第457話「帰路への関門」 イレキシ

 残留ペセトト兵によるペセトト団が発足。アリル一党の指揮系統から外れて独立する。主な役割はペセトト呪具、ロシエ理具を併用し研究する集団。新生エーランはこれら未知の概念で動く武器群に期待している。アレオン戦争とこのエスナル再征服で常軌を逸した成果を目にしていれば当然の反応。

 ペセトト団には新規に”花咲く者”または”亜神”と呼ばれる異形が加入して指揮官として収まった。自意識が強く、知性も人間以上と見られ、下位妖精達を手足のように従わせる上位妖精だ。”異形”で”未開”で”妖精”の上”原住民”だから愚かという先入観は話してみると消え去る。

 人間よりも妖精に相応しい新指揮官はランマルカ語に堪能。魔神代理領共通語も一度聞いた言葉は忘れないのではないかという速度で習得。意思疎通の弊害は早々に取り除かれ始めている。ペセトト語の理解は日常会話程度までの自分より相応しい。

 ペセトト兵の本来の使命はエスナル人の殺戮。呪術と理術の研究発展普及がエスナルと支援するロシエを滅ぼすために有用であることを指揮官は理解し、命知らずの突撃は当面実行しないことで合意。上位より上、最上位の皇帝の指揮下から外れたということだろうか?

 一つ目の仕事が終わった。

 補給業務の基盤が整う。陸海の事業を半ば分離することを基本とした。これは暴力的で理不尽な戦争中な上に、土地の切り取り次第という欲望が特に剥き出しにされる中での対処。

 海の事業はマフルーン殿と直接通じて、南大陸会社の支援で事業を立ち上げ、共同出資のアディアマー社を設立。拠点は我々が確保したペラセンタの壁外港。海上貿易と港湾管理を主業務にしている。

 アディアマーの由来はサダン・レア、エデルト語で言う”聖女レア”を強引に魔神代理領共通語サイール訛りへ意訳したもの。ほぼ皆殺しにされた旧船員達が浮かばれるわけはないが……ここは戦時の倣いとして忘れよう。この世の全ての悲劇に関心を寄せていたら狂い死ぬ。

 陸の事業では会社を立ち上げず、あくまで魔王イバイヤース陛下の臣下であるマフキールの息子アリルとその一党による再征服行動の一環としている。個人と会社の責任ではなく、魔王陛下の代理人としての権威で他者からの不作法を封じる。

 事業はアディアマー社が買い付けて運んでくる物資を、アリル一党が買って受け取り、それを各地へ侵攻している他一党へ配送して売りつける流れ。

 戦地を行く他一党は金を持っていなかったり、換金が難しい現物で支払おうとする傾向が強い。中には”これは栄光ある再征服なのだから無償提供が当然”という態度を取ることすらあって、とにかく良識と正当対価を持っている客ばかりではない。そこで考案されたのが無制限化された返済代理特許の活用。これを使って支払わない一党の分は魔王陛下に肩代わりして貰うことにするのだ。

 商売の原理だけで話を進めると”良識の無い貧乏客”は糞野郎。血を流して勢力圏を早急に広げなければ勝利はないと驀進する戦士を糞呼ばわりするのは敵の行い。

 金の話で足が止まっている内に反撃されて死ぬことなど戦士には許容出来ない。だからと言って対価も無く物資を流すことはアリル一党には不可能。その両輪を、摩擦無く回す方法が返済代理特許を使った、客名義での魔王陛下への負債転嫁。

 お支払いは戦後に、魔王陛下から請求がいくようにこれでなる。客の側も”再征服がなったら返済も免除されるだろう”ぐらいに考えているらしい。客のその後まで知ったことではない。

 ここで気になるのは新生エーランの財源。南大陸西端側の新興国がそんなに豊かであるわけがない。調べると簡単に分かったが、ランマルカの武器弾薬提供が無償に近いことと、ペセトト帝国が金銀に硝石、イサ帝国も膨大な金を提供し、ハザーサイール帝国を筆頭にする魔神代理領共同体各国から支援がされていた。この代理戦争の姿が今一度浮かび上がった。

