第408話「順応訓練」 ニコラヴェル

 長いのは移動距離のみ。ユドルム山脈西麓、西トシュバル自治管区の都ティミヌル市の駅へ短期で分散到着。ケチに先着した列車を中洲要塞に戻して残り部隊を迎えに行くことなどせず、全て西にあった緊急展開用に確保されていた車両で一方通行に送られた。

 馬に重火器を含んだ三万軍勢の降車も時間は掛からず。そこは大量動員前提の大陸横断鉄道であったので混乱は最小限、ほぼ皆無だった。帝国連邦正規軍より遥かに馬も重火器も少ない今遠征軍編制は許容範囲。

 尚、国外軍は馬や重火器の大半を先に、エルバティア征討作戦における終着駅ウルンダル市へ送っている。また別動隊の高地管理委員会軍は作戦地方より西方のウラフカ山脈から移動中とのこと。負担の分散軽減に余念が無いと分かる。

 到着したティミヌル市は新興の地方都市といった規模だが、ここに居てすら我がマインベルトの都リューンベルと比べて何もかも後塵を拝している気分になってくる。資金力、技術力、組織力で劣る。精神力では負けない心算だがどうだろうか。文化だけでもと思っても早々、近くで見れば見る程に優劣あるものではない。

「まとまったか?」

 執事のカルケス、走行する車両内での書類仕事は車酔いをしてしまうようで少々顔色が悪い。

「今のところ、このような物で」

「うん」

 後塵を拝すならばそれなりに、背中を追いかけるべく、特にイリサヤルでの組織的な動きを記録させた。この遠征には記者だけではなく学者に技師、画家に音楽家、商人や銀行家も同行させている。それぞれの見解を持って帰らせる心算だ。

 最先頭にて従軍する者達もいれば、後から本国が留学生を派遣する予定でもいる。まずは新鮮な驚きを記し、本国へ送って学ぶ前の参考とさせる。いきなり勉強に赴いても何から着目すれば良いか分からないこともあるだろうし、この人員物資大量移送の有事運行の様子は最先頭でしか見られない。留学生団が到着する頃には平時運行に戻っているので、この先遣学集団は拾う学びが浅くても必要。

 カルケスがまとめさせた報告書を読むと、鉄道計画と公衆衛生に関する論がやはり目に留まる。工場や物流は乗車しているだけでは分からないところが多いか。

「今はこんなところか」

「学者先生方からは現地調査をせっつかれていますが」

 第一回高地順応訓練と題してティミヌル郊外にて四か国軍で野営を張る計画である。遥か彼方の異郷の地とあれば新たな発見もあるだろう。だが、

「どこが立ち入り禁止かどうか分からないからな。総統に後で聞いてみよう」

 性急に知的好奇心の塊の方々を野放しには出来ない。ここは帝国連邦、別の国でもそうだろうが、余所者が好き勝手あちこちをうろつけば殺されても不思議ではないのだ。揉め事は困る。何も良いことは無い。

 西トシュバルにおいて支配的な部族はカラチゲイ族。その長ファイーズィー族長が狩猟へ接待してくれることになった。出兵式から友好的な交流というものは余り出来ていなかったので良い機会だろう。野を駆けながら、好き好きに飲み食いして狩ったり、その様子を眺めながら雑談に専念してもいい。

 理髪師のアルツに身形を整えさせてから出発。香水は無し。獲物の鼻はもとい、狩人の鼻に失礼である。遠征が終わるまでは香り物は使わないようにしなければいけない。

 出かけた先はなだらかな丘陵広がるトシュバルの高原。標高はまだ然程高くなく、思ったような息苦しさはまだない。徐々に更なる高地へと慣らしていく前準備。

 軍の皆も徐々に慣れるよう、怠惰に見えようが運動は散歩や、演奏に合わせて――ランマルカ妖精は袋管笛を披露――遊びで踊る程度まで。疲れ過ぎないように一日の三分の一から二分の一は寝ているようにと指導される。

 疲れ過ぎない工夫。それに従って狩猟はファイーズィー族長とその一党騎馬隊が遠くから獲物を包囲するよう、巻き狩り式で追い込み強引に群れを形成させ、接待される側へ誘導して、お遊戯なので視界に入ったあたりで散開させて捜索時間を短縮させる。そうしてから狩猟開始。遊牧民の狩りの様子を描きたいと画家が画材を広げる。

 銃に弓矢、槍に縄、猟犬に猛禽とそれぞれの”得物”は様々。自分は小銃を持って馬に乗り出たが、話す方が大事と考えて射撃は基本的に控える。用事はまずベルリク総統。当然人気者なので少々順番待ち。

