第528話「遂に聖都」 ベルリク
「で、どんなもんだ?」
クセルヤータに跨ったアクファルが航空偵察から戻る。紙に図を描きながら、注釈をつける。
各指揮官級集結。ダーリクも傍らから見る。
聖都がある。北面沿岸部を正面とするなら背後に山。陸路、北から目指せば西側の入り口、南から目指せば東側の入り口に至る。
我が黒軍とその増強戦力は西側入り口に到達しようとしている。聖都を目前にした時、優勢な火力を有していたとしてもその要塞機能から一度足止めを強いられる。
こちらの足が止まった時に山を背に、神聖教会の歩兵と騎兵が攻めかかるという配置で待ち伏せている。しかも、聖都を巻き添えにしない程度には郊外に離れて。
「聖都郊外の軍の、主力歩兵は言うなれば教会式方陣です。儀礼装飾の白服が目立ち、隠れる気がありません。また”長槍と小銃”時代に戻ったような訓練風景が見られました。ロシエの理術式密集隊形を範に取っているのならば奇跡使いの集中運用。汎用奇跡”光の盾”による集中防御が見込まれます。
有角重騎兵と有翼軽騎兵。こちらは体格の良い騎士団系の人員が多いように見られます。突撃の機会を狙う従来の定住騎兵の延長線にあるようです。
訓練風景などから角馬は短距離で高速。体重は農耕馬より上、足は太く頑強。騎手は大柄、重装甲。性質は従順、静謐で勇敢もしくは鈍感。クセルヤータが脅しても動揺しません。
翼馬は従来の馬と比較するのは難しいです。飛行するのではなく翼を広げて滑空するように走ります。悪路で高速ですが足だけでは並か未満。騎手は小柄、軽武装。性質は神経質。脅すと暴走、骨折。
補強戦力として市民兵多数。小銃兵と、補助部隊が見受けられないか少数の組織化率の低い砲兵がいます」
「天使は? 上がって来たか」
「少なくとも視界には入って来ません」
「ベーア軍」
「聖都内にベーアの儀仗兵が確認されます。ロシエの儀仗兵と比較的軽装備の正規軍も確認されます」
結婚式関連の部隊だな。ロシエ正規兵は対魔王軍、ペセトト軍の意味合いもあるだろうし、帝国連邦軍との間に挟まって停戦監視団の役割を果たそうという意志も感じる。
「人狼、聖女」
「少なくとも視界には入って来ません」
潜入工作員は狩られているのか情報の持ち込みが無いな。黒軍だけで突出して情報連絡網から外れてしまっているのも原因だが。
「ジュレンカどうだ?」
「前提として聖都防衛司令官は海上劣勢を自覚しているでしょう。我々の艦隊は制限の無い自由行動が取れて久しいです。
郊外の軍の位置と地形から単独で何か、黒軍を悩ます特別な機動作戦は出来そうにありません。方陣で消極的に近づいてこちらを足止め、騎兵投入機会と、市内から天使投入機会を狙うか、狙っているところを見せて都市攻撃を妨害する以上の行動は無謀な要素が多いように見られます。こちらが防御姿勢の時、海沿い艦砲射程圏内にまで近づいて何かが出来るような戦力だと思えません。
敵には積極的な攻撃の手が無いかもしれません。しかしこれに潜伏する、おそらく強力なベーア皇帝戦力が強い不確定要因となって加わります。それ故に現時点の我々の戦力だけではそのままの聖都へ突入しても勝利は難しいと考えます。市街戦で騎兵優位の相殺、夜戦で人狼兵の有利があります。こちらが積極的な攻撃を仕掛けた場合は失敗の可能性が見えてきます。
失敗するとしても聖皇は市内突入を非常に嫌がっているでしょう。魔王軍、ペセトト軍という次の敵が存在している状態で首都機能を犠牲にする可能性は見過ごせません。聖都の戦いで政府能力を損なえば、今度は政権を奪おうと動いているフラル解放軍に対抗出来なくなります。存在は不確定ですが、幻想生物製造所も失われれば更に落ち目になります。既に権威を天使で補った以上は、もう依存するしかありません。艦砲射撃だけでも避けたいと考えているでしょう。
