19.不安の種

 部屋について少しするとノック音が聞こえた。


「失礼します。」


 そう言って側近は周りに誰もいないことを確認すると静かに戸を閉めた。


「大事な話って? 」

「実は少し気になったことがあってな。」


 その時の側近は暗い表情をしていた。


「気になったこと? 」

「あぁ。先に言っておくが今から話すことはまだ誰にも言わないでほしい。」

「う、うん。わかった。」

「実はな、先の戦いで少し気になったことがあるのだ。なぜ我々の攻撃が将校のみを狙ったものだとバレたんだ? もしバレていないとすればそもそも影武者を立てるようなことはしないはずだ。」


 たしかにそう言えばそうだ。

 普通ならそんな面倒なことはしないはずだ。

 何よりこれまでの戦況はこちらが圧倒的に劣勢。

 それなのに影武者まで立ててあるということはある程度作戦がバレていたと考えるのが自然だろう。


「それに報告だと12時頃にここに着く進度だったにも関わらず奴らは3時間近くはやく動いていた。となれば作戦決行時間までバレていた可能性が否めない。」


 そこまで言われた時ひとつのことに気づいてしまった。

 ほんとなら気づきたくなかったことだが。


「もしかして···裏切り者がいるかもしれないってこと? 」

「あぁ。そういうことだ。」


 信じられない。

 側近の話を聞く限り人間側からしてみれば魔族は奴隷程度の扱いでしかない。

 ということは裏切ることに対して魔族側にはメリットがあるとは思えない。


「なんでそんなことが···。」

「まだそうと決まった訳では無い。あくまで推測の域を出ないが可能性としては大いにありうると思う。」

「でもその裏切り者の見当ってついてるの?」


 その問いに側近は渋い顔をした。


「いや、まだだ。なんせ戦いが終わってからまだちょっとしか経ってない。しかし作戦がある程度早い段階でバレていたことを考えると隊長副隊長の中にいる可能性が捨てきれない。」

「そんな···。」


 正直ショックだ。

 まだ確定したわけではないが限りなく黒に近いだろう。

 報告に来た隊長たちの言葉や先の戦いでの動きっぷりを見る限りとても裏切っている者がいるとは思えなかった。

 しかし、だ。

 そうなるとその裏切り者は早く見つけないといけない。


「その裏切り者はどうやって見つけるの? 」

「作戦などを敵にリークするためにはこの城から出ないといけない。だからこの城の出口全てに監視員を設置する。そして毎日誰が外出をどんな目的でしたのか報告してもらうことにしようと思う。どうだろうか? 」

「ならその指令を出しといて。ひとまずそれで様子を見てみよう。」

「わかった。お前も気をつけておけよ? 」

「うん。」


 それで会話を終えると側近は扉を開けてこちらに一礼した。


「ではおやすみなさい魔王様。」


 そう言って側近は部屋をあとにした。

 僕の頭に小さな凝りを残して。

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