第529話「士官候補生インベル・カラドス=レディワイス准尉」 無名兵士達
警鐘が鳴り続ける。教会の鐘も普段の綱引き仕掛けではなく、直接金鎚で叩かれ、違う音色で異常を告げる。
寺院の尖塔からは、礼拝の呼びかけの代わりに声が高い美声自慢達が『聖皇聖下の思しである。エーラン地区へ避難せよ! エーラン地区へ避難せよ!』とひたすら呼びかける。
時間になっても礼拝呼びかけなどしない。礼拝が出来なかった分は後でやればいい。
未改宗エグセンによる百日包囲、西エーランによる海上襲撃、ロシエによる航空爆撃以来の危機。
我々、ロシエの帝国陸軍士官学校の士官候補生連隊は、市民同士の避難経路がぶつかって混雑しないように誘導整理した。また家財を荷車に載せて移動しようという不届き者――混雑の原因――を道の外へ誘導し、荷物を捨てさせた。また足の弱い者達を車に乗せ、体力のある男達から有志を募って牽かせた。
これには多少なりとも暴力が必要だった。軍人か警察にしか出来ないだろう。
もう少し離れたところでは帝国海軍士官学校の士官候補生連隊が同じ働きをしている。
「これが儀仗兵の仕事か?」
「陛下はもうお帰りだよね」
友人と私語。連隊長を兼ねる元近衛騎兵、バルマン人の学長が怒鳴る。
バルマン人は声がデカい。顔もデカい。
「学生諸君、この大馬鹿者! 帝都へお帰りになられたとも陛下の御威光は今もご健在! 我々はただの士官候補生、見習い士官の准尉ではない。儀仗の任を帯び、今や停戦監視の任を負う! 出来るのは我々だけだ、だからやるぞ!」
我々は戦うためではなく、マリュエンス陛下とマールリーヴァ殿下の聖都での結婚式典に儀仗兵として参加。
その後、鉄道計画の変更でご夫妻の聖都残留が延び、我々もお供させて頂いた。
ご夫妻がオーサンマリンへお帰りになられた後も鉄道計画は他作戦優先。そのまま帰国の計画も立たず、郊外も使った訓練を、やや無為に続けていた。そして遂に帝国連邦と停戦という話が出て、我々は聖都方面における停戦監視団ということになった。
停戦監視団。二国間の戦闘行動は”急停止”が出来ないので、その間に第三者が割って入る。停戦後に活動するものと思うが、今はその端境期。
そして今から神聖教会が停戦するはずの相手、帝国連邦が聖都西正門へ明確な敵意を持って迫っている。
残虐非道の悪魔大王、女子供殺し、人肉食らい、外道、蛮族、えーと、糞野郎。
「いいか学生諸君、授業を開始する! 学び舎でなくとも勉強だ。まず戦いとは穴掘りだ! 馬鹿正直に立っていれば死あるのみだ!」
街路敷石を剥いで積んで、掘って塹壕化したいが、大きな石の下にはもう少し小さい石があって、掘っても次は砂利。土がなかなか出てこず、遂には地盤強化の杭に当たる。塹壕が掘れない。
通行人から「エーラン街道が簡単に掘れるか阿保うつけ、田舎者、森の民!」と怒られる。
「……いいか学生諸君! 臨機応変に対応しろ。かつてシトレでどのように戦われたかをな!」
方針転換。
頑丈な教会、修道院を中心に建物を要塞化。割った窓と窓、屋根の間に板を渡して回廊化。樽、籠、箪笥にまで土を詰めて部屋の壁際に置く。銃弾が抜けないように。
街路の隙間は、建物の中から担ぎ出した家具をとにかく積み重ねて封鎖線を構築。
悪魔大王と交渉されたらしい聖皇様も、住民も避難を確認してから最後の街路まで塞ぐ。
市民兵も窓と屋根の上、障害物の隙間からやってくる敵を狙い、待つ。
自分の配置、裏の窓を見れば噴水広場が見える位置。
城壁にはフラル正規兵が待機。要塞砲は沈黙、射程圏外。
「こっちに来てる極東の連中、やばいって話だぞ」
「あれ以上やばいってなにがやばいの?」
「お経唱えて泣きながら斧で、頭を横から割って顔取って吊るすんだと」
「何の宗教それ? ここまで来てるの?」
「知るか……インベル、お前大丈夫か? こすってるわけじゃないよな」
「ちーがーう」
部屋の隅で花瓶に小便しようとしているけど全然出ない。
「びびってるのかお前」
「こわい。こわいけど」
「今時機びびりが軍隊やる気になってんじゃねぇよ」
「でもお金と社会保障良いし、遺族年金出るし」
「あのカラドス=レディワイスのボンボンが金だって!?」
「甥っ子の生活費がいるんだ。義姉さん死んじゃったし、兄さんは童貞だし」
「ランスロウ元帥が!? 俺、お前だけは童貞だと思ってたのによ」
「何が、何で!?」
「は? 兄嫁とお前がヤって出来たって聞こえたぞ」
「マルローのアホ! もっと優しい人がいい」
「あー、そんな感じか」
地面が揺れる。窓枠に割れ残った硝子が落ちる。
何かが鳴った。城壁の上辺、外側へ弓なりに傾く。
屈曲した壁が折れ始める。横筋、無数の隙が出来る。城壁内の骨組み、埃を落としながら露出。
壁の根本にも横筋。都内側に突き出て、地面が盛り上がって進んで、建物、壁裏の階段を崩して止まる。
曲がった城壁、音を立てて崩れ出し、遂に折れる。
また揺れる。先が”一点”なら今度は”一線”。山に向かうような揺れ、崩れた場所から崩壊が連続。潰れて広がる。
少し時間を置き、海に向かって同じく”一線”で崩壊。西正門が潰れ、海岸に突き出る沿岸要塞の一部にまで波及した。
要塞砲は一発も発射されていない。暴発も無い。どこから攻撃、地下坑道作戦?