一番に、住民避難は受け入れがたいのではないでしょうか。壁の外に人々を逃がしたとして、その後誰が良く守るでしょうか? 悪化の一途であろう治安、うろつくペセトト兵、我々のような騎兵。怖ろしい想像ばかりです。
ヴィルキレク皇帝と聖女ヴァルキリカの私的戦力が大元帥閣下に対する斬首作戦を狙っていると、これは閣下の予測です。私もかつての遊牧帝国の失速の例に倣えばこれを有効と考えます。実行するのなら聖都が一番、閣下が誘き寄せられる場所です。趣味嗜好がそうでありまして、あちらに知られておりますし、現にここにいらっしゃいます。皇帝と聖女は聖都決戦を望みます。あらゆる犠牲を覚悟しているでしょう。
聖皇は揺れ動く位置にいるでしょう。ベーアの危機とフラルの危機は別種に変容しています。この意識の差は隙になっています。
今すぐに打てる手としては、見えている郊外の軍に先制攻撃を仕掛けて各個撃破の初段を踏むことです。しかし情勢は悪くなる要素も良くなる要素も孕んでいます。聖皇へ打診済みの降伏案件、”山”を動かすことになるかもしれません」
「そんな感じだな」
大体、自分の考えと同じ。ジュレンカの方が細かいところが見えている。
「ダーリク」
「はい」
「自分より良く考えてくれる人を傍に置くと便利だ」
「はい」
「だが決断するのは指導者だ」
「はい」
「キジズくん」
「大元帥閣下万歳!」
「アリファマ殿から乗馬術士半分借りて教会方陣とやらに一当てしてこい」
「大元帥閣下万々歳!」
キジズくんは駆け出した。アリファマ殿も去る。
「あんな感じの人も傍に置くと便利だ」
「良く考えない人?」
笑いそうになる。堪える者多数。
「迷いの無い人だ」
■■■
馬に跨って白旗を掲げた、枠だけの黒縁眼鏡をかけた女が使者としてやってくる。両脇には先遣隊にやったこちらの斥候騎兵がつく。
「お初にお目にかかります。聖皇聖下の使者としてやって参りましたエマリエ・ダストーリ、リルツォグトです」
えらい疲れた顔をしている。
「お兄様、以前に斥候狩りが見逃したという者です」
「ああ、あの身体がスケベなとかってあの、おっと失礼。ご家族にはいつもお世話になっています。それで?」
「は。親書を」
受け取って広げる。
聖皇より、ルサレヤ総督代理から伝えられた帝国連邦の要求は全て呑んで降伏する、という旨。フラル派遣軍は戦線を離れて帰還中であり、もう抵抗の意志は無い、という。
ここまで弱気を吐いたら付け込まれるだろう、というぐらいに敗北を認めている。ついでにチンポをしゃぶれと言ったらマジでやりそうな勢いだ。
フラル半島を駆け抜けている間にここまで交渉が進んでいたのか。全く、無職には縁が遠いことだな。
さて現在、外ヘラコム軍集団と外トンフォ軍集団、高地管理委員会軍はメノ=グラメリス枢機卿管領を征服し、アロチェ川沿いまで到達してロベセダ王国、上ウルロン枢機卿管領への攻撃に取り掛かっている。
急速に広がる占領地域には手が回らず、フラル解放軍のアデロ=アンベル将軍が”良くして”くれている。ペセトト兵からの襲撃を回避する魔除けになってくれるのだから本当に現地人に取って良いのだろう。
「交渉はペシュチュリアでの?」
「はい。ベルリク閣下と黒軍が近郊を通過していた時で、私が聖都へ早馬を走らせていた時に全裸で命乞いをした時です」
