3.悲惨な報告

 側近に連れられて3分程歩くと会議室と書かれた部屋についた。

 文字は日本語とはとうてい似ても似つかないもののはずなのに生まれてからずっと使ってきたかのようにすんなり読める。

 そこがまた不思議な気分にさせる。


 会議室は学校の教室3個分ほどの大きな部屋で中央に長いテーブルが置いてある。

 その中央のいちばん豪華な席に僕は座らされた。

 テレビでもこんな綺麗な椅子は見たことないなぁと思った。

 この椅子を見るとほんとに魔王なんだなぁと感じる。

 するとさっそくドラゴンが入ってきた。

 身長は人間より若干高く、2mほどあるだろうか。

 鋭い目と爪、大きな翼と尻尾がとてもかっこいい。

 しかしその顔はどこかうかない表情をしている。

 そしてそのドラゴンは僕の前に跪くと報告を始めた。


「一番隊隊長よりご報告いたします。現在我が部隊は城から南西に5kmの地点で人間軍と対峙しております。状況を簡潔に申しますと劣勢です。こちらの火炎攻撃に対して耐火装備が万全で太刀打ちできません。いかがいたしましょうか?」


 返事に困ってしまった。

 なんて言えばいいのかさっぱりだ。

 分かっていたことではあるが、本当に人間と戦争をしているとは。

 しかもだ。

 魔王軍の方が劣勢ときている。

 小説や漫画での人間軍ってもっと弱い設定とかにされてたような気がする。

 なんにせよ、僕には状況がまったくわからない。

 素人が突然こんな場面に放り出されて的確な指示が出せるわけもない。


 さっき起きたばかりなのに···。


 そんな嘆きがどこからともなく湧いてくる。

 しかし何も答えないわけにもいかない。

 どうなってるのかわからない以上、最悪の事態だけは避けなければ。

 最悪の事態、つまりは死だ。

 死に有益も無駄もありゃしないがそれでも不必要な死があるならばそれは無駄である。

 それはあってはならないことだと思う。


「と、とりあえず撤退じゃダメなんですか? そのまま戦えば多分みんな死んでしまう。それは良くないですから。」

「しかしっ!! ······いやわかりました。魔王様がそう仰るのであれば撤退致します。」


 ドラゴンはまだ何か言いたそうだったがそれをなんとか呑み込んで僕に返事した。

 そして立ち上がると、ドラゴンは丸く小さな背中を僕に向けて退室していった。

 彼がこの部屋に入ってきた時の少年心をくすぐるかっこいい印象はかけらも感じられないほど肩を落としていたのだった。


 その後、同じような報告が4件ほど続いた。

 どれも魔王軍の悲惨な状況を伝えるものだった。

 僕の思っていた魔王軍の姿とはかけ離れている。

 報告に来る隊長たちはみな疲弊し、声に力がない。

 先程の朝食とは打って変わって疲れきった人の報告を受けるというのはこちらまで疲れてしまう。

 これが夢にしろ現実にしろもう少しましなシナリオもあっただろうになんて他人事な考えが浮かんでくる。

 僕は本物の魔王ではないからある意味では他人事の域を出ないことではあるが。


「これで戦況報告は全て終わりました。次は軍役会議です。」

「へっ?」


 側近の声ではっと我に返ると自分の目の前に席についた魔物が4人見える。

 今の状況について考えていたせいで周りの動きにまったく気づけていなかった。

 そこで慌てて僕の目の前に座る彼らを見回す。

 どうやら彼らは魔王軍の重鎮といった存在らしい。

 報告に来ていた隊長たちとは違い少し綺麗な服装をしている。

 でも、それだけだ。

 そこに座っている誰もが隊長たちと同じように疲れきった表情をしていた。

 これだけの劣勢も昨日、今日始まったことじゃないのは火を見るよりも明らかだった。


 そうして軍役会議が始まった。

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