5.城下町

 昼食はパンとハンバーグとスープだった。

 これも普段から僕らが口にする食べ物で味も美味しいものだ。

 パンは朝と同様、最高の焼き加減。

 ハンバーグはナイフを入れた瞬間に肉汁がジュワッと溢れ出て芳醇な香りを漂わせる。

 そして油の甘みと肉の食感が素晴らしかった。

 しかしそれでいて全く胃がもたれる感じがしない。

 それだけ油の質も良いものということだろう。

 空腹と相まってペロリと平らげてしまう。


 しかしたった半日ではあるがいつもと違うことが多すぎて正直疲れていた。

 こんなことを相談できる相手がいるだろうかと思ったがいるはずもない。

 何せ目の前にいるのはみな今日初めてあった人々なのだから。

 当然ながら向こうはそうではないのだろうけど。


「食事が済みましたら今度は城下町の視察となります。私もお供いたしますので行きましょう。」


 そう側近に言われた。

 側近はほんとに仕事熱心な人なんだなと思う。

 今まで片時も僕のそばから離れないでいる。

 生まれてこの方ここまで人について回られることなんて無かったからそれも疲れのひとつの原因になっていた。


「わかりました。」


 僕にはそう返事するしか選択肢がなかった。

 そうして初めて城の外に出る。

 城の外に出て初めてこの国の現状を目の当たりにした。

 正直な感想を言うと、愕然とした。

 食事とは違い、そこは僕が昨日まで生活していた世界とは全く異なっていたのだ。

 まず初めに思ったことはこの城下町の狭さだ。

 城を中心におよそ円形に広がるこの町は端から端まで歩いても20分強で到達できる。

 そして木材を中心に建てられた家々はどこも建っているのが不思議なぐらいボロボロで大地には草がかろうじて生えているものの植物が育つとは思えないほどカラカラだった。

 街の中に川も見えないことから水も相当貴重な存在のはずだ。

 これじゃ作物もほとんど育たないと思う。

 それでも街の人々は僕が通るとみな深々と礼をし、また仕事へと戻っていく。

 その仕事ぶりはとても元気で明るい声を出し、少しでも活気付けようとしている。

 とても強い人たちなんだと思う。

 歩きながら側近に質問してみた。


「なんでこの国は人間と戦争してるの?」

「平和に暮らしていた我々の元に土地の拡大と労働者とは名ばかりの奴隷を求めて人間が侵略してきたのです。まさか忘れてしまったのですか!? そこまでお疲れとは···気付けずに申し訳ありません。」

「あっ、えっとそういう訳じゃないんだけど···ありがとうございます···。」


 やはり側近には僕のことを相談しようと思った。

 そうすればもしかしたら僕は殺されるかもしれない。

 荒野に放り出されることだって有り得る。

 奴隷にされるかもしれない。

 下手したら殺される。

 どんな結果になるかは分からないけど正直に話しておかないと側近にもっと迷惑をかけてしまいそうだから。

 それに後からバレてしまった方が僕の命は危うい気がする。

 もちろん明日、目が覚めたら元の生活がやって来るならそれが良いのだがどうもそうはいきそうにない。

 これが夢でないことも僕の頬が痛みをもって訴えている。

 すると側近が申し訳なさそうにこちらを見て口を開いた。


「あの···魔王様。非常に申し上げにくいのですが···敬語で話すのはやめて頂けるとありがたいのですが···。その、違和感がすごいです。」

「あっすいません。···じゃなくてごめん。それと···城に帰ったら2人で話ができない? ちょっと話しておきたいことがあって···」

「わかりました。なんなりと。」


 そうして町を一回りして僕らは城に戻った。

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