13.老ドラゴンの心配
出されたお茶をすする。
とても美味しい。
元いた世界の緑茶に近い味がする。
でも緑茶より少し甘みがある。
「部隊の再編のことと作戦のこと、ゴブリン隊長から聞きましたぞ。わしもいい案だと思いました。」
「本当? 僕なんて人生まだまだ浅いものだから足りないところがあれば遠慮なく言ってほしいんだけど。」
「そうですのぉ···。ではわしから1つ言わせてもらいます。魔王様はたしか人間軍の陣形を間近で見たことはないはずでございます。なのでご存知ないかもしれませんが敵の大将は陣形の一番奥におります。そこまでバレずに兵を飛ばすのはどのようにするおつもりですかな? 」
目の前のドラゴンは少し不安そうな眼でこちらを見ていた。
彼もまた仲間が死ぬのは嫌なのだ。
「まず、地上部隊に敵を集中させる。と言っても交戦は最低限に抑える。いつでも攻めれる状態で睨み合せるのがいいと思う。その間にドラゴンたちにはできる限り高く、静かに素早く飛んでもらい、相手将校を陣形の中に見つけ次第、魔法が届く再長距離まで急降下させ、迅速に攻撃をし、またすぐに引かせる。こうすることで相手陣形は崩れるので相手の被害を最小限に相手を撤退に追いやれる。どうかな? 」
「もし魔法が外れたりして攻撃が失敗したらどうするおつもりで? 」
「すべてが成功するとは思ってないけどすべてが失敗するとも思ってない。将校の半分も落とせれば恐らく相手陣形は総崩れする。そうなれば撤退するしかなくなると思う。」
それでもまだ不安は拭いされないと言った表情を見せている。
「なるほど。では撤退しなければどうするのです? 」
「そうなったらゴブリンに矢を打たせつつ、前線を少しずつ下げてドラゴンたちが戻ってくるのを待つ。戻ってき次第自陣と敵陣のあいだを火炎攻撃で燃やし、相手を突っ込めないようにする。もし突っ込んでくる敵がいるようならゴーレムとデーモンに捕縛させる。捕縛した敵兵は決して酷いことをせず、和解交渉のときに人間の国に返す。こんな感じでどうだろう? 」
それを聞くと少し安心したような顔を見せる。
まだ不安の色が残ってはいるがかと言ってそれ以上の案が自分に出せないからといった感じである。
「実際に戦いになったときどうなるかは分かりませんが最悪の事態は避けれそうですな。少し安心しましたわ。」
そう言ってお茶をすする。
僕もお茶をすする。
少し冷めてしまったがそれでも美味しい。
そう言えばこっちに来てから美味しいものしか口にしてないなと思う。
「そろそろ夕食の時間となります。」
側近が時計を見ながらいった。
そしてまた美味しいものを口にする時間がやってくる。
魔王ってのはこういう面に関してはとても幸せものなんだなと感じる。
「そしたら僕は帰ります。色々とありがとう。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」
彼の顔は微笑んでいた。
優しさの溢れるその顔。
町のみんなと同じだ。
この笑顔を守らなくちゃなとひしひしと感じるのだった。
兵たちにも別れの挨拶をしてその場をあとにした。
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