砲声、着弾まで時間が掛かり、崩れた城壁に着弾。爆発、瓦礫が飛散、埋没した砲弾に誘爆、爆発連鎖。
爆炎閃光で視界が埋まった。
「伏せろぉ!」
誰かが外で叫んだ。
城壁の破片が正面から飛ぶ。屋根、壁、地面に刺さる、転がる、砕ける。今いる家の壁に穴が開く、土を込めた箪笥が倒れる。窓を抜いて扉を破る。逃げ遅れか、他の兵士か、男女の絶叫が混じる。
空から落ちる鉄、石、骨があちこち刺さる。屋根を貫通、床にめり込む。砂、砂利、肉が通り雨のように降る。
体中に埃を浴びた。起き上がって外を見る。屋根色が揃った街並みが一変、穴だらけ、破片だらけ、出来上がったゴミ山。遅れて不発弾が爆発。
咳をしながら、同じ建物にいる仲間に声を掛けて回り、負傷者がいたら一番安全そうな場所に運ぶ。この家では厨房が一番被害が少なかった。
死者は床に置く。重傷者を脇に置く。調理台の上で助かりそうな軽傷者から、瓶の水で傷を洗って包帯を巻く。
仲間から優先、他の建物も回って救助に動く。
損傷した建物の屋根が自重に耐えられず潰れることがある。二階まで潰れ、倒壊で隣の棟を巻き込んで崩れる。
瓦礫に挟まれた人は救助できそうに見えない。生きていたら……仲間が「こういう時はな!」と石を持って頭を殴り潰してとどめを入れていた。
息が苦しい。埃を吸って咽る。
沿岸要塞は、西の端から敵の砲撃を受けて端から蚕食されるように崩れている。最初の揺れで要塞砲に死角が出来たか?
負傷者の傷を洗う水を探す。ありそうな建物があっても潰れかけ、手を掛けるだけで揺れる。
噴水広場まで行く。まだ水を噴き出しており、ゴミが浮いている。散らばっている板を持って水流を作り、外に押し流して綺麗にして汲めるようにする。
水を求める人が群がって来る。血や泥で汚れる。出て行けとも言い難い。
「治療用の綺麗な水! 欲しい人!」
と大声をあげ、顔の反応や「こっちだ!」という返事から見分けて、桶や樽を受け取って噴水口から汚れていない水を入れては渡す。
しばらく繰り返していると身体が言うことを利かなくなって、誰かと水汲みを交代して休む。
腰が痛い、膝が笑う。ゴミや破片があまり落ちていない場所に座り込む。
街路がゴロゴロ、ゴリゴリと削られるような振動。どこか、教会か修道院が崩壊しているのかと思った。男の叫び声が混じって、何か別のものかと思って見たら、何かは分からなかった。
「がおー、ブットイマルスの入場だ!」
正面から見て、何なのか分からなかった。
側面から見て、広場の噴水に乗り上げて人々を踏み潰した時に少し分かった。手押し”戦車”。聖都の博物館で見た、馬が牽く戦闘馬車の類縁、金属お化け。
あんなの、どこから?
