第387話「隙間を縫う」 ベルリク
エグセン地方と言うと割と曖昧な概念である。内部には複数の非エグセン人が居住しており、筆頭異民族としてのヤガロ人によるブリェヘム王国が巨大に存在。地理上だと北はカラミエスコ山脈、東はマトラ山脈、南はウルロン山脈で西はオーボル川――それらの延長線――に囲まれた範囲だが、それだけで区切るのは微妙に実情に合わない。
凡そ第一聖王カラドスの支配領域がエグセン地方という説明の仕方もある。ただそれは古代のことであり、伝説上の統治権が及んだ範囲は曖昧。その上で明らかに今の概念の方が広範である。
また別のエグセン地方を定義する方法として、当該地方に存在する三大司教領が聖皇の代理として聖なる教えをエグセンの辺境で守って指導すべしと定められた領域まで、というものがある。三領とは西のラスロク、中央のブランダマウズ、東のバンツェンであり、個々の領域はそこそこ広いものの圧倒的ではない。だが影響を及ぼす範囲は土地面積に比例せず大きい。実際的にも大司教達の監督下にある聖領、教会や修道院への教会税徴収代理権を保有し、何より戸籍や筆記義務のある日誌資料等を管理する権限を持っているからだ。聖なる儀式を教導する立場であるという以上にそれぞれの金と情報を握っている。
その一つ、バンツェン大司教領の首都を現在奇襲包囲中。遠目にも城壁の内側からは煙が立ち上っており、見せたくない資料を焼いているのが分かる。
マインベルト王国の孤立化を図るのが関税同盟の戦略。関連領邦を屈服させて外堀を埋めている最中で、これはその手始め……中央同盟戦争時のイスルツ奇襲包囲を思い出す。
包囲陣より少し離れた場所にて護衛達を遠巻きにし、自分は愛用の低い椅子に座る。色んな土地に持って行ったせいか結構くたびれて来ている。尻の重さより車と船に揺られた振動で歪んでいる。
「お忙しいのによくこちらまでいらして下さいました」
カメルス伯国が死に体の時に、その見なし宗主国のマインベルト王ヨフ=ドロス・サバベルフがわざわざ即時対応出来ない位置にまでやって来た。カメルスは北西、こちらバンツェンは南東にあって正反対。
本当にこちらの招きに応じて”よく”来られた。悪いとは言わない。案件の重さは場合による。
「優先順位はこちらでしょう。北は息子、王太子に任せております」
この会談は非公式ということになっている。マインベルト王は外套を土の上に敷いて直接座り、出会った時に渡したジャーヴァル産の葉巻を軽く吹かしている。
「大事ですが、よろしいのですか?」
「余程厚かましくない限りセレードの要求は飲むしかありません。それにこちらは腕を下げています。今更急いてはこないでしょう」
「まあ、そうでしょうね」
セレードがアソリウス軍も使った面倒で変則的な作戦の成果がカメルス一点攻めによるマインベルトの軍事介入阻止。そんな総力戦を避ける作戦内容を今更引っ繰り返すのは勿体ないと思われる。
指導者シルヴはまず、エデルトからより高度な自治権をセレードへもたらすことに成功した。関税同盟への参加により更に独立性を高めることにも成功。そしてエデルトの力を借りずにカメルスを取り込んで領域を拡張する見込みである。それも正規軍には一切の傷をつけず、予備師団一個による曲芸的決着だ。新大頭領の権威と名声の向上は疑いようがない。そして忘れてはいけないのは当人が魔族化済みであること。おそらく寿命は長く、これからもセレードの”お袋”としてこの人しか上に戴ける人物無しと言われ続けるだろう。そのような人物、本件含めてどこまで先を考えているか不明だ。五十年後を見越しての選択肢という可能性すらあって予測不能。
シルヴめ、先読みをさせない優位を取りやがったな。
葉巻を吸う。風が吹いて煙がなびいて、風上からは悲し気な声やら土のにおい。
バンツェンの首都、その城門前では捕虜達が穴を掘っている。捕虜の内訳は道すがら連行してきた民間人、逃げ遅れや降伏した兵隊、立場を無駄に主張していた聖職者など色々。その背後には監視要員として内務省から適任の特別行動隊――悪い奴等をやっつける銃殺隊――を配置している。これの見た目は物々しいが、ただ穴掘りをさせているだけだ。首都守備隊がこれを墓穴掘りだと勘違いする可能性はある。
まだ流血は無い。関税同盟に雇われた我等国外軍の一部がバンツェン大司教領を侵犯してから――帝国連邦と国境を接しているので途中に余計な土地は挟まない――戦闘は発生していない。国境警備隊は無血――個人規模の闘争までは勘定しない――で武装解除、道中の各拠点も同様で、首都まで来たところ、秘密の資料を焼きながら返答は待ってくれというところ。