 二つ目の仕事も終わった。

 現地人から共通語とエスナル・ロシエ語通訳が可能な者を探し出して教育する体制を整えた。

 単純理解の日常会話が出来るだけでは通訳は務まらない。観光客ならそれでいいが軍事、政治、商売という重大案件では不足。

 相手が喋ろうとして、言葉足らずで表現し切れていないところも拾い上げて、再確認出来なければいけない。会話に疎く、臆病な者には務まらない。

 聞いた言葉を、正確に過不足無く表現して相手に伝えることも出来なくてはならない。二つの言語に共通しない表現をどうするかは難しいが、それでもやらなければ務まらない。

 両者の会話の間に挟まる際には、両者の情報と会話の情報も知らなければならない。同じ言葉でも背景が異なれば意味が違ってくる。違うことを理解する知識が必要。

 両者の伝統的な習慣の把握も必要。片方が友好の心算で剣を送ったとして、片方ではそれが侮辱と宣戦布告の意味になることもある。理解して誤解無くやり取りさせなければいけない。

 こういうことが出来る高度な人材を育てるためには少なくとも十年は見積もるべきだ。下野している中から見つけるには競争が激しい。ペセトトの虐殺攻勢の前では生存も難しい。

 見込みがありそうな通訳候補を手近なところで見つけておき、奴隷市場や征服中の他一党から高度人材を探して買い、南大陸会社経由で外国から募集。一番初めに見つかったのは、物資代金として受け取った高度通訳奴隷である。その者に見込みがありそうな連中を教育させる。

 三つ目の仕事も終わった……とは少々言い難いが、手放しで良いと思う。

 自分は十分に働いた。

「アリル卿、私が出来る仕事はもう無いと考えます。解放を願います」

「買い戻す以上の働きだった。ご苦労、いつでも戻ってきなさい」

 祖国の敵に利しつつ、居心地の良くなった職場を離れる。自分は正気か?


■■■


 北へ向かう初夏の熱風。南大陸では砂嵐、北大陸では砂に加えて雨も降らす。

 今日は霧が濃くて一区画先まで見えない。住民の顔が良く見えなくても、ペラセンタ壁内街が非エスナル人のものとなってきているのは言葉、街角の洗濯物、道に転がる駱駝の糞で分かる。

 門出はこれでいい。後ろ髪を引かれると戻れなくなるような気がしている。

 金相場の変動が激しいということで、身分の買い戻し以上の金は銀貨で受け取った。それから移動用に馬と馬具一式。ランマルカ式騎兵連発銃と拳銃、銃弾は共用。身分証明書ともなるアリル卿の紹介状まで書いて貰った。

 壁外へ出る。困窮し追い詰められているエスナル人流民が増えてきているので拳銃が咄嗟に抜けるか手元で確認。状況が悪ければ優しい常識人も賊になる。

 流入の原因は勿論戦災。エスナル勢力圏への逃亡失敗、行き先を他に知らない、徒歩範囲内で一番戦場から遠いから、様々だが大体同じか。

 壁外街の外に出る頃、聞きたくない声が聞こえて来た。

「イレキシー!」

 新指揮官の統制下に入ったはずのイノラが笑いながら、人間の男の服を着て旅に必要そうな荷物を背負って全力で走ってきた。流民がその姿を見て逃げる。敵対する者はいないかと連発銃に手を添え、馬を止めて見渡す。いない。

「どこ!?」

 何の疑いもないかのように行き先を聞きながら、ズボンを「んしっ」と掴んで自分の身体を登ろうとする。その肩を掴んで抑えた。これは試練だ。信仰じゃないが、決意や忠誠心をこの、小さな異界の悪魔に試されている。

「連れては行けない」

「どうして?」

「これから故郷に帰る。ペセトトの妖精がいたら絶対に帰れない。エスナルとロシエの人間が許すわけがない。俺はそんな、潜入の専門家みたいなことは出来ない」

「うん」

 躊躇せずに尖り耳を切ろうとしたイノラの短剣を掴んで止めた。痛くない、さっと通ったような、後から傷口が擦れる度に痛くなるか。

「使命がある。何であろうと駄目だ」

「そうなんだ!」

 イノラは何も無かったかのように下へ降りて街へ引き返す。振り返ってくれないし、残す激励も恨み言も無ければ鼻を啜る音も無い。人間みたいに後腐れ無さそうなのが救いなのだろうか。

