第464話「壮大な回り道」 イレキシ

 壮大な回り道の最終行程、ロシエ発の航路は安全ではなかった。

 西大洋上ではランマルカ海軍の強力な護送船団が見られた。航路は南向き、確実に魔王軍への物資輸送中。もし有視界内で針路が交差でもすれば無警告で撃ってきそうな威圧感があった。

 北海に入ればランマルカと比較し、卑小なユバール海軍から嫌がらせを受けた。針路の先を取っての減速や、甲板でゴミを燃やしての悪臭送りなどは可愛いものだった。

 危険な距離、声が届く距離までの幅寄せをしてからの船上寸劇には言葉も出ない。

「うーうー、くるしーよー」

 障害者役が喋る。

「あらどうしたのかしら? 私はウラリカ、出戻りよ」

「ごきげんようウラリカ様。わたしはお前等汚い吸血豚に虐げられている哀れな農奴です」

「まあ汚らわしくて可哀想な労働者階級以下の農奴さん、どうして目と腕が無いのかしら? お城で流行の梅毒が流れてしまったのかしら」

「違いますウラリカ様、私はベルリク閣下の軍の手により、革命を遂行しなかった罰を下されたのです」

「罰のせいで苦しいのね?」

「違います。こう、股間がむずむずするのです」

「公教育を受ける身分じゃないから分からないのね。わたくしは分かったわ! そういうことは得意ですの」

 じゃんじゃじゃーん、黒子が壺をウラリカ殿下役に手渡す。

「アルギヴェン秘伝の壺ですわ」

「壺ですか?」

「こう使いますの! えーい」

 ウラリカ殿下役は壺を持って、障害者役の股間に口を当てる素振りを「いち、にー、さーん、しぃ……」の半ばまで繰り返し、

「ああぁあぁー!?」

 障害者を叫ばせた。

「どう!? 私の壺は、どきどきしたでしょう?」

「す、すごいー! くるしーのが無くなったー!」

 合唱団が歌う。

『すごいぞすごいぞウッラリカちゃーん!』

『どきどきどきどきウッラリカちゃーん!』

『秘伝の素焼きは三擦り半!』

「そんなに凄いのにどうして出戻りしちゃったんですか!?」

「それはね、犬と一緒に脂塗り遊びをしてるのがバレちゃったからよ」

「そうなんだー!」

 合唱団が歌う。

『脂塗り、脂塗り、どきどきぬらぬら脂塗りー!』

「でも何故私のような農奴にそのようなどきどきを?」

「それはね、ヴィルキレクお兄様のチンポが腐っちゃったからなの!」

「な?」

『なんだってぇー!?』

 品性の、欠片も無い。

 これには我が海軍が対応してくれた。アソリウス島へ赴く前は艤装中だった、噂の魚雷試験艦が幅寄せしてきたユバール艦の側面を取って突入する機動を取り、衝角攻撃のような素振りを見せる。すると相手は速度を上げて逃げた。また試験に付き添っていた、船体中央に二連砲塔がある新型装甲戦艦が汽笛を鳴らして威嚇。

 客船であるこちらは乗客船員、ご婦人方も一緒に帽子を手に取り振って『ハウ! ハウ! ハウ! ウーハー!』とエデルト式に歓声を上げて謝意表明。

 ランマルカ海軍に手を出したならば大義名分を与え、四国協商との開戦可能性は非常に高かった。海上での”偶発”事件ならば陸上で起きる事件より幾分、可能性は低いかもしれないが。

 それでも戦争に積極的ではなかろうマインベルト、オルフに四国協商の防衛条項に従う戦争準備の号令が掛かりかねない。両王国共に単独では怖ろしいとは言い切れないが、指先一つで倒れる弱国ではない。二つ合わされば手強い。更に元より単独で強国のランマルカと帝国連邦まで出張ることになれば……産まれたてのベーア帝国でどうにかなるのか?