うちの奥さんはこれらの風景を眺めながらお茶をしているぐらいなので、ままご機嫌だろう。書斎に籠ってケツに苔を生やしているよりは元気そうに見える。
首都包囲戦力は親衛一千人隊、親衛偵察隊、竜跨隊、グラスト魔術戦団一個旅団、ザモイラ術士候補生連隊、そして早期帰還した骸騎兵隊と合わせて一万程度。攻城兵器は実質装備しておらず軽装備だが、集団魔術を使えば城壁崩しは可能。
親衛一千人隊には城門前で規律正しく整列して威厳を見せる役を任せている。
親衛偵察隊には包囲陣に不穏な者が出入りしないよう積極的な周辺警戒をさせた。
竜跨隊には施条銃射程範囲外を意識しての首都上空の飛行、叫び声を上げさせての威圧。足場になる山が近辺には無いので、疲労を考慮して頻繁には飛ばさない。技術が進んでも羽ばたき上昇がキツいという身体特徴を覆すには至っていない。気球では持ち上げるにも足場としても力不足だ。
グラスト魔術戦団はザモイラ術士候補生連隊に対して訓練を行っている。遠征先での野営方法を教えるのが主で、天幕張り、水の確保、便所の設置、余った食べ物を保存食に加工するなど基礎的なことが中心。訓練施設で柵に囲まれたような教育だけでは使える兵隊にはならないのだ。後は威圧行動がてらに集団魔術、新しい詠唱術などを披露。城壁にバンツェンの守備隊が集まって見に来るくらいには派手で花火観賞の様相。
骸騎兵隊は元気に、暇を持て余しながら首都の回りを馬で駆けて奇声を上げ、野生動物――食えないようなものも遊びに――や逃げた家畜を狩ったり、羊取り競争で遊んでいる。南大陸からの遠征から帰って来たばかりで体より心が疲れているだろうということで食って遊んで寝ることを基本にしている。先走ったことはするなと指示してあるだけで自由行動。
骸騎兵隊の長であるキジズくんは「昔みたいにやっちゃ駄目なんですか?」とうるうるの媚びるような上目遣いをしてくるぐらいに力を持て余している。当時は幼くても中央同盟戦争に参加していた彼が昔を思い出して血がたぎっている。ラシージが書簡に”暇にさせると問題行動を取るので予定を繰り上げました”と書いていたのが良く分かる。
当時、イスルツの奇襲時はどうしていたか? 都市を囲んで、確か降伏を促すために城壁内に砲弾を何発か撃ち込んでいたんだったか?
当時と今回は違う。少なくとも砲弾でケツ蹴り飛ばせば何とかなるだろう、という”空気”を感じない。下手に突っつけば面倒事が増えるだけ、という感じがしている。あくまでも”空気”感なので確証ではないが、勘がそう言うので今は従っておく。
首都包囲陣の面子は多彩。しかしやはり、こうガツンと来ない。国外軍主力の帰還が待ち遠しい。
国外軍帰還の予定。
第二陣、指揮ラシージ。帰還した国外軍の再編作業があるので早めに”親分”は帰ってくる。帰還は秋予定。南大陸側である程度再編を済ませた上での帰還になる。
第三陣、指揮ナルクス。大砲等重装備を持っての帰還となる。帰還は冬予定。ここからが本番だが、その頃には状況が進展、変化している可能性が高いので無駄足になることもある。
第四陣、ニリシュ。少人数で作戦、演習結果のまとめ作業を行い、汗より墨を使ってハザーサイール軍に成果を引き継いでる。成したことを形に残して色褪せさせない努力が肝要だ。これが大事。帰還は来春予定だが、引継ぎが早く済めば冬までに戻る。
この上で同時に、現在までの国外軍の活動で教導団に送るべき逸材が発掘されて数が揃って来ている。一方の教導団でも実戦ならともかく教育者としては問題がある者も発見、かつてはそうだったが堕落によりそうなってしまった者も出て来ている。だから双方で人材交流を行う。
国外軍に充当すべき人材とは、平時には問題ばかり起こすような、恐れは知らないが常識も知らないような暴力信奉者である。治安の安定と国家軍事戦略双方を満足させるという難しい行為を彼等のような糞野郎、糞女を前線、出来れば国外に置き続けることで達成する。そういう人材は国内で探せばいくらでもいるし目立つことは目立つが、編制するために万も揃えるとなればこれが難しい。全体の一割もおらず、精々が百人に一人ぐらいだろう。飢えた獣のような腕っぷしの強さも兼ね備える輩となれば百人に一人でも怪しく、千人に二、三人程度かもしれない。存外贅沢な人材だ。
復帰不能な障碍者、少ない補充兵、人材交流による流出、止むを得ない個人的事情による転属などを経て、国外軍はハザーサイール作戦前の五万編制から四万二千編制へ減少する。障碍者達を特攻部隊として編制すればもう少し数は揃うが、それは一先ず員数外。
