知らぬ間に魔王に転生した僕は

ゆずっこ

1.見たことない天井

 目が覚めた。

 寝惚け眼でまだ視界がぼんやりとしている。

 僕は欠伸を噛み殺しながら眼をこする。

 窓から入る朝日が心地よかった。

 いつもと変わらない気持ちの良い朝。


 ――のはずだった。

 しかし見上げている天井はいつもとは違った。

 石造りの壁と天井、床は木目が綺麗な木材でできている。

 慌てて起き上がって部屋を見渡してみても知っている光景は微塵もない。


 ···え?

 なにこれ···。


コン、コン。


 突然ノック音が聞こえてきて少し体がビクッとなる。


「魔王様、お目覚めでしょうか?」


 突然部屋の外からノック音と共に声が聞こえてきた。


「え、えぇ、えっと···。」


 そんな感じで戸惑っているうちに戸が開いた。

 入ってきたのはまさしく悪魔といった人相をした人物だった。

 角が生え、銀髪赤目、背はすらっと高い。

 しかし服装はと言うといかにも紳士といった感じのものでこれがまたよく似合っている。


「起きてらしたなら返事を下さればよろしかったのですが」

「あ、えっと···すいません。」

「朝食の準備が整いましたのでお越しください。」

「へっ···?」


 思わず変な声が出てしまった。

 目の前の悪魔は僕のことを魔王と呼んでいてこれから朝食だと言っている。

 そもそもここはどこだ···?

 こいつは誰なんだ?

 わけがわからない。

 そう思ってふと手を見た。

 体の色々なところを見た。

 服装を除けば、それらはいつもの光景で少しほっとする。


「どうかなさいました?」

「え、あ、いえ、大丈夫です。」

「そうですか。ではお待ちしております。」


 悪魔は一礼して部屋から出ていった。

 床と靴がぶつかる音を子気味よく響かせながら。


「ふぅー。」


 思わずため息をつく。

 突然の出来事の連続で全身汗びっしょりになっていた。

 夢だとしたら僕史上1、2を争う変な夢だ。


 あ、でも塩秋刀魚をパンに突っ込んでそれを食べながら学校に行った夢には適わないか···。

 ···っていやいや、そうじゃなくて。


 そう思って思いっ切り頬をつねる。


 めっちゃ痛い···。


 残念ながら僕はほんとに痛みがある夢というものには出会ったことがない。 

 それでも今のほんの数分のうちに起きた出来事は夢と思いたくなるのも当然なものだった。


···さて、どうしようか。


 とりあえず部屋中歩いて眺めてみたが見慣れないものだらけだった。

 それもそうだろう。

 ここは|僕の家じゃない(・・・・・・・)のだから。

 クローゼットらしきものを見つけて開けてみると綺麗に服がかけてある。

 今の服装は恐らくパジャマだろうと思ったのでてきとうな服を選んで着た。

 思いのほか似合っている。


「なんでこんなことになってるんだろう···?今日は|隼人(はやと)たちと映画に行く予定だったんだけどなぁ···。」


________________________________________


 僕は|理(まこと)と言う。

 高校2年生で部活はしていない。

 隼人は僕の幼馴染でバスケをやっている。

 僕とは違って運動神経抜群で彼女までいる。

 それでも月1回は一緒に出かけたりしている。

 自分で言うのもなんだが本当に仲がいいと思う。


________________________________________


 でもまだこれが夢じゃないと決まったわけじゃない。

 ···いやそうであると信じたい。

 どちらにせよお腹も空いたし朝食があるなら頂こうと思いリビングへ向かうことにした。

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