■■■


 イェルヴィークの岸辺が見えて来る。入港用意に船員が動き回り、水先案内人が月齢と潮位を確かめてから船長、装舵手に暗礁位置を告げる。

 シェケボルム要塞の灯台を目印にシェビン川河口の島の間を抜ける。

 左手の西岸に見える軍産複合の結晶である新造船所から鉄を打つ騒音に比べ、造船親方が仕切る旧造船所からの木を打つ音は大人しい。このイェルヴィークで帆船は新造されなくなってきているが修理の手は休まらない。信頼出来る帆走遠洋能力は海軍としてもまだ捨てられず、全てを鉄板へ交換するには現存艦が多過ぎる。

 右手の東岸で人集り。言葉は聞き取れないが、雰囲気から聖職者が説教をしている。様子から慰霊祭に見えた。開戦直後に大きな損害を被ったにしても気が早いようだが。

 戦時で岸壁がどこも海軍優先でいっぱいになっている中、西岸の岸壁に客船が到着。下船して川の中洲、宮殿がある島へ真っすぐ向かう。海軍基地の情報部事務所は後でいい。

 龍朝天政の極大都市に比べれば人は少ないが帝都は活気がある。工場からの煤煙が煙たく、機械化されつつある”現代の火”が見える。

 宮殿のある島へ鉄橋を歩いて渡る。宮殿脇には両岸に渡る鉄道橋が架かり、列車が通過。

 道中、人々の会話からイェルヴィークの近況が聞けた。

 ベルリク=カラバザル、帝都襲撃。市街地東側の一部を焼き、毒瓦斯兵器を使用。陸軍士官学校、彼の母校を全焼させる。難民と家畜を多数、都内に入れて混乱を起こした。爆弾事件もあったようだ。遊牧騎兵の浸透能力は高いだろうと机上では知っていたが、セレード国境から短期間で国土を横断して一撃しかも離脱? 捨て身の狂人にすら不可能だろう。辛抱強い幸運の天才の仕業だ。

 もう帝国連邦軍が侵攻を開始しているかもしれないと道端の新聞店で記事をざっと確認したところ、イューフェ=シェルコツェークヴァル男爵としての参戦ということであったので、安心なのか、更なる危機が待っているのかと不安も混じってわけが分からなくなってくる。

 平時なら市民も憩っている宮殿前広場には子供が見られなかった。逢引き中の男女も、犬連れで散歩する老人もいない。辛気臭そうにしている男達が組みを作って会議室では出来ない談義をしている。休憩中も休んでいられない様子。

 宮殿の門前には巨躯の装甲人狼兵が立っている。この悪い意味での秘密兵器みたいな連中が、昼間から堂々と軍服の上に胸甲をつけて兜をかぶり、手持ち用の銃剣付き機関銃を持っている。狼頭獣人への遺伝的恐怖を思い出させることに、はばかりが無くなっているようだ。

 受付の、常人の近衛兵もいる。近衛は高身長ばかりのはずだが人狼に比べると子供の背丈。出入りは何度もしているので彼とは顔見知りである。敬礼で挨拶。

「イレキシ・カルタリゲン海軍中佐、皇帝陛下の命を終えて帰還しました。入城許可願います」

「こちらに署名を」

 差し出された受付名簿に署名し、受付が時計を見てから入城時刻を記入する。

「生きておられたんですね。海のことですから何かあってもおかしくはないと」

「とんでもない大冒険でしたよ。出版したら買って下さいね」

「それは楽しみです」

 久々に、気楽に軽口が言える違和感を消したいと思いながら、装甲人狼が鉄格子門を開く。入城、下男が迎えてくれる。

「これは中佐殿!? てっきり死んだものと」

「賭けの分け前はビールの一杯で結構。イレキシ・カルタリゲン海軍中佐、皇帝陛下の命を終えて帰還しました。お会い出来ますか?」

「勿論です。陛下は殿中にいらっしゃいますので、少々お待ちを」

「お願いします」

 この様子では、奴隷の時に書いた手紙は母に届いていなかったようだ。ロシエ経由でも――ベーアから派遣された情報員がいる――情報が流れてもいない様子。遮断されていたか? 鉄道計画が混乱している、とノナン夫人から聞いたから単純に配送が失敗したのか。今は何でも失敗する理由に事欠かない。