「バンツェン大司教に告ぐ! 我等はエグセンと諸地方に平和と繁栄を約束する関税同盟諸邦より決起し、集まった軍である! 城門を開き、関税同盟に参加せよ! かつての聖王カラドスの領域が現実的に復興されるべき日が訪れた。あるべき姿に戻る日であり、そうではない姿を保つことは出来ない! 最も古くを重んじるべきが最良である!」
リルツォグト隊長は繰り返しバンツェン大司教に対して壁外から降伏を勧告している。かつてのセデロのように、あくまでも関税同盟代表として聖王と聖王親衛隊の旗を掲げる旗手を連れ、借り物の力を見せびらかした姿だ。
因みに回りくどい言葉を使っている理由は、宣戦布告をしたわけではなく、あくまで巨大な護衛部隊を引き連れての外交交渉という体を取っているからである。だから直接的に言うこと聞かないとぶっ殺すと言わないのが今回の作法だ。
『降伏しなくていーよー!』
と声を揃えて上げる骸騎兵の一部。やかましそうな女二人が『キャハハハ!』と笑って勧告を台無しにしようとする。それに反応して他の騎兵も空に向かって威嚇射撃するなど、降伏の使者程には包囲部隊は無血を求めていないと主張をする。
表立っての威圧以外にもジルマリアが裏から手を回している。仲介人に聖職者を使っての懐柔工作だ。
材料は様々だが、関税同盟に加入すれば教会税の支払い義務が同盟軍事力によって停止されるという説明。それから加入手続き中や、加入後の財産等の没収に対する教会税分として奪われた分の補償を行うというもの。現金による打撃も拠点攻略に有用な火力。
補償に使う予算は神聖教会から帝国連邦への軍雇用費を充当。希望があれば応分の商品、現物供給にも応じる。そして帝国連邦が失う分は関税同盟から後で受け取る。
一度帝国連邦を介して処理を行うのは単純に神聖教会にも能く通じるこちらの事務能力と経験に依る。伊達にジルマリアは頭をハゲにしていないのだ。
首都側で動きがあった。城壁上にいた守備兵の多くが内側に姿を消し始める。熱狂的ではなく力弱さが感じられ、玉砕に打って出て来る雰囲気は無い。降伏前に広場に集合して武装解除について隊長から指示がある、という感じだ。
「セレードに屈し、川沿いの属三領も見放す。一時の護国は成りましたが、後が大変ですね」
「ですからこちらに参りました」
「そんなに関税同盟はお嫌ですか」
「ファイルヴァインの連中は癪に障ります」
中央同盟戦争時にそのファイルヴァインを奇襲した奴の言葉は違う。
「選択肢、程度に合わせて色々ありますが」
「私の一存、発言で決められる程に専制的ではありません。先の中央同盟戦争での背撃失敗以来、議会への影響力が……なのでそちらから案を言って頂けると助かります」
「委任は構いませんが無茶を言うかもしれませんよ」
「外圧に恃むならばそのくらいは」
後ろ向きに思い切りが良くはないか?
「秋口に全正規戦力で演習を行います。その時までにそちらの議会で独立保証のために我が軍を招き入れる議案、通して下さい。そしてそれが通る通らないに拘わらず相応の、関税同盟とは契約関係に無い正規軍を派遣します。お分かりになりますね」
「動員計画の中断、有り得ないということですね」
「そうです。そしてその軍事圧力を利用して更なる案を通して下さい」
「更なるとは帝国連邦への加盟のみでしょうか?」
「流石に帝国連邦、そして魔神代理領共同体傘下というのは伝統的に難しいでしょう。それが難しければ軍事経済に関する強力な同盟ですか。そう、丁度三国協商案という枠組みがありますので主催側のランマルカ、誘っているオルフとも協議しても良いかもしれませんね。ただ相手側との交渉が必要なので即効性がありません。だから予備的な防衛条約は必須でしょう。選択肢は三つ、共同体傘下、二国間同盟、四国協商への参加準備、どれもそちらが主導的立場になることはありませんが、いかがしましょう」
「四国協商案への参加表明を前提にした、防衛と経済協力を結ぶ条約の締結。出来るだけ飲みやすい方から行かせて頂きます」
二国間同盟はお手軽のようでいて、帝国連邦に振り回される形で命運を託すことになる。四国協商だと、成立すればの話だが派閥の一方に与して影響力を行使、ということも可能。
「加盟は流石に突飛ですからね。その前に外堀を埋めたいので、そう、まずは我が軍のマインベルト領内通行許可を迅速にお願いします。カメルス、”川岸の三邦”、そして西の非関税同盟領邦も手に落ちれば反対派もマインベルト王のお考えに同調せざるを得なくなってくるでしょう。これは差し出がましいことですが、対セレード交渉で追い詰められる程、追い詰められている雰囲気作りに成功する程に同調率、上がるかもしれません。演出は凝られた方がよろしいかと」
