第434話「俺はピルック、チンポコさ」 ピルック
水雷にて航行妨害の自沈船を爆破撤去しながらセリン艦隊はナズ=ヤッシャー川を遡上。流れて来る死体がぶつかり船体が鈍い音を度々立てる。
自沈船が木造船ではなく鋼鉄船、それも大型であった場合はこのようにいかなかった、という戦訓を得る。
そのような中で竜伝令にて国外軍との通信が三往復。
一度目の伝令では戦場の膠着状態が知らされる。その前提で作戦予定に修正を入れる。想定では、敵主力はもっと前に出ているはずだったが、奥に引っ込んでいた。また敵将の手配書を受け取る。戦場狙撃で役立つ。
二度目の伝令では作戦予定の再修正を伝える。決壊を阻止した堤防からニリシュ、ナルクス隊に至る戦線は想定上に長かった。兵数に比してランマルカのみならず魔神代理領軍の用兵思想でも想定しない長さであった。騎兵の足は長く、電信線連絡は素早く、気球の視点は高く、川を挟んで渡河地点は限られている。上陸部隊の内、予備の一隊を温存する前提で検討。
三度目の伝令で修正が無いことを水陸で相互確認。旗艦にて指揮官級での会議が終わってから、セリン提督の指示で全艦へ要領が通達された。
部下等には同時に装備点検を命じた。これは各隊同様。海上、河口突入、戦闘、川の蒸気機関によるやや強引な遡上と我々が運んで来た兵器、機械類は揺れに揺れて不具合が起こっている可能性が高い。
それにしても川が死体だらけで濁って汚くて臭く、真水汲みも控えられる。ヴァリタガルの生活ゴミだらけとはまた別だ。
■■■
艦隊は遂に決戦場南端へ到着。東岸のナルクス隊が銃砲弾を撃ち込み、川に民兵群の死体を流し込んでいる様子が見える。
敵民兵等は宗教的戦化粧と装束で士気が高く、未訓練とは思えない前進姿勢を見せている。人間も文化次第では侮れないということか。
ナズ=ヤッシャー川強襲上陸作戦を開始するにあたり各種体液、排泄物塗れの川へ「私マジこれ入んの?」と言いながらセリン提督自らが飛び込んで川底を確認しながら軍艦の位置取りを手ずから誘導。被害担当艦を務めた最も喫水が深い艦が安全に停泊出来るまで進んで複数投錨、艦同士で綱を渡す。ナルクス隊が東岸に係留柱を応急設置し、投げ込まれたもやい綱で留める。川の流れがあるので上流から引っ張り上げる形で斜めに綱が緊張する。
艦隊位置の水上固定の後に艦砲射撃開始、上陸地点を清掃。陸上部隊による射撃とは比較にならない火力集中であるのにあの偶像崇拝の狂信者達は進む。薬物投与は間違いないはずだが。
セリン提督が「クソ、くっさ」と旗艦に戻って来て、ダーリク少年から蒸留酒を受け取って身体を洗ってうがいして吐き出してからまた飲んで、喉と鰓に髪の触手突っ込んで内容物ごと抉るように掻き出してから、また飲んで、また吐いて、そして胃薬を受け取って酒で飲み干す。それから石鹸と真水で洗髪開始。
「ダーリクぅ、お母さん疲れたよん」
「くっさ。あ、うんこカス」
「マジ?」
「寄生虫」
「うっげ」
「ピルック隊上陸用意! 第一陣偵察兵分隊及び自動人形分隊、第二陣機関銃分隊、第三陣歩兵砲分隊、第四陣自走爆雷分隊!」
各艦に分乗する同志達からもそのように、訓練通り行うと手旗通信。
「ヘペップ!」
『フラーイ!』
