2.朝食

 かなり疲れた。

 部屋はかなり広いなとは思っていた。

 少し大きな家ぐらいの考えでいたのが間違いだったと多少の後悔を覚えている。

 そんな生易しい広さではなかった。

 そもそもここは家ではなく“城”だったのだ。

 1度はこんな城に住んでみたいと夢見たこともあったがまさかこんな形で実現するとは···。

 部屋の数も10や20でも多いのに恐らく100を越えている。

 階段だって馬鹿でかいのが3つもあった。

 当然のことながらリビングなんてものは存在しない。

 そんなこんなで右往左往しながらやっとの事で食堂へと辿り着いた。


「魔王様、おはようございます。」


 そう言ってさっきの悪魔が挨拶してきた。

 それに続いて部屋にいる5人ほどの別の悪魔も挨拶をした。

 どうやら僕は本当に魔王らしい。


「お···おはようございます。」


 とりあえず挨拶を返す。

 すると悪魔が心配そうな面持ちで聞いてきた。


「魔王様、どうなさったのですか?いつもなら我々の挨拶に返答することなどなかったですし。部屋に入った時から少し変だとは思っていたのです。魔王様が敬語をお使いになることなんて今までになかったことですから。」

「えっ、えっと···そう、だっけ?」

「はい。まぁその事は今はいいのです。それよりも私、側近から今日のご予定をお伝えいたします。今日はこの後10時から戦況報告を受けた後、軍役会議が開かれます。その後昼食をとったらすぐに城下町の視察、それが終わると大臣らと会食をして今日は就寝となります。よろしいですか?」

「え? 軍? 戦争でもしてるんですか?」


 すると少し呆れたような顔をしながら側近は答えた。


「何をおっしゃいますか。今我が国は人間との戦争の真っ只中なんですから。」

「あ、そうなんですか···。」


 ···ますます夢だと信じたくなってきた。

 目が覚めたら突然戦争をしている国の王、しかも相手が人間でこちらは魔族というハチャメチャな状況なのだ。

 頼むから夢なら覚めてほしい···。


「時間もありませんので朝食を済ませてしまってください。」

「わっ、わかりました。いただきます。」


 そう言ってテーブルに目を向ける。

 自分が魔王で目の前に悪魔がいるのだからどんなゲテモノが出てきても驚かないだろう。

 そう覚悟を決めて皿の中身を見た。


 ···しかし予想に反してあまりに一般的な朝食で逆に驚いた。

 パンと目玉焼きとスープなのだ。

 なんか拍子抜けした気分だ。

 食べてみても普通に美味しい。

 パンは外がカリッと焼け、中はもっちりした最高の焼き加減、目玉焼きは黒胡椒がいい感じに効いていてスープは朝食にはぴったりなさっぱりとした味わいと玉ねぎの甘みが最高だった。

 僕はあっという間に平らげてしまう。


 これが毎日食べられるならこの状況も悪くないな···。

 ふとそんなことを考えてしまうほどの美味しさだった。

 そもそも僕が魔王だとか戦争してるだとかそんなことにイマイチ実感がもてていない。

 それも当然のことではあるが。


「それでは軍役会議に行きましょう。」


 そう言う側近に連れられて会議室へと向かった。

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