6.告白
城に戻り朝目覚めた部屋へと向かった。
側近と話をするためだ。
部屋に着き、辺りに人がいないことを確認してから部屋に入り鍵を閉める。
「その···こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないってことなんだけど···。側近には話さないといけないと思うから、話すね。」
「はい。なんでしょう?」
側近は神妙な面持ちをしていた。
その顔を見ると僕の緊張も一層高まる。
心臓は張り裂けそうなほど強く拍動を繰り返し、既に頭の中は真っ白になっている。
それでも勇気を振り絞って口を開く。
「えっとね···。僕の名前は理と言います。どこにでもいるような高校2年生の17歳です。正確に言うと昨日までは、そうでした。今朝、目が覚めたら見たことない天井が目の前にありました。それがこの部屋です。そしたらすぐに側近が来て僕のことを魔王と呼びました。相手が悪魔で、僕が魔王でないことがもしバレたら殺されかねないと思い、できるだけバレないようにと僕なりに行動してました。側近なら信じてくれると思って今話しています。本当のことです。」
話し終えた僕はかなり汗をかいていた。
緊張したせいで言ってることが無茶苦茶だったのもそうだがもっと強い要因がある。
話しているうちに段々て側近の目付きが鋭くなっていたのだ。
「···おい。」
そんな低く響いく声に僕は思わず身震いをする。
「お前のその話が本当だとしたら本物の魔王様はどこへやった? 返答次第では残念ながらお前を殺すことになるぞ。」
側近はドスの効いた声で僕の喉元に鋭い爪を突きつけた。
少し血が垂れる。
「ぼ、僕にも分かりません···。そもそもなんでこんなことになっているか僕は分かりません。」
心底怯えながらそれを必死に隠して答えた。
冷や汗が背中を伝う。
その間も側近は僕の眼をじっと睨みつけている。
···こいつ、嘘は一切ついてないな。
ここまで澄んだ眼は見たことがない。
それにあれだけ怯えながらも目だけはそらさない。
でてきた単語に少し知らないものもあったがそれが尚更こいつが嘘をついてないように感じさせる···。
それにこいつ“強い”な。
ならば···こうするしかないか···。
側近はこの数秒の間でそこまで思考を巡らして1つの答えに辿り着く。
自分の不甲斐なさを呪いながら。
「ふむ···。どうやらその眼は嘘をついているわけではなさそうだ。···それなら話は簡単だ。お前には本物の魔王様が帰ってくるまで魔王様を演じてもらう。誰にもバレることは許さない。バレた時は即刻死に繋がると心しておけ。いいな···!?」
そう言った側近の眼は恐ろしいものだった。
恐怖で怯みそうになるのをこらえ、こちらも精一杯強い眼で見つめ返す。
そして声を絞り出して返事をする。
「はい···。」
そう言うと側近も少し安心したのか表情が少し緩む。
「そうは言っても私もまだあなたを信用した訳ではありません。なので側近として四六時中あなたを見張っておきましょう。」
側近の口調も元の丁寧なものに戻った。
それでもその声色は若干の怒気を孕んだものだ。
それもそうだ。
突然目の前に何処の馬の骨ともわからないやつが現れて、本物の魔王はどこにいるかすらわからないのだ。
僕を魔王にしておくことしか手がないという状況も相まって側近は悔しさと自身への怒りがこみ上げていた。
「では魔王様を演じていく上で最低限必要なことをお話しておきます。覚えてください。」
「分かりました。」
「まず、魔王様は3年前に先代の魔王様、つまり魔王様のお父様がなくなったことをきっかけに即位なさいました。お母様は魔王様がまだ幼かった頃病気で亡くなられましたのでご両親はもうこの世にはいないということになります。
人間との戦争はちょうど魔王様が即位なさった時に始まりました。恐らく人間側に先代の魔王様が亡くなったことが伝わったためと思われます。理由は町でお話した通りです。そして我々魔王軍は劣勢を強いられ、元々の領地のおよそ2/3を奪われ、たくさんの仲間が奴隷として連れていかれてしまいました。死んだものも沢山います。そして我々の残された領地はこの城下町とデグリア山のみです。」
正直、驚きを隠せなかった。
魔族の圧倒的劣勢。
それはさっきの報告で知っていた。
でもその度合いは想像を遥かに超えるものだった。
驚いている僕に対して側近はさらに話を続ける。
「そして我が軍には午前に報告に来た5部隊が存在し、それぞれドラゴン、ゴブリン、ゴーレム、ウィッチ、そして我々デーモンの5種族を中心に編成しております。人間軍は女神の加護なるものを受けた者は誰でも魔法を使えるようですが我々はウィッチが主に攻撃魔法を、エルフが回復魔法を使える以外は誰も使えません。···と言ったところが必要な知識です。何かわからないことがあればその都度私にお聞きください。」
そう言い終わって側近は一つ息を吐き出した。
側近も同じようにとても緊張していた、ということだ。
状況はわかった。
僕がこれからどれだけ大変な目にあうか想像もできないほどに悲惨だということだ。
でも、やるしかない。
でないと殺される。
それしか僕に生きる道はないのだ。
「わかりました。ありがとうございます。」
「やはり敬語はやめて頂けませんか? 話しにくいです。」
「は···あ、いや、うん。わかった。」
そうして側近との話が終わった。
時計を見るととっくに会食の時間となっていた。
僕と側近は少し急ぎながら食堂へと向かった。
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