 待っている時間を無駄にしてはいけないで各軍高官と会話。オルフ系の人物はフラル語が通じるので馴染み易かった。

 そして順番が来る。

「随行させた学者達が現地調査をしたいとのことなのですが、どの辺りまで許可を頂けるでしょうか」

「ご自由にとは言いたいですが、番犬に」

 ベルリク総統が指差す先、機敏そうな猟犬とは別の、熊かと思えるような犬がいる。

「目の良い泥棒番もいますからね。気付かない距離から牧民に狙撃されるかもしれませんよ。例外無い限りは牧民全て騎兵です」

 銃声と「命中!」『おぉ!』と喜ぶ声。銃煙を上げた射手は近くにいるが何を撃ったかまるで見えない。

「野営地近辺から出ず、動くのは明るい内だけ。走ったりせず堂々と、警告されたら従う。後は護衛がついた方が良いですが……アクファル」

「はい」

「親衛隊からエグセンかフラル語分かる奴選んで付けてやれ」

「はいお兄様」

「ありがとうございます」

「相互理解も目的ですからね」


■■■


 狩猟は長く行わず――そのための追い込み――昼食時を目処に終了。狩った獲物を食べるのは今日の夕食と明日。

 食事は給食方式であった。階級に拘わらず食事内容は同じ。種族で量と種類の違いはあるが既存の品目の組み合わせが違う程度。特別食はあるが、それは胃腸が弱った病人向けである。

 食前には手洗いとうがいを推奨、ではなく強制される。疫病防止の観点からで、伝染病を怖れるならば区別なく強制しなくてはいけないことだ。

 衛生指導のナルクス将軍が着剣済みの小銃を担いだ憲兵を率いてあちこち巡回し、所属や階級の関係無く「洗い直し!」「手洟をかむな!」「チンポ掻くな!」「ケツ穿るな!」と指導して回っていた。庶民はこう下品で不潔なものだからと今まで諦めた視点で見ていたことが間違いであると思い知らされた。腑に落ちるまでには、少し遠いか。

「聖なる種を世にお蒔きになった神よ。今日の昼餉に貴方のお恵みに預かることが出来ました。感謝の祈りを致します。この昼餉を祝福して下さい。この昼餉が体と心の糧となりますように。これからも家族、友人、知人、見知らぬ人々にも糧がありますように」

 と昼食前に祈りを捧げる。

 そしてその昼食後、呼び掛けの集合礼拝が行う。

 従軍の助祭が手鐘を鳴らし、司祭が代表して呼び掛ける。


  聖なる神の祝福あれ

  聖なる神の祝福あれ

  聖なる教えを私は今日も信じる

  聖なる教えを私は今日も信じる

  聖オトマクからの信仰を貫く

  聖オトマクからの信仰を貫く

  諸人募りて礼拝へ来たれ

  諸人募りて礼拝へ来たれ

  篤き正しき信者こそ招かれん

  篤き正しき信者こそ招かれん

  教会の扉は開かれた

  教会の扉は開かれた

  聖なる教えを私は今日も信じる


 我々聖なる神の教えを信じる者達は、厳格に教えを守るなら日に六回祈る。

 夜明け前。祝祭日は呼び掛けで集団礼拝。

 朝食前。

 昼食前。昼食後に呼び掛けで集団礼拝。

 夕食前。

 日没後。祝祭日は呼び掛けで集団礼拝。

 有事や旅中の際は大部分が聖職者でも省略か略式。

 呼び掛けに集まった信徒達は揃い、突き立てた、聖なる種が先端になった杖を一時の教会、壁の印に見立てて跪く。

 そして聖典を朗読する司祭の声に耳を傾け、後に説教を聞く。今日は「私達の今この地における行いは、聖都中心に考え、聖なる神の僕達として正しいか疑問を持つのは仕方のないことです。ですが今ここにある友人達と何事か成し遂げようという目標に向かう姿勢に疑念の余地はありません」という言葉から始まった。

 出発前から大体、司祭とはその旨で説教するようにと調整してある。こういう時に頭の固い学者系の者を連れて来ると面倒なことになるのは古来から。戦場は己の正しい教義理解を御開帳する場所ではないと分かっている者に限る。

 マインベルトは東方蛮族からの襲撃から西方信徒の盾となり、守って来たというのが伝統と誇りがあった。それが今や引っ繰り返ったようなもの。司祭の言葉は、何とも苦しいがそうであると受け入れるべきと告げる。このわだかまりの氷解がこの遠征でなされると信じたい。血で解かされるだろう、というところが不穏で、それしかないと思わされるところだが。

 我々がこのように礼拝する中、オルフの王后騎兵隊の者達も同じく聖なる神への礼拝――そうであると言われなければ気付かない程――を行っていた。不信心ながらどうしても脇に目が行ってしまった。口に出してはいけないが余りにも奇態だったので視線が吸われた。

