第504話「計画後退」 ノヴァッカ
「はい、良い子の皆! 小さい子は前へ、大きいお兄さんとお姉さんは後ろで立ちましょう。皆が見えるようにしましょう」
咳払い一つ。画本を出して横向きに立てる。
これは帝国連邦へ疎開する共和党員児童向けの新しい任務である。
この仕事は顔が怖いと駄目だ。宣伝対象に適した宣伝者を吟味するのは技術である。清貧を説くのに肥えた資本家を選ぶ者はいまい。自分はある種、顔で仕事をしている。
子供達が大体集まって、およそ半円形を作る。視聴二度目、三度目の子供の何人かは隣にくっついて座ってくる。この辺はもうとやかく言う必要は無く、親近感を持たれることも仕事。
「やあ未来の模範的同志達! 私が社会主義お姉さんの……」
『せーの!』
何?
『ノンノちゃん!』
「こらぁ、誰がノンノだ!」
『ぎゃー!』『あきゃきゃきゃ!』
「ノンノー!」
大きいお兄さんお姉さんに混じって指差してきやがる同志メリカ。こんな悪戯仕込んで! 暇人、馬鹿、おたんちん!
「ノノちゃん?」
隣にくっついている小さい子が、ノノじゃないの? と言ってきた……うーん、まあいいか。
手を叩き鳴らして再度注目を集める。
「はーい静粛に! 正しい共和党員は静かに出来ますよー!」
「ノンノ!」
手本になるべき年長のはずの同志メリカがまだふざける。こいつめ!
「こら! あんたが騒がないの!」
「のー」
まだ子供達が笑って騒ぐ。まだ手を叩く。拳銃で空でも撃ってやろうか。
「のー、じゃないの。はいはい、今日も紙芝居の時間ですよ! 一度見た人は出来るだけ見ていない人に前を譲って下さいね。正しい社会主義精神を持っているのならば物資だけではなく情報も共有するものですよ。独占は資本主義、封建主義的な悪です。悪い奴等はやっつけられちゃいますからね」
訓練された者達と違ってまだわちゃわちゃ騒ぐ。
「始めますよ!」
これから話に合わせて一枚ずつ進む。
「今日は”帝国連邦へのお引越し”です。”幼年期から始める労働基礎”と”やさしく素敵な社会主義”は後でやります。”立てよ人民少年兵”は改訂指導が入ったので明後日からになります」
『えー!?』
「皆に適用する義務基準は連邦定住民基準ではなく、定住または遊牧難民等基準とする法が制定されました」
「何それ!」
「明後日から教えます」
「けち」
「その言葉は適当ではありません。出し惜しみではありませんからね。はい進めますよ」
画本を一枚捲る。
「絵下手」「でもかわいいよ?」
「これは強調変形技法です」
「ノンノー」
「ノンノじゃない」
「ノノちゃん!」
「う゛ー。はい、”帝国連邦へのお引越し”です」
「前見たー!」
「見ていない人のためにやっています」
「けちー」
「出し惜しみではありません。はい、皆さんこの路線図を見て、自分がどこにいるか分かるかな?」
エグセン人民共和国、ヤガロ王国、セレード王国、マインベルト王国、帝国連邦極西の主要路線、停車駅が描かれた図を提示。駅ごとに番号が振ってある。
「前に見たよ」
「初めて見る人が当ててみてください」
「それ!」
「何番かな?」
「一!」「四だ!」「えー」「一二三四五六七八九十、はぁ、十一……!」
「はいズルは駄目! 正しい社会主義者は科学的であり、そんないい加減な回答はしません」
袖を引かれて「ノノちゃん二ぃ」と答えを言われる。
「同志ウラースラ、知っていても言ってはいけない時がありますよ」
「だって」
「二だって!」「二、二!」
「仕方ないですね。はい二番です。この街の名前は?」
『ナイツェベルト!』
「正解です」
「簡単だよ! ここだもん!」
「それじゃあ次からは分からない人に教えてあげてくださいね」
「やだー」
「いけません。正しい社会主義者は同志達が知らないことを教え、共に情報を共有するものなのです。教え、教えられ、互いを高め合うものです」
「うー」
「分かるようになってからそうしてあげて下さいね」
「はいはいはーい!」
「はいは一回です」
今、もっとも激しい戦いが行われているキュペリン市から一つ目の主要駅があるここはナイツェベルト市。鉄道が東と南に分岐する点。
カラミエ難民が、東行きに乗れば、主にククラナ大公国内に設置される難民居留地まで。故郷と環境が近いこちらを希望する者が多い。言葉もそこそこ通じて、親戚友人を頼れる者もまた多い。セレード経由で故郷の北カラミエへ帰る、という者もいるようだ。拘束するかはセレード政府の采配次第でこちらから指導出来ない。
南行きに乗ればエグセン中部中央を縦断、ヤガロ経由で帝国連邦開拓地行き。共和党員がほとんどで、ここに集まる少年少女はその家族ということになる。混乱する状況で良い待遇を得ようと”にわか”党員も増えているが、本物にする計画は立っている。
「このナイツェベルト市から、人民共和国の縦断線を真っすぐ南へ行くと、次はどこの国かな?」
「ブ、ブリリリ? エ、レ、リイエ?」
「ブリエーヘイムだよ」
「ぶっぶー。旧ブリェヘム王国はヤガロ王国を構成する一地方になりました。エグセン地方東部にあるヤガロ諸国家が統合され、ヤガロ王国になりました。そしてヤガロ人の故地、ヤゴールの王国と同君連合を築き、今やヤゴール=ヤガロ両王国となりました」
「どういうこと?」
「ヤガロとヤゴールの二つの王国の王様が同じ人物のラガ王様なんですよ」
「どういうこと?」
「二つの国の王様が同じ人なんです。君主が同じで政府が別なんですね」
「うーん?」「どゆこと?」
同君連合の話は難しいか。何で連合王国じゃなくて両王国としたのかという経緯から説明しろと言われたらかなり厳しいかもしれない。というか、何で? 上下関係は無く対等ってことかな? むむむ。
「この話は後にしましょう。ノヴァッカお姉さんも勉強が足りませんでした。今度、そういう機会があったらします」
「今」「今今」「ノンノ」
「今は出来ません。大人でも何でも知っているわけではないんです。ノンノじゃありません。はい、ヤガロ王国に入りました」
懸念。占領下のブランダマウズ東岸部に向かい、運河を渡河した敵軍が突出点を形成している。この鉄道縦断線まで前線から距離はあるが、悠長にしていられる距離感でもない。抵抗が無い状態ならば、騎兵の足だと一日で到着する。
これから拡張するのか、包囲殲滅されるのかでこの南行きの鉄道は使用出来なくなる。そうなると徒歩でマインベルトに入るか、セレード、オルフ経由の鉄道での入国になる。
足弱の少年少女達に徒歩越境は辛いだろう。馬も牛も戦場に動員され、人間が手押しで動かす車両程度では限界がある。
「ヤガロ王国に入ってここ。このヤガロで一番大きい街です。王様が住んで……女王様が住んで、王様はお仕事をするために今いらっしゃる街ですね。ここは何という名前の街でしょうか?」
「分かんなーい」
「聞いたことがあるかもしれません。考えて、思い出してみましょう」
正解はニェルベジツ。ブリェヘムの発音も怪しいとなると、知っていても発音出来ないか?
