18.表情

 城に帰ると一気に疲れを感じ始めた。

 今まで気を張っていて疲れに気づかなかったのだろう。

 それはみんな同じだったようで、見る顔見る顔みんなヘトヘトな顔をしていた。

 でもその顔にはどこか嬉しさも混ざっているように見えた。

 後の報告で聞いたのだがこの戦いにおいて、こちらの軍は軽傷者は出たものの死者は出なかった。


 本当に良かった。


 まさか大砲を持ち出して来るとは思わなかった。

 そもそもこっちの世界に大砲があるなんて頭の片隅にすらなかった。

 なんせこっちに来てからまだ数日しかたってない。

 どうして僕はここに居るのか、そもそもどうやって、どんな目的で僕はここに連れてこられたのか。


 まだ何もわからない。

 それでも今やることをやらなきゃ人が死ぬんだ。

 僕のせいで。

 さっきの戦いは十数人が|僕のせいで(・・・・・)死んだ。

 でも僕がしっかりしなくちゃこんな数の死人じゃ済まされない。


 そう思うと鳥肌が立ってしまう。

 そんな非日常な狂気じみたことを考えていると側近がこちらに寄ってきた。


「このあとはどうしますか? 」

「みんな疲れてるみたいだから今日はみんなの自由にさせてあげて。」

「わかりました。明日以降のことはどうしましょう? 」

「明日の朝に会議を開こうと思う。各隊長副隊長を集めて。」

「わかりました。それと···」


 そう言って側近は耳元まで口を寄せて小声で呟いた。


「後で話したいことがある。誰にも聞かれるわけには行かない。」

「うん。わかった。」


 こうして側近とはその場でわかれた。

 この喋り方で言うのだからよほど大事なことなのだと思う。

 肉体的にも精神的にもかなり疲れた僕に追い討ちをかける内容なのは言わずともわかった。


 溜息をつきたくなる気持ちを抑えながら改めてみんなの顔を見回してみる。

 疲れた顔や傷が痛いのか少し苦しそうな顔、勝ったことが嬉しくてにこやかな顔。

 表情はみんなそれぞれ違うがひとつ共通していることがあった。

 みんな充実した顔をしていた。

 僕がこの世界に来てから初めて見るその顔はとても嬉しいものだった。

 町のみんなも会議に出てくるどの人もこの世界では充実した顔をしていなかった。

 どこか不安そうだったり恐怖に引きつった顔だったり誰しもあまりいい顔をしていなかった。

 勝ててよかった。

 心からそう思う。


 そしてその場をあとにした僕は側近と話をするために自室へと向かった。

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