 彼等はオルフ地方にいる少数民族のタラン族。王后シトゲネが代表で、良く見れば服装や装飾品、入れ墨には聖なる種の菱形に近いものが見られる。

 違いを越え、信じる者は同じということで今度は合同で礼拝するのも良いのではと初めは思ったが、異教と呼べる程に違った

 神学論争など不毛な争いが起こらぬよう、まず俗の自分が俗の騎兵隊長ミンゲスに彼等の教義全般を尋ねた。可憐な王后、話が通じるか怪しい呪術師を相手に話しかけるのにはまだ”親しみ”が足りないと判断。

 まず祈りやすさの為に用意される対象物が聖なる”光の種”である太陽であること。

 フラル語は一切使わず、聖典は存在しない。教えや聖句は呪術師が口伝で暗記。

 集団礼拝の合図は太鼓と、低いと高い音が混じったような喉歌。

 聖典朗読の代わりに、聖職者となる呪術師が降霊術により初代聖皇オトマク――遊牧の言葉ではウテバク――を身に宿して教えをタラン語で韻を踏み、強調する言葉を繰り返し、その時の状況や感情を再現するように踊り演奏しながら暗唱する。

 聖なる”光の種”の神を降臨させてその言葉を直接聞けたのはウテバクのみに許された術で、それが出来ない後継者達は預言者霊を降ろすことにより間接的に信者達へ神の言葉を語ることが出来るという論理が通る。

 祈祷は一日一回、太陽が南中高度に達した辺りで――悪天候時は神の機嫌が悪いので中止――皆好き好きにやる。合掌したり、数珠を擦ったり、棒を振ったり、踊ったり、石を積み上げたり、線香か無ければ牛糞を焚く。これらの組み合わせは自由で、手の込んだことをやるのは大体婆様方、らしい。

 そして終わりに”ヤー! ゥラッ!”とタラン族の掛け声を合わせて終わる。

 聖光派と言うのだろうか? 聖都中央から離れる程に教義は変性していくものだろう。

 神学論争を吹っ掛けたがっている者――特に若者。知識不足と情熱が合わさって危うい――がいるという前提にし、従軍聖職者達を集めて注意喚起。異端とこちらから見える礼拝を目にして精神穏やかではない可能性がある。

「彼等独自の礼拝の姿に驚き、中には不信や義憤すら覚える者もいるかもしれない。しかし彼等は古くから、長くあの形を守って来たものだと思う。新しいこともあるかもしれないが、それは古くからの形があってこその今だ。あれらは間違っていない。違うだけということと、何より我々は敵対するのではなく友好を深めるために来ていることを忘れてはいけない」

 この説教で足りるか分からず、従軍聖職者の代表を務める司祭に念押しして貰う。

「驕り高ぶって己が優れていると、知性と誤認している知識を振りかざしてはいけません。仮に神学論で語り、勝てば怒りと悲しみを買い、負ければそれを得てしまいます。信徒として、何より品性ある人間としてそのような行為は忌み、避けるべきものなのです。そも中央正当教義が正しいことは揺るぎありませんが、人々がどう考え、どう思い、どう信じるかはそれぞれの手に委ねられます。フラルとは遥かに異なる環境で、異教に囲まれて来た人々がその孤塁を守ってきた歴史があれば変性が生じるのは当然のこと。多少の違いも許容出来ないのであれば、既にマインベルトでの教えの有り様も既に異教のように違います」

 一先ず、諍いの予防にはなったと信じたい。

 戦いが始まる前に宗教闘争に発展してはいけないと他の軍の様子にも注意してみた。

 オルフにおける魔なる神、聖なる神に次ぎ、そして世を救う神が降臨するという思想の救世神教。聖なる神の教えからの派生ということでそちらに着目。

 その礼拝は聖人画を掲げ、聖句を唱える聖職者が参列者に聖水を掛けていくもので、彼等の聖典を朗読し、説教をするなどこちらと大きく変わりはない。ただ奇異なのは救世神教の守護者とされるゼオルギ王は儀式を見ているだけで参加しないこと。ゲチク公等も同様で似た者達も多く、では蒼天の神の教えに従ったような儀式をするかと思えば特に何もしない。

 蒼天風と言えば酒を飲む前に、杯に指を入れて空に向かって数滴振り飛ばす仕草が見られるが、これもする者としない者に分かれる。気が向いたらやる程度のいい加減さでもあった。羊の肩甲骨を焼いて割れ方から占いをしている者もいるが、どうも人生相談を行う前の儀式程度に見えた。

 ベルリク総統は全く何もしない。他の蒼天の神の教えに従う者は、儀式をしたりしなかったり、自由と言えば自由である。だが総統の妹は身形が呪術師なので何かを司っているかに見えた。

 どうも話しかけづらい雰囲気の人物――それ以前にあちらの女性に声を掛けることが正しいかどうか雰囲気を掴みかねる――で、ベルリク総統に「妹君は専属の占術師であるのでしょうか?」と尋ねてみる。

「それでは殿下、占ってみますか。遊びみたいなものですから教義に反するわけではないと思いますよ。特に何かの神に未来を予知して貰うわけでもないので」

「では試しに」

「アクファル」

「はいお兄様。準備してきます」

 総統の妹は一旦この場を離れ、嫌がり暴れている羊を片手で引き摺ってきて、拳骨一発で失神させ、首を素手で圧し折って、捩じって引き千切り、血と管がぶら下がる頭を持って掲げ、脳天に両親指を差し込むよう握り込んで割り、そこに手を入れ広げて解体し、脳幹千切って脳みそを「じゃーん」と取り出した物を見せて来た。そして脳の皺を指で数えて出た答えが「はい」の一言だけである。

「どういう結果でしょうか?」

 答えは沈黙。しばらく待っても妹殿は沈黙。何なの?