「ターネン・ネルデン」
「惜しい。それはエグセン名ですね」
「正解でしょ?」
「いいえ。この世界には様々な文化が存在します。そこに住む人々にはそれぞれの言葉があって、伝統があって、誇りがあります。時にはそのように外の人間が付けた名前を押し付けることによって諍いが、不和が生まれることがあります。仲が悪くなってしまうことがあります。ターネン・ネルデンでは”川向うの蛮人の都”という侮辱的な意味になってしまいます。正しい名前を言いましょう」
「分かんないんだもん」
「分からない時は?」
「メメちゃん教えて!」「メーメ!」
「ニェルベジツ!」
同志メリカが仕事をした。
「そう、人に聞きましょう。誰かに聞くことは恥ではありませんよ。はい次は東に行って、お山を登ります。何て言う山かな?」
「バルリー高地!」
「うーん、それは政治的に間違いです。正しい共和党員は政治的に正しい答え方を知っていなくてはなりません。もし間違えると? はいそこのお姉さん!」
一番年長そうなお姉さんを指差す。得手不得手個人差あろうが、女性の方が生存能力に優れる。
「死刑」
「惜しい。帝国連邦では死刑は廃止されています」
「拷問?」
「拷問は非生産的で、特別な任務以外には用いられません。ここは正解を教えましょう。正解は重労働刑です。
これは死にたくなるぐらい働かされる刑です。ずっと山を掘ったり、ずっと森を切り開いたり、ずっと土を掘ったりします。凄く大変だと言われています。
はい、政治的に正しいお山の名前はマトラ山脈です。バルリーではありません。バルリー人は我らが帝国連邦によって滅ぼされました。私の産みの親はバルリー人でしたが、今や存在しません。バルリー高地はありません。真実理解出来なくても構いませんが、この私が言っていることに従ってください。
バルリー高地はありません。マトラ山脈があります。私はバルリー人のお父さんとお母さんがいましたが、今はいませんし懐かしんだり愛していたりもしません。私の新しい父はベルリク=カラバザル総統閣下で、母はジルマリア内務長官で、兄弟姉妹は正しい社会主義者である同志達だけです。そういうことです」
大きいお兄さんお姉さんは完璧ではなくても状況を理解し、認識を改めた表情が窺える。小さい子達は言葉尻を理解したようには見えないが、周囲の感情の変化を感じ取って大人しくなる。物を知らずとも分かるものはあるのだ。
「はい、マトラ山脈を横断しますよ。そうしたら一気に木とか山が無くなってスラーギィの大平原に入ります。今は皆さん、冬ですね。冬のスラーギィはとても寒くて、風が強いです。外に出ると、特にあなた達小さい子達は簡単に死んでしまいますから勝手な行動は慎んで、大人の言うことを良く聞いてください。おっかないくらい怒る人がいるかもしれませんが、それはあなた達に死んで欲しくないからということを忘れないでください。大きいお兄さんお姉さん達も小さい子の面倒をよく見てあげてください。今生きているあなた達が思うより人は直ぐに死んでしまうのです」
百を理解出来なくても、十だけでも分かってくれるように”死ぬ”ことは隠さない。子供が生死を理解しているかどうかと大人は悩むようだが、戦時の今この戦争で親兄弟に親戚友人がばたばた死んで、道端に死体が転がり、手足の無い大人が”砲弾病”で奇行に走っている中で理解していないわけがないだろう。百では無くても。
「そこから砂漠を越えて、大きな川がいっぱい増えて、とても大きな湖が見えてきます。端から端まで全然見えないくらい大きいです。ここが皆が行くジュルサリ海の沿岸部、下ラハカ自治管区です。水やお魚が困らないぐらいあります。カラミエより暖かくて過ごしやすいところですよ。雪はやっぱり降るのでちゃんと雪掻きのお手伝いをしましょう。それからお父さんお母さん達のお仕事はしばらく上手くいかないかもしれないけど、社会主義思想に則った社会保障で教育も、食べる物も住む家もあります。ランマルカの妖精さん達も一緒で、正しい革命精神を教授して、治安も維持してくれます。良い子にしてくれればお友達になってくれます。妖精さん達は一緒に遊ぶととっても楽しいんですよ」
「妖精さんってどんな人?」
「良い子にしてれば優しくて楽しい妖精さん達ですよ」
「悪い子は?」
「それは……」
少し沈黙、溜めて、両腕振り上げる。
「食べられちゃうぞー!」
『きゃー!』
■■■
冬本番。とにかく寒い。