「ヘペップ!」
『フラーイ!』
「ヘペップ!」
『フラーイ!』
西岸向き、遠くは艦砲、近くは旋回砲と機関銃支援の中で短艇を降ろして第一陣が三唱に送られて行く。自動人形が櫂を漕ぐ
片付けられていない敵民兵の死体が埋まるように流れ着いている岸に揚がる。石に掛かった血、全裸そのままに垂れ落とした糞で足元が滑りやすい。砲弾が作った穴も転がりやすい。
短艇は次の部下達を迎えに艦へ戻る。
「全自動人形班前へ、上陸地点確保!」
『了解!』
自動人形と操縦者――海兵は全て銃兵である――が先行、応急防衛線を前進しながら展開位置を調整。
偵察兵はそれより先に上陸地点からその奥までの状況を確認しに進む。決戦の儀式で確認した敵将がいれば戦場狙撃を志向。
艦隊支援射撃の中でも、弱りながら迎撃射撃が飛んでくる。自動人形を盾に銃兵が狙撃して排除しながら、安全と思われる限界位置まで前進。停止位置を防衛線とする。
適宜、先に死体を利用して防衛線に胸壁を築く。落ちた内臓は使えず、骨に肉がついて構造を大きめに保って強度がある物が良い。強度と大きさを増すために土砂を詰めても効果的。有用な死体資源が手近に無くなってからは袋へ円匙で地面の土砂を詰めて土嚢を作製して積み上げる。また土砂は漫然と掘るのではなく、少しでも身を隠せるよう塹壕状に掘って無駄にしない。
「第一陣全隊上陸確認!」
「了解!」
第二陣上陸開始。
地形と敵の抵抗によって自然停止、構築中の防衛線まで機関銃兵が前進し、先に作られた死体と土嚢を集中して受け取り機関銃陣地を形成。組織的集団突撃など強烈な攻撃が無い限りは弾薬温存。
敵がこの強襲上陸作戦に対応する部隊を繰り出してくるかどうかが気になる。高い視点から状況を確認出来る軍艦から最新情報”第一線騎兵、第二線象騎兵の攻撃準備確認。二千を優に超える”とのこと。
馬で先導、象で決定打を与えに来る。銃撃対応の防衛線は構築されているが、火力を除いて重騎兵突撃に対応出来る段階とは言い難い。対騎兵塹壕を掘る時間は無く、川沿いは土が浅く石が堆積しているので掘り辛い。
「遺棄武器を利用して逆茂木を形成、機関銃陣地に集中!」
上陸地点に転がる敵兵の刀槍から短剣まで、刃を斜め前方に向ける形で馬防杭と見做して埋設させる。少しでも機関銃への獣の体当たりが抑制出来るならそれで良し。
「偵察兵防衛線まで後退!」
「了解、偵察兵防衛線まで後退!」
伝令が復唱。後退を告げるラッパ吹奏。
「第二陣全隊上陸確認!」
「了解!」
軍艦から最新情報”敵騎兵前進開始”とのこと。
「騎兵突撃に警戒! 象騎兵に要注意!」
第三陣上陸開始。
軍艦から最新情報”焼討船大量確認。支援射撃減少”とのこと。
西岸に対する支援射撃が弱り、上流から下る焼討船への対艦射撃に比重が移る。敵民兵の突撃濃度が上がり、機関銃兵の射撃が必要になり始めた。
民兵の射撃戦能力は旧式銃と弓と投石に投槍、ほぼ無能に等しいが白兵戦能力となれば頭数と筋肉重量が物を言うところ。狂信的な喚声の勢いを聞き、膨大な死傷者に動じないところを見れば肉弾戦を挑むべきではない。機関銃掃射が必要である。
対人地雷の埋設を考える。我々ピルック隊を第一梯団とし、後続が進入してくる。地雷位置を詳細に伝えて一兵に至るまで把握させるのは困難だ。使用しない。
機関銃陣地に加えて砲兵陣地が追加されていく。死体と土嚢の胸壁が高く、厚くなってその後ろの塹壕が膝下にようやく届く程度まで掘り下がる。自動人形の作業は早い。地形は最良ではないが努力した防衛線だ。
「砲兵は敵騎兵優先、弾幕射撃に備えて試射開始!」
「了解、砲兵は敵騎兵優先、弾幕射撃に備えて試射開始!」
伝令が復唱。砲兵が民兵を粉砕するよりも照準調整のために砲撃を開始。
「第三陣全隊上陸確認!」
「了解!」
敵焼討船の燃える、焦げた残骸が流れる中で第四陣の上陸が始まる。
自走爆雷の組み立てが始まる。これは上陸地点目前にある敵の防御陣地へ強烈な火力を叩き込むための兵器であるが、転用は勿論可能。
敵騎兵隊、有効射程圏内に入る。民兵の頭を越える高さ、飾り付きの馬頭、正規軍装で騎兵銃を構える騎兵。
砲兵、後退する弾幕射撃開始。弾種榴散弾、衝突事故を誘発するため騎兵隊の先頭集団を潰す努力を継続。砲隊鏡で距離を観測、変化し続ける敵騎兵の速力を適宜算出、理想の弾着位置を割り出すための計算を数学上手が素早く未来位置を算出、砲角調整。
砲兵射撃開始。高い騎兵が潰れる、外す、躓き転倒、跳び越え、また潰す。
軍艦から最新情報。複数。
”敵騎兵の後方に土嚢等を抱え、車に乗せた民兵が大量に続く”
”更に後方に大砲伴う正規兵部隊一万以上予備待機”
”上流側川沿いからそちらへ側面攻撃を狙う一団有り。支援射撃はそちらに集中”
とのこと。
砲兵、先頭集団から後方集団への砲撃に転換。
騎兵への機関銃掃射開始。馬こそ的が大きいが、接近速度は歩兵の比ではない。
「自走爆雷、準備出来次第発進! コロコロ殺せ!」
『コロコロ殺せ!』
車輪に付属する噴進装置に点火し推力を得て、対人散弾箱を装着させた爆薬満載の極太筒が突進。要塞防壁を粉砕する能力が要求されている。
銃砲撃下にも問題無く送り込める自走爆雷は榴散弾程度では破壊されない。馬を驚かし跳ね飛ばし、転倒したり進路がずれる。走行に成功すれば後続の象騎兵の隊列に到達。
時限信管作動、巨大爆炎はキノコ型に膨れて爆風が広範囲の土砂、箱入り散弾、本体片に車輪に人馬象にその装備を吹き飛ばし更に周囲へ突き刺さり切り裂いて撲殺。轟音は地面を揺らし、耳を潰し、理性を破壊。大混乱を巻き起こして敵軍統制を粉砕。
「第四陣全隊上陸確認!」
「了解!」
自走爆雷の数は限られている。騎兵横隊を端まで粉砕するには至らない。砲兵は後方集団の排除から直射に転換、散弾に切り替える。
自動人形と銃兵、小銃射撃開始。
遅れて組み立てが終わった自走爆雷が敵象騎兵へ向けて発進。象を驚かし、時に蹴り飛ばされ、転倒したり進路がずれる。最後に発進した自走爆雷は敵隊列の後方に抜けて時限信管作動、爆発。
生き残った敵騎兵による騎乗射撃の銃弾が少し届く。自動人形に当たって火花散らす程度。衝突まであと少し。
「ニズロム海兵隊上陸開始しました!」
「了解!」
ニズロム兵が防衛線に取り付いて射撃に参加。銃火力増強。
敵騎兵隊、逃げる以外の立った馬がいなくなり、象が鳴いて倒れる。
騎兵突撃の後に続いて民兵が続く。爆雷発破の後でも走り続けるとはやはり薬物か?
