45.無茶

「お、俺が···俺がみんなを救うんだ···!!こんなところで···倒れてたまるかァァ!!!」


 ハヤタはまた立ち上がってきた。

 しかし見るからに立つだけで精一杯といった様子だ。

 しかも聖剣は僕が持っている。

 いくら僕もほとんど動けないとはいえハヤタには1寸の勝ち目すらない。


「ハヤタ···。もう立ち上がらないでくれ。頼む。僕は|人殺し(・・・)だけはしたくない。」


 するとハヤタの頭上にある光球が突然消えた。

 こちらの話を受け入れて降参してくれる気になったのだろうか。

 しかしそんな考えは一瞬にして消え去った。

 ハヤタの目の色がより一層力強さを増したのだ。


“何か来る。”


 そう思わせるのに十分なものだった。

 僕もよろけながらもなんとか立ち上がり、聖剣を窓の外に放り投げて身構える。

 その瞬間だった。

 ハヤタが消えたのだ。

 慌てて辺りを見回す。

 すると後ろから殺気を感じた。

 振り向こうとした時には遅かった。


「火魔法!!」


 咄嗟に腕を出すも手遅れ。

 背中にもろに食らう。


「熱っ···!!」


 そのまま吹き飛ばされ、壁にあたって止まった。

 背中だから見えないけど多分肩よりも酷い火傷を負っている。

 もう色んなところが痛いせいでどこがどれだけ痛いのかすら判別がつかない。

 それでも不思議なことに意識だけははっきりとしている。

 そのはっきりしている意識のお陰でどうしてハヤタが消えたのかはちょっと考えればわかった。


「て、転移魔法か···。」

「······。」


 ハヤタは答えない。

 次の攻撃に備え、限界を訴える体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。

 今度は壁に背をつけて背後を取られないようにした。

 そして足元から無数の腕を出して構える。

 するとハヤタが両手を広げた。


「火魔法!!水魔法!!」


 その言葉と共にハヤタの右手に火魔法が、光魔法で作られた左手には水魔法がそれぞれ出現する。


「俺がみんなを守るんだ。これで···。」


 そして大きく息を吸う。


「最後だ!!!!」


 言葉と共にハヤタが駆け出す。

 そして転移魔法で一瞬で僕の目の前に出現する。


「おりゃァァァァ!!!」


 とにかく出鱈目に、されど最高の破壊力をもってハヤタの攻撃が矢継ぎ早に繰り出される。

 僕もどんどん腕の本数を増やしてなんとか対処する。

 それでも処理しきれず腹に、肩に少しずつ当たり始める。

 右手の火魔法でいくつもの火傷ができ、左手の水魔法はウィッチがしてくれたように氷になっているため殴られたところはゴツゴツの氷で抉られて傷ができている。

 しかしそれはハヤタも同じで直撃とは行かないまでも影の腕がかすることが何度かあった。

 ハヤタも次第にボロボロさが増してゆく。

 それでも僕もハヤタも手を緩めない。

 すると突然、ハヤタが転移魔法で5mほど後ろに下がった。

 火魔法と水魔法を解除する。


「光魔法!」


 そして再び頭上に光球が出現した。

 光球からは2筋の光がそれぞれ腕へと伸び、さっきの火魔法、水魔法のように光魔法が両腕に装備される。

 これをされると正直対抗できない。

 なんせ影の腕は光魔法でかき消されてしまうのだ。

 ならば次で決めるしかない。

 何がなんでもこれで決める。


「闇魔法!」


 僕がそう言うと背後の腕が両腕に巻きついてきた。

 ハヤタが光を纏ったように僕は闇を纏った。


「「決めてやる!!!」」


 2人の声が重なった。



―――――――――



「おぉーい。そっちも終わったか?」

「ん?バティかい?こっちも終わったよ。あら側近さんも元気になったのかい。」

「えぇ。お陰様で。バティから状況は聞いております。残りは魔王様だけということですね?」

「そういう事だね。」


 そして3人とも揃って上を見上げる。

 今なお壁にぶつかる音や色々な破壊音が鳴り響いている。


「あたいたちも急がなきゃね。」


 そう言って玉座の間へと走り出そうとした時だった。


「お、おい!あれ!」


 突如上から人が降ってきたのだ。

 側近が弾かれたように駆け出した。

 間に合わない。

 誰もがそう思った瞬間、城の影となっていた地面から3本の腕が伸びてきてその人を受け止める。


「お、おい。なんだありゃ···。」

「あれは魔王様の闇魔法だねぇ。」

「闇魔法?あいつそんなもんが使えたのか···。そんな強そうには見えないんだけどな。」


 側近が降ってきたその人を抱き上げると腕はそのまま消えてしまった。

 側近がこちらに向かって歩いてくるにつれて段々とその降ってきた人が見えてきた。

 それは賢者だった。

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