”
これまで人間は誰もが盲目的に信じてきた存在だった魔法がそんな恐ろしい相手から授けてもらっていたとなると怖くなってくる。
だから尚更調べなくてはならない。
女神の力が使われているという魔人のことを。
「私としては脳を見ておきたいのですがどうしましょうか。多分ですけどあの肌の感じからしてこの剣じゃとてもあの頭蓋骨を貫通できるとは思えません。」
「いやいやいや···。ちょっと流石に脳まではよさねぇか? 」
そう言ってバティは冷や汗をかいていた。
バティにとっては内臓を見せられただけでも相当こたえていたらしい。
だがそれを意に介することなく側近は平然と答える。
「何故です? 臓器に特に問題はなかった。ならば次に疑うべきは脳だと思いますよ。もしかしたらそこで何か見つかれば次に魔人に遭遇した時にはちゃんと人間に戻してあげられるかもしれない。」
「うっ···。」
“人間に戻してあげられるかも”
その一言を言われるとそれ以上のことはバティの口から何も言えなかった。
何度も言うがバティたちにとって元々人間だった魔人の体を弄くり回すというのは決して気分の良いものではない。
それでもこれから先、魔人にされた人々を助けれるかもしれないと思うとそのぐらい我慢しなくては、と思っていた。
「···わかったよ。穴を開けるのも俺がやる。そいつは元々俺の剣だ。そいつの、“カラドボルグ”の最大限を引き出せのも俺だけだしな。」
そう言って側近から剣“カラドボルグ”を受け取ると垂直に折れ曲がった頭と対面する。
そして頭を二度、三度と叩いて硬さを確認すると弓を引くように剣を構える。
するとカラドボルグの刀身が電気を帯び始めた。
「こいつはな俺の魔力を増幅して雷を纏うことができるんだよ。工夫すればこいつの威力は数倍にも跳ね上がる。よし、このぐらいだろ。」
バティの握るカラドボルグの刀身は至る所で稲光が這っていた。
そして全体重を乗せて一突き。
“バギンッ!”
骨が砕ける音が響く。
バティがカラドボルグを抜くとそこには直径15cmほどの穴が空いていた。
「こんなもんでどうよ? 」
「えぇ、完璧です。」
そう言って側近が穴から中を覗き込もうとしたその時だった。
「······ろす···ま······を···。」
「っ! バティ、何か聞こえませんか!? 」
「え? なんの事だ? 」
今度はバティが中を覗く。
「ま·········こ···す······う···。」
「たしかに、なんか聞こえる。しっかし暗くて中はなんも見えねぇな。あ、そうだ。コウ、この中魔法で照らしてくれねぇか? 」
「わかったっす。火魔法! 」
そう言ってコウは掌に火球を生成し、中を照らす。
すると|目が合った(・・・・・)。
「うおっ! 」
「どうしました? 何か···。人? ですよね···。」
そう言った側近の視線の先には頭の中で繭のようなものにくるまれた人間がいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます