第486話「黒軍予備隊」 ベルリク
本作戦開始前における第二戦線の軍配備状況。
ニリシュ司令率いる外ユドルム軍集団二十万弱。撤退を決め込んだベーア軍との戦闘では損害微少。
基本配置として、
ユドルム方面軍。南カラミエ地方担当。
ムンガル方面軍。バールファー地域担当。
イラングリ方面軍。ブランダマウズ地域担当。
ラグト右翼方面軍。リビス=マウズ運河北部担当。
ラグト左翼方面軍。リビス=マウズ運河南部担当。
水上騎兵中央軍。モルル、リビス川合流地点近辺。内マトラ軍集団とはここから接続。
本作戦に備えて、
南カラミエ地方へ訓練を修了した第一、第二期生で構成したヤガロ軍六万を派遣。
主攻面のバールファー地域には外マトラ軍集団七万を派遣。十万を割ったのは損耗と沿モルル臨時集団の解散で数が減っている。更にグラスト魔術戦団、更に各軍から抽出した砲火力八百門を増強してここだけで千四百門に達する。
バールファー地域侵攻能力を強化するためエグセン人民軍を配置。内容は民兵、士気の怪しい旧ベーア兵、選抜編制された革命防衛隊という陣容で一線級の部隊と見てはいけない。教導団が訓練中の新正規兵は予備兵力扱いになってはいる。
これから第二戦線を動かす。第一戦線は”停戦約束”につき期間内、相手が動かない限り攻撃しない。
本作戦の攻撃目標はマウズ川北部、西岸側に配置されているカラミエ軍集団の攻撃。地形的に包囲殲滅の見込みがある。もちろん、完全十割ではなく八割、七割程度かな?
各方面軍、最前線へのベーア式軍事鉄道の敷設は完了済み。既存鉄道は修復済み。ヤガロ、エグセンにセレード、オルフ、マインベルトの機材、技師で良く稼働している。鉄道設備全てを破壊してベーア軍民が撤退していくと思っていたが破壊工作の暇は無かったようだ。電信設備を叩き壊されていたのが痛い程度で、手直し程度で再利用出来ている。
エグセン中部とヤガロの寝返りで大体、ベーア一億をベーア八千万以下ぐらいにはした。状況が固定出来るならこれで満足しても、数年前までなら良かった。
ベーア軍は常備軍と予備役招集分で、開戦初頭は兵力二百五十万程度を数えたと見られる。
こちらの攻撃が始まって中部軍十万以上、ヤガロ寝返りで二十万以上、セレード独立戦争を含む諸戦闘で十万程度削って二百万強ぐらいにまで減少したと見込まれている。
これはまだまだ先が長い。あちらはまだ総力発揮に遠い。
ベーア帝国は西方国境にまだ多くの兵力を割いている。あれらは無傷でしかも最精鋭の類と思われる。
帝国連邦とロシエ帝国による東西分割を疑っていると見られる。疑いの種は幾つかある。
昔。第二次西方遠征時には後に宰相となるポーリ・ネーネトとの会談で、こちらは見返りも無く引き上げた。
最近。ロシエとは一応の友好関係にあるユバールが、エデルト浸透作戦時に我が黒軍の脱出を強力に手引きした。
今回。シュラージュ姫の略奪婚案件では、関係者からすれば聖王親衛隊の行動がにおい立った。
ヴィルキレクがもう少し小心者だったら人間不信のご病気に罹ってもおかしくない。
戦争が始まって以降、懸念というのは幾らでもあるが目立った案件がある。ベーア軍部隊にはほとんど術士が配備されていないことだ。多い少ないより、いないが不気味。
グラスト、ザモイラ術士達が戦闘支援の術妨害のために、その術応用の術士捜索術を行っていたのだが感知してもごくわずかで、当人当局が才能に気付かず放置していた程度の人数しか感知出来ていないという報告が上がっている。
術の才能がある者は、神聖教会が赤子に行う洗礼式の時から折を見て探して高待遇で迎え入れる伝統があるので人口に対して”野良”が少ないことは承知している。
エデルトで、特にシルヴがそうだったが術使いを発見して教育する手法は古くから確立されているので才能ある者をベーア軍が無視しているわけがない。
少なくとも我が帝国連邦軍のように、定型魔術を使う術工兵として全部隊に満遍なく配置していないことは確実。
昔のエデルト軍なら戦闘部隊に多様性を持たせようと術士を分散配置していたがもう違う。龍朝天政軍のような才能微弱でも大勢が使える符術の類も、勿論見当たらない。
ここで推測されるのは術使いの集中運用。それが戦闘部隊なのか補助部隊なのかは分からない。
情報部からは、神聖教会が才能ある者を回収する手法から分け前をベーアが貰っていてもおかしくないが、個々の人の流れは通常通りで特異点は把握できていないと報告がある。
極光修羅信仰や真の人狼関連の行動はかなり閉鎖的な枠組みで行われているので把握できていない。最近は文字通りに鼻が利く人狼が関連しているので尚更隙が無く、どうやらエデルト湾の島内や孤立した山中に、何かはあるけど何があるかは分からない施設で、何かがある可能性が大という情報部の報告。
もうちょっとなぁ。
奥の手、切り札となる特殊部隊としていつか現れるのか?
