16.悪い予感

 ついに人間たちの姿が見えてきた。


「全軍に人間軍の射程範囲ギリギリを保っておくように伝えて。これより作戦を決行します。」

「はい! 」


 こうして後方にいたドラゴン、ウィッチ部隊は可視領域を超えた遥か上空へとものすごいスピード飛んでいった。

 そしてあっという間に敵軍上空を通過し、敵軍後方の大将のもとに到着する。

 そこからは互いに膠着状態が続く。

 共に最善の瞬間を今か今かと待ち続ける。

 そんな時間がどれほど経っただろうか。

 ついに人間の部隊は睨み合いに痺れを切らす。

 一瞬の気の緩み。

 今だと思った。


 それを察したかのようにドラゴンたちは急降下をし、ウィッチの魔法攻撃が敵陣の至る所で始まる。


 遥か上空から突如として現れた敵に人間は戸惑いや混乱を隠せなかった。

 人間軍からしてみれば今までに遭遇したことのない攻撃に加え、各地で圧倒的な勝利を挙げていたことから心のどこかで余裕を感じていたことが仇となり、陣形はすぐにボロボロになった。


「第五師団師団長が討たれました!」

「こちら第八師団です! 同じく師団長が討たれました! 」

「大将!! 上です!」


 人間がそれに気づいた時には遅かった。

 大将も討たれ、人間軍は一網打尽である。


「退却!!! 」


 人間軍は散り散りに退却していった。

 僕たちの完全勝利だった。


「勝ったぞ〜!!!! 」

「よっしゃァァァ!!! 」


 どこからともなく大歓声が上がった。

 みんな嬉しそうである。


「全軍! 帰還せよ!! 」

「オォォォ!!! 」


 側近の声とともに全軍が帰投体制に入った。


 しかしなにか違和感を覚えた。

 あまりにもあっさりしすぎている、と。

 これまでの報告が嘘のように敵になんの粘りも感じられない。

 なんの問題もなく作戦が成功したのは喜ばしいことのはずなのに。


「ねぇ側近。なんかおかしくない? 」

「そうでしょうか? もっと素直に喜ばれてもいいと思いますよ。」


 そう言った側近の顔はとてもにこやかだった。

 しかし事態は急変する。

 すぐに慌てた様子のドラゴンが飛んできたのだ。

 僕はそれを見てやっぱりかと心の中で呟いた。

 こういう時の悪い予感というのはよく当たるものだ。


「大変です! 退却した人間軍が大砲の用意を始めました!! 」

「え?」


 するとすぐに爆音とともに砲弾が飛んできた。

 黒々とした鉄の塊は僕らの手前で失速し地面に突き刺さる。

 どうやら一発目はこちらまで届かなかったようだ。

 そこから僕らは焦り始める。


「ぜ、全軍に告ぐ! 最初の隊形に軍を立て直して! ドラゴンは火炎攻撃で両軍のあいだを燃やして! 隊形を立て直したらもう一度攻撃をします! 」

「しかし···攻撃方法がバレている以上2度目は効果が薄いと思われますが···。」

「そうかもしれない。でもこんな短時間で相手が対策を立てられるとは思えない。むしろ時間が経てばこの攻撃はもっと使えなくなる。今すぐ動いて! 」

「わかりました! 」


 こうして僕の初陣は第二幕を迎えることとなった。

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