銃や刀槍に斧を持つ民兵は思いのほか少ない。土嚢や杭を手に持ち、また荷車に積載し牽くのではなく押して運び盾にして前進する者が多いように見受けられる。
「砲兵は榴弾で車両を破壊せよ!」
銃撃で民兵が、思うように倒れない。土嚢と杭一つで身を完全に守れないが、胴体への即死の一発が軽傷か、気力で一時は持ち堪えられる重傷程度に留まることがある。
車両に銃弾は通じない。榴弾ならば砕けて土嚢がその場に落ちる。
撃ち倒せば無害化しているようで、それぞれ死んだ位置で簡易築城が成り、その地点まで到達する難易度が下がる。土砂が用水路に溜まって詰まっていくかのよう。
ニズロム砲兵が配置を完了。小口径の歩兵砲ではなく通常の野戦砲なので火力が高い。
上流川沿いからの側面攻撃集団が接近。川岸に近づいた軍艦からの艦砲、機関銃掃射を受けている。
「ニズロム海兵隊全隊上陸確認! 四分の一を側面防御に充てるとのことです!」
「了解!」
正面と側面からの民兵の長大な縦隊列は止まらない。何度撃ち崩しても後から足される。
予想を超える弾薬不足に陥りそうである。そして機関銃の不具合が目立つ。機関銃銃身の冷却が間に合わない、機関部故障、一部暴発破損。
「ニコラヴェル隊及び子人間民兵上陸開始しました!」
「了解! 上陸終了後、機関部品、銃弾を優先して補充!」
「了解! 上陸終了後、機関部品、銃弾を優先して補充!」
伝令が復唱。
上陸手順としてこの後に補充弾薬が持ち込まれる段取りで、船倉の荷物配置もその通り。子人間民兵は川を遡上してから拿捕した船に詰めて来たので、艦隊の軍艦から上陸する正規兵とは経路を共にしないが、親睦も無くこちらからの統制が利かない懸念からニコラヴェル隊と同時とした。保護者とする。
マインベルト兵が防衛線に張り付き、減衰した銃撃密度を上げる。
子人間民兵は白兵戦装備で防衛線後方で控えさせ、機関銃や大砲が故障や弾薬払底で火力を発揮出来なくなった地点へ予備兵力として移動。敵民兵の接近があればマインベルト兵の指導の下で防衛線を出て各個突撃、その低い背の頭越しに背の高いマインベルト兵が銃撃を加え、防衛線への乗り込みを防ぐ。そうして時間を稼いでいる間に故障修理、弾薬都合、再配置により火力を復活させてから防衛線に戻る。
「ニコラヴェル隊及び子人間民兵全隊上陸確認!」
「了解!」
軍艦から最新情報”後方待機する正規兵部隊、動かない”とのこと。騎兵で先導、民兵で舗装、結果良ければ正規兵で決着という流れか?
機関銃の交換部品、機関銃弾が届いて銃弾幕復活を始める。敵は死んで敷設された胸壁に足を取られて前進が鈍り、全力射撃を加えるよりは慎重に狙い撃つことが効果的になる。
「ピルック隊、前へ! 人民海兵隊歌!」
『人民海兵隊歌!』
優勢確認、軍楽班演奏開始。
ヤザカの河口から、キアチェカトルまで
革命の矢となれ、岸辺に旗立て
広げよ解放戦線、社会正義を
もたらす先鋒我等、人民海兵隊
赤い日の出から、月が沈むまで
人民の盾となれ、極星示す地で
高波、吹雪、豪雨、熱射の下でも
厭わず遂行我等、人民海兵隊
覚醒のあの日から、勝利の日まで
民主の範となれ、専制を砕け
同志達と目指せ、自由の世界を
生み出す銃口我等、人民海兵隊
偵察兵、自動人形、銃兵、機関銃兵、砲兵の序列を基本にして、構築した防衛線を第一として、第二を築くに相応しい位置まで前線を押し上げる。延長基準は艦隊の支援射撃範囲内である。
程良いと思われる位置まで前進したら、ここまで進んだ間にあるのっぺりと広く転がる死体、土嚢、杭、武器などを拾って積み上げて整理して第二の防衛線を構築する。広い空間を確保する橋頭堡を築いた。