ナイツェベルト市の鉄道駅に停車する鉄道車両群には、かつて軍事郵便で帝国連邦将兵の故郷へ送られていた荷物袋の代わりに、手荷物は膝の上に乗せられる物までと限定された疎開民ばかりが詰められている。子供は出来るだけ膝の上。
カラミエ人の疎開もこれが最終という程には進捗している。カラミエ人向けの紙芝居も最近はしていない。
駅構内では、つい先ほどまで曲りなりにも通用していたカラミエ人民共和国の新紙幣が紙屑と知って、持ち歩いても邪魔なだけと分かり、自棄になってばら撒く者の姿もある。こういうごみを散らかす迷惑な輩は鉄道警察が取り押さえる。
その車両の中には内務省軍の通信隊がまとまって搭乗している。
大規模な後退の流れの中に入ってしまう前に部隊配置が変わる。強靭な通信能力は後退する最前線から必要とされなくなった。
攻め上げる時より通信は簡素化される。人民共和国占領統治に伴う雑多な業務も、今では疎開民の移送と後退計画の準備と実行に移る。
複数の連絡を経て決断が下されてきたような事案も、特別行動隊が超法規的な抹殺措置によってせいぜい紙一枚と署名一筆で済ませられることも増えた。
車両の車窓を見上げ、どこに目的の人物がいるか探す。
「サマー! 同志サマラぁ!」
声を掛けて歩いて回れば、窓際の席に座る隊員の膝に乗り上げた同志サマラが見えた。
何を言おうか、と思った矢先に警笛が鳴る。蒸気機関車の汽笛ではなく、号笛で鳴らすもので、狂ったように鳴らすので嫌でも耳に入って気にかかる。
「駅は一時、特別車両以外の立ち入りを禁止する! 発車する列車は全て発車しろ! それ以外は駅から出ろ! 従わない場合は射殺する!」
鉄道員に警察までもが、特別行動隊の乱入に近い立ち入りに困惑。軍人も疎開民も駅構外へ追い出され始める。奴等が摘発以外で出張るとは珍しい。
「あれ冗談じゃない! はやく、じゃねノヴァッカ!」
「じゃあねサマラ!」
一言交わせただけでも運が良い。
走って、人の流れに沿って外に出る。
去り際、振り返れば特別行動隊が全身を覆う防護服を着用する姿が見られた。列車が急ぎで出ていく中、窓の無い有蓋車両を牽く列車が入ってきて停車。書類上では知っていたが、実物は初めて見た。
「ちゅーちゅー、僕悪いネズミじゃないよー」
「きぃゅーきぃゅー、私も悪い地栗鼠じゃないよー」
と、列車から降りてきた妖精兵が言っていた。
生物兵器を運用する疫病部隊だ。
■■■
熾烈な市街戦が繰り広げられているキュペリン市が主抵抗点。後退計画に基づき、敵軍にはマウズ川上流部の渡河を許している。
エグセン第二人民軍が前衛に立つ。その後方でカラミエ人民軍が督戦を務め、容赦無く駆り立てる。カラミエ人民兵によるエグセン人民兵への過剰な殺害、暴行事件が発生しているので憲兵が間に立たなければいけないくらいは容赦が無い。
容赦の無さには原因がある。ベーア統一戦争時に南カラミエのナクスィキル公国などで民族対立が激化したからだ。この激化を煽ったのは当時の総統閣下である。北カラミエ出身のヤズ元帥はこの感覚が分かっていないようだ。
個人指導不要と判断されたヤズ元帥の担当から自分が外れる際に”今度からは、カラミエ人民軍は最前列ではなくエグセン人民軍を監督して頂きます。これはあなた方が苦労して手に入れた権利ですよ”と言っても腑に落ちていなかった。
多角的分断統率術は上から下へと憎悪と暴力が流れる。被虐から加虐へ転化する。もうカラミエ人民軍は”強調変形”してしまって元には戻れない。分かっているだろうか?
更に後方には新大陸義勇軍、ザカルジン軍が配置される。予備兵力で予備督戦隊。
現状に到達するまでに激しい戦闘を続けていた外マトラ軍集団は解散。ラシージ元帥がこの戦域を統括。
以上の軍はラシージ軍集団としてまとめられた。
他に目立ったベーア帝国軍の行動として、イラングリ、ラグト右翼方面軍の接線を切り裂く形で突出点を形成したこと。エグセン人民共和国の脊椎部、主幹の鉄道縦断線にはまだ到達していないが、概算最小で、列車砲を含めて二千門以上の大砲の集中運用が見られていて単純に強力。予断ならない。
その突出点は、
北はイラングリ方面軍、
北東は短期再編を終了したユドルム方面軍、
東は刷新再編されたエグセン第一人民軍、
南はラグト右翼方面軍、
によって包囲されている。
疎開民達に短期教育を行った身としては、まずは鉄道縦断線までの強烈な敵の突出を防いで欲しい。
未来の同志達は大切な革命勝利資源なのだ。
■■■