「総統?」

「私の解釈だとこれは鏡です。この時感じた感情だとか考えだとか、それが今一番自分に正直なもの、という感じでしょうか」

「そうなのですか?」

「さあ。アクファル分かる?」

「はい、いいえお兄様」

 何なんだ?

 占いが終わった後、虎の毛皮を被った青年が本をモゴモゴと低く小さく音読しながらこちらを睨んでいた。何なんだよ!?


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 ユドルム山脈中央のユドルム共和国。要衝を抑えるためだけにあるような純軍事的構成国で、中央政府外の意向や利権が入り込まないよう純潔のままにいさせる工夫が見える。

 その共和国の都のように思えるが指定はされていない旧レーナカンドに列車は到着した。そこは軍事基地であり、大量動員機能を持つ。

 基地としての様相は立派だがそれだけである。かつてのアッジャール朝の中心地だった気配は不自然な整地が目立つのみ。集団宿舎はあるが一般住宅、幕舎も無い。こう、人が文化的に、ある時は愉快に過ごそうという気配が微塵も無い。

 この明確な都市抹消の跡地を親子三人で肩を並べて回るゼオルギ王一家の背中が遠い。薄い幻が掛かっているように見えて来る。

 ティミヌル到着前までは各国、列車毎に分かれていた。その前の中洲要塞では慌ただしくて注意の目が散漫だったが、その到着後はより濃密に接触し、互いに少しは慣れて来たこともあって異民族、異教に異端の違いが目に見えて来た。

 高地適応訓練が目的だが、それ以上に異文化適応訓練の様相を呈していたとも思う。即座に戦場に赴かず、交流を重視して連帯感を強めようとする今のやり方は好ましいと感じる。

 一気苛烈、枯草に火を放って突風浴びせるようなやり方が帝国連邦の印象であったが、今では準備に準備を重ねてから繊細に築いた堤防を決壊させて洪水を怒涛に浴びせるような戦い方が基本であると分かる。今まで連戦連勝してきた理由が幸運だけではないと分かる。”これ”と国境を接している上で敵対しなくて良かったと分かる。


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 第二回高地順応訓練は旧レーナカンド基地周辺で野営すること。軍事基地、大量動員機能を持つ駅としての設備は整っていて物質的には全く不自由しない。

 ここでも運動するにしても散歩程度まで。その程度ですら辛く、疲労が休んでも抜けていかない。大きくゆっくり呼吸をするようにしても何か足りず空気が薄く、これは大袈裟に軍事訓練などしていられない。たまらず激しい運動をしようと動き出した者が高山病で低地に搬送される事態も発生。

 身体を大きく動かしてはいけない。ならば座学となり、高地管理委員会という官僚組織に属するエルバティア人のアフワシャン委員が講師となる。元はイスタメル州総督ウラグマの筆頭獣人奴隷。老齢で引退解放後は帝国連邦に属してエルバティア人を指導。解放獣人奴隷界隈で良くあるらしいが、故郷に戻ってその経験、人脈を生かして支配者層に収まろうとしている。優秀なのは間違いないだろうが、同胞を多数殺戮してまで乗っ取ろうと言う極悪人だ。

「まず、伝統的なエルバティアは四類に分かれる。支配の男、使役の者と放浪の者、出産の女、弱体の者、それから居住地で異なるが非エルバティア人農奴。

 使役と放浪の者は、男ならば支配の男を殺してその権利を奪い取れる。この伝統に則り、支配の男達を皆殺しかそれに近い状態、完全降伏に追いやって我々が新しい支配者となり帝国連邦に加盟する。

 何故そのような権力闘争に加わることになったのか? 大義名分を伝える。

 現支配層の頭の中は古い。ケチに山の近辺で農奴から生贄取ったり、遊びに人を狩ったり、近隣住民や旅人を襲うようなコソ泥みたいなことばかりやっている。お前が言うか、と言われそうだが、あえて言うなら今の奴等は蛮族。この界隈なら最後の蛮族と言っていい連中だ。産業と呼べるものはほぼ無い。奪う殺すぐらいしか出来ない。この現代でそれしか能が無いとは生きる権利が無い。

