52.隼人とハヤタ
「出発は2時間後となります。時間になりましたらお迎えにあがりますのでそれまでに準備の方を整えておいて頂きますようよろしくお願いします。」
と、部屋に着いてすぐに案内してくれた人が言いました。
そしてそのまま戸を閉めてどこかへと行ってしまいました。
それを見届けるとガックリと隼人が項垂れてしまいました。
「···どうしよう彩華···。さっきは歓声にやたらテンション上がっちゃって調子こいてあんなこと言っちまった···。俺たちほんとにこのまま旅に出なきゃ行けないのか? 」
「このまま行けばそうなるんじゃない? これが夢なら楽しいことが待ってそうなんたけどもし夢じゃないなら···どうなるんだろう···。」
そのまま私たちは黙ってしまいました。
先行きや元の生活に戻れるのかという不安に駆られてのことでした。
そのまましばらく続いた沈黙は突如開かれた扉の音にかき消されました。
驚いて扉の方を見るとそこには小柄な男の2人組が立っていたのです。
「こんにちは。魔王征討の旅のお供としてハヤタ様、サヤカ様に同行せよって司令を受けてやって来ましたぁ。僕は魔法使いのタカシ。こっちは無口な戦士のバーデン。」
「···よろしく。」
突如現れた2人はそれぞれ挨拶をすると何も言えないでいる私たちをよそにズカズカと部屋に入ってきました。
そして隼人の前に立つと2人同時に手を差し出しました。
「握手して下さぁい。」
「お、おう。」
それで隼人がまずタカシの手を握ろうとしました。
するとタカシはすぐに手を引っ込めてしまったのです。
「バーデンも一緒にしてあげて下さぁい。」
これに隼人は少し不思議そうな顔をしつつも2人の手をそれぞれの手で握りました。
すると隼人から再びあの禍々しい光が放たれたのです。
「······っ! 」
隼人は目を見開き、全身が痙攣を始めました。
「な、何やってるの!? 離れて!! キャっ!! 」
私が焦って隼人から2人を引き離そうとしましたが近づくとすぐに弾き飛ばされてしまいました。
まるで見えない壁でもあるかのように。
「サヤカ様ぁ。邪魔しないでよ。これすごく大事なことなんだからぁ。」
近づいては弾き飛ばされを3度ほど繰り返しているうちに光は隼人へと吸い込まれ、2人は手を離しました。
私は隼人の元へ駆け寄り、倒れかけた隼人を抱き抱えました。
「隼人!! 聞こえる!? ねぇ! 隼人!! 」
この呼びかけに隼人はうっすらと眼を開けました。
「ん···サヤカか。どうしたんだ? そんなに慌てて。」
「どうしたって···。さっきのこと覚えてないの? 」
「さっきのこと? 」
どうやら本当にさっきあったことを覚えていないようでした。
すると後ろからタカシがこちらに近づいてきました。
「勇者様ぁ。自分の名前分かります? 」
「俺の名前? 俺は|ハヤタ(・・・)だ。」
「え······? ねぇ隼人! もう1回言って! あなたは隼人でしょ!?」
その質問に隼人は不思議そうな顔で答えました。
「何言ってんだ? 俺は隼人じゃなくて|ハヤタ(・・・)だぞ? おいおいサヤカ、俺たち付き合い長いんだからしっかりしてくれよ。」
愕然としました。
開いた口が塞がらないとはまさに事のことなんだろうと思うほどあんぐりとしてしまいました。
そして次に浮かんでくるのはタカシとバーデンに対する怒りでした。
「隼人に何をしたの!? 」
その問いにタカシはにやにやしながら答えました。
「呪いをかけたんだよぉ。僕らの思い通りに動いてくれるようにね。歴代の勇者様はみんなこの呪いにかかってるんだよぉ。」
「のろ···い? 」
「そう、呪い。魔王を殺すためだけに動く呪いだよぉ。」
この時、私の頭の中で何かがブチッと音を立てて切れました。
この時ほど怒りを覚えたのは人生、後にも先にもないと思います。
「はやく呪いを解いて!! はやく!! じゃないとあなたたち生かしておかないわよ!? 」
私の必死の訴えにもタカシは飄々としていました。
「黙っててくれないかなぁ。そもそもこの呪いは僕らじゃ解けないし解く気もないよぉ。安心して。魔王を殺せば呪いは解けるからぁ。」
「そんなの関係ない! 今すぐ···! 」
その先は私には言えませんでした。
なぜなら後ろから隼人、いえハヤタに口を塞がれたからです。
「サヤカが何を言ってるのかはよく分からんが魔王を殺すんだから早く行こうぜ。みんなのためにも早くしないとな。」
「じゃあ行きましょうかぁ。」
そう言ってハヤタたち3人は部屋を出ようとしました。
「まっ···。」
「これ以上邪魔しようとするならハヤタ様を殺しちゃうよぉ? 」
その一言で私は動けなくなりました。
大人しく従うしかないと思わせるには十分な迫力でした。
―――――――――
「···そのあとは理さんたちもご存知の通り、転移魔法でここまで飛んできてここにいた人たちを···隼人はたくさん殺しました···。側近さんも殺しかけました···。本当にすみませんでした!! 」
そう言って彩華は頭を地面に擦り付けて土下座をした。
「あ、えっと···彩華さん。お願いだから頭を上げて。あなたも隼人も何も悪くない。」
「でも私たちはたくさんの方を殺しました。側近さんや理さんも殺しかけました。許して欲しいなんて言いません。でもお願いです。隼人を助けてください。言ってることが矛盾だらけなのは分かってます。私はどうなったって構いませんからどうか···。」
「わかったから、頭を上げて。その呪いを解く方法は分からないけどとりあえずその王に会ってみれば分かりそうなんでしょ? 」
「はい。それ以外方法はないと思います。」
「なら僕らが王に会ってくるよ。側近、そういう事だけど着いてきてくれる? 」
すると側近はやれやれといった顔をしながら答えた。
「もちろんだ。元々王族の元へ行くつもりだったしな。それにこうなったら理は話なんて聞かないんだろ? 」
「ま···まぁね。」
こうして僕らの王族を倒す目的はまた1つ増えたのだった。
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