カラミエスコ山中に潜伏した特殊部隊によるマウズ川、今期最後の計画洪水が実施された。水は少なめだが、砕けた氷が土石流のように流れることだろう。これで敵の後方連絡線が一時途切れたことを合図にラシージ軍集団は後退。キュペリン、ナイツェベルト市は放棄。計画後退基準通り、完全に破壊された。
自分は各後退予定地域で行う、工程表作成と処置指導する仕事に参加した。派遣先の部隊では連絡役を任される。
ナイツェベルト市を出発後、同志メリカとは別れて――ザモイラ術士はいつの間にかどこかに派遣される――マインベルト国境沿いに到着。
まずは国境警備中のマインベルト軍とランマルカ軍に挨拶。エグセン語とランマルカ語を使用。外性器、内性器の部位、動作を連呼するハッド妖精相手では意訳に苦労。そのために派遣されてきた。
こちらの計画後退予定地域図と、あちらが持つ国境地帯図を比較し、破壊して良いところ悪いところを再確認。
国境を横断する森林河川への破壊汚染は勿論厳禁で、そのことを考慮し、必要なら調整する。ここは基本的にマインベルト側の要求を受け入れる形になる。そこであちらが再調査で判明させた横断森林河川を対象から外す。
挨拶しに行っている間に担当地域に残っている住民に対する疎開最終警告が内務省軍によって行われ、従った疎開民を協定通りにマインベルト側へ引き渡す。
随時、他後退予定地域から疎開集団と、その集団の到来を告げる伝令が先行してひっきり無しにやってきては、マインベルト側に報告と引き渡しを逐次行う。
ある程度、大きな人数になるまで溜めて手続きをした方が楽だがここは戦場の、後方地域とはいえ戦火は間近。大勢の疎開民を勾留することも難しいので、順次手早く引き渡し、こちらの負担をマインベルトに肩代わりして貰う。
ラシージ軍集団の後退に伴い、ムンガル方面軍に所属する騎兵連隊がこの地域にやって来た。後退する道すがらの焦土化作業だ。
そしてラシージ軍集団と、まだ後からやってくる疎開民の移動を考慮した計画後退を指示する。全て殺して不具にして奪って破壊して汚染しまくれば良し、ではない。全て計画的に行われる。友軍に被害、遅延を出さないよう、段階を踏むのだ。
今回の、第一段階の場合はこう計画基準が置かれる。
食糧、種籾種芋に種苗等は疎開民に分担して持たせるように集積。
疎開拒否者は疎開経路から遠い位置で抹殺。後に汚染で使うので、積雪で隠れないよう指定する建物に集めて監視員を置く。
横断森林河川はマインベルトと接続しているので手をつけない。
果樹園の一部は横断森林に延焼しないよう、伐採するか枝を落とす。幹が太い場合は深い切れ込みを入れて石油を流し込む。
建物は延焼のおそれが無い建物を焼き、尚且つ監視員を置く。
森林に近い建物は柱を折ってから縄を使い、馬等で一斉に引き倒す。解体した後は、焼いている、延焼予防がされた建物に放って焼却。
井戸は取水以外で手をつけずに汚染しない。
地雷や爆弾は設置しない。
指定位置には防御工事が予定されているので瓦礫等を放置しない。
「周辺地域の第一処置計画図です」
建物の形、畑、河川森林配置とマインベルトとの国境形まで詳細に記入した土地台帳付属地図を元に作成した、第一処置行動が記入された計画図の写しをムンガルの騎兵連隊長に渡す。両手をやや広げないと平らにならないくらいに大きい。
「第二は?」
「第一の進捗と前線の動向で決まります」
第二段階は橋梁破壊、水源汚染、地雷設置、生物攻撃、冊子残置などと敵軍を迎える処置が主である。今すべきことではない。
「エグセン人は人夫に使えねぇのか。お前、イスィで連中かき集めて使ってた可愛い子ちゃんだって聞いてるぞ」
「疎開優先です。長期滞在は避けて予測不能の行動を抑制します」
「今更じゃねぇか……これ、国境跨いだ焼き討ちが面倒くせぇな。ここ、ここ、ここにここ。はあ、休みてぇよ」
「連戦お疲れ様です。国境ですから慎重にお願いします。最近は降雪が落ち着いてかなり乾燥してますから延焼に気を付けてください。露出した落ち葉に注意です」
「延焼したら?」
「消火です」
「あっちまで広がったら?」
「消火してから一緒に謝りに行きましょう」
「ガキが責任取る気になってんじゃねぇよ」
頭を掴まれ髪をくしゃくしゃにされる。
「むう、私は士官ですよ」
「知るか、幾つだ、股の毛揃ってんのかよ」
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