 新しい体制ではコソ泥から戦士に変える。傭兵と言ってもいい。それが我が種族にとっても、帝国連邦にとっても良いやり方だ。

 頭の古い者は成人の儀式に人を殺し、生の肝臓を食う儀式だけは失ってはいけないと考えている。それを改められるのは新しい我々だ。中世から現代へと価値観を改める意志がある者達。私はその代表として今ここに来ている。

 伝統の軽視は非難されたり、それが恥とされるから忌避される。そう見做し、価値基準を作るのは今あの山で女を侍らせている支配の男達。我々が成り代わった後にそうではないとすればそうではなくなる。

 オルフとマインベルトの君達には、だからどうした、という感想しかなかろうが、これが大義名分だ」

 共感しようと思えば出来るとは思う。彼等が考える現代的価値観というものは分からない。ただ、マインベルト人が考えても仕方の無いことであろう。

 それから現地エルバティア人の姿、格好等の説明に入った。

「民族衣装として箱型縁無し帽を被る。男は装飾無し。女は羽根や硬貨に宝石で派手に服まで飾る。

 女が目立つ格好をするのは人間の女が高い悲鳴を上げる能力を持つように、危機が迫った時に目立つ工夫だ。またその目立つ飾りの量はそのまま財産量に直結する。財産と言うものは女が持つ者で男は武器や仕事道具しか所持しない。

 服装以外で男女を見分ける方法は女の方が太っていること。鳥頭系列の広義の獣人は乳房、授乳機能を持たないので胸ではなく腹で見分けられる。

 女装で不意打ちを狙う者もいるかもしれないが腹は隠せない。大きな腹は優れた女という証で隠すこともなければ布を巻き付けることもしない。腹の嵩増しのように巻いている者がいたら間抜けな女装の可能性がある。少なくとも馬鹿か、何か企んでいる女なので殺害対象だ。

 男は幾らでも殺して良い。女は抵抗さえしなければ殺してはいけない。エルバティア同士の抗争なら女は戦いに参加しないが、外人が混じれば外からの侵略となるから別件だ。各隊には”新しい”エルバティアが同行し、外人は全て傭兵であると宣伝する。上手くいくとは限らないから殺意は高めておいて欲しい。

 支配の男達の中には首から上の羽毛を全て剃っている禿げ頭の長老達がいる。彼等は元老院議員で和平交渉相手になる。抵抗するなら殺して良いが、彼等を勝利の後、生きたまま各地へ引き回して体制が変革したことを知らしめるために使うから出来れば生かす。

 議員候補として選ばれた頭の天辺だけ剃っている者がいるが、これは殺害対象。遠慮の必要は無い。

 それから諸君等には分かり辛いと思うが、私のように物事を説明出来るような頭や口を持っている者は山では頭を剃っているような者ぐらいで珍しい。猛獣を相手にするくらいの気構えでいてくれ」

 次にエルバティア人が使う武器や道具について。

「足弓の説明だ。旧式小銃ならともかく、今の施条小銃の方が威力と射程で優れているから単純な武器性能の差では自信を持っていい」

 足弓は、一対の長弓が弦も共に交差し、下端部には足で踏む横棒が付く構造。

 使い方は、まず普通に矢を番えて引き絞る。それから片脚を上げて横棒を踏みつけて更に強く絞る。これで構えが出来て、後は通常の弓に準じる。構えが出来た後の姿勢の調整幅は狭く、狙いを変え辛いように見える。

「これは遠距離から油断している相手とか正面から真っすぐやってくる相手に使う待ち伏せ射撃に使う」

 銃弾に耐える胸甲が的になっていて、長く重い矢は貫いた上に通り過ぎた。装甲兵でも二人は串刺しに出来るようである。

「次は蹴り射ちと呼ばれるやり方だ」

 まず左手は弓を軽く持ち、矢を弦に番えてから弓の中央を足で掴んで蹴り出し、そうしながら左手は離して脚が伸び切った瞬間に矢を放つ。的の胸甲に矢が当たり、先端が滑って弾かれた。比べて弱い。

「私がそこまでの名人じゃないからだが、少し不正確だ。ただ当てる奴は当てて来る」

 上手い者は真芯に捉えて貫く威力で射撃してくるということか。

 次はその足弓を分解して、長弓二本にした。

「基本的に一組にした足弓は待ち伏せ用の、大砲みたいなものだ。この一本での普通の射撃が基本だ。大体、エルバティアから襲撃する時は不意打ち狙いしかないから同胞じゃないとこの使い方は見たことが無いかもしれん」

 次に、矢ではなく地面に転がる石ころを手に持った。

「相手の矢が尽きても油断するな。矢は高級で普段使いはしないから皆、弾弓を心得る。その辺の石ころでもこうだ」

 長弓で石を飛ばし、胸甲に命中し凹む。

「エルバティアに勇敢という名誉は無い。戦いに名誉は求めず、狩猟を求める。戦いとは一方的に相手を狩るものという認識だ。逃げる時はどこまでも逃げ、隠れる。不意打ちの成功を喜ぶ。一方的な殺戮を望み、生け捕りにした獲物を弄ぶのが面白い。野性の獣は基本的に危険を冒さないように努力し、慎重に、弱い者や群れから逸れた子供や老人を狙う。エルバティアの戦い方とはそれだ。それを補うのが登攀能力。お見せしよう」