 宮殿内でも装甲人狼兵が警備任務をしていた。身長体重装備に似合わぬ足音の無さ。女中達の驚きと悲鳴がしょっちゅう聞こえるところ、配備してから時間はそれ程経っていない。

 人狼兵は良く教育されている者が選ばれているようで”粗相”は表面的に見られず、身体は良く洗っているのか獣臭はほぼせず、綺麗な飼い犬の、丁度良い生き物の臭いの程度。「婆さんに小便漏らされちまったよ」「俺はお茶投げられた」と、見た目程猟期的ではない私語が聞こえた。

 下男に待合室まで案内され、長椅子に座って待機。鉄道が見える窓が煤被り。壁には先々王の偉業を讃える戦勝記念絵画。

 お茶が運ばれるような時間も無く、皇帝の執務室までの案内に先程の下男がやってきて「今からお会いになられます」と告げられて席を立つ。

 清掃中の看板が廊下の真ん中に立つ区画があって、執務室へは回り道を使う。

「毒瓦斯弾が放り込まれまして、清掃は慎重に」

「とんでもないことになってますね」

 執務室前にも装甲人狼兵。下男の先導で入室。

「イレキシ・カルタリゲン海軍中佐、入ります」

 国境線を緑や赤の糸で縫って示す布製世界地図――ホドリゴ提督が開拓団を送った噂の竜大陸は白地図――を背にして座るのはヴィルキレク帝。顔、首、手にはまばらに火傷痕が見られる。燃える石炭粉でも浴びせられた?

「うん、良く生きて戻って来てくれた。大冒険をした顔をしているな」

「は」

 陛下は右に片眼鏡をかけていた。伊達に付けるのが一部で流行っているが、火傷は右目蓋にもあった。

「視力が落ちてね。失明しないだけ良かった」

「もしや毒瓦斯ですか?」

「新型だな、たぶん。現物は回収出来ていない。全く、若い頃みたいに術も長続きしないで困ったものだ。流石に五十はジジイだな。痩せて体力も落ちたし、肺も少しやられて息切れが早い。これで前線に出るわがままも終いだとも言われたかな」

「……私が旅先で送った手紙は届いていましたか? 事情により、魔王軍の奴隷だった時は母宛てにしか送れませんでしたが」

「奴隷? うむ、来ていないな」

「そうですか。仔細は報告書に書きましたので、どうぞ」

 鞄から旅中にまとめた報告書を取り出して手渡す。

「さて、悲劇以外の物語も読みたいんだが……」

 読む陛下は顔に、この危機を感じさせる表情を出さない。最悪を想定していたからか?

「二十六年前だな。ここでシルヴ・ベラスコイに軍事顧問としてアソリウス島行きを命じてな、ベルリク=カラバザルも連れていってやったらどうだと言ったんだが、あの時に無理にでも連れて行けと命令していれば、今頃どうなっていたかと思うよ。代わりにアッジャール朝が攻め込んで来ていただけかもしれないが」

「未来は分からないものですね」

「実感が篭っているな」

 陛下が報告書を振りながら笑う。

「そんな未来を一つ、どうにかして欲しい」

「は」

「またヤンルーまで行ってくれ。格を上げるために準男爵位を与えよう、今日から貴族だ」

 ヤンルー? 龍朝天政の帝都だよな?