不思議の幻想生物関連の人材、材料? に消費して世間から隔絶されてしまっている可能性も無いことは無い。魔族の種があって、新大陸には獣の神とティトルワピリの泉とかいうのがあるという話で、神聖教会に何か変な物があってもおかしくない。現に角馬、翼馬、人狼に天使と世界に異変が起こったような存在が近年になって運用されている。
「労働ぢからは革命ぢから、掘れば勝利の泉湧く! あのねカララババさん! アリリンがね、呪術のがうん、だって! 親分さんがね、穴と缶が良し、だって! それでねっ! この氷土鋸がね、穴作ってからすっごいゴリゴリの……!」
バールファー公国臨時首都レッセル市が、厳冬期に比べれば薄く氷結したマウズ川の対岸に見える位置に自分は今いる。主攻面に参加するためだ。
敵の陣地が見える。こちらの陣地も大量の兵士と大砲があるとは思えないぐらいに掩蔽壕に隠されている。寒いからというのは一つある。
作戦開始に伴って仕掛けが色々されており、何やら手柄か状況を「それでね!」「あのね!」と一生懸命嬉しそうに捲し立てる労働英雄サニツァ・ブットイマルスが出て来た地下坑道はその一つ。
「アクファル」
「嫌です、はいお兄様」
何かもっと話したがっているサニツァの喉をアクファルが掴んで「ぐぼげー!」と鳴かせて引っ張っていく。彼女はダカス山での計画洪水事業からこちらに回されて来た。
続いてラシージにアリファマが坑道から出て来る。責任者が仕上がりを確かめてきたわけだ。
「ラシージ」
「はい。川越しの地下大規模破壊呪術によるレッセル市破壊準備完了しました。呪術刻印施工氷上に塩素瓦斯缶を設置。爆破時の混乱と合わせれば高い殺傷効果が見込めます」
「よし」
ラシージの顔に土が少しついているので手拭いで拭う。大分歳もいったはずなのにまだモチモチしている。更によし。
「アリファマ殿からはあります?」
しゃがんだアリファマは坑道出口まで通る氷張りの溝に刻まれた呪術刻印の導線を確認中。仕事中に話しかけるのは悪いことだ。
確認中。この導線始点の刻印は中々複雑に見える。だからと言って効果が複雑とは限らないらしい。
確認中。門外漢も良いところなので何か、これについて意見、感想述べるところではない。胎の中が魔族なだけで身体は魔族ではないせいか、それなりに老けてきてるな。
確認中。時間掛かりますかね。
確認中。アクファルが氷土鋸とやらの腹でサニツァの頭を何度も叩く。しなる刃がゴワワンと鳴って面白いには面白い。
「振り回したら危ないよ! 怪我しちゃうよ!」
何だかなぁ。
確認中。ラシージは不動でアリファマの動かない手元を見ている。指揮官の前に職人って感じに見えるなこの二人は。
「通ります」
アリファマが工事完了を告げる。瓦斯缶を設置しても呪術刻印には力? が通って無事発動するということ。
「楽しみです」
■■■
作戦第一段階。
マウズ川の川底より下に通した坑道で大規模爆破呪術が発動される。
これまでこの工事に対して妨害が無かったことから、ベーア軍は我々がアレオンでやったことを勉強していなかったと証明される。ラシージ、アリファマ、サニツァと帝国連邦、いや世界随一の”仕事人”が高速で察知される前に仕上げたということもあるだろう。だが対応出来ていないというのはそういうことだ。
改めてこちら側の全兵士には掩蔽壕へ退避せよ、と命令が出て回る。防毒覆面の着用も「化学戦用意!」と号令が入る。
アリファマが右手にゴツい小手を付けて導線始点に手を触れ、小さな爆発に弾かれる。そして直ぐに近くの掩蔽壕に転がり込んだ。導線術の発明前は信管代わりに術士が一人犠牲になっていたのも昔。
地面が底から酷く何かに叩かれた感覚。
次の瞬間、レッセル市の構造物が膨らんで埃の雲をまとって空を舞い、天を目指して伸びる。塩素瓦斯の色味がかかって少し奇天烈。
風切り音を鳴らして細かな破片が銃弾のように飛んで周囲に着弾。こちらまで来た。
川底坑道から爆風が溢れて水を泥に変えながらマウズ川の氷を噴き上げて砕く。
弾ける空気が白い天蓋を作って膨らんで軽いものから弾き飛ばし、上がった泥水をまき散らす。
突風が積雪を地吹雪に変えてこちらに到着、風に叩かれる。
埃の中の可燃物や火薬と火種が偶然合わさって爆炎が空で上がる。あの術自体は火炎を上げない。
遅れて人間と建物と地面諸々の破片が降り注ぐ。こちらにまで来た。
埃臭くて内臓臭いし、油のにおいも土のにおいもあって、飯の匂いも香水の匂いまでする。笑える。楽しんだので防毒覆面を被る。
これは陣地の破壊というよりは指揮系統の破壊。司令部、電信、道路網の中核を破壊して対応能力を失わせることが目的。
更に遅れて対岸から毒瓦斯警報の笛が鳴る。音の具合から爆心地より遠くない。根性入ってるな。
化学と術の融合。組み合わせて悪いことなど無い。
この爆発を合図に、同時刻。第二戦線のムンガル、ユドルム方面軍以外は陽動攻撃を開始。敵戦力を拘束する。
陽動には大量の化学砲弾が使われる。具体的には敵陣地へ塩素剤に加え、大量運用が控えられてきた糜爛剤砲弾を大量投射。化学火傷を起こす糜爛剤は負傷効率が高く、特別に対策がされた防護服が無ければ防げず、行動不能状態にしやすい。負傷から復帰するまでの期間、敵は兵力不足を体験する。
更に同時刻。約一千四百門の迫撃砲、臼砲、野戦砲、攻城砲により要衝レッセル市を中心とする市街地、塹壕線、堡塁へ砲撃開始。敵砲兵の射程圏内ながら、掩蔽壕に隠されていた大砲から順に、後方地域から前進して来た砲兵が火力発揮。都市片の落下では凝固土で補強した堡塁は容易に破壊出来ない。
また地面と空気が、雨と言わず雪崩のように震える弾幕射撃が始まる。ここまで大砲が集中して使われた場面には立ち会ったことがない。口を耳元に寄せても声が届くかどうかという程。砲声が重なり合って途切れが無い。
敵陣地が耕されて引っ繰り返る。これは時間を掛けて行われる。破壊が観測証明されるまで二日、三日?
ベーア軍、龍朝天政軍のような大軍を相手に人口が少ない我々は、人の数に対して大量の獣と砲を運用することで数の差を埋める。
お前等に春季反転攻勢なんてさせるかアホめ。
休戦ってのはヤガロ限定だ。交渉したあの時、ちょっと独り言が多かったかもしれんがな!
■■■
作戦第二段階。
大規模爆破呪術発動地点であるレッセル市正面を優先して渡河地点作成準備に術工兵が入る。グラスト術士が手伝う。
弾幕射撃で敵軍を抑える中、念入りに術妨害部隊も待機。”感”無し。
対岸からの妨害を細かく防ぐために小船で黒軍歩兵が渡る。敵兵の迎撃射撃が兵と船を撃つ。
迎撃射撃で位置が割れた敵へ直接照準で砲兵射撃。
渡河作業の妨害要因が減るまで兵士が渡り続け、一定の橋頭堡が確保されて、妨害の防止が出来るようになってから”氷結”橋作成作業に入る。
定型魔術の”凍結”で表面を凍らせて板橋程度の物を作り、”送風”で板橋の上へ水を送ってまた”氷結”し積層的に高く盛って厚くしていく。強度試験に合格してから黒軍騎兵が渡る。
これは爆破前に作っても震動で砕けるだけ。氷河のように川底まで凍らせたら更に酷い。氷の流砂のようになった場合は復旧が困難。
渡河先頭は黒軍。まずは崩壊したレッセル市を突破する。制圧ではない。
黒軍が通過するなかで”氷結”橋が補強されていく。
橋脚を作るための作業空間の作成、橋脚橋桁橋板に定型魔術”加熱”で穴を開けて鉄骨、鉄板を挿入して強度向上。
作業がしやすいように川底へ定型魔術”掘削”を用いて浚渫。水中に定型魔術”盛土”で堤防を作って川の内で水位、流水速度を変えて工事を容易にして環境を整え続ける。
重量物を通せるようになってから砲兵が通る。毛象が牽くと早い。
そして徐々に氷から鉄骨へと組み替えていって鉄橋とし、橋の真ん中に線路を敷いて手押し、馬牽きの軽便鉄道を作って重砲機材まで通せるようになる。
工学と魔術の合わせ技。それ単品でありがたがっている奴等には出来ない。
黒軍騎兵はレッセル市内を横断。瓦礫と死体だらけで、馬に怪我防止の靴を履かせなかったら全損耗しそうなくらいに足場が悪い。
市内ではわずかな生存者が、呻いたり泣いて死に損ないであると主張をするか、小銃を構えて最期の抵抗を試みる。負傷と混乱と塩素瓦斯で大抵の敵兵は抵抗する体力も気力も無いが、根性がある者は結構いる。
こちらは荷物を片側に寄せた馬を盾に進みながら小銃射撃、擲弾矢投射、手榴弾投擲を繰り返しながら真っすぐ進む。
抵抗が激しい時は機関銃を回してくる。脇道、小路をそれで長時間封鎖しないといけなくなることもある。
瓦礫を集めた即席拠点や、大規模爆破でまだ立ったままの要塞化した建物が複数見られる。突入して白兵戦で済めば簡単、時に騎兵砲を展開して直接射撃。大規模爆破でガタが来ている建物は柱の折れたボロ屋のように倒壊してゴミと埃を砂嵐のように巻き上げるので呼吸が辛い。
自分に機関銃の銃口が廃屋の中、窓から向いていて、おやっ、と思ったことがあったが、粉塵やゴミでも機関部に詰まっていたせいか作動不良で動かず。拳銃で悪運が尽きたそのベーア兵の頭に穴を開けた。おしいなぁ。
黒軍騎兵の次は歩兵。砲兵を通すために通路を整理しながら進む。彼等もまた脇道には反れないで横断突破の動きだけに専念。
レッセル市内全域を制圧に掛かるのは、更にその後から渡河してくるマトラ低地方面軍、聖シュテッフ突撃団、イスタメル傭兵団。隅々まで捜索撃破する作業には人手がいる。
素早くこのレッセル市を手中にしなければならない。攻城戦から素早く要塞防衛戦に転換しなければベーアの大軍が行う奪還作戦に抗えない。
この時点でユドルム方面軍とヤガロ軍はカラミエ軍集団の動きを止めるために、渡河を企図した損害を享受する攻勢を開始している。
水源地に近いマウズ川、山岳部は川幅が狭い。あの辺りではもう、互いに川を越えた激しい戦いが始まっているだろう。彼等が疲れ切る前に決勝点まで運ばなければ。
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作戦第三段階。
千四百門の射撃で沿岸塹壕線の麻痺状態を確認次第、レッセル市正面以外の各渡河予定地点で術工兵が”氷結”橋からの鉄橋転換を目指す架橋開始。控えていたムンガル方面軍も攻勢を開始。
大規模爆破呪術の川底越えの工事は困難なもので、ムンガル方面軍の攻勢に合わせた各地の発破は小規模で限定的。塩素剤を混ぜているので効果的と信じたい。
良く訓練して大量の砲撃支援があるとはいえ一個方面軍四万名の戦力では限界があるので、後続部隊としてエグセン人民軍が入る。革命精神に忠誠を誓う少数精鋭の革命防衛隊が督戦出来る程度の部隊しか投入出来ないので、やはり完全に信頼は出来ない。
素早くレッセル市圏内を脱した黒軍は、エグセンと南カラミエ人居住地域を南北で大体分ける基準となるイスィ山地東部に存在する要塞陣地へ進み、攻略の下準備に入る。
騎兵機動で、山地各部にある要塞を砲撃するために丁度良い地点を確保しに向かう。
要塞は無限に建築出来ない。規模に制限、数に終わりがあって必ず攻撃しやすい外郭、”端”がある。まずはその端に見当を付けるのだが、その端を守るように、戦時には臨時で造られた野戦陣地が存在する、こともある。
”丁度良い地点”が無人であれば、ただ旗を立てて終わり。
見張り小屋が一件ぽつんとあれば、銃撃矢掛けで敵兵を追い出すだけで済む。
土嚢を積んで塹壕が掘られていれば、火箭、騎兵砲を揃えて砲撃してから犠牲覚悟で突撃隊を投入して白兵戦に移行しなければならない。
要塞砲の有効射程圏内に確保すべき地点があれば、離れた地点から目をつけて砲兵を待つしかない。そういう予定で行動している。
「騎兵突撃でさっと片づけたいが……」
「やってやりますよ!」
時間が掛かっていると思ってちょっと不満を口にしてしまったら近くにいたキジズが叫んだ。指揮官が煽動するとは、再教育してやらんとならんか?
