8.昨日と同じ天井

 目が覚める。

 昨日と同じ天井が目の前にある。

 やはり昨日の出来事は夢ではなかったようだ。

 昨日と同じようにノック音が聞こえた。


「おはようございます。お目覚めでしょうか?」


 そう言って側近が部屋に入ってくる。

 時計を見ると7時を指していた。


「おはよう。」

「朝食の準備が整っておりますので着替え終わったら食堂へおいでください。」

「わかった。ありがとね。」


 会話が済むと側近は出ていった。

 また今日も魔王を演じるのだ。

 僕はその事実をしっかり噛み締める。

 生きるために。

 僕はベッドから立ち上がり、伸びをした。

 そしてクローゼットへ向かい服を着替える。

 よく見ると同じ服が何着かある。

 本物の魔王は気に入ったものはとことん好きになるタチのようだ。

 昨日はこんなことを気にする余裕がなかった。

 そんなことを考えているうちに着替え終わったので食堂へ向かうことにした。


「おはよう。」


 食堂に入り、中にいた数人に挨拶する。

 みな明るく挨拶を返してくれた。

 テーブルにつき、料理に目を落とす。

 パンと少しのジャガイモのスープがあった。


「魔王様にこんな料理をお出しするのは心苦しいものではありますが民と同じような朝食とさせていただきました。」

「うん、ありがとう。僕がこうしてほしいって言ったんだから心苦しいだなんて思わなくていいよ。いただきます。」

「ではお食事中ですが今日のご予定をお伝えいたします。昨日の報告で魔王様が全部隊に撤退命令を出されたため全部隊が10時までにはこの城まで帰還完了となる予定です。そのため今後についての作戦会議を10時より行います。それで今日は終了となります。もし会議が早く終わるようでしたらその後の時間は魔王様のお好きなようにお使い下さい。」

「うん、わかった。」


 そう返事すると僕は手元の朝食に目を落とす。

 献立は昨日とは大違いなものだ。

 使っている食材だってかなり劣る。

 それでも鼻腔を抜ける柔らかな香りは変わらず美味しいことを教えてくれる。

 僕は手を合わせ、そしてスプーンをとる。

 それを温かい液体に浸し、口に運ぶ。


「美味しい!」

「ありがとうございます。」


 思わず声を出してしまった。

 何せ想像を遥かに超える美味しさだったのだ。

 ちょうど良い塩味とじゃがいもの甘さが口の中で混ざり合う。

 もうそれが分かってしまうと止まらない。

 今度はパンを浸してそのまま口に放り込む。

 これまた最高のコンビネーションだ。

 それ以降少量の朝食を止まることなくかきこみ、あっという間に朝食を終えてしまった。

 時計を見ると8時となっていた。

 会議までは2時間ある。

 何をしようかと考えた時一つやりたいことがあることを思い出した。


「あと2時間あるから僕はもう一度城下町を見て回ろうと思う。側近はその間に昨日クビにした大臣の後任の選定をお願いしてもいい? 」

「承知しました。護衛の者は誰をつけましょうか? 」

「いや、付けなくていいよ。散歩も兼ねてみんなと少し話がしたいだけだから。」

「わかりました。十分注意しながらお願いします。」

「わかった。」


 そうして僕は食堂を出て1人で城下町へと向かった。

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