■■■
第一から第二防衛線まで構築。第三防衛線までの拡張は上陸戦力のみでは手に余るということで中止。第二防衛線より先にある土嚢等資材を回収整理し、塹壕を掘って防御を固めることに目下専念。戦闘中の応急処置として利用した死体は川に投棄して衛生面を確保。人手がいる作業の時は子人間兵がいて助かると思えた。
敵民兵は、一部統制の利かない者達の突撃が相次いだが全体的には艦砲の有効射程圏外へ後退。民兵後方に待機していた正規部隊もそれに合わせて後退し、後に大半の正規兵主力も後退と、河畔の戦いがほぼ終結しつつある。
女神党軍は民兵を囮に弾薬を消耗させたいとは考えているようだが、圧倒的な水上部隊の弾薬までは不可能と理性的に判断した模様。
川沿い下流側の農村部は、ナルクス隊の先鋒部隊が上陸してからニコラヴェル隊が掃討に掛かった。掃討後は第二防衛線に参加。
ナルクス隊は重砲など含む大量の弾薬を運び込まなければならないので上陸には時間が掛かっている。
戦闘は一時小康状態となり、セリン艦隊は喫水の深い軍艦を下流側に残し、浅い方を上流側に向かわせ、ナズ=ヤッシャー川戦闘流域の掌握を図る。
敵民兵の後退、上陸阻止行動の非積極性から艦隊専属の海兵及び水兵による陸戦部隊の上陸は一時見合わせ。水上から何時でも投入出来る予備兵力として温存。
上陸戦力予備を確保、艦砲射撃を全体的に行える状況と見做し、ナルクス隊が南から支援可能な状態となってからは不測の事態に対処可能ということと見做して東岸で待機していた国外軍の渡河が始まる。まずは艦砲の有効射程圏内まで展開する。
西岸に進出したところで気になる要衝として、下流側から見れば西側の丘の上に寺町城塞があった。
現地に詳しい水先案内人によればその城塞は寺院が宮殿を兼ねる、地方宗教的指導者が領主を兼任する小藩の都であり、孤立状態での防衛を前提にしていて周辺経済規模に比べて堅固に出来ている。
都市自体は艦砲の有効射程圏よりかなり外側になるので射撃は期待出来ない。
都市を奪取すれば艦砲の有効射程圏外への進出が楽になる。だが主力が渡河を終わる前に手を付け、よしんば占領しても突出し過ぎになる。艦隊支援外での孤立は危険。
敵は全面的な後退直後という状態で、指揮統制が硬直化してすぐさま反転攻撃をし辛い状況にあると判断可能。
反転し辛いその間隙をついて、有効な援軍が得られない領都を陥落させるのは悪くない。
間隙があると思い込んで攻囲したところで準備していた即応部隊を差し向けられて窮地に陥るという状況も有り得る。
帝国連邦式の重砲射撃による防御施設の破壊が無いと攻略時の損害も多かろうという見込みも立つ。
上陸した三個隊とナルクス隊の各指揮官――最上級はニコちん大将だが、主導権はナルクス少将なので同志将軍が仕切る――が集まって領都への速攻を協議した。まず陥落が望ましいということでは一致。
実行するかどうかはさて置いて敵の反撃能力は竜跨隊に確認させる
実行するなら、現有の砲火力で砲台を優先して防御施設破壊に専念。城門か城壁を破壊して突破口を開くかどうかはその堅牢さで判断する。
突破口を大砲で開けなければ自走爆雷での破壊を試みる。丘の下から走らせると到達不能なので接近する必要がある。
爆雷班を守るために、子人間兵を囮にする形でニコラヴェル隊が前進。小銃射撃で細やかに城壁の敵兵を撃って牽制するのが妥当。
自走爆雷で足りないなら工兵が穴を掘って城壁基部へ爆薬を設置して破壊するが、時間が掛かるので敵即応部隊の動向次第で中断する。