 馬上で手の傷を処置しながら北東へ向かう街道を進む。

 まず目指すのはエスナル軍が魔王軍を待ち構えるアレタレス峠の要塞。エスナル南部を東西に分けるバニベティカ山脈を横断する整備された山道が通る。

 下手な回り道を行って無法地帯に入れば身分証明も名乗りも通じずに殺される。正規戦力が集中して軍秩序下にある火中こそ最も安全。

 また海路は、拿捕売却されて奴隷市場に並び直しなどないようにとの考え。


■■■


 エスナル内陸部は沿岸より更に暑いというか熱い。石の上を歩いていると靴が焼けるのではないかと思う。馬の蹄はどうかと考え、無理が無ければ草の上を歩かせた。

 寝る前に「何て俺は馬鹿なんだ!」と声を上げること幾度か。輜重隊と護衛の列と何度も道を共にして、遂に魔王軍本隊の列の後方についた。

 魔王イバイヤースによるアレタレス攻めの道中。最早敵か味方かも分からないエーラン兵から強圧的に何者か問われる度にアリル卿の紹介状を「解放奴隷である」と見せている。この大事な紙が、人に見せる度に擦り切れて効力を失うのではないかと要らぬ不安がある。

 そしてある日。

「お呼びであられる」

 と、虫人の騎兵が一騎、自分に声を掛けて来た。”誰が?”と言わぬも威厳あればそういうこと。

 抵抗せずついていき、案内されたのは魔王イバイヤース本陣、司令部である大天幕。白人、黒人、魔族、獣人、ランマルカ妖精に、負傷は手当され服も綺麗な状態にされているエスナル人高位捕虜が見られる。

 白人の中には民族衣装も多様、エスナル在住の少数民族が複数いて魔王軍内にて一定の地位を確保している姿が見られた。既に各地で内応する準備は出来ているということだ。

「解放奴隷イレキシ・カルタリゲンだな」

「はい」

 大天幕前、謁見待ちの行列の横で目を光らせている老いても溌剌とした様子の黒人――下半身が猫科猛獣の首下で成る魔族――が声を掛けて来た。軍装礼装に混じって色染め装飾無しの衣姿で法学者の雰囲気。

「マフキールの息子アリルより活躍は聞いている。陛下よりご質問があれば率直に答えよ。己から問うてはならん。よいか」

「心得ております」

 エスナル人が謁見時にあれこれ騒ぎ立てた前例があるんだろうと想像に難くない。”侵略者め””お前等が侵略者だ”と論じるのは銃後の暇人がすることで最高司令官の仕事ではないだろう。

 謁見行列に割り込む形で大天幕内へ入るよう衛兵に促され、尾付きの――新種と言って良いか?――虫人魔族、魔王イバイヤースに謁見。脇で書記官が記録を書いている。

 片膝を突いて頭を下げる。

「よい、頭を上げろ」

「は」

「旅中呼び立ててすまないな、カルタリゲン中佐」

「いえ」

「アレタレス要塞は分かるな」

「はい」

「あちらに親書を携えた使者を送ったのだが殺されて返って来た。返書も無い。そこで君に、略式戴冠を内々で済ませていれば七世となるエスナル王か王太子、小のシリバル殿に手紙を届けてくれないか。恨み骨髄でこちら側の者だと対話もままならんのだ。受けてくれるか?」

 意思確認など否応も無いが、可能かどうかを思案。いや、やるしかないか。使者殺しは過激だが、一度やればこれで良かったのかと不安になって話し合う方向に流れているかもしれない。エスナル人捕虜を使わないのは三度目に備えてか? 敵の不正義の回数を増やすのは常套手段だが。