 アフワシャン委員が弓に矢筒を背負った武装状態で、杖代わりに矢を一本持って登攀を実演。選んだのは、旧レーナカンド都市整備において削られたと思われる垂直の崖。

 尖った鏃に爪を崖の僅かな凹凸に引っ掛け、手のような良く曲がる足の指で握るように張り付いて登る。勢いがつけば矢も使わずに足だけで駆け上がる。そして中腹で一度、足だけで壁面にへばり付いて身を丸くした。地味な服の色と合わされば岩の一部にしか見えないこともない。

「今は背中に背負ってるから目立つが、こうやって隠れていることもあるぞ!」

 そして壁面で”真横”へ立ち上がり、その姿勢で長弓を構えて放った。当たり前だが人間技ではない。

「こうやって立つのは極端だが!」

 今度は壁面に背中を向けるように両手でぶら下がり、足だけで長弓を構えて放つ。

「こういうこともしてくる。こんな綺麗な崖ばかりじゃないから、ちょっとした段差、反射面を利用して武器から姿から隠して来る!」

 身体の正面を受講生である我々に向けながら崖を登ったアフワシャン委員、上った先の崖縁、下からは死角になって見えない位置から小銃を掴んで取り出した。

「貧乏な連中だからあまり出回ってないと思うが施条銃持ちがいたら厄介だ。覚悟しろ!」

 委員は崖の壁面にしゃがんで身を小さくした状態で施条銃を連射してみせた。下から見れば小さく遠く、高いその変な”立ち”位置を目より脳が理解したがらない感じで幻覚染みている。

 エルバティアの曲芸に圧倒された後も講習は続いた。

「ガエンヌル山脈の道路事情については、まず人間の考えるような道が無い場合が多い。先程の崖登りの通り、街道を開く必要がそもそも無い場合がある。あっても子供や妊婦用に鉄杭が打たれて、鎖が張ってある程度だ。ここまで厳しい場所は高地管理委員会部隊が担当するから諸君は進まなくていい。

 冬季戦まで延長する予定は無いが、訪れの早い冬が来ればその希少な道すら氷雪に閉ざされて消滅することは先に言っておこう。冬は地形が変わる。流れる川が凍てついた道路と化すので不便ばかりではないが、現地に取り残されたなら何が何でも早く下山することだ。夏でもそうだが川を下れば何とかなるかもしれないことは覚えておいてくれ。

 現地では、冬は蓄えに頼って引き篭もって生き延びるのが普通だ。時に年寄り、子供も食う。エルバティア人ですらそうなのだから諸君等は一冬越そうなどと思わない方がいい。

 長期戦になったら一旦撤退して、また来年の夏に侵攻を開始する。だから来年に続いても有利を維持出来るように可能な限りの男を殺戮し、農奴が運営する農村機能を停止させることが求められる。

 水が流れるところ、川や湖の周辺に緑はあるが、後は砂に礫に岩、良くて土の砂漠が広がる。直射日光は厳しく、空気は乾燥し、昼は暑くて夜は一気に水が凍る氷点下に至ることもある。その上で天気の変わりやすい山なので突然に落雷や豪雨、吹雪に雹が降って来ることもある。冷える夜に大雨を直接浴びれば凍死が有り得る。視界が利かず、音も凄まじくて行方不明になる可能性が大きい。まず集団からはぐれないこと。少し脇道にそれ、見られるのが恥ずかしいからと糞でもしにいった途端に急に降って来て道が分からなくこともある。遠慮せず、その場で垂らせ。どうせ乾燥しているから直ぐ乾く。糞を踏んでも死にはしない。

 標高が比較的低いところ、水場を前提にして渓谷や坂が緩いところには農奴の農村があってそこには人間が住んでいる。現地人というよりは拉致して来た人間の子孫だな。喋り言葉すら怪しい連中ばかりで同じ村の者以外には敵対的に排外的、攻撃性が高い。同じ生物と思わない方が良い。似た姿の獣と考えてもいい。新体制では農奴は不要だから逆らったら殺して問題無い。後で判断するが、来年に作戦が延期された場合は皆殺しにして山の力を削ぐことも考えている。

 獣と言えば豹に注意だ。集団行動していれば襲っては来ないが、一人で糞しに行ったら食われて糞にされるなんてこともある。音も無く忍び寄って来て一瞬で喉を食い千切られるぞ。孤立が死と思え。

 山羊も侮るな。角の長い奴は牛を刺し殺すこともある。基本的に臆病だが怒れば角を立てて体当たりをしてくる。それに崖際だということを分かって落としに掛かってくるぞ。全て侮るな」

 世界はそんなに広いのか?