城内突入はピルック隊の自動人形隊が盾になり、次いで市街戦を得意にするナルクス隊から選抜した突撃兵が向かう。上空から、可能ならば竜跨隊の攻撃も欲しい。子人間兵は領都民と区別が困難で邪魔なので市内には投入しない。それ以外の部隊は、想定される敵即応部隊への迎撃準備をする。
ニコちんが渋い顔をしているが了承した。
人間の特権階級出身の内、慈愛も名誉とされる者の愚かな思考である。平時の自国内で自国民相手ならば人気取りになるが、戦時の外地でしかも保護対象ですらない外人部隊を相手に保存を試みるとは逸脱が過ぎる。その点を理解し、感情を抑え込んでの了承だ。
■■■
竜跨隊から都市情報が届く。
”都市規模は人口二万弱程度。北に丘を背負った城壁、その砲台は東西南三方へ均等分散し約三十門”
”即応部隊に該当する戦力は周辺に確認されず。しかし無傷の騎兵隊はいるので油断は出来ない”
とのこと。
ニズロム海兵隊の野戦砲を用いて南側から砲撃開始。可能なら突入時は太陽を背負って目眩ましをしたい。
砲撃着弾の様子から、城壁自体は岩盤に張り付けたような構造で表面が崩れても倒壊せず頑丈。砲台や塔、銃眼は十分に壊せる。
「ハッラハラー! ヤッシャーラー! エーベレラー!」
『ラララララ!』
まず奇声を上げる子人間兵達が前進。城壁からの砲撃で潰れ始める。発砲炎、煙によって確認し辛い砲台の位置が判明するので野戦砲の照準に役立つ。
ニコラヴェル隊も前進するが、子人間共とあまり距離を取らないようにし始める。これはいけない。
「伝令、ニコラヴェル将軍へ、先行部隊と距離を取るように」
「了解! ニコラヴェル将軍へ、先行部隊と距離を取るように!」
伝令復唱、走り出した。
子人間達の弱る士気を、接近し被害を共にすることで支えようなどという心算だ。愚かであり、ただ同情して傍にいたいという精神力をただ発揮したいという欲求に基づいている。
ニコラヴェル隊、子人間達が受ける砲弾の破片を受けて死傷者が出ても距離を開けない。伝令が戻って来て確実に通達したことを告げる。
軍事顧問団としてマインベルト王国で教練する際にはこういった非効率な行動は慎むよう指導しなければならない。
子人間達は城壁近くまで接近し、武器を振り、石弓で射撃し、挑発程度の石を投げる。
ニズロム砲兵の野戦砲が砲台を潰したが、今度は銃撃が始まる。敵銃兵の位置はその発砲炎、煙で露呈するのでそこへニコラヴェル隊が牽制射撃を行う。班単位での一斉射撃と選抜射手の狙撃を組み合わせている。
野戦砲が城門への砲撃を開始。扉自体は破壊出来たが周辺構造物は特に頑丈。ニコラヴェル隊の偵察兵が確認したところ、扉の内側以降は狭く入り組んで虎口となり、ここの一点だけからの突入は成功困難だという。
囮、牽制行動が効果を発揮したところで爆雷班が到着。自走爆雷を組み立て、対人散弾箱の代わり強装の爆薬箱を装着して対物性能を向上。
自走爆雷の準備整い、子人間達が作戦を理解せず中々進路を開けずに手間取ったが、マインベルト兵が何とか言う事を聞かせてから噴進開始。
手間取ったせいで自走爆雷は注目を集めた。噴進して車輪を回せば更に目立って銃撃の的になるも銃弾を物ともしない。装甲爆弾でもある。
「伏せろ!」
城門にぶつかり、擦って引っ繰り返ってから爆発。城門の枠毎破壊、破片飛散し上部構造物が崩れ落ちる。
爆雷で爆破した位置へ砲撃を集中。破壊残しを崩して道を開き、瓦礫の山を坂、階段と見做す。狭き門を歩き辛い坂に変えた。
「化学戦用意!」
子人間以外、防毒覆面を被って化学戦に備える。そしてナルクス隊の突撃隊が毒瓦斯火箭を城壁内へ発射開始。
「自動人形班、強襲型自動人形投入!」
「了解!」