しかも押していたのは鴉覆面? のノミトス派修道女。聖都には少ないが、寺院もある宗派の。衣服だけで所属は決まらないが。
壊れた噴水装置がでたらめに散水。
あの修道女と手押し戦車、敵だと思うが何だか敵なのか何なのか判別出来なかった。あの背中に銃口を向ける兵士も少ないし、狙いを定めるのも難しく、俊足であっという間に街路、建物の陰に行ってしまった。
沿岸要塞が次々と火の手を上げ、砲弾が誘爆して弾けて、周囲に残骸を撒き散らす。
海に近い教会の鐘に破片が直撃、気持ち悪い音を立てる。他に破片を浴びるように受け、構造が持ちこたえられずに屋根から崩落、壁が倒壊。尖塔も倒れて、呼びかけの者は悲鳴まで美声。突風に灰色の埃が乗る。
埃越しの太陽が眩しい。
「おい立てるかインベル! フラル語通訳、坊主仕込みのお前がいなきゃダメだろ!」
同じ連隊、班の仲間、マルローが腕を引っ張る。
「腰抜けた」
■■■
立ち上がれるようになるまで、破壊された噴水広場にいようと思ったが、状況が変わってマルローに背負われることになった。
沿岸要塞が軒並み破壊された後、沖合いにいる敵艦隊は艦砲射撃で建物一つ一つを狙う。
東側の城門城壁も港の水上、裏側からの砲撃で破壊される。
砲弾で潰れた家の、地下室と思われるところから助けを求める「誰かぁ!」と声。
少しずつ足が言うことを利くようになったのでマルローの背から降りる。
背負ってくれたマルローと二人で、瓦礫でも抜いて脱出口が作れないかと思ったが煙が酷い。竈の火から崩れた家、家財、敷布などに引火、火災。手に負えない。
「首切って血を流せ! 焼け死ぬよりマシだ!」
とマルローがロシエ語で声を掛ける。
「おい、通訳」
フラル語に切り替えて「えっと……焼けるのは苦しいからぁ! 首の血管切って! 出血で死んだ方がいーよーって!」と言い「わかったありがとう!」と感謝された……。
「何だって?」
「ありがとうって」
瓦礫の中から「あんた達、お父さんところ行くよ」と聞こえた。
「次は何だって?」
立ち去る。我慢できない。聞いていられない。
砲撃された聖都のあちこちで火災。砲弾の火炎で燃えているところもあろうが、竈に入っていた火から燃え移って火災になっている。
敵艦隊の艦砲射撃は確実に、しかし全家屋の破壊を目論んで遅々と前進している。
こちらも慌てて逃げる必要の無いところまで来て避難誘導を再開。家を一軒一軒訪問して、「地下は潰れるから駄目だ!」と声を掛けて脱出を促す。老人の手を引っ張る。
孤児が何百人もいるフェンナマリク修道院前で、角馬が牽く馬車に子供、老人、怪我人を乗せては丘の向こう、坂の上へ力強く走る。
修道騎士が音頭を執っている。
「足の弱い者だけ乗れ! 他は走って山へ逃げろ! エーラン地区より向こうへ!」
坂の上、かつての海岸線、高級住宅地の多い旧市街地。その更に向こうには山。その麓にエーラン歴史地区。
坂を登る。新市街地に分散していたフラルの市民兵、正規兵も集まる。陸海の士官候補生仲間も。
海を見ると敵艦隊が海岸に近寄って、中央を開けるように左右に分かれている。
一時砲撃が中断。何事かと、今まで砲煙を上げていた艦艇から目を離すという意識が生まれて更に沖を見た。
巨大な船影。船と比べるものではなく、あれは島の大きさに見える。
ペセトト妖精の水上都市。この状況で来るのか? 帝国連邦軍が呼び込んだとしか思えない。
敵艦隊は艦砲射撃再開。水上都市からの砲撃も始まる。更に聖都の破壊速度が上がる。城壁内の、海沿いの新市街地のほとんどが瓦礫になる。
新旧市街地の狭間、丘の斜面にある段上の市街地にも砲弾が届き始める。
水上都市、巨影に似合わぬ速さで港湾部へ高波を伴って激突。遠いと思ったらもう来た。
また地面が揺れる。倒壊しかけていた建物が一斉に潰れる。砲撃を受ける前の建物も一部崩れ、歪む。
聖都を飾る美しい屋外展示、建物の壁面、軒下を飾る彫刻、落ちて倒れて砕ける。二度と昔日の姿を取り戻さない。
新しい燃料を得て、崩れて空気を取り込んだ無数の火災が一度、火を大きくする。または小さくなる。
海岸から海水が乗り上げ、押し寄せる。瓦礫を飲み込んで、燃える木材を浮かび上がらせ、泥と灰を飲んで黒くなって新市街地を押し流す。
逃げている最中の人々が見える。明らかに街路と違う色、色とりどりの服を来た人達が飲まれて沈む。それぞれの色がバラバラに動いて巻かれた。黒くなった。
海水が押し流した色々な物を引きずり込みながら海に戻り、港を地形ごと抉って着岸した水上都市から縄梯子が降りる。
ペセトト妖精兵が『ギャア! キィア! ギャア! キィア!』と叫びながら笛、太鼓演奏混じりに上陸開始。
丘よりもっと上、エーラン地区の山の高さから天使の大軍が海岸へ向かう。かつて、我がロシエが聖都へ爆撃を敢行して以来の聖都守護の象徴。
鳥の翼を持った人間のような彼等? 彼女らが美しい姿で上陸して真っすぐこちら、丘に向かって来るペセトト兵に対峙しようとして、弾けた。