遊牧民でもないのに素っ裸になって走る馬の背に立って、白い下着を振るという曲芸を披露しながら大声で、という話が少し前にあった。感心しちゃう。
「戻ってすぐにここまで来たのか。大変だな」
「流石に、途中で列車に乗りましたが、その、はい」
「聖都にヴィルキレクとヴァルキリカの姉弟がいるだろ?」
「はい、おります。罠と言いますか、待ち合わせでもされているかのような……差し出がましいことを失礼」
「そんな感じだな。俺なら聖都に突っ込んで来るっていう信頼があの二人との間にある」
「聖皇、聖女、皇帝、それぞれ何と伝えましょうか」
「聖皇。黒軍はベルリク=カラバザルの私兵である。聖都占領の意図無し。二人への攻撃の意志有り。大事な手駒は次の戦いに温存することを推奨。二人には特に無し」
「復唱します。黒軍はベルリク=カラバザルの私兵である。聖都占領の意図無し。二人への攻撃の意志有り。大事な手駒は次の戦いに温存することを推奨、ですね」
「そうそう……お、そうだ、これをやる」
懐をまさぐって、ジャーヴァル産で香料添加の葉巻を一箱あげる。エマリエは匂いを嗅いで、一息詰まる。
「ありがとうございます。煙草は目が無くて」
「そいつは咽るぞ」
「願ったりです」
■■■
黒軍騎兵隊の半分、骸騎兵隊、ダーリク分隊、親衛偵察隊、クセルヤータ隊、アリファマのグラストの乗馬術士の半分で地上を先行。
海岸に着岸する水上都市、次々と上陸してくるペセトト兵への応戦に手一杯のフラル軍を脇目に進んだ。その隙に海上輸送と略奪による補給も済ませた。
海上輸送ついでに後方地域の現況を聞くと、フラル解放軍はフラル二大海上国家であるペシュチュリア市とファランキア市を保護したらしい。ますます神聖教会勢力、海から遠ざかって弱体化しつつある。
遂に聖都が見えてきた。以前は海上から見た。今日は地上から見える。
貧しい壁外区。細い水路、漁港。
郊外鉄道操車場付近には、一方的に送られて返されていない機関車を含む鉄道車両が複数放棄されているのが目立つ。ベーア軍の緊急増援か?
壁内、中世の海岸線後退後に埋め立てられた沿岸の屋根色揃えた新市街地。広い水路、大型港湾施設。これらを守る沿岸要塞。
丘の上の旧市街地。教会の尖塔と天蓋が集中。緑の公園、木の枝葉の先が見える。聖オトマク寺院が目立つ。
山麓の旧都、エーラン歴史地区。あると知らないと遠景では木や崖しか見えてこない。
海上優勢により、我々にとって有利な沿岸部で黒軍は待機。
待機中に別行動を取っていたシルヴの黒軍予備隊と合流。彼女達が鹵獲して来た大砲が海上に向けられる。
海上の絶対支配は究極的に困難だと考えられている。セリンとルー姉さんの艦隊が安全に接近出来る準備だ。
「列車砲無かったのか?」
「無かった。出払ってるのね」
「艦砲改造のとかは?」
「もう一回行って来いって?」
「てへっ」
次にセリン艦隊と極東艦隊が護送する船団から、浜辺に”三角頭”の黒軍妖精歩兵、砲兵隊が上陸。バシィール城連隊時代からの古参親衛隊でジジババ妖精が目に付く。
「大元帥閣下」
『おはよーございます!』
筆頭はラシージ、来てくれたか……これは合理的ではないのではないか。
「ああおはよう。ラシージ、あっちの山はどうだ」
「滞りありません。前線司令にナルクス将軍、総司令にニリシュ将軍を充てました。大きな人事でこれ以上必要ありません」
「憂い無いな。ジュレンカ」
「はい」
「ラシージの補佐につけ」
「はい」
戦争の規模が変わって、配置も変わって、今日来てくれた。
セリンはまだ海上。個人的には一緒に突入したいと思うが、状況が許すか?