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 旧レーナカンドにしばし滞在し、静かに過ごす高地順応を終えた。

 第三回高地順応訓練は旧レーナカンドより郊外の、更に標高の高いところへ移動して野営地を築くことから始まる。実際の作戦ではここまでの高地には移動しない予定。付け焼刃の訓練では対応できない高地作戦は高地管理委員会という、高地系民族による専門の山岳兵が行う。

 まずただの野営が辛い。空気は更に薄く、寝て食うだけの生活でも講習にあったような悪天候で嫌になってくる。

 水が流れやすい涸れ川のようなところは避けて天幕を張ろう、と皆で水害に注意しながら場所を見繕っている最中に雨と雹と砂の土砂混じり洪水で一時川が出来て人も物も流された。救助活動も高地素人が動けば道連れになるということで全隊停止、高地登山が得意な者を選抜し結成させたおいた救助隊と伝令隊を出し、その救助隊より優秀な帝国連邦の専門家達に委任して待つしかなかった。そして石に切り刻まれた死体が発見された。

 ”半数以上の死亡確約””山岳沙漠の極寒灼熱”この打った広告の一部、選抜のために大袈裟にした心算だったが現実味が出て来る。まだ戦地にすら入っていない。

 早くも脱落者が続出。皆、士気は高いが寒さや高山病で下山を余儀なくされる。アルツは下山、カルケスは頑丈なので持ち堪えた。

 これだけでも辛い。その上で行う演習は仮想敵演習。ベルリク総統の親衛偵察隊を仮想敵にして訓練する。

 親衛偵察隊の面々は妖精とエルバティア人で、演習区域内にて隠れて回るのでそれを見つけていくという、かくれんぼになる。まるでお遊びなのだが、それが命を懸けるものだった。

 山道を進めば雲が流れ、霧となって部隊を包んで惑わせる。はぐれてはならないと前進を停止させ部隊を集結させて点呼を取る。集結は急がねば、という低地の常識で走ってしまった者が高山病に罹り搬送となる。病人は急いで運ぼう、という意識になって下山を急げばその者が更に高山病に罹ると不幸が連鎖。

 霧が開けるまで待つ間、先程まで厳しい直射日光と合わせて暑かったのに今度は汗が仇となるぐらいに冷えてきて辛い。辛いと思えば雨が降ってきてすこぶる辛い。

 そして嘘のように霧が晴れれば遠くまで太陽が明るく照らす遥かな高地の絶景が広がって感動。頑張ってついてきている記者や画家に学者が絵を描いたり写真を撮っている内に頭上から鏃の無い矢を浴びせられる。普通、人がいないような牙のように尖った岩の上に親衛偵察隊がおり、その内の一本は良く狙って自分の頭に当たっていた。勿論痛い。

 やられたらやり返す、ように矢を射って来た仮想敵を追うと今度は夏の灼熱。寒いと思ったら今度は暑さに襲われ、熱中症で倒れる者も出て来た。

 これが演習、何を反省すべきか分からせられる。この遊びも出来なければエルバティア人を打ち倒すどころか生還すら覚束ない。

 歩兵、騎兵による行動は砲兵に比べれば楽なものと分かる。

 行動を共にする事になったピルック大佐率いるランマルカ海兵隊の砲兵はかくれんぼに加えて砲兵陣地構築も行う。我々は砲兵を連れて来ていないので、この組み合わせで今後運用する予定が立っている。

 ランマルカ砲兵は、二体で砲身を担げる怪力の自動人形という機械を使っていて奇妙。絶壁の上に砲身、砲架、砲弾、観測器具に土嚢――困難なら人形自体を盾に――を上げて陣地を形成。芸術的に無駄が無くて素早い。

「お前等ビンビンか!?」

『ピルックビンビンですよ同志!』

 ランマルカ語なのでそのまま聞いてもある程度分かるが、何を言っているか分からないことが多い。

 かくれんぼの戦績は不調そのもの。病人、脱落者も続出し、下山者の中から故郷に帰る者も出て来る。火葬されて骨になった者も含む。

 高地に踏み止まっても辛い。白目が赤くなる、酷い倦怠感、眩暈や頭痛、食欲不振に睡眠障害といった症状はよくあった。目標を追いかけるという性質上、どうしても思わず走ったり、標高の高い方へと冒険をしてしまい風邪のような症状を出したと思ったら血を吐いてまた死亡者も出た。殺しに掛かって来る敵がいないはずなのにこの有様だった。

 夏の夜、それでも特に寒くて岩肌が雨と雹で氷結して転倒者が続出した日。疲れ果て、指揮官としての義務を果たそうと遺族への手紙を書いたり、明るい内にピルック大佐と決めた仮想敵追撃経路を見直してどうしようかと考え、戦地で照明を灯して夜を過ごすなんて無防備が過ぎるとやっと気づいて就寝準備。高地では思考力が下がる。

 寝ようと布団の中で努力し始めた時、降った雹を踏み潰す歩き――滑り止めになる――で来客の音が聞こえる。

 自分の天幕の前で衛兵が「殿下はお休みです」と止めた。

「俺の名はピルック、チンポコさ」

 と間違いの無い応答。

「お通ししなさい」

 と大佐を招き入れる。演習で提案でもあるのかと思えば、

「ニコちん寒い、一緒に寝よ!」

 と布団に潜り込んで来た。

 分からない、こいつら一体何なんだ?


