14.人間の進軍
訓練所をあとにした僕と側近はそのまま食堂へと向かった。
席につき、食事が運ばれてくる。
さぁ夕食だ。
今日の夕食は何が出てくるのか、とても楽しみだ。
そんな至福の時間を心待ちにしているその時だった。
「ご報告します! 人間軍が進軍を開始しました! 数は目測で5万! このまま行くと明日の正午にはここ魔王城に到着します! 」
斥候を行っていた1人のドラゴンが息を切らしながらそう報告した。
僕と側近は慌てて立ち上がる。
···え? に、人間が攻めてきた!?
そこでまず思ったことは“タイミングが良すぎる”ということだ。
作戦は今日、決定した。
詳細についてもさっきようやく兵士の殆どに伝達し終えた頃だ。
シュミレーションとか陣形の配置とかそんな細かい部分が何も決まっていないこのタイミングを見計らったかのようで、驚きと違和感を覚えた。
でもいくら考えてもその違和感の答えは出せるわけもない。
ならばすることはひとつだ。
「今すぐここに隊長、副隊長を全員集めて! 会議を開きます!」
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それから5分もしないうちに集合は完了した。
側近や近くにいた兵の迅速な呼びかけの賜である。
やってきたみな顔から緊張の色がありありと見て取れる。
そんなみんなの顔を見回しながら僕が要件を伝える。
「僕からお願いすることは2つ。1つは作戦通り任務を遂行すること。そしてもう1つは誰も死なないこと。何があっても死ぬことは許しません。このままの速度で行けば相手軍ははやければ明日の正午にここに着くらしい。なので今日は見張り以外は全員今すぐ就寝とします。見張りも2時間で交代して睡眠をしっかりとって。明日は8時に全軍出発。起床時間はそれぞれに任せるから準備を怠らないこと。では解散。今すぐ寝て明日に備えて。」
「はっ! 」
威勢のいい声が部屋に響く。
その声からは緊迫感が溢れている。
そして部屋には僕と側近だけが残りみな寝床へと向かった。
こういう時のみんなの行動の素早さは流石だと思う。
そう感心しながら僕と側近はすっかり冷めてしまった夕食を味わう暇もなくかきこんだ。
もちろん美味しい食事だったはずだ。
でもそれを感じる余裕がなかった。
緊張で喉を通らないのを無理矢理流し込む。
そうして流し込み終わったタイミングで側近が口を開いた。
「明日、お前はどこにいるつもりだ? 」
「僕はみんなと一緒に出撃して後方から指示を出そうと思ってる。側近は隣で補助をお願い。」
「補助の件はわかった。でだ、理は高い場所は大丈夫か?」
「高い場所? 大丈夫だと思うけど···。あ、でもジェットコースターとかはちょっと苦手かな。それがとうかした? 」
それを聞いて一瞬側近の顔がポカンとする。
そうか、ジェットコースターなんてこの世界にあるわけないんだ···。
そんな当然のことに今更ながら気付く。
「そのジェットコースターというものが何なのかは分からんが戦況を見るには後方からよりも上空からの方がいいとおもうんだ。そこで、ドラゴンに乗せてもらって空にいるのはどうだろうかと思ってな。」
「なるほど。たしかにそっちの方がいいね。ならそうするよ。」
「そうと決まったならお前も今日は寝とけ。明日はお前にとって初めての戦いなんだからな。」
「そうだね。側近も早く寝なよ。おやすみ。」
「あぁ。おやすみ。」
そう、挨拶を交わして僕らも寝床へと向かった。
明日はついに命のやりとりをすることになる。
そう思うと心臓はバクバクと高鳴り嫌な汗が背中を伝う。
そんな緊張から上手く寝付けないかと思ったが思いの外すんなり夢の中へとおちて行った。
恐らく慣れないことの連続で疲れが溜まっていたのだろう。
こうして僕たちは明日の戦いに向けてひとときの休息をとった。
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