戦力、武器弾薬集結中。
■■■
使者等をこちらから派遣するまでも無く一名、聖都正門から出て来る。門前まで付き添い多数だったが、拒否する動きが見えた。
誠意の証か、護衛も無く徒歩でやってきたのは聖皇。到着まで少し時間がある。
アクファルに手招き。
「キジズくんに手土産寄越せと伝令出せ。あとはセリン来てないかな? いた方が良い」
「手配します、お兄様」
アクファルにお任せして、葉巻一本出して吸う。ちょっと緊張してきたかもしれない。レミナス八世、下から突き上げる圧力がある。
正装し、冠も被った神聖教会最高指導者は外套の裾を土で汚しながらやってきた。必要なら地べたに這うことも出来る人物だろう。
「レミナス八世、俗名をジョアンリ・オスカーニと申します」
馬上から応対。挑発姿勢で本音でも出ないか揺すってみる。自分が子供っぽいかな。
「お久し振りです。かつて改宗前のヤガロ王ウジェクが聖都くんだりまで略奪遠征に来た時、説得して帰らせた上に聖なる教えまで持ち帰らせたとかいう、伝説のレミナス一世に倣うとかどうです?」
「冗談を言えるほど余裕がありません」
「空から見えていました。特別な騎兵、歩兵、んー、砲兵ではないようで決定力は欠けて、これからもっと訓練しなければなりません。うちの騎兵が一当てしていますが、どうです? ご存じない?」
「……いえ」
「ペシュチュリアとファランキア、フラル解放軍に下ったそうです」
「そうなりましたか」
「聖皇殿、あの戦力は信徒を守るために使うべきでしょう。今はペセトト、魔王軍に対して温存すべきです。フラル解放軍の勢いも強引な統一からの反動が感じられます。そして我々は聖都で戦うつもりですが占領するつもりは毛頭ありません。違いは分かっていただけますか」
「はい」
「旧都、エーラン歴史地区へ退避すれば手は出しません。イスタメルの一件で中々怪しいですが、この約束は守りましょう。たとえヴィルキレク、ヴァルキリカが逃げ込んだとしても」
「非常な自信です」
「聖都で待ち構える彼等と決着をつけます。ここを戦場に選んだのはヴィルキレク、ヴァルキリカ二人とのある種の信頼関係に依っていると言っていいでしょう。また二人にとっては、帝国連邦との戦いを止めたい聖皇殿の戦力を強引に引き出す手法でもあります。戦意の無い者を矢面に立たせる方法としては分かりやすくて確実性が高い。
今の聖皇権力では彼等を追い出せないのでしょうね。切っても切れない縁という言葉はありますが、今日ほど恨めしいと思ったことは、どうですかね。
そして私は、多少不利でも聖都で戦うという事実をこの日に刻む欲求には抗えません。聖都破壊、非常に歴史的に大きい。あなた方が語り繋いでくれると信じています」
「既に並べ立てるだけの様々な”お名前”がありますのに」
「ありましたか?」
「魔神代理領共同体、ジャーヴァルとハザ―サイール両帝国の防衛者。
アルワザン、ジャラマガン、デュルガン首長国とレン朝の庇護者。
妖精種族の救世主、オルフとエグセンとカラミエとタルメシャの革命家。
スラーギィ、ワゾレ、イブラカン、ヤシュート、シャルキク、ヤゴール、フレク、ウラフカ、ラハカ、トシュバル、ユドルム、エルバティア、ウルンダル、チャグル、イラングリ、ムンガル、ラグト、ヘラコム、ハイロウ、カチャ、ボガーヴァリ、ヤカグル、バテイン、ツァンシアン、ヒチャト、ハヤンガイ、ランダン、アインバル、チュリ=アリダスの諸都市、オング、ウラマトイ、ライリャン、ユンハル、シム、ガルハフト、マドルハイ、ガムゲン、ブラツァン、ユロン、ウレンベレ、ハイバルの征服者であり北極圏の開拓者。
アギンダ、アルルガン、フラル、エグセン、オルフ、バルリー、ロシエ、ハイロウ、プラブリー、まつろわぬ遊牧民と天政人民の虐殺者。
帝国連邦初代総統、蒼天の下を統べる遊牧諸族の復天治地明星糾合皇帝、ウルンダル王、バシィールの城主およびイューフェ=シェルコツェークヴァル男爵、黒軍頭領、マトラ国家名誉大元帥。
これ以上を?」
そんな呼び方もあるのか。
「あれらは地道に一つずつ重ねてきたからこそ一息で言えない名となりました。初めの一歩が無ければ私は、ただの降格人事を受けたしがない、無名の一士官でした」
「こちらは全面降伏するというのはお聞きになっていますか、大元帥殿」
