雨が降る、君はくるまる。

春野 秋

あめ、ふる

「よぉ」


ポタポタと、雨漏りする屋根の下

少年は透明で、不揃いの瓶をたくさん持ってやって来た。


「おぉ、今日も来たんだ。飽きないね。」


布団のなかの少年がにっこり笑う。


「うるせぇよ…」


と言いつつ、ぎこちなく部屋に入り、

持ってきた瓶をひとつずつ、

ポタポタ零れる雫を受けとめるように

コトコトと置いていく。


「雨漏りくらい、平気だよ。」


「こっちの方が、面白いだろ」


全部起き終わると、彼は縁側に座る。

それが合図みたいに

2人は黙る。


ぽちゃぽちゃ、


かちゃ、ぴちゃん、


ちゃらん、とこんっ


いろんな音が部屋の中で響く。


「な。おもしろいだろ?」


彼がにやっとして、どう?と

自慢げに聞いてくる。


「まぁ…、少しはね。」


視線を逸らして布団のなかの少年は言う。


「なんだよ、素直じゃねぇな」


と言いつつも、彼の言葉は笑っていた。


---


「ねぇ、雨っておいしいのかな。」


何となく、布団のなかの少年があざらしきものを触りながら言う。


「……たぶんな」


そっけなく、彼が言う。

ちらっと少年のあざをみる。

あれは小さいときにやられた雨のあざ。


「ふーん…。食べてみようかな。」


「は?!」


少年の言葉に彼は驚く。


「雨に当たったら、だめだろ」


……


……



沈黙がつづく。


「だよね。」


「うん…」


「ごめん、もう言わない。」


「あぁ、」


別にいい、と言いながら彼は立ち上がり

伸びをしてまた座る。

それからすくっと立って、


「食べたい?」


「え。」


彼は布団のなかの少年の手を取り立ち上がらせた。


「ほんとに?」


「1回ぐらいめちゃくちゃ怒られたいよなぁ」


彼は鼻を人差し指でさする。

ニヤニヤしている。


「なんだよー…。」


布団から出た少年は後ずさる。


「いいから来いよ」


彼は少年の腕を取って外へ促した。


「……。」


布団のから出た少年はゆっくりと雨の方へ近づく。

手を開いて空に手を伸ばす。


ぱちっと手に雫が当たる。

びっくりして少年の手がぴくりと動く。


そーっと濡れた地面に足をつける

片足ずつ、ちょっとずつ…。


ぽちゃん、ぽちょん、ちょん

ちゃらん、ちょん


部屋から微かに雨漏りの音が聞こえてくる。


「どうよ?」


彼が少年に問いかける。


「食べれないよね…雨って。」


へらっと少年が笑う。


「……あたりまえだろ?」


2人は笑った。かすかに小さく、雨の音をかき消さないように。



ズキズキ痛む。腕のあざ

彼はそれを隠すように

笑った。

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雨が降る、君はくるまる。 春野 秋 @akiharuno

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