頭上で炸裂音。思わず伏せて、這って物陰に隠れる。
血と肉片が雨、羽根と布片が雪のように降った。
半裸の、全裸の、女性の胸も男性の生殖器も無い天使が六肢から幾つかもげた状態で、全身あざと切り傷だらけで地面に落ちて頭が割れる。骨が変形、皮膚を突き破って露出。金属片も散らばって死体と、避難する人々に修道院の子供達にも降って刺さり、切り落とす。
水上都市からの砲撃、空中で炸裂する型の砲弾。途中で地上に落下して炸裂する物もある。
天使がバラバラになった。彼、彼女らは悲鳴も上げず、光る透明な”盾の聖域”で己を守りながら、大量の死体を残して直ぐに引き返した。
海岸線からの射程限界もあったらしい。このフェンナマリク修道院あたりが丁度、対空砲撃の射程限界、天使の逆襲限界。
天使の惨状で女子供の絶叫が酷くなる。
マルローの頭に破片が刺さっている。血を流して、唸っているけど意識が無い。
この騒ぎでも動揺しない角馬を尊敬しつつ、馬車による避難を促すため、動けなくなった子供達を強引に抱え上げて荷台に放り込む。破片の傷でも触ったか一度思い切り、乳歯が折れるくらい噛まれた。あーもう。
マルローも負傷者ということで荷車に載せたいが、車両に搭乗出来ていない子供がいる内は断られる。
御者の修道騎士にしがみ付いて「初めて出来た友達なんだ!」と言ったら、しぶしぶ乗せてくれた。
西正門、今は少し遠くに見える。西側の崩れた城壁が、突然まるで見えない箒にでも掃かれたように押し退けられて道が出来た。何かの魔術、凄い規模。
敵の歩兵部隊突入。間口を確保。ペセトト兵とは交戦せず。
次いで騎兵隊も突入し、海岸通りを横断して東門へ。丘側、旧市街地方面を優先していない?
東正門にいたらしい正規兵が、東門の外に上陸部隊がいたというような話を漏らす。騎兵隊でその隊を補強して、聖都包囲を進めるのか?
坂を上り切って旧市街地に入る。新市街地より建物が大きい、塀も高く造りが良い。小路も広場も広い。文字が書かれた看板も多い。街路樹も多い。
その西側、まるで要塞群でもあるかのような街区があって、そこへは安全に逃げ込めそうに見えるがベーア兵が防御を固めていた。しかも我々が近寄ると威嚇射撃を行う。また住民を追い出してすらいる。
何なんだ?
「何だってんだよ犬共が!」
マルローが咆えるが返事は無い。
あんな奴等、ペセトト兵にやられても助けない、と思って更に逃げる。敷石が磨り減ったカラドス通りに入る。
ペセトト兵が蛙、魚、蜥蜴、人間の継ぎ接ぎみたいな服装で大通りを仮装行列。向かう先は旧市街地、避難民が行き着く山への道で、追ってきているように見える。
大軍ではある。装備に欠損が見られたり、腕が足りなかったり、顔に明らかな傷があって包帯も巻かれていないことも目立つ。繰り返す戦いで消耗しているようだ。
水上都市の砲撃から逃れるように隠れながら、ペセトト兵の突進に、殿に残った皆で小銃射撃を敢行。転び、倒れた者は後続に踏みつけられて群れの中に埋もれる。
ベーア兵が占拠する街区をペセトト兵は無視して直進。何故?
ペセトト兵の先頭集団を追い抜く獣の姿。石の身体を持ち、銃弾も容易に通じず、フラル兵や仲間達が殴打に噛み付きで倒れる。銃剣銃床で一撃入れても無意味。
石獣は避難民より武装兵を優先して攻撃。小銃を捨てて逃げた者が勇敢な者を盾にする形で生き延びる。
カラドス騎馬像の広場、像より後ろで僧兵達の密集隊形が組まれていた。先頭に立つお方は、何と聖皇レミナス八世聖下。
頼もしいとも、お下がりくださいとも、何とも言い難い。
方陣前に展開する、聖なる銃兵隊に自分も混じって石獣に発砲。削れて石粉を落とすがそれだけ。傷は付くんだが。
「銃兵退避!」
僧兵指揮官の号令に従い、自分も銃兵に混じって下がる。長杖を構え、第一列石突き突いて斜め上向き、第二列前向き、第三列以降真上向き、が並び”槍襖”を作る隊列の中へ潜り込む。
「”盾の聖域”」
石獣の突進、第二列の杖先に広がる”盾の聖域”に当たって弾き返される。
「”裁きの雷”」
次に第一列の杖先から、目蓋越しでも眩い閃光で石獣が粉々に砕けた。
石獣の攻撃、以降その二つの奇跡に阻まれ石片、石粉になる。
遅れてやってくるペセトト兵の銃弾、”盾の聖域”に当たって落ちる。
「太矢用意!」
聖なる銃兵、銃口に矢羽根と発射薬包付きの太矢を装填し、杖兵の隙間から出て整列。通常より肉厚の銃身を突き出す。強く、極端に踏ん張る射撃姿勢が強い反動を予感させる。
「”追い風”」
一斉射撃。大きな銃声の後に太矢が埃、石粉を巻き飛ばしながらペセトト兵に直撃。一本で何人貫通したか、何百体と一度に効果が出たが即効ではない。腹に穴を開けたままでも走る、転ぶ。痛みを知らない動きが多かったが、次第に”一面”が潰れる。
太矢の発射には通常の銃弾も使うようで、装填作業は二度手間。一斉射撃の間隔は長めであるが、一度に倒す敵の人数を考えると再度”殺戮圏”が満たされるまで待つ時間と合わせて、丁度良い?
