第27話 井上彩は空気の読めない

 教室。


 2時限目の『数学』が終わった休憩時間の出来事。


 理沙は黒板消しを叩いていた。


 出窓からカラダを思いっきり乗り出して、つま先立ちの状態でだ。


 スカートの丈の短さからいって、正直ギリギリで、今にもパンツが見えそうだった。


「ねえ、姫川さん。ここの問題が解き方ってご存知ですか」


 そこに女子生徒が声をかけた。


「わたくしも教えてもらっていいですか」


「ええ、いいわよ。

 ここは先週習った、この公式を使えば解けるわ」


 誰にでも優しいと評判の理沙は柔らかく微笑み、上品に髪をかきあげてから。


「他にもわからないところがあったら、ドンドン聞いてちょうだい。

 もちろん、数学以外の教科でもOKよ」


 理沙の席につくと一瞬で、人だかりができた。


「姫川さんって勉強を教えるのがとてもお上手ですわよね」


「ええ、とてもわかりやすくて、いつも助かっていますわ」


 巨乳=《イコール》頭が悪いと思われるのがイヤだからという理由で理沙は人一倍、努力していた。


 理沙って、意外と負けず嫌いなんだよな。


「ゴホン。予鈴が聞こえなかったの。

 次の授業が始まるわよ。

 あなた達、そろそろ席に着いたほうがいいわよ」


 井上さんがモブキャラどもに注意する。


 姫川さんの周りに群がっていた女子生徒たちは、おとなしく自分の席へと戻っていた。


「うっさいわね。

 わたしは偉そうに指図られるのが一番嫌いなのよ」


 ついつい忘れそうになるが、学校とは集団生活の場所なのだ。


 なかには反抗的な人間や、相いれない人間がいてもおかしくはない。


 たまに衝突することもある。


「そうよそうよ。

 わたしたちが楽しくおしゃべりをしていたのに、それをぶち壊すなんて、信じられません。

 空気が読めないのにもほどがありますよ。

 だから教室で堂々と匂いのキツいコンビニ弁当を食べることができるのかしら」


「他にもこんな逸話がありますわ。

 わたくしが生徒会になったあかつきには、エロ、ラブ、ロマンス、百合、BLなどの『不純異性交遊』は、すべてを禁止しますとか言って生徒会長に立候補して、惨敗した哀れな女でしょう」


「2、3年を差し置いて、生徒会長に立候補するとか、ほんとうに空気の読めない生意気な女ね」


 ちなみに現生徒会長は、2年生で相当なイケメンで女好きのゲス野郎だ。


 副会長、書記、会計などの生徒会メンバーをかこって、生徒会室を私物化しているという噂を耳にしたこともある。


「さっきから聞いていれば、いい加減にしろ。

 彼女のことを何も知らないクセに偉そうなことを言うな」


 えらく久しぶりに木村の声を聞いた気がするな。


「彼女を庇いたい気持ちはよくわかりますけど。

 わたくしは間違ったことを言ったつもりはありませんわ」


「そうよそうよ。

 自分の彼女を悪く言われて気分を害したのかもしれませんが、それ以上にわたしちは気分を害したんです。

 だいたいこんなブスを好きになるとか、あんた頭おかしいんじゃないの」


「ブスはオマエらのほうだろう」


「言ったわねぇ」


 木村と女子たちが取っ組み合いのケンカを始めてしまう。


 ケンカの原因である井上さんは仲裁に入ることはせず。


 自分の席で次の授業の準備をしていた。


 井上さんって、どこかマイペースなところがあるんだよな。


 今でも『インスタントカメラ』を使っているところとか。


 現像した写真を一枚一枚アルバムに貼っているんだよな。


 どうにも記録媒体に移して『デジタルフォトフレーム』や『テレビ』や『パソコン』で見るのはお気に召さないみたいなんだよな。


 ちょっと変わっているよな。


「せっかく忠告してあげたのに、残念だわ。

 あなた達、ゲームオーバーよ」


「なに、わけのわからないことをおっしゃって……」


「おまえら、とっとと席に着け。

 授業を始めるぞ」


 女子生徒の言葉を遮るように現国の先生が教室に入ってきた。


 井上さんの言葉通り、彼女たちは先生にこっぴどく叱られたらしい。


 まあ、自業自得だから同情の余地はないな。


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未来から娘がやって来た。そして屋敷で暮らすことになった 天界 聖夜 @inori0314

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