「いやいやいやいやいや」

「はっはっはっはっはっ」

 笑いながら皇帝が、別の書類束を渡してきた。

「読みなさい」

 命令、勅令、嘘だろ、休暇くれよ。目を通す。

「こちらで把握出来た最新情報をまとめてあるから参考にしてくれ。後レン朝の首相の息子が反乱を起こして龍朝と紛争を起こして、後始末の外交交渉にレン・シャンル皇子が出て、鎮圧された黄陽拳門徒とアマナ労農一揆が新大陸流しにあったあたりが読みどころだな。これも例に漏れずベルリク=カラバザルが活躍だ」

「それは朗報ですか?」

 帝国連邦と龍朝間に火種が発生しているとしか聞こえないが、陛下の口振りは違う。

「被害は小さく無かったのに双方、戦火の拡大を望まずに決着が付けられている。大きな火種でも着火しないと証明されたようなものだ」

 悲報か。あの男は何でも出来るな。以前に龍朝に居た時の雑感では……ベルリク=カラバザルは天災だから寿命が尽きるのを待つという感じだったか。セレードに独立戦争を仕掛けられている我々には許されない気の長さだ。

「私の役目は何でしょうか?」

「ラーズレクの叔父上に随行してくれ。特命大使として派遣する。龍朝天政に協力、参戦願いを出す」

 書類の、陛下おすすめの新大陸流しになった黄陽拳……宇宙最高師範? リュ・ジャンの乱の頁を読む。やはりこれで着火しないとなると……。

「可能性、低いのでは」

「そうだな、帰って来たら結婚相手を紹介しようか。年頃や好みはあるか」

「そんな」

「妹のウラリカが空いてるぞ」

「ご冗談を」

 皇妹殿下を? いや、いやいや! それに、いや……。

「決めた相手がいるのか? それは冗談にしても悪かった」

「そうではありませんが」

 鞄には休職届と辞職届がある。陛下に差し出すものではないが、二つとも出したくなってきた。

「家に帰りたいんです。疲れました」

「今、あちらに行ったことがあって、天政官語を政治級で理解するような語学人材はな、ここには君しかいないんだ」

「そんなことは……」

「ある。ベルリク=カラバザルが鉄道網を掻き回してくれたおかげで手配がつかない。それは復旧するまで待てばつくが、待つまで待てると思うか?」

 セレードが攻め込み、帝国連邦の正規軍がいつ侵略してくるか分からず、ランマルカも同様。胸に短剣突き立てて拒否するぐらいしかないぞこれは。


■■■


 宮殿から西岸に戻り、基地内の海軍情報部の事務所を訪れ、部長は海軍省庁舎に出ていると聞かされて無駄足を恨む。

 故郷の母に帰還と、また船で長旅に出るかもしれない、と報告の電報だけを出す。気の利いた文面を捻り出す気は……親にそんな言葉を送ったことはない。今更、うーん、いや、やめよう。恥ずかしい、気持ち悪い。

 馬を借りて、庁舎へ向かうためにまた宮殿の島へ戻って庁舎に入り、部長の所在を職員に尋ねて食堂へ向かう。

 野郎は食後のお茶など飲んでいやがった。

「嫌がらせか」

「その口ぶりまさか、事務所に一旦戻ったのかね。全く」

 情報部部長ウィラン・ブレースコット大佐。ランマルカ貴族の血が流れる騎士爵で、いかにもな嫌らしい顔付きと口調と赤筆髭と伊達片眼鏡の同期生。差がついているかどうかは良く分からないが、少なくとも公式の場以外では敬意を払う気になれない。自分の方が働いているからな!

「ほれ」

 皇帝から返して貰った報告書を、休職届と一緒に提出。

「提出期限が切れている。次回更新を待ちたまえ」

 休職届は突っ返される。やっぱりか。

「くそ! 妖精に食わせるぞ」

「何という言い方かね。仮にも貴族になったのだから態度には気を付けたまえよ」

「行くと言っていない」

「行かないとも言えないんだろう」

 ウィランが報告書を、茶を飲みながら読み始め、急に咳き込んで手巾を口に当てた。

「君、何で戻ってきたんだ? 私なら戻ってこないぞ」

「給料貰ったら考え直すよ」

「ふむ……ラーズレク閣下を訪ねたまえ」

「陛下から聞いた」

「そうかね」

「キツネー」

 覚えのある声に振り返えれば、海軍大将ラーズレク閣下が両手で”キツネー”を二つ作って見せている。あれはレン・シャンル皇子と”お豆様”に大うけした一発芸。龍朝行きからは逃れられないと呪いが掛けられたのだ。