「お受けします」

「うむ、任せた」

 虫人魔族のお付きから親書を渡され、懐にしまう。

「何か入り用か?」

「アリル卿より馬と路銀を頂きました。ご用命に支障ありません」

「褒美のことを言っている」

「身軽が今は一番ですので望むものはやはりありません。エデルト海軍将校として務めを果たします」

「それは結構。故郷へ無事帰れるとよいな」

「ありがとうございます」

「次」

 謁見行列が動き出す。立ち上がり、一礼をして大天幕を出る。

「アレタレスの内情を探って来たら褒美をやるぞ」

 半獣魔族の黒人が追加の仕事はどうだと声を掛けて来た。”汚れ”仕事の担当はこちらの人物らしい。

「望むものはありません。分不相応の持ち物は厄を招きますし、それにそんな能力は私にありません」

「陛下に遠慮したのではなかったか」

 陛下は高徳、こちらは――言い過ぎだが――低俗。両輪が回っているな。政治面でも手強いだろう。

「これにて」


■■■


 ”汚れ”担当に目を付けられているということで、背後を気にしながら魔王軍の列を抜けて北東へ進んだ。親書を携えているからと言ってエーラン軍の刺客がやって来ないとは限らなかった。どんな理由と事情で殺されるか分からないものだ。君主の意向と別に臣下が動くことなど茶飯事だろう。

 北東アレタレス峠行き、西オラジニア地方行き、南ペラセンタ市行きの街道合流地点へ到着。

 難民が群れを成して北東方面へ歩みを進めている。服と手荷物だけの者から、馬車に荷物を満載している集団。服の貧富も差があって、歩き詰めで靴擦れを起こして座り込んだお嬢様から山羊に子供を乗せて悠々と歩いている牧民。泣き言も聞こえる、”民衆聖戦軍を立ち上げて反撃しよう!”と気勢を上げて修道騎士にぶん殴られているおっさんまでいる。

 お嬢様の方は、女性に優しいエスナル紳士が直ぐに手助けへ行ったので心配など見た時から無かった。

 難民の群れを統制しているのはアルベリーン騎士団とカロリナ修道会の有志達で、軍人の姿は少ない上に人々の助けなど後回しといった風に北東へ急ぐ。

「君達、急ぎの用事があるのかね!?」

 軍人らしく敬礼してからエスナル兵に尋ねた。

「兵隊は要塞防御とか次の戦線構築するために救助は後回しにしろって命令ですよ!」

「そうか、合点がいった! 足止めしてすまない。健闘を!」

 敬礼でお別れをした。

「そちら……北の御方、お願いを聞いて頂けませんか?」

 兵士との会話で声を掛けやすい人物と思われたか、カロリナの修道女がやってきた。埃まみれで疲れている。そんな縋るような目をするな、と頭の中だけなら大声が出る。

「どうしましたか姉妹」

「怪我人を運ぶためにその、馬車を作りたいのですが」

「どうぞ、お譲りします」

「ありがとうございます! 聖なる神の御加護が貴方にありますように!」

「いえ」

 下馬し、荷物も降ろして背負い、聖なる種の形に指で切ってから合掌してくる修道女に馬を譲った。まあこれは、馬鹿とは思わない。信心が違うのでご加護はそちらの組織の方から後で貰えればいいか、と下心もある。

「手伝いましょう」

「敬虔な方! ありがとうございます。神よ、良き心を持つ方を遣わしてくれたことに感謝します」

 人間の皮を剥いで木から吊るし、死神へ贄を捧げたこともない。狐はやったことがあるが。

「敬虔ではありませんよ」

 使者殺しを回避するため”聖なる御力”を拝借しよう。


■■■


「エデルト海軍中佐イレキシ・カルタリゲン。現在、ヴィルキレク皇帝陛下より勅命を受けて任務中である」

 と年下の募兵官を睨みつけ、敬礼と階級章と略章で威圧。今になって兵卒扱いの徴集歩兵になどなっていられない。

 アレタレス城門前は混雑。優先して通される兵士と軍需物資、次いで女子供と負傷者。若い男は門脇の募兵官に声と腕で引かれ、病人は感染症の疑いがあれば郊外隔離施設へ行けと言われる。山道を苦労して登り、脱落者や転落者を見送って進んだ先でのもう一苦労。