強襲型が四つ足で駆け上がって突っ込む。瞬間火力重視の多連装斉射銃を撃った後、敵中に飛び込んで自爆する衝撃力はアマナ戦役で証明済み。
多連装斉射銃の発砲音と、人間には奇天烈不快に見える走る姿への驚きの声を確認。
「自動人形班前へ、突入開始!」
『了解!』
戦列型自動人形を盾に前進、瓦礫の階段を上る。強襲型が自爆する爆音、煙が上がる。
階段を上り切り、市内をやや見下ろす位置に到着。毒瓦斯と強襲型の影響で、雑品で応急の胸壁を築いて迎撃態勢を取る守備隊、民兵を多少麻痺させているが迎撃射撃が待っていた。自動人形を盾にして射撃開始。
自動人形で突入口を固め、瓦礫にも隠れながら銃撃戦を行う。
後続の機関銃隊が到着して射撃準備を済ませ、掃射を開始して迎撃体勢を抑え込んだ。
「ピルック隊、着剣! 突撃前へ、進め! ダフィード、フッラーイ!」
『フラーイ!』
操縦者が自動人形を突撃状態にし、共に銃剣突撃を敢行。
「ぼっくらは最強海兵たーい!」
『突っ込め奴等をぶっ殺せ!』
自動人形をやはり今回も盾に、しかし追い越す勢いで銃兵は突撃。走って突っ込んで、敵の目が動くのが見える距離で撃って、気圧され逃げていく背中を追って、それでも立ち向かう者へ息が聞こえる程迫って銃剣を刺し込んで制圧。
城門内側から都内に通じる交差点を確保する。橋頭堡取ったので、次は先の通りを確保して突撃隊が展開出来る空間を確保しよう。
「更に前へ……!」
建物二階、窓奥の暗がりから発火……。
■■■
「……ふんがー!」
バクバク
グワンワン
「ファエッ!? エッ! エッ!」
「死んでる暇はないぞ同志大佐!」
「んゃぴ!? これは!? うぉお!?」
目に血が入る、拭う。鼻血ぶっしゃー、拭う。頭、帽子が無い。拾うと中に髪と骨に脳みそがへばりついている? 死んだのに死んでない!?
「自分が分かるかね?」
胸倉を掴んで言ってくれるのはナルクス将軍!
「俺はピルック、チンポコさ」
将軍が「ホーハー!」と叫ぶ。
気合が入って「フッラーイ!」と叫ぶ。
ナルクス将軍の突撃隊、三角帽子風兜被りの同胞達が、我が隊を越して進む。
『ホーハーホッハー!』
流石は市街戦に長ける噂のマトラ妖精突撃隊。
防盾付き小口径の突撃砲で街路を制圧して敵の行動を抑制する中で、窓へ擲弾銃で毒瓦斯榴弾を撃ち込み、打撃爆雷で扉破壊、火炎放射器で中の敵兵を一掃する手際は無駄なく高速。そして射撃に絶好な建物は焼かずに拳銃と棍棒持って突入、制圧、偵察狙撃兵を配置して立体支援する形を取ってから進撃する街路を選択する。素早い。
ピルック隊は突撃隊が進んだ後、残敵がいないか二重確認していく。生き残りがいれば即殺害。銃弾は出来るだけ節約、しかし銃剣のみでは死に際の反撃を受けるので射撃は躊躇してはいけない。
宮殿である寺院は内城壁に囲まれていて大砲が必要である。突撃砲はほぼ対人、木造建造物を想定しているので火力が不足。上空には竜跨隊が滞空し、航空攻撃指示を待っている。グラストの術使いが火炎放射器より強力な焼夷攻撃を加えることが可能であるという。
数に限りある自走爆雷は温存するとして、内城壁破壊には野戦砲を使うことに決定。ニズロム砲兵が配置をしている最中にニコちんが提案をした。
「敬虔な彼等だから、寺院や神像を破壊されるより降伏を選ぶのでは? 狂信的に戦うならば、狂信的に守るかもしれません」
指揮を執るナルクス将軍が「弾薬は節約されるべきである」とし、降伏の使者を立てた。
寺院と市民の保存を条件に降伏が成った。
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