4.静かな会議

「それでは軍役会議を始めたいと思います。司会は私側近が務めます。」


 そう言って側近は僕の隣にある黒板の前に立った。


「先程、各隊隊長から戦況報告を受けましたがどこもかなりの劣勢を強いられており、このままではこの魔王城まで攻め込まれるのも時間の問題と言えましょう。どのような方針をとるのが良いか各方面から意見をいただきたい。」


 しかしこの側近の言葉に返答する者はいなかった。

 いや、できなかったのだろう。

 最早やれることはやったのだろう。

 そんなことが僕にもわかるほどみんなは神妙な面持ちだった。

 それもそのはずだ。

 僕にとってはいきなりの出来事の連続だけど他のみんなの様子を見る限りこの戦争は昨日今日始まったようなものではない。

 何ヶ月なのか何年なのか、はたまた何十年、何百年なのかそれはわからない。

 それを感じ取ってもシーンと張り詰めた空間にいると息が詰まるようで辛かった。

 重たい空気が僕の体にズーンとのしかかる。

 僕はそれに耐えかねて口を開いてしまった。


「人間と和解するなんてことはできないの?」


 僕が最初に思ったことだ。

 戦争なんて残るものは恨みつらみだけだってことは学校で耳にたこができるほど学んだ。

 それは今だって同じことだろう。

 どれだけの期間、この争いが続いているのかはわからない。

 でもいつか終わらせる時が来なきゃだめだ。

 それに、これがさらに続けば町のみんなの暮らしはさらに困窮を極めるはずだ。

 そんなことあってはいけない。

 そう思ってのことだった。

 しかし···


「それだけはなりませぬ! もし和解など申し出れば我々魔族は人間の奴隷となりましょう。奴隷などになってしまえばどんな扱いを受けるか分かったものではありません。それは魔王様とて同じこと。それだけはダメなのです···。」


 そう1人が言うと皆はまた黙ってしまう。

 それを聞くと僕も絶句するしかなかった。

 戦い続けても降伏してもその先に待つのは今より過酷な道。

 立つことすら苦痛でしかない悲惨な道。

 それをわかっているからこそ誰も何も言えない。

 みんなが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 苦しいのは皆同じというわけだ。

 そのまま時は過ぎ、なんの意見も出ないまま正午となった。


「残念ながら時間が来てしまいました。今日はここでお開きと致します。」


 そう側近が言うとみな肩を落としながら部屋を出ていった。

 つい昨日まで勉強や遊びに一生懸命だった僕にとって、色々なことが突然すぎてどうすれば良いのかまったくわからない。

 夢じゃないかと未だに疑っていた。

 隙を見ては何度も頬をつねってみた。

 めちゃくちゃ痛い。

 この痛みがこれが夢なんかではないことをありありと見せつけてくる。


 ほんとに何でこんなことになってしまったんだろ···。


 思い当たる節が無さすぎるだけに考えようもない。

 昨日だって普通にいつも通りベッドに入った。

 映画に行けると少し胸を踊らせながら。

 それが起きてみればこんな訳の分からないことになっているのだ。

 未だに戸惑いが拭えない。

 しかしこんな時でも腹は減るものらしく、お腹がなってしまった。


「魔王様、昼食と致しましょう。」


 どうやら腹の音を聞かれてしまったらしい。

 少々恥ずかしい思いをしながら側近に連れられ、一緒に朝食をとった食堂へと向かった。

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