 募兵官をあしらった後、修道女達と一緒に怪我人を手押し車で運ぶことで城門を通過。要塞内での宿泊も休憩も許されず、誘導する兵士から「素早く進んで山を越えろ! 怪我人は次の村に預けろ! ここに残るな!」と怒鳴られ、立ち止まってしまう者には棒や鞭を振るわれる。

 このまま流される前に、ここまで手伝った修道女に「こちらも一つ手伝って頂きたいことがあります」と言って、カロリナ修道会経由で”小”シリバル王太子へ取り次いでくれないかと頼んだところ修道院の方へ、忙しいから簡単ではないかも、という渋面で案内される。冬の死神には言葉も合掌も通じないぞ。

 山越えの横断道から外れ、近くの山頂にある修道院の方まで案内された。エスナル将校とアルベリーン騎士と医療体制について調整している修道院長に面会。お忙しい中で事情を説明すれば、騎士の方が「これから殿下へ会いに行くのでご一緒しましょう」と心強い言葉。

 山頂から要塞に下る岩を削った階段、打ち込んだ鉄杭に縄を通した手摺りは登りより下りが怖い。

「確認したいのですが、殿下は略式の戴冠もされていないのですね?」

「その通りです」

 呼び名の間違いが、特にこの緊張状態ではあってはならない。

「ありがとうございます。確認を取る暇も難しいので」

「確かに。それでですが、あちらの内情にはお詳しいのですね」

「新生エーランに関することでしたら秘匿するところなくお話出来ます。これは殿下に直接?」

「そうです。殿下に会いに行く用事とはカルタリゲン中佐の案内です」

「なるほど。それで、使者殺しの噂がありましたが本当ですか?」

「いえ、初耳です。血気に逸った者が確認もせずにやったことだと思いますが、私では軍部の末端の行動までは把握していません。総長でも担当が違えばそんなもので」

「もしやジェリル・マルセーイス総長ですか」

 ”落ち目”の、と咄嗟に浮かぶぐらいにはベルシア戦争以降、武門の名は地を這う程度。慈善団体としては名高いか?

「申し遅れました。亡き兄と違って、こう、風格が足りませんので」

「いえそんなことは」

 気難しそうな人物でなくて良かった。

 ”渡り”がついて一安心。敵意の視線剥き出しに包囲される状況なんて、仕事が上手くいこうとも自分の心が辛いのでそんなことは回避したい。気楽にやりたいのだ……気楽にやりたいなら軍なんて除隊して……ほんの少し前が懐かしくなってきた。

 マルセーイス総長に案内され、警備の兵士達に足止めされること無く要塞司令部にいるシリバル王太子への面会が叶った。ペラセンタ陥落からの短期間で少年が老いたような顔をしている。

 マルセーイス総長からシリバル王太子へ自分が何者でどういう境遇でこの場に至ったか紹介が――自分から補足を入れつつ――され、魔王イバイヤースの親書を手渡すことに成功する。返書配達の依頼をされたらどうしようかと不安になってくる。勘弁してくれよ?

 シリバル王太子が親書を読んで溜息。将軍達に渡して読ませ、口を開く。

「我が父、陛下の最期は分かりますか?」

「処刑の儀式の最中でも臆さず。死の間際まで徹底抗戦を叫ばれていました」

「儀式?」

「ペセトト妖精の流儀なので定かではありませんが、非常に手間を掛けていましたので要人に対するものではあったと考えます」

「どのような?」

「残酷ですがよろしいですね」

「構いません」

「……裸にされて青い染料を体に塗られて市内で見世物にされた後、儀式の祭壇に上げられて胸を切り裂かれ心臓を抉り出されました。彼等が崇める太陽神へ捧げる行為のようで、痛めつける目的ではないと思われます。ご遺体ですが妖精達に食べられました」

 シリバル王太子は深呼吸をして、堪えるのは無理と分かって立ち上がり、椅子を持ち上げて床に壊れるまで何度も叩きつける。顔が赤く、目が充血。

 城門のところで”魔王の使者である”などと馬鹿のように宣言していたらどうなっていたか。

「……失礼した。それで、奴等の内情について知っていることがあるのですね」

「順を追ってお話しします……」

 帰路への関門は幾つあるやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る