53.双極の女神

 王族の元へ行く目的がまた1つ増えた後、側近がふと1つの疑問を口にした。


「しかし冠で呪いをかけるとは人間はすごいものを発明するのだな。」

「たしかに。どんな事をしたらそんなもの作れるんだろう。」


 もちろん僕がその作り方なんて想像がつくはずもない。

 こっちの世界の生活にもだいぶ慣れてきたとはいえまだ知らないことの方が多いのだ。

 これについても調べないと隼人は助けられないかもと少し落胆していた矢先、彩華の発言でこの謎はすんなりと解決に向かった。


「その事でしたら私が知ってます。出発する前にどうしても気になってお城の人に話を聞いたんですけど、あの冠は女神様にお祈りをして作るらしいんです。」

「なるほど。そういう事か。」


 側近はこの答えに合点がいったようだった。

 しかし突然出てきた答えが宗教じみたものだったので僕はキョトンとして側近の方を見た。


「女神···様? 」

「理にはまだ言ってなかったか? 女神について。」

「えーと···。あ! そう言えば人間は女神の加護を受けることで魔法が使えるって話は聞いた気がする。」

「その通り。人間は2柱の女神を信仰しているそうだ。生を司る女神、そして死を司る女神。魔法は生を司る女神の加護を受けて使うそうだ。だから恐らく、呪いは死を司る女神に祈りを捧げることでかけているのだと思う。」

「へー。そうなんだ。」


 宗教じみた、ではなく本当に宗教の話だったことに少し驚く。

 ただ、魔王や勇者がいるRPGのような世界でこの答えが出てくることにどこか腑に落ちている自分もいた。


「じゃあもしかしたら呪いを解くためにはその女神様を倒さなきゃいけないかもってこと? 」

「その可能性は捨てきれんな。そもそも女神が実体のあるものかも分からんがな。」


 やはりここで考えたり話し合ったりするにはあまりにも情報が無さすぎる。

 彩華も僕と同じでこちらに転移してきたことを考えればこれ以上の知識は無いのだろう。


「やっぱり人間の街に行って情報収集しなきゃどうにもならないね。」

「そうみたいだな。となると町の復旧作業と並行してこれもやらねばな。これからもっと忙しくなるな。」

「ほんとだね。あ、そう言えばさすっかり忘れてたけど魔法使いと大男もここの房に入ってるんでしょ?それならその2人から何か聞けたりしないかな。」

「難しい気もするがダメ元で聞いてみるのもいいかもな。」


 あたりをキョロキョロ見回すと反対側の房に2つの人影が見えた。


「あれ? 2人とも小さくない? 」


 そういえば彩華の話でも部屋に入ってきたのは小柄な男だったはず。

 大男はどこへ行ったんだ?


「あぁそれは言ってなかったな。大男は中に小柄な男が入って操縦していたいわゆる人形のようなものだったんだ。」

「はぇー。そんなこともできちゃうのか···。」


 なんか今日はさっきから驚きっぱなしのような気がする。

 そんなことを思いながら僕と側近は2人の入っている房の前に立った。

 中が薄暗いから顔がよく見えないが2人とも全然反応がない。


「あれ? 寝てる? 」


 起こすしかないか、と思って房に近づこうとした瞬間だった。


「見つけたぞ魔王!! 喰らえ!! 」


 突然の叫び声とともに背後から特大の火魔法が飛んできた。


「避けろ!! 」

「うん! 」


 僕と側近は咄嗟に2手に別れた。

 火魔法はその間を通過していく。


「危なかった···。」

「視界に入るとダメみたいだな。」


 どうやらさっきは隣で話していたために死角となっていたお陰で攻撃が一切なかったようだった。


「じゃあ隼人から僕らが見えないようにすればいいってことでしょ?」

「それはそうだが···。そんなことできるのか?」

「うん。任せて。」


 そう言って僕は片手を隼人に向かって真っ直ぐ突き出した。


「闇魔法。」


 すると房の中から無数の腕が伸びていき隼人の房の鉄格子の前に壁を作った。


「こうすれば隼人からは見えないでしょ? それに万が一隼人が攻撃してきても防御できるし。」

「闇魔法も便利なものだな。さて、話を聞くことに···。」


 振り返りながら話していた側近が固まった。

 僕も合わせて振り向く。


「ん? どうした···、え? 」


 端的に言う。

 そこにあったのは黒焦げになった人間だった。

 どうやらさっきの火魔法が直撃したようだ。

 誰がどう見ても生きてはいないだろう。


「うそ······。」


 僕が避けたせいで人が死んでしまった。

 どうしようもなかったと頭の中では分かっている。

 それでも次から次へと自責の念が噴水のように湧きあがってくる。

 そうやって自分の世界に閉じこもりそうになるのを側近の声で引き戻された。


「理。よく見ろ。」

「え···? よく見ろも何も人が死んだことに変わりはないじゃん···。」

「だから、よく見ろと言ってるだろ。あれのどこが人に見える?」

「···へ? 」


 側近は何を言っているのだ。

 あれはどこからどう見たって人で···。


「あれ? 木偶に服が着せてある···。どういうこと? よく見たら隣もだ。なんで? ここには魔法使いと大男の中の人がいたはずじゃ···。」


 すると側近は悲しそうな眼をしながら僕の方へ顔向けた。

 そこで僕もようやく気付く。





“裏切り者”の正体に······。

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