「お話出来て良かった。正直、迷いだらけでして」
「こちらも率直なお話が出来て良かったです。話してみなければどこまで手の内を明かして良いものか判断出来ませんでした。しかし本当に、西側との決別、我が”遊牧蛮族”の進駐、友邦の切り離し、内戦の覚悟、それから東西対決となった際に主戦場となる覚悟、数え切れませんが、決めてよろしかったのですか」
「西側についても主戦場になります。中立となれば東西から攻められます。教会勢は遠過ぎて当てに出来ないことは今回、分かってしまいました。そしてやはりどうしてもファイルヴァインの連中は気に入りません。ですが独立は保ちたいと考えます。協商案の件、進めて頂きたい」
手を叩く。
「そう致しましょう」
自分が偉そうに段取り、戦略を決めてしまったのだが正直、何が正解なのかさっぱりわからない。そういう顔は見せないが。
自分がマインベルト指導者だったとしても正解を捻り出せる気がしない。冗談抜きで同情する。譲歩はしないし後レン朝と同等か以上の属国化を視野に入れているが。
皆が好き勝手に、あらゆる開戦の口実を持って、破滅的な大戦を回避しつつ、それを脅しに小さな戦争を狙うのが今の国際情勢だろうか? これが新しい戦争?
首都の旗が下り、城門が開いて大司教が付き人を連れて出て来る。無血開城成る。
骸騎兵の連中が残念がって騒ぎ出し、騎兵が門へ雪崩打って来るのかとバンツェン側が慌て出す。
また門を閉じようか、守備隊が反撃体制を取ろうか、いやいや待てと多少混乱はあったが降伏手続きが済み、それからリルツォグト隊長が手を振りながら「降伏しました!」と遠目にも笑って、楽しそうにやって来る。借り物の力とはいえ脅しで権力者を、エグセンにおける聖職三大巨頭の一つを下したのだ。
マインベルト不戦敗による孤立無援は元より、先の中央同盟戦争時における降伏拒否の結果がまだまだ生きていると見た。
不戦敗の王は悔しがって良いか笑って良いか分からない顔で、その二人が顔を合わせれば挨拶程度で終わる。王の訪問は非公式なのでここで何か交渉するのはお門違いということをリルツォグト隊長は弁えている。
自分の前にその二人が揃えば、この東の分けわからん”御大将”は一体何をどこまで企んでいる? という視線を刺してくる。そうは見せまいとしているのは分かっているが分かるものだ。
割と自然な成り行きに任せて動いて来た心算だが……あれ、俺何かやっちゃいました?
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マインベルト王国における”川岸の三邦”とは、当該王国南東側、モルル川沿いに並ぶバンツェン大司教とビェーレルバウ及びルッハナウ自由都市領を指す。
バンツェンの前例に倣った首都包囲、穴掘り脅迫などに加え、大司教ご自身を降伏勧告の使者団に加えた上で、ブリェヘム王国河川艦隊による港湾封鎖準備の姿を見せることで降伏圧力を強めた。ここには神聖教会の遠征軍など、バンツェンの時と同様に姿を見せることはない。孤立無援。
使者団にマインベルト王を加えたらイチコロなのだが、非公式訪問なので王は帰った。自分との話し合いが目的で属国の降伏を手助けに来たわけではない。ただでさえ名誉を捨てているのにそこまで情けない姿を晒したならば国内統制も危うくなってくる。
ビェーレルバウの市長はバンツェン大司教よりも速やかに降伏勧告に応じ、また血が流れなかったと骸騎兵隊が騒ぐ。
わざわざ血を流すより無血開城の華麗さを面白がるリルツォグト隊長は「癖になっちゃいそう」という感想。
お次のルッハナウ市でも、降伏勧告の使者団にビェーレルバウ市長を加えるという雪だるま式の降伏勧告によりあっさりと無血開城となった
”川岸の三邦”の治安維持を名目に、降伏保証を確実にするため補助警察を動員する。国外軍は次の作戦に参加するので残留などさせないし、させたら骸騎兵が何をしでかすか分からない。
補助警察は中央同盟戦争など前例に倣い、現地社会のはぐれ者、ゴロツキを雇って戦力とする方針で進める。関税同盟側からはアソリウス軍が――関税同盟加盟国じゃないが――進駐して三邦の武装解除を完了させる予定。これによって一応、エデルト軍が我が帝国連邦国境沿いに展開するという事態にはなっている。何とも、今回の戦争は複雑だ。