■■■


 この世の苦しみとはこれだと山に教えられたような第三回高地順応訓練を終了し。ユドルム山脈を降り、東トシュバル自治管区のクシュタウに到着。パっと見て分かるぐらいに民族多様な都市で、それはベルリク総統が起こした諸戦争の影響で生まれた難民や強制移住民が多いかららしい。元よりそう光の面がある人物ではないが、そういう情報を得ると警戒心が沸いて来る。

 高地に慣れてから低地に降りると身体が軽い気がする。それから普通の気温と気候がここまで素晴らしいとは思いもしなかった。

 一月以上の順応訓練は長いようで短かった。ただの滞在とするなら長かったが、高地慣れを実感する日々を思えばあと一月欲しいと思ったところ。苦しくてもまだ欲しいと思ったのは仮想敵を先制して見つけることがほぼ無かったことだ。ランマルカ砲兵が観測器具を使った時に成功はしたが。

 失敗は多かったが、何が駄目なのかは理解出来た。不安は多いが”死んでも国に痛手はない”とのベルリク総統が皆に掛けた言葉に励まされた……自分はともかくオルフ王に己自身は勘定していないのか? 分からない。命の軽さにも順応しなければいけないか。

 クシュタウへ向かう車中、高山病から復帰したアルツが本を読んでいたので尋ねた。

「何の本かね?」

「これは旦那様。ダンファレル博士の医学書です。外科に役立つかと……この歳で今更ですが」

「努力する姿は美しいぞ。恥じることはない」

「ありがとうございます」

 演習中、山を下りた先では昔床屋外科として振るった腕を披露していて各国軍医と交流があったらしい。

 山の上にいた頃、山の下では少しだけ状況が動いていた。

 広告を打った効果、記者が本国へ情報記事を送った見返りのように支援物資が送られてきている。食糧弾薬は兵站を管理する帝国連邦軍の手により今すぐお披露目、とはいかなかったが、着替えや酒に煙草は直ぐ手元に。家族のみならず遠征を応援する女達からの見知らぬ素敵なあなたへ、という手紙が届いて回し読みがされる。文字だけでその顔と胸と尻の大きさまで分かるという者も現れた。

 自分にも家族から、そして陛下からお褒めの手紙を受け取る。戦果もまだ出していないのに早いと思ったが、反セレードの過激派がこの話題で落ち着いてきているとのこと。

 仮想敵演習でピルック大佐が砲兵出身ということが判明して、家族の様子を伝える妻の手紙があり、クシュタウ停車中に雑談で何気なく息子が騎兵になりたいと言っていて、自分は砲兵が良いのではと思ったことをピルック大佐に言った。無理強いはしないが背中を押せるような言葉でも貰えるかと思った。

「何ぃ!? ニコちんの息子もまたニコちんでニコチンポなのか!」

「ええ、まあ」

 代々我が分家当主はニコラヴェル名称である。

「ならば穴埋め問題だ! チンポは穴を埋めるためにある」

「う、は、はあ?」

「砲兵問題を子ニコちんに出してあげよう。こう、絵がいっぱいで楽しい奴だ! そうしよう!」

 と言って「ふんふーん」と描き出してもう楽しそう。

 分からない。ランマルカ諸島から人間を抹殺排除したような残虐な者達が何故こうも?


■■■


 異郷と異文化への理解を深めつつ、遂に完全に低地のウルンダル王国の都、都市国家の延長線として同名のウルンダル入りを果たす。ここは外ユドルム行政区、ユドルム山脈からヘラコム山脈の間を跨ぐ広大な空間の重心。イリサヤル程とは言わずとも、軍集結地点としての駅と広場の規模は壮大。

 ベルリク総統を迎える隻腕のシレンサル宰相の表情に何か、怖ろしい物を感じつつこの駅の異様さに気が付き始めた。

 ベルリク総統の巨大な肖像画、像が目に入る。どうしても目に入るよう駅舎の壁に掛る”大”額縁と、それを遮らないよう配置された建物の列。総統へ敬礼を送るのは将兵、警察のみならず庶民も子供まで。視線は輝きが過ぎる。

 個人崇拝。聖都とて聖なる神に聖皇をこのように崇めはしない。

 ここは異世界か?

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