かなり凄い。勝てる?
聖皇聖下が手を前に突き出し”宙”を掴んだ。虫ではないと思うが、見えなかった。
「投石です」
僧兵指揮官は聖下の声に頷いて、
「”盾の聖域”、全方位!」
長杖、前後上下左右全方向に向けられて光る透明な盾を広げる。銃弾の次は、綺麗に丸く成形された石が飛来。直進し正面、山なりに上面、左右旋回しながら側面。全弾防ぐ。
どれだけ持つのか、ただ耐えるだけ?
「方陣、前へ! 他の将兵諸君ご苦労! 方陣を後ろに抜けて退避したまえ」
光の方陣、前進。巨大な”盾の聖域”が足並み揃えて進み、一時停止。銃兵が”盾の聖域”範囲内で太矢を一斉発射してペセトト兵の群れを潰す。そうして突撃の”波”を一度打ち砕いたら前進または後退で敵群との距離を保ち続ける。
敵の接近を許して白兵戦に移りそうになったら銃兵は方陣の中に隠れる。それから杖兵が奇跡で焼き払って対処。奇跡の行使で疲れたら個別に前後列が交代。それらの行動を組み合わせて戦った。
まるで無敵! だが、方陣を抜けながら僧兵達を見れば、治療済みのようだが、装束に穴が開いて血に染まっている様子も見られる。元負傷兵達は後列に集中している。これは、帝国連邦軍と一度戦った形跡だろうか? 相性が悪い戦法もあるのだろう。
方陣を抜け、戦闘地域の後方で予備待機している僧兵より更に後方へ引く。
その最中、負傷者、重傷者は聖オトマク寺院に搬送されていると聞いた。
■■■
ペセトト妖精。野蛮で獣の同然で非文明圏の学の無い、立って歩けるだけの哺乳類、そんな感じだと”噂”で語られてきた。
良く分からないが、馬鹿ではないのかもしれない。光の方陣は陽動に掛かった。
聖オトマク寺院の割れた窓から火の手が上がっていた。
まだ歩ける負傷者が何とか寺院から逃げ出そうとして、鋸みたいな棍棒で撲殺とも斬殺ともつかない一撃で殺されているのが目に入った。
迂回襲撃を仕掛けてきていたのは、芸術品といった出来栄えの髑髏風水晶甲冑で固めた者達。異教の騎士というか、戦士だろう。
髑髏戦士の甲冑は小銃射撃程度では傷もつかない。狙う隙間も動いている姿から確認困難。目ぐらいだろうか?
髑髏戦士達の体付きは一様ではなく、人と獣と鳥に爬虫類に蛇に何なんだか、デタラメに混ぜ合わせた化物である。腕二本がある上での足四本も珍しくない。
旧市街地各所で髑髏戦士の――喚声か鳴声――気持ち悪い奇声と、人間と分かる悲鳴が上がっている。
化物共は一人一人が術使いのようで、統一感の無いものをそれぞれ発動している。教会の奇跡、魔族の魔術で出来ることは全部やれている気がする。
エーラン地区から少し入ったところでフラル兵が陣地を組んでいるのでそこへ逃げ込もうか? 何かもう、どう対応すればいいか分からない。
エーラン地区の近くまで行くと陸海の士官候補生連隊仲間が、連隊長の指揮で避難民を誘導、救助している姿が見えた。マルローも見えた!
「生きてる!」
「見ろよ、角つきだ!」
マルロー、頭から金属片を生やしている姿で動いている!
「抜かないの?」
「脳みそ流れるだろが、樽一杯」
「オトマク寺院にいたと思ってた」
「その前に目が覚めた!」
砲声、近く、直後に爆裂。エーラン地区に組まれた砲兵陣地からの直接砲撃。
髑髏戦士へ、フラル兵が歩兵砲を操って砲弾を直撃させた。透明な水晶甲冑の中身を赤黒白の混ぜ物にしながら、しばし動いて倒れた。
「ヤバっ」
マルローが”ヤバっ”と言ったのは髑髏戦士の方ではなかった。
「……っしょいわっしょい!」
街路の敷石が砕ける音。地震程ではないが振動。
手押し戦車、士官候補生仲間に連隊長、避難民を轢いて潰して巻いて絞り出して殺戮。
「スッゴイサニャーキ、凄いサニャーキ!」
手押し戦車はおよそ直進的にしか動かないので横に動けば避けられそうだが、車輪軸の延長線には回転する鎌が有って容易に足を切断。
操者である修道女の腰にはこう、鎖付きの大鉄球があって、あちこち跳ね返りながら左右上下へ大暴れ。人も建物も粉砕、薙ぎ倒す。
「おーかねーたまー!」
走ってエーラン地区へ逃げる。ペセトト兵とは違った、別の、怖ろしい。
フラル砲兵がどうにかしてくれると思い、逃げる意志が発揮出来た者達で逃げ込む。
エーラン地区と旧市街地の境目には、壁という程ではないが柵がある。
手押し戦車が激しく街路を抉る。直進から道を削る急右折。進行方向はこちら。
フラル砲兵、手押し戦車に砲弾を撃ち込む、爆発、やったか?
「わっほーい!」
手押し戦車から手を離した修道女、鉄球に振られるまま吹っ飛んで、街路に足を突き刺して停止。鉄球を引きずってやってくる。
柵の門、境を越える。こけた、マルローのズボンを掴んで引きずり下ろしてしまった。うっそ?
修道女、左右に機敏に動いて、複数並ぶ砲門の照準から逃れながら急停止。裸足が敷石に足形をつける。
近い近い、太陽を背にした修道女の影が自分に降りているぐらい近い。
「あ!? ねえねえ、こっからエーラン地区なの?」
鴉みたいな覆面の奥に、何か、優しいというよりも間抜けそうな女の顔。そしてフラル語……自分が対応する。
「うん、そうだよ!」
「そうなんだ! あ、ベーア人の人達ってどこ?」
「旧市街地の、要塞っぽい街区!」
「ありがとー、あ!?」
あ? やっぱり殺される?
「ぷぷー! そこのお友達、おケツ丸出しっ!」
修道女はマルローの白いおケツを指差して笑い、手押し戦車の砲撃で歪んだ部分を拳でガンガン叩いて直し、再び押して去っていった。
「マルロー!?」
おケツ丸出しマルローは頭の”角”から血を流して倒れていた。治療所かどこかに搬送しないと。
■■■
エーラン地区、歴史地区は寂れていると言って良いだろう。
神聖教会が打倒した古代政権の名残が残る。晒し首にされた古代エーラン帝国の遺跡、遺構。
遺跡を使って半端な家が建っている。接着していない積み石の壁、布や木の板を並べて重石を乗せた屋根など珍しくない。
水道橋も柱が残って橋桁が落ちている。その脇に、管理された新しい水道橋が立ち、以前とは違うと見せつけるように水道管が乗っている。
ここまで砲弾、破片は届かない。敵艦隊、水上都市の砲撃は旧市街地の南側、三分の一ぐらいまでしか届かない様子。
まともな建造物も無く、天神の異教寺を改装した小さな教会はあるが治療所に使うには狭すぎる。
天幕張りの治療所が複数開かれ、天使が率先して治癒の奇跡を用いて負傷者達を治療中で、医療聖職者が手伝う。また今度は集団を作らず、個別に飛び回っては避難に遅れた者、特に怪我で動けなくなった者を抱えて戻ってきている。正に守護者。
マルローは再び意識不明のまま、天使に治癒されて角も外れた。死んではおらず、あの破片が押し込まれたわけではなさそうだったのでまた起き上がると信じたい。
天使達はきっと戦うべきではない。あんな、砲弾でバラバラにされていい存在ではない。
光の方陣が後退してくる。戦う音だけではなく、実際に真横から射してくる太陽とは違う明りが影の形を変えてくるのですぐ分かる。
方陣は”盾の聖域”を正面に分厚く集め、砲弾を何とか防いでいる。無傷ではなく、衝撃や音で僧兵が倒れる。
砲撃はペセトト砲兵の手による。水上都市から下ろされた大砲を引いて、坂を上がり丘の上、交戦距離にまで来た。砲弾が太矢の発射機会を喪失させれば敵の銃兵、投石兵が勢いを盛り返して射撃を始め、絶え間が無い。
杖兵達に顕著なのは赤面、食い縛り、口での深呼吸、顎から垂れる脂汗。奇跡の限界症状は鼻血、嘔吐、失禁、朦朧、発狂を前兆に失神や脱力、心肺停止。
限界に達した杖兵は襟首を掴まれて密集隊形内を引きずられて外までやってくる。
自分と他の兵は新しい仕事を見つけた。杖兵を受け取って後方へ担いで下げる。奇跡の使い過ぎは天使の治癒でもどうにもならないので、角馬を使う修道騎士に預けて聖都外へ避難する一団に混ぜて貰う。少し休憩したぐらいで復活はしない。
教会僧兵達には、敵砲兵への対応策があった。
道無き道、樹木に生垣、建物や壁の上を越して飛び込む有翼軽騎兵隊、敵砲兵に滑空襲撃。即座に砲口を向けられない角度、高さから側面攻撃。騎兵銃を撃って、刀を構えて飛び込んで直接突き刺し、斬り伏せる。
翼馬は気性が荒く、乱戦になると敵に噛みつき、後ろ蹴り、踏みつけが激しい。
銃兵、投石兵への攻撃も順調。劇的に敵砲兵を排除し、有翼軽騎兵隊は勢いに乗って次いで髑髏戦士に突撃を敢行すると無駄だった。どの攻撃も通じず、上げる奇声に翼馬は怯えて乱戦の勢いも失って騎手さえ振り落として逃走。逃げ遅れは捕まって殺されてしまう。相性が悪過ぎた。
光の方陣に髑髏戦士が接近する。
あの化物達の甲冑には太矢でも傷すら付かない。彼等の呪術で尋常ではない強化が施されているのだろう。そのような紋様が刻まれている。理術強化された木製槍が鋼鉄のような強度を発揮したのを見たことがある。不可能ではないと分かる。
”浄化の炎”と”裁きの雷”は髑髏戦士に効いた。中が焼けるのは勿論、水晶甲冑が石のように割れることもある。
杖兵の奇跡は一撃必殺の様相で、接近戦で圧倒的と思いたいが、また追加でやってきた投石兵が、銃では攻撃し辛い位置から投石を仕掛ける。身を守るための”盾の聖域”の展開が忙しくて戦いは直ぐに終わらない。
髑髏戦士は士気を喪失することなく攻撃続行。基本は白兵武器での乱打で、これを防ぐように奇跡を使い続けなければ殺戮されるので”盾の聖域”は維持を強要される。また様々な術も交え、光の盾を突破――高熱、電撃、極低温、洗脳?――し僧兵を徐々に殺しながら、遂に包囲する。
奇跡発動疲労者救助作業に参加していた自分は方陣の中から出られなくなっていた。手元にある武器は小銃から外した銃剣ぐらいで、敵ではなく負傷者の衣服や靴を無理矢理剥すために使う治療器具のような物。
一度離脱した有翼軽騎兵隊は、再度の突撃や、後退して距離を取っての騎兵銃射撃を繰り返して、髑髏戦士以外の多くのペセトト兵を引きつけている。着実に戦果を挙げて方陣の負担をこれでもかなり軽減している。
この騎兵の働きに乗って、フラルの正規兵、市民兵も規律を取り戻して市街戦を展開。髑髏戦士以外とは戦えている。
有角重騎兵隊の突撃なら髑髏戦士を吹き飛ばせるように思えるが、翼馬のような機動性は無く、市街地では道も限られ、避難民をエーラン地区より更に山向こうへ逃がしているので出番は今のところない。
杖兵は倒れ、銃兵が小銃を捨てて杖兵に代わっていく。彼等の顔は様々、神聖教会圏から選り集められた奇跡の才有る者達だ。聖女ヴァルキリカによる剛腕政策の一成果。
エーラン地区守備隊となった者達も、守備兵を最低限に削って出張り、あまり有効では無いが髑髏戦士に戦いを挑む。
小銃はやはり水晶甲冑に通用しない。狙撃手が目に当てると、水晶膜があってひび割れる。二発以上必要。
重小銃、”追い風”加速の太矢射撃は衝撃が強いので頭に当てると、殺せないが一瞬失神させて、脳震盪を起こすこともある。
手榴弾、擲弾銃、携帯砲での攻撃はそれなりに効果がある。即死はほとんど見られないが、身体の一部を破壊出来ている。
歩兵砲、榴弾砲の直撃ではほぼ即死させられる。友軍誤射、方陣に爆風衝撃が至らないように撃つ機会は乏しい。
方陣の外からの射撃は決して無力ではないが、一撃入れた瞬間に髑髏戦士の一部が射撃手に反撃して方陣攻撃に戻るという行動で多くの者が死に、尻込みする。これは、敵の攻撃を一手に引き受けるという方陣の役割を損なっている行動とも言えて、満点の回答ではなかった。
状況の改善は見られない。
遂に有角重騎兵隊が、道の狭さから全力発揮ではないが髑髏戦士に騎兵突撃を敢行。高速超重量の一撃、槍の一撃に大打撃を見舞ったのではないかと思われたが、しかし髑髏戦士の実力は一級で、転んだり吹っ飛んだりしながら直ぐに立ち上がって角馬と修道騎士達を殺して撃退してしまった。
人狼とは違うらしい、人犬という怪物集団を神聖教会は持っているという噂が飛び交い始めるがその姿は無い。別任務?
改善も見られないまま状況は変化。
金属、硝子の共鳴音が遠くから迫る。上下する音域が激しく振幅、複数重なって不快。頭痛がしてくる程。
煌めく何かが陽光で光る。有翼軽騎兵隊、フラル兵がそれに接触し、敵と戦っているとは思えない叫び声をあげて倒れる。市街地に展開した各隊は、長の指示で何か対策するでもなく逃げ散り始めた。規律が崩壊。
何かが方陣に迫る。
”盾の聖域”にくびれた頭、胸、腹の六本足が張り付く。透明な工芸品が動き回る。足音のようなものは無く、素早く、存在感や気配が違う。水晶の蜂。
無数の投石、髑髏戦士の乱打を防ぐ”盾の聖域”は重なり合って隙間が無いように見えるが、あくまで人間大の敵が振り回す武器に対しての隙の無さ。虫が入る隙間はあった。
水晶蜂は僧兵の目を狙って飛びついて混乱させ、錐のような腹を差し入れて絶叫を上げさせる。そして海老のように激しく体の折り曲げを繰り返して侵入。流血間も無く昏倒させ、痙攣させるだけになる。脳が荒らされた。
顔に張り付かれたところで手の平で打撃しても水晶蜂は落ちない。頑丈。
掴んでも手の中に潜り込まれ、あっという間に腕、肩を震わせながら巡り、頭か胸に進んで殺す。
目から脳に潜られたならほぼ即死だが、手足から入られて心臓を刻まれた者は激痛と迫る死の恐怖から恐慌錯乱。ああはなりたくないと士気崩壊が伝播しそうになる。
一人を殺した水晶蜂は、その死体のどこからか肉を破って出て来て、密集隊形らしく見え辛い足元から靴にズボンを破って侵入。足を抱えてのたうち回る者が出る。
翅は比較的脆く、手の平ではなく拳、踵、武器で打撃すれば割れるが、今度は蟻のように這い回って足から入る。
上手く背中を掴み上げても、昆虫とは違う体の柔軟性から後ろ反りに指へ噛み付いて細かく、素早く骨まで切断しながらまた手から侵入。
「盾を密に」
「”盾の聖域”、全方位、防御に集中!」
僧兵指揮官に聖下が指示。光の盾が密になる。
数匹の水晶蜂が侵入している檻の中か、数百と集っている外か。
聖下が”神の見えざる手”のような奇跡で水晶蜂を掴んで、握ったまま揉むようにすると頭、顎、胸、腹、六本足、四枚翅がバラバラになって動かなくなった。そして順次潰し始める。一度要領を掴んでしまえば聖下の御力で対処される。
崩れかけた方陣は再度持ち直された。時間は掛かったが水晶蜂は離脱していった。避難民を襲撃する恐れはあったが、飛び去る方向は水上都市側である。活動限界があったと信じたい。
状況はまた変化。倒れて死んでいる髑髏戦士達の水晶甲冑に赤い水が網目に張り付き始めた。そして血管が張ったようになってから起き上がる。到底、中身が連結していないような状態でも動き出した。甲冑自体が動いているのかもしれない。割れた甲冑でも血管が崩れないよう繋ぎ止めている。
生きている、死んでいる髑髏戦士達が”盾の聖域”を滅多打ち、その端を指で引っ掻いて剥すようにもする。
杖兵の疲労は重なって、倒れる者が続出。例え死んでも時間を稼いだ分、避難民等が聖都の外へ逃げていると思えば無駄ではないが、疲れ切る前に恐怖で戦えなくなる者も多数。
そうこうしている内に小さな隙間が出来たらしい。網目に張ったあの赤い水がそこから内側に噴き込まれた。動く甲冑が崩れ落ちた。
赤い水は根が付いた雑草のような形を取り、葉か棘のような鞭を無数に振るって僧兵を切り裂き、貫通、殺戮開始。この新しい化物に小銃弾が撃ち込まれても抜けるだけだった。聖下が掴んで潰そうにも水を切るだけ。
”盾の聖域”に穴が開き、生ける髑髏戦士がこじ開けて僧兵を滅多打ちにして殺し始める。もう敵わない?
諸共死のうと僧兵が”浄化の炎”で敵味方ごと焼き、次いでと”裁きの雷”が閃光爆裂。
自分は地面に転がっていた。吹っ飛んだと今気づいた。まだ体は動くがまともではない。あちこち焼け焦げて湯気が上がっている。長くない?
”盾の聖域”、光の方陣は完全に崩れた。
あの赤い水は自爆の奇跡で諸共死んだように一瞬見られたが、避難先である焼けた各死体の穴から出てきて纏まり、蛇になって聖下を巻いて捕まえ、薄膜の大翼を広げた。
「異教徒の長よ、心臓を捧げろ」
三百六十年来の敵である我々に意志を伝えるための、流暢なフラル語。
飛び去った。
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ロシエ帝国陸軍士官学校士官候補生連隊
士官候補生インベル・カラドス=レディワイス准尉
オトマク暦一七七三 ~ 一七九二
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