7.腐った大臣

 食堂につくと大臣たちは少し待ちくたびれたような顔をしていた。


 大臣たちのことについてはここに来る途中にある程度側近から聞いている。

 さっき会議に出席していた人たちが市民代表の大臣で主に軍事や皆の生活について仕事をしている。

 それに対し、今から会う大臣たちは僕らの世界で言う貴族のような存在でその役職は代々一族が受け継いでいくものらしい。

 主に財政面や裁判などの仕事を持っているらしい。

 が、その仕事ぶりは民のことは二の次で様々な方面に強い影響力を持っているせいで誰も逆らえない存在となっているそうだ。


「魔王様も来られましたので会食を始めましょう。」


 少し老いたゴブリンのその言葉で会食が始まった。

 テーブルには僕が食べたことないほど上質な肉が運ばれてきた。

 聞くとかなり厳選した部位を使っているらしい。

 ナイフを入れるとスルッと切れ、口に入れると甘みがとろけでる。

 本当に噛む必要のないくらい柔らかい。


「魔王様。」


 そう言ってさっきのゴブリンがこちらを向いた。


「財務大臣です。」


 側近が小声で耳打ちしてくれた。


「本日は料理長に目利きをさせて厳選した、上質な肉を使用致しました。お味の方はいかがでしょうか?」


 その顔には媚を売るための下卑た笑みが張り付いていた。


「美味しいよ。でも···」


 少し言葉が詰まった。

 胸が痛い。


「なんでしょうか?」

「今日ね、城下町を見て回ったんだ。みんなとても貧しい暮らしをしているのにも関わらず精一杯明るく振舞っていた。···それなのに僕らはこんな豪華なものを食べてて本当にいいのかなって···。みんな一生懸命頑張っているのに僕らだけ良い思いをするのはよくないと思うんだ。だからさ、明日からは城下町のみんなと同じものを食べるようにしない?」


 この一言で場が凍りついた。


「な!? 何を言っておられるのですか! 民は我々のためにいるのです! その民がどんな暮らしをしていようが我々には関係のないことです。」


 ほかの大臣たちもそれを肯定するような態度をとっている。

 側近の話から予想していた通りと言えばそれまでなのだがここまでとは思わなかった。

 怒りとか憤りとかそういう感情を通り越してもはや呆れすら感じる。


「なら大臣たちにとって戦争をしている意味は今の良い暮らしを続けることだけなんだね?」

「その通りでございます。人間どもが攻めてきたせいで我々の暮らしは貧相なものへと下落しかけております。その状況を打破するためにもこの戦争、勝たねばならんのです。何をいまさらそんなことを仰るのですか? 」


 ニタニタしながら話す大臣に無性に腹が立った。

 虫酸が走るとはこのことらしい。

 本物の魔王も若しかしたらこんなやつなのかもしれない。

 若しかしたらこの状況に腐心していたのかもしれない。

 正解はわからない。

 でも僕は僕だ。

 こんなの許していいわけがない、そう思った。

 あの暮らしぶりを見てしまったのにこれを黙って見過ごせるはずがない。


「ここにいる大臣はみんな同じ意見なんだね?」


 みな大きく首を縦に振る。


「···わかった。なら現時点を持ってここにいる大臣全員をクビにします。城から出ていってください。後任についてはこの側近に一任して決めてもらいます。」


 大臣たちは絶句していた。

 誰も動こうとしない。

 僕の言った言葉を理解できないといった様子に見えた。

 いや、正確には|理解したくない(・・・・・・・)ということだろう。

 すると側近が


「聞こえませんでしたか? 魔王様は出ていけと仰ったのです。」


 と言った。

 それではっと我に返ったようにみな口々に喚きだす。


「何を仰るのですか! 我々は代々この大臣職を受け継いできたのです。そのことは魔王様もご存知でしょう!? それをクビなどとは言語道断ですぞ! 」

「そんな仕組みは関係ない。僕は今の君たちがこの国に必要ないと思ったからクビって言ったんだ。」


 それでも喚くのをやめない。

 側近がついに痺れを切らした。


「出ていけ!!! 」


 それを聞き大臣たちはビクリと体をふるわせる。

 そして諦めたようにみなゾロゾロと出ていった。



___________________________________



「理、いや魔王様、ありがとうございます。私は戦争が始まって以来魔王様の口からその一言が出るのをずっと待っておりました。先程話した理由もあってどんなに横暴に振舞おうが誰も口出しできなかったのです。」


 そう言う側近の顔は安堵の色が伺える。


「こんなこと勝手にして怒られるかと思ったけど側近がそう言ってくれてちょっと安心したよ。それとさ、2人で話してる時は側近も敬語で話すのはやめにしない? なんか敬語で話されるとこそばゆいんだよ。」

「わかり···わかった。明日の朝もはやいからそろそろ部屋に戻りなさい。」

「うんそうするよ。おやすみ。」


 そう言って僕は食堂をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る