54.危機、そして再開
僕と側近は急いで彩華の房の前に戻った。
「ねぇ、彩華さん! 彼らは一体いつからいなかったの!? 」
「······いなかったってどういうことですか? 今、隼人がまた1人殺してしまった···。」
どうやら彩華は隼人が殺したと思い、呆然としているようだった。
「違うんだ! あれは木偶に服が着せてあるだけだった! つまり彼らはもうここにはいないんだ! 」
その事実に彩華は目を丸くした。
今度は違う意味で呆然としている。
ということは彩華も彼らがいないことに気づいていなかったということだ。
「えっと···、たしか昨夜までは声がしていたような気がします。あ、そういえば夜中に“ガチャン”って音がしてました。暗くてよく見えなかったからその時は気にもとめなかったんですけどもしかしたらその時に入れ替わったのかも···。」
「それだな。」
側近が確信した顔で頷いた。
「···となるとまずいな。町の状況や兵がたくさん死んだことがもう既に人間に筒抜けだと考えていいだろう。そうなるとこの隙を突いて人間の大軍が攻めてくるぞ。そんなことになれば私たちは壊滅だ···。」
非常にまずい事態になった。
今の軍は町の復旧作業を最優先に進めていることもあって見張りも斥候も普段の3分の1の人数で行っている。
そうなればもちろん索敵能力もガタ落ちなのは自明の理だ。
人間が攻めてきてもギリギリまで気付けない可能性が高い。
でもこれ以上民衆も、兵も、誰も死なせるわけにはいかない。
一昨日と違って今日はまだ事前に対処する時間がある。
僕は何か手がないかと思慮をめぐらせる。
そこで僕は1つの案を思いついた。
「ねぇ、デグリア山ってどのくらいの広さがあったっけ? 」
側近はこの問で僕の言わんとすることを理解したらしい。
少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「奥の方まで入ったことがない上に私が行ったのはかなり前の事だから記憶が曖昧ではあるが民衆だけなら間違いなく全員入れると思うぞ。」
それを聞いて少し安心する。
あそこなら隠れやすい上に攻められても篭城しやすい。
ゴーレムに食料を運ばせれば当分の間はもつだろう。
「なら今すぐ避難させよう。兵は全員護送につけて。食料はありったけゴーレムに運ばせて。サリーとデニスには先にデグリア山まで行って準備をするように伝えて。それと隊長たちを集めて今すぐ会議をしよう。これからの方針を簡潔にまとめたい。」
「わかった。すぐに準備する。理は先に会議室に行っていてくれ。」
そう言い残して側近は走っていった。
こういう時の側近はほんとに頼りになる。
僕も会議室に行かなければいけない。
でもその前に1つ、仕事が残っていた。
隼人の房の前に立つ。
「おい魔王···。殺してやる···。」
相変わらず低く唸っている。
僕は闇魔法を解除して隼人を見つめた。
「魔王!! 殺してや···」
それを遮るように僕は口を開いた。
「隼人。ほんとは僕のこと分かってるんでしょ? 」
一瞬の沈黙。
そのあと彩華の声が響く。
「え···? 」
その言葉に彩華は唖然としていた。
そして隼人は目を伏せがちに俯く。
「彩華さんと同じタイミングで隼人も僕のことに気付いてたんでしょ? だから僕らのことも攻撃してこなかったし|彼らが木偶であること(・・・・・・・・・・)も教えてくれたんでしょ? 」
「え、え? ちょっと待ってください。さっき言いましたがその呪いの解き方は呪いをかけた彼らですら知らないんですよ? それなのにハヤタは隼人に戻ってるなんてありえるんですか!? 」
僕はその問いに一旦彩華の方を向いて答えた。
「それは僕にもわからない。でもおかしな点がいくつかあったんだ。」
そして再び隼人を見つめる。
「まず、さっきも言ったけど側近が僕のことを理と読んでから攻撃が止んだこと。ほんとに僕のことをいや、魔王を殺したいのなら攻撃を止めるはずがない。次に闇魔法を光魔法で消さなかったこと。戦いの中で隼人は何度も僕の闇魔法を光魔法でかき消していた。でも今日はそれを一切していない。さっきも言ったけどもしほんとに魔王を殺したいのなら光魔法を使わないはずがない。そして最後に、2回目の攻撃は僕らに当てる気がなかったこと。僕らに当てたかったなら無詠唱で火魔法を放てばよかった。それにあれは僕らを狙ったものじゃなくて木偶を狙ったんでしょ? 僕らに気づかせるために。」
ここまで言ったところで一旦言葉を切った。
なぜなら隼人の眼から大粒の涙が溢れ出していたからだ。
次第に堪えきれなくなったのか嗚咽が聞こえてくる。
それを見て僕の眼からも涙が溢れてきて視界が狭くなる。
それが隼人が戻ってきたことに対する歓喜の涙なのか親友の隼人を傷つけてしまった罪悪感の涙なのかはわからない。
いや、多分両方なのだろう。
見ると彩華も眼から涙を零していた。
そして隼人はぐしゃぐしゃになった顔を上げて叫ぶ。
「理ぉ!! すまなかった!!! うぅ···。ほんどにごめ゛んなさい!! 俺は···俺はお前のこと本気で殺そうとしてた···。お前の仲間もたくさん殺した···。呪われてたとかぞんなの関係ない゛。親友なのに···幼なじみなのに···それなのに俺はお前を······。」
そこまで言って隼人の言葉が詰まった。
そしてより一層泣き声は大きく響いていく。
「ぼぐの方こそごめ゛ん!! 僕は隼人のこと気づいてだのに···それなのにたくさん傷つけた···。一歩間違えたらぼぐは隼人のごと殺してたかもしれない···。ほんとに···ほんとにごめんなさぁい!!! 」
そして僕ら2人は再会を喜ぶため、お互いのことを許し合うため、鉄格子越しに抱き合って泣いた。
こんなことで相手が許してくれるとはお互いが思っていない。
許して欲しいとも思っていない。
でもお互いがこの抱擁で相手のことを許していた。
こうして僕と隼人は本当の意味での再会を果たしたのだった。
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