キジズの声に連鎖して騒ぎ始める。こいつらなら犠牲無視してやりそうだが、そんな馬鹿なことに構う必要はない。
「はーいはーい!」
要塞攻略用に派遣されてきた労働英雄サニツァが手を上げてぴょんぴょん跳ねる。騎兵達は「お、姐さんだ!」「サニャーキ姐さんにお任せ!」「ブットイマルス!」とか騒ぐ。
サニツァは何故か奴等に人気がある。一部、特にプラヌール兵など見ただけで跪いて拝む。
「サニャーキにお任せだよ!」
「一応聞くが採用するとは限らんぞ」
「うんとね、私がね、逃げて来た女の人の感じで夜にごめんくださいして、中でギッタンギタンにするの。ゼっくんには頑張れって言われてるんだよ!」
顔を見る。にへら、と笑う顔は間抜けにしか見えない。二十年以上修羅場で活躍してきた奴がこんな顔を出来るのは才能だが。
その英雄の陰に寄り添うようにいる妖精に声を掛ける。確か、サニャーキの専門家? とかいう変な役職だと聞いた覚えが。
「専門家の意見は」
「は。黒軍砲兵の到着に遅れがあって、計画遂行に支障が出る状況ならやるべきかと思います。そのような緊急案件が無ければ特命作業員サニツァ・ブットイマルスの力は温存すべきです。無限に稼働しません」
「そうだな……」
さて、現在騎兵の後に続いている歩兵、砲兵に遅れはあるか? そんな連絡は無い。
「要塞群攻略中に、砲兵がいても困難な要塞があったら考える。腹案として持っておく」
「でもサニャーキにお任せだよ!」
強情張りそうだなぁ、と見ていたらアクファルがその前歯を摘まんで抜いた。冗談にしてもキツいと思ったら出血も無く、差し歯らしい。
「あっやだ!? 歯っ欠けサニャーキになっちゃうよ!」
アクファルが差し歯を持って後ずさり、サニツァの誘因に成功。
「返して―!」
■■■
レッセル市に設置した司令部を失ったとはいえ、カラミエ群集団の末端が独自に対応し始めるぐらいの時間は経った。
軍集団司令のヤズ公子だが、爆破の規模が凄まじいせいで遺体の確認のしようも無く生死不明。末端の兵士に住民までがその動向を把握していることもなく、生存者を尋問しても所在ははっきりしない。
敵カラミエ軍集団の南半分、バールファー配置戦力に対して外マトラ軍集団、ムンガル方面軍が増強砲兵の支援もあって優勢。すぐさま撃破出来る程ではないが反撃に移るだけの余力は奪っている。
更に南にいる敵マウズ軍集団は、多少イラングリ方面軍が抑えるも決定的ではなく、徐々に応援部隊を作成してバールファーへ派遣してきている。優勢が覆る可能性は時間を経るごとに高まる。
カラミエ軍集団の北半分とはユドルム方面軍が山岳部で激しい戦闘を展開中と報告。平野部ではヤガロ軍がいつでも渡河作戦を実行する構えで攻撃し、油断させていない状況。手が入らなければ膠着。
作戦第四段階。
この戦場の南北結節点となるイスィ山地は黒軍砲兵が先鞭をつけつつ、増強砲兵の支援を得て南側から順次破壊、歩兵突撃による攻略を繰り返している最中。難所は術工兵、グラスト術士、サニツァ等が高速坑道掘りからの地雷爆破で対応。
要塞の数と具体的な出来栄えだが、ベーア統一戦争時にこの辺りを国外軍として荒らして回った結果か国境地帯ではないにもかかわらず、主要堡塁は全て鉄筋凝固土造りで金がかかっている。
鉄筋凝固土の堡塁はとにかく固い。ただの榴弾では上滑りしているんじゃないかというぐらいに通用せず、大口径攻城砲の遅延信管付きの徹甲榴弾でもないと砕けない。それか煙幕、毒瓦斯の雲に沈めてから突撃兵が接近して火炎放射器で直接焼くか。
敵の大砲による反撃は、山の上から下のこちらへ撃ち下してくる形なので大体は工夫が無いと劣勢。岩肌に砲弾がぶつかると榴弾でも榴散弾化して油断していると大量の死傷者が出る。一発で一個中隊全滅ということもあった。
工夫その一。山の上から更に上げられる観測気球に対し、早速輸入したユバール製の高射砲で撃墜。砲弾が命中した気嚢が萎んで、空気を温める燃焼機械と接触して炎上する中、乗員が湖にでも飛び込むように籠の縁に足を掛けて跳び、クルっと回って姿勢制御してから落下傘を開いた姿が見れた。ちょっと感心。
工夫その二。竜跨兵を使って徒歩では高速展開出来ない位置にグラスト術士など精鋭を送り込んでから堡塁の射界外から襲撃。”火の鳥”による焼討が有効。少数だと敵部隊の攻撃に弱いので、襲撃地点周辺に対して弾幕射撃を行って砲弾の防壁で守る。
工夫その三。敵の要塞間の道路は尾根、谷、崖伝い。我々が再利用することは一先ず先に置いて、敵の増援が見込まれる場合は砲撃で地形を崩して妨害。定型魔術があれば大体、高速で修復出来る。
この要塞群守備隊の数は、機動的に反撃して来る程ではないが少なくない。余裕を見て”北半分”から援軍が回され、後方連絡線から予備兵力が大量に投入されるとなると状況は一変するだろう。攻略はのんびりしていられない。
予定通りなら”別動隊”による通行妨害が行われているはずだが、完全封鎖ではないだろう。
イスィ山地の奪取も、増援が無ければ順調というところまで進んで来ている。既に、南側を見下ろしてレッセル市防衛に砲兵が参加出来るところまでは進んだ。
もう少しで山頂周辺を取れるので、今度は山地北側を上から撃ち下すことが出来るようになってくる。
そして山地北側まで奪取したら、カラミエ軍集団の北半分に有効な砲撃を加えることが可能になる。
他所からの戦況報告。
ムンガル方面軍は一度広げた戦線を整理、一部縮小し、外マトラ軍集団が確保したレッセル市とその周辺部を要塞化して南から反攻を試みるマウズ軍集団の分遣隊と戦闘開始。
エグセン軍はムンガル方面軍の支援をしつつ、ある程度見せかけだけでもマウズ川東岸の防衛戦力として配置。この隙に東岸を取られたら、やりようはあるが面倒。
外マトラ軍集団はイスィ山地へ移動し、カラミエ軍集団の北半分へ攻撃を仕掛けるため、黒軍と順次配置を転換。
ここにきてようやく第二戦線での戦闘開始を受け、第一戦線では停戦期間終了前にベーア軍側から攻撃が始まったと連絡が来た。約束破りの抗議声明はルサレヤ先生に任せよう。
それから朗報。対立ブリェヘム戦終了と一時停戦で余力を得た内マトラ軍集団のワゾレ方面軍がウルロン山脈東部への山岳戦に参加し、高地管理委員会軍と共闘で成果を上げて敵軍を分水嶺より南側、フラル側へ撃退して下山させたとのこと。整理が一つ、ついたな。
■■■
作戦第五段階。
イスィ山地の攻略はそれなりに時間が掛かった。春に近づき風向きが変わり、雪の量が目に見えて減ってきている。
黒軍と外マトラ軍集団の配置転換の第一陣として騎兵が先行し、要塞群の無いイスィ山地中部から縦断して北側へ降りた。
カラミエ軍集団の警戒部隊を夜襲で突破し、北半部の後方連絡線上へ侵入。
カラミエ兵達は現地同胞と逃れられない運命を共にしつつある。
今作戦開始前からカラミエ軍集団に対して浸透作戦を実施していた”別動隊”と現地で合流する。あちらの大体の位置は、馬鹿デカくて変に甲高い発砲音で分かった。
砲撃地点辺りをクセルヤータ隊へ偵察に行かせたところ、比較的下半身が原型を留める死体の大行列が複数本あり、跳ね返り回った後の列車の残骸も複数で、残骸に人と馬がすり潰された跡もまた複数。積み荷も死体も散乱、やけに大きい砲身も転がっていることから列車砲の撃破も確認された。生き残りの兵士は恐慌状態で街道や線路上から遠いところに避難中とのこと。ヘムラプートくんは「めっちゃぐっちゃぐちゃ!」と尻尾で地面を叩いて喜んでいた。
音の位置にまで行けば列車砲と、その周辺にいるのは千に満たない兵士。
大砲、機関銃が防御陣地が組まれた上で並べられている。重火器は鹵獲装備のみ。
馬は離れたところ、防音壁の向こう側。
周辺の雑木林は視界確保のために焼いて、ある程度切り倒されている。浸透作戦中とは思えない程に隠れようともしない、えらく目立つ陣地だ。
また列車砲が発砲。常人なら音だけで致命傷を負いかねない位置で、あろうことか砲身に手を直接添えている頑丈では済まないのがヤツだ。衝撃波で素っ裸になればいいのに。
「黒軍予備隊、現地で合流します」
砲台の下まで来たら敬礼もしないでこれが挨拶。このセレード女戦士の銀仮面を被っているこいつ!
「お前シルヴだろ!」
「”顔無し”と申します」
「お前シルヴだろ!」
「黒軍予備隊指揮官を務めています」
「三馬鹿は?」
「増援連れてやってくる。目安としては一人一千、三千……次弾!」
列車砲の砲弾装填作業は大がかり。全ての作業が分担で、機械によっては多人数で掛からないと重くて動かない。
機関車が微速で砲台車を押して前後位置調整。
離れた位置にいる観測手と連絡員が連絡を取って修正値を報告。
巨大な転輪を回して油圧の力を使って砲角が再調整される。
人力ではどうしようもない大重量の砲弾頭を運んで起重機の”腕”に上から掴ませて、機械を操って上に揚げて位置を調整して装弾路にゆっくり置いて”腕”が離す。同様に別になっている発射薬筒も運ばれる。
別の転輪が回されて装填筒が動いて薬室へ砲弾頭、発射薬筒を薬室へ押し込んでから閉鎖。
周囲の安全確認まで、全て大声でされた上に見て分かるよう手旗が各所で上がる。
そして発射紐を射手が握って命令待機。
「……発射用意良し!」
「こいつ戦艦砲の転用だから半端じゃないわよ。馬の耳に栓詰めなさい」
シルヴがあっち行けと手を振ってきたので振り返して離れる。
術の気配というのは自分には分からないが、静粛なはずの砲身から笛の音か女の声のような音が鳴り始めれば普通に分かる。術の規模というものがあれば大がかり。
「十、九……」
指示を出して騎兵の皆に馬へ耳栓を付けさせ、これから何かあるぞと背中を撫でてやってから、口を開けて耳を塞ぐ。
「……二、一、撃てっ!」
シルヴの合図で発射紐が引かれて砲声。
”痛い”と思わず言いそうになる高い砲声が耳と目を叩いて一瞬暗闇になった気になる。
巨大な炎と砲煙を吐いて列車砲の車体が線路上を反動で後退。一発で並の攻城砲と臭いの量が違う。
次の音を待つ。時間が掛かって遠くから爆音が反響しながらやってきた。着弾した爆発はここから見えない。超長距離射撃。
「列車砲の術の直撃ちか! 本領っていうかもう真価の発揮だな!」
「エデルト抜けた心残りが唯一これだったのよね。これこれ」
シルヴが熱いはずの砲身を白い手で撫でる。
「使いこなすにゃ早くないか?」
「独立前に図面取り寄せてたの。好きだから」
「たまんねぇな。何発いける?」
「今五発目。うーん、水準維持して……あと三。衝撃吸収の術無しで撃てばもう一発、でも重傷」
素っ裸になってないのはそれか。
「普通のなら百行けるだろ」
「そんな撃ったら十日休み貰うわ」
術の疲労は見た目でもさっぱりわからない。
「あの、弾着観測の術は? 間接照準してるよな」
黒軍予備隊の連絡員を指差す。人づてより自分の目が信頼できるものだ。シルヴの砲兵技能なら尚更だろう。
「あれね。旧式砲の射程超えると画はボケるし疲労がね。っと……」
シルヴが列車の砲台車から飛び降りた。胸も尻も揺れはしない。
「疲れた休む……休憩! 警備交代!」
休憩、そして新しい隊員を迎えるにあたってこの鉄道砲兵陣地で一緒に飯を作らせて交流会とする。
シルヴと飯を食いながら情報交換。アクファルが温めて持ってきたのはマトラまんの缶詰。何か思い出しそうだが今更なので食べる。うーん、羊と山羊の合い挽きだな。
”顔無し”も食べるために仮面を外した。特にこだわるわけじゃないのね。
シルヴから。
黒軍予備隊はこの南カラミエの鉄道、街道を鹵獲列車砲で通行妨害中。効果は短期的に劇的。長期的には敵がどれだけビビってくれるか不明。
浸透当初は、自分が送っておいたエデルト浸透作戦記録を参考に鉄道、電信、水槽、橋梁の破壊。森林、建造物、畑への放火。馬、大砲、爆薬の鹵獲利用。指揮官狙撃、住民襲撃からの陽動。
「……それから命令文書偽造。どう結果が出たかまでは見てないけど」
「偽造?」
「書式文言分かってたりヤズ公子の筆跡、ある程度真似られれば出来るのよ。あんたは?」
「やってない」
「ふーん」
あっ馬鹿にしやがった。すけべな命令文書発行しちゃうぞこの中年女め。四十歳以上の女性は衣服を一枚までとする。靴下なら一足合わせて可能。
「それで……」
そんな浸透作戦中、この糞デカ列車砲を鹵獲してからは街道上で西に東に代わり番に撃って寄せ付けない。
居座って今日で四日目、十万以上の敵軍に広い道で挟まれてこの余裕を一千騎以下で実現とはやはり只者ではない。乳の平坦、ケツの小ささを見れば分かる。
西から北部総軍予備である中部集成軍がやってきている。先程めっちゃぐっちゃぐちゃになっていた連中。友軍の危機で諦めが悪いようで、今日のこの昼で挑戦五回目。
東からはカラミエ軍集団の派遣部隊。最初は必死な感じだったが、人の胸の高さで地面に沿って並行、長距離飛翔する列車砲弾に弾き飛ばされるのにビビって二日前の挑戦二回目が最後。
挑戦二回で止めたのは、マウズ川東岸とイスィ山地越えからの攻撃に対して戦力を割くことを嫌い、後方連絡線の復活は中部集成軍に託したという雰囲気。
こちらから。
イシィ山地攻略は順調に進んでおり、そろそろ黒軍本隊も砲兵連れでここまでやって来る。妨害が無ければ、カラミエスコ山脈分水嶺のセレード国境線と合わせて全周包囲が完成する。
「……そっちの国境警備隊は気合入っているか」
「もちろん。武装解除で越境したら終戦まで収容所入り。柵はもうある。工事して貰う予定の道路もあるわよ」
「結構。ああ、それで、黒軍予備隊って何だよ」
「大体そのまま」
「どんなの選んできた?」
「国外軍参考にして平時に邪魔な馬鹿ばっかにしてきた」
シルヴに真似されると何だか、ケツというより胸の内が痒くなるな。
「そうそう、同期のルカ=カダートって覚えてる」
「ルカちんか、どうした?」
「喉抉った。国境警備してたのよね。こっちの越境見破ってたみたい」
「シルヴに喉抉られるなんて果報者だなぁ」
■■■
アクファルがシルヴに星占い。こいつ普通の占い出来たっけ? と思った。
今は早朝。太陽の他、夜明けなら観測し易い惑星が見える。月が見えない時期。
「逆に二つしかないと難しくないか?」
「いいえお兄様、おちゃのこさいさいです」
アクファルは空を見上げ続け、あくびを一つ。
「間も無く朝ごはんになるでしょう」
良い匂い。血抜きの終わった鹿が骨付きで焼き上がったようだ。
シルヴは仮面を被って”顔無し”となり、地面に寝転がった姿勢から跳ね起きる。
今日も一日が始まった感じだな。
「仮面付けて飯食うのかよ!」
「うるさい」
シルヴに脱いだ仮面で頭をパカンと叩かれた。
作戦第六段階。
カラミエ軍集団包囲作戦に決着を付ける。
イスィ山地東部のほとんどを外マトラ軍集団が確保と連絡。ただ要塞攻略に砲弾を使い過ぎて備蓄量が心許ないので全力射撃を長期で行うと弱体が露見するそうだ。工夫がいる。
このマウズ川上流域全般。橋を術工兵が上手く作ったわけだが所詮は応急建築で兵站線として弱い。砲弾供給が長期攻城戦に対応出来ていない。時間があれば解決するが。
その外マトラ軍集団の背後を守るムンガル方面軍とエグセン人民共和国軍。尖兵と同義の未訓練――帝国連邦式で――エグセン兵が革命防衛隊の督戦で肉弾を散らしており、人数は豊富だが士気が低いので早めに状況を変えて欲しいらしい。芳しくない。
ユドルム方面軍とヤガロ軍は順調にカラミエ軍集団と膠着状態。押せもしなければ引きもしない。つまり、要因を一つ加えれば押せる。非常に良い状態。
春は近づいたがまだカラミエスコの山は白くて寒い。山に敵を追い込んだら撃たなくても飢え殺しになりそうだな。
黒軍本隊はこちらの列車砲陣地と合流。一部は先に夜襲で戦った警戒部隊と戦闘中だが大勢に影響無し。次の行動に移る戦力を得た。
中部集成軍こと、エグセン中部戦以来の敗残兵共は列車砲で塞ぐ後方連絡線の復活に躍起になっている。
敵の鉄道による部隊展開は、シルヴの列車砲で破壊出来るので足止め可能。列車砲狩りの列車砲を持ち出されてもシルヴの術砲撃が射程、精度で勝る。線路自体も先の砲撃で損傷しているので運行状況は低調。
こうなると敵が列車砲狩りに歩兵、騎兵を遠方から繰り出してきた。
街道の真ん中を密集隊形で進んでくればシルヴの”並行撃ち”で昔のあだ名通りに挽肉を量産できる。であるから散開陣形でどこを撃っても大した効力が無い状態で進んできている。
こちらの対策。親衛偵察隊が偽装装束姿で狙撃牽制して時間を稼いでいる間に他部隊が防御陣地を増強構築、防衛線を築く。そして黒軍砲兵が砲兵陣地を構えて防御が確かになったところで次の段階へ。
黒軍は増援阻止役と包囲攻撃役に分ける。
列車砲による街道封鎖は必須なのでシルヴは増援阻止。黒軍予備隊とその増援第一陣、親衛偵察隊、黒軍砲兵を付ける。
カラミエ軍集団相手の包囲攻撃には工夫がいるので自分が向かう。黒軍騎兵と歩兵、クセルヤータ隊を連れる。砲火力は火箭、迫撃砲、歩兵砲、騎兵砲程度だが攻城戦をする心算はない。
キジズには中間地点で騎兵一千を任せて連絡線確保兼予備待機を命じる。
カラミエ軍集団が保有する防御施設は専らマウズ川東岸からの攻撃に対するもので、こちら西側からの背面攻撃には対応していない。後方連絡線復帰の攻撃を諦めたのも最近のことなので西向きに掘られた塹壕も浅く、補強は弱く、完全に線として繋がっておらず、塹壕線を多重にして縦深を確保しての防御にすら至っていない。
状況よし。包囲攻撃隊東進。
慎重に間合いを測って大体、対峙するぐらいまで接近して戦闘陣形を取る。黒軍予備隊との戦闘で警戒態勢は最大まで上がっていて奇襲の隙は無かったが、目的がある。
アリファマと共にクセルヤータに跨り、空から敵軍民に対して定型魔術”拡声”の特大強化型で語り掛ける。喋る側に耳栓が要る。
《私は帝国連邦総統ベルリク=カラバザルである。カラミエ軍集団諸君、司令官ヤズ・オルタヴァニハ元帥に直接語り掛ける。
降伏せよ、武装解除し投降すれば終戦まで収容所にて安全を保障する。重労働や兵役を課すことはない。収容中は給金を支払い、帰郷した時の一時金になる程度は出す。
降伏しなければ軍集団と同時に当該地域よりカラミエ人種を根絶する。軍民全てを抹殺し、土地、財産は全てエグセン人に渡す。南カラミエ地方という概念を消滅させる。ナクスィトロナ、ナクスィキルなど、以前に取り戻した名前は失われる筆頭だ。
我々の目的はベーアの破壊であり、カラミエ人とその国家の破壊ではない。目的遂行の障害とならないのであれば手を出す理由は無い。国家を独立させるならその手助けもしよう。
あなた達の、ベーアを名乗るエデルト人と決別する賢明な判断を期待する。少なくとも彼等は今、君達を守護する義務を果たしていない。その力が無いという証明は今、されている。
繰り返す……》
ヴィルキレク、民族主義は楽しいな。
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