「エマリエさんから聞きました。さてここに並ぶ兵士達、黒軍は帝国連邦軍ではなく、このベルリク=カラバザルの私兵。セレード独立戦争に参加し、ベーア破壊戦争に参加し、総統職を辞しても切れない縁で結びついた愛する者達です」
「やはり、私闘だと言われますか」
「あなたの望みと違い、そうですね」
馬から降りて、近くにいた兵に「絨毯広げて適当に茶席作れ」と指示して用意させる。
少し斜面、石ころが感じられ、草が絨毯を押し上げるようなところで座る。聖皇も座る。
「あなたから聖女に命令出来そうには見えませんが、本当に?」
「聖戦軍指揮官の立場はそういうものです。聖女自身の威勢も勿論」
「やっぱりかぁ、そうですか」
用意されたお茶を飲む。神聖教会の指揮系統、影響力、混乱というか混雑している。おそらく実際に、お互いに反発しあうような命令を同時に出し合ってどちらに従うか試してみないと分からないくらいにはなっているだろう。そして試してみる時間は無さそうだ。
「降伏を阻止する動き、聖女からありますか。あるなら助勢という試みもありますが」
「ありません。ご助勢、不要です」
「ごく近しい手勢のみで聖都で待ち伏せを?」
「おそらくその予測に近いでしょう」
忙しい騎馬の足音。風に乗った血の臭い。
「大元帥閣下! お持ちしました!」
「こっちに広げろ」
「はい!」
戻って来たキジズくん、槍に通した生面八枚を「階級高そうなの選んできました!」と言って絨毯脇に並べた。
「目と、奥歯が大体残ってませんが、お知り合いは?」
「皆、名前も知っております」
「キジズくん、一当てしてどうだった?」
「術妨害掛ければ雑魚でしたよ! あるとまあ、面倒臭いですね。毒瓦斯で燻して、疲れたところをやれば妨害無しでいけます。で、こいつ誰です?」
「聖皇。下がって次の準備だ。ご苦労、可愛いぞ」
「はい大元帥閣下万歳!」
大体、他の部隊の練度も分かった。
「都市景観、そんなに大事ですか」
「壁と屋根は文明の象徴です」
聖都の破壊は教会の弱り目を映す。威信の失墜、政府の停止は魔王軍とフラル解放軍とペセトト軍と、ロシエも利するか。ベーアはこれに介入する余裕があるか? ヴァルキリカが本来その役目だが。
アクファルが背の方に、横乗りのセリンを乗せて戻って来た。
セリン、走る馬から飛び降りて走ってくる。顔も足取りも機嫌の良さ最高潮。
飛びつき、抱き着き、頬擦り、胸擦り、腹擦り、股擦り。
「んふふぅ! 約束って約束じゃあないけどさっ、ねっ!?」
聖皇の前で口付け舌吸いされる。
イチャついて見せつけてから、セリンは聖皇を見て指差し言った。
「ペセトト廃帝の都市こっちに来るよう誘導してきたから!」
聖皇、感情を殺していた顔が動く。目が見開き、一度深く唸る。
「信徒を守りたいなら方陣も騎兵も天使も使わなくてはいけないでしょう」
「エーラン地区に退きます。城門、開けるように伝えます」
戦わずに”聖皇軍”を排除する流れは作れた。”聖女軍”にけしかけるところまでいけたら凄かったが、流石に難しかった。
「いえ、怪しい物は全て破壊するのが現代戦です。部屋一つに爆弾一発、家一軒に砲弾五発。天幕暮らしも悪くありませんよ」
「……聖なる神よ、人々を守り給え」
聖皇が指で聖なる種の形に切る。普段どのようにやっているかは知らないが、真摯にやっているように見える。
「アクファル」
「はいお兄様」
「グラスト術士へ、術妨害開始。城壁基部は地津波で崩せ」
「はいお兄様」
「セリン、艦隊は有効射程圏内の建物全てに最低一発の有効弾を撃ち込め。住民避難は待たなくていいが、沿岸要塞の破壊はちょっと掛かるな。人の群れはわざわざ狙わなくていい」
「分かったよ! ああ、あと……」
セリンが「グラストのアリファマに用事あるわ」と言う。
次は……。
「はいブットイマルスはい!」
何故だかいた、労働軍務英雄サニツァ・ブットイマルスが挙手しながら跳ねる。アクファルが露骨に嫌な顔をするが、指名しておく。
「はいブットイマルス」
「はいブットイマルス! ねえ、あなたが聖皇さんなの!? えーっと、握手してください!」
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