「お散歩行こっか、イレキシちゃん」

「はい、お供します」

 この毒気を抜かれる爺様には何か抵抗が出来ない。

 庁舎を出て、馬車に乗りして東岸へ向かった。西岸よりも軍需物資の移送、出征兵士の見送りで混雑気味。

 車窓から警察が民家の扉を蹴破って突入する姿が見えた。

「あれは」

「革命派の摘発かな? ちょっと前までは難民の調査だったかな」

「難民の調査?」

「人間爆弾だね。お腹が破裂」

「そこまで」

 彼ならやるか。妖精なら喜々として。

 道中、屋根から紙をばら撒いているおかしな奴が見えて、警察が笛を鳴らして追いかける。

「あれは共和革命派?」

「ベルリクが竜の背中から焚きつけたんだよ」

「強烈ですね」

 並の専制君主より権力を持っていそうな奴が共和革命派を煽動出来るだなんて、どんな論理が働いているんだ。

 市街地東側では焼けた建物の修理や解体、新築作業がそれぞれ始まっていた。

 慰霊碑は、再建中の陸軍士官学校の中庭の一角に設置される。墓石のように滑らかではなく粗削りの急造。犠牲者を追悼する言葉が刻まれた面だけは平ら。人数が多過ぎて名前を一々刻んでいられなかっただろうということは分かる。民間人を多く巻き添えに、戦闘員以外を殺傷しているのだ。道中では見られなかったが、きっと目玉を抉られた者達が郊外の療養施設に集められている。詳細を聞かずとも見えて来る。奴等ならやる。

 道中で買った花束をラーズレク閣下と共に、参拝の列に加わって数多くの供え物の中に加える。殉職した者達に対し、慰霊碑をその総代として敬礼。未知と恐怖と混乱の中、勇気を出した者や無念ばかりだった、未来があったはずの者達へ。

「ベルリクの軍は今どこへ?」

「南エデルトを通過中。あっちはあまり電信が通っていないからいまいち把握出来ていない」

「らしいと言えば、そうですか」

 エデルト人にとって怖ろしく憎たらしいだけで済まない相手だろう。見事という賛辞も加わって何と評して良いか。

「イレキシちゃん、またよろしく」

「はい」

 はい、と言ってしまった。言わされているのだ。この石と上官と、負の感情ばかりの参拝者の前でそれ以外言えない。


■■■


 これも運命だろうか? 遠い極東航路を行くために乗船するのはサダン・レア号の姉妹船、サダン・イネファ号。

 小銭稼ぎもしない、船員の権利でもある個人商売も禁止された空荷での最速航行を行う。ただ最高記録を目指すような船旅となるので入港、補給に上陸休暇も最小限と、航路予定表を確認させて貰ったがかなり厳しい。

 高齢のラーズレク閣下の体調が心配になる。自分の身体も少々信用ができない。無理はまだ利く歳だが、病の不運には勝てない。疲労は不運を招き込む。

 航路は南大陸南端の大回り。中大洋横断のスライフィール海峡経路を避けるのはアレオン水道が非常に危険であることと、魔戦軍召集に関連しての海賊行為が危惧されているためだ。

 特にアソリウス海軍なぞは飢えた狼のように襲ってきそうである。ヤヌシュフ卿の好戦性が反映されていればエデルト籍船を目の仇にする。

 この夏に出港し、事故が無ければ秋か、風が悪くても初冬くらいには龍朝に到着出来るだろう。商品無しの航行という前例に乏しい方法ならもう少し早いか?

 一日たりとも無駄に出来ないと言われた。イェルヴィークに帰還して一泊、分け前の酒を飲む前に寝た翌早朝には緊急出港のような素早さで、直ぐに対応してくれた海軍軍楽隊の演奏だけを見送りに、海へ出てしまった。

 母と顔を合わせることも無く本土を離れていく。ウィランに後を任せておいたから安心と言いたいが、せめて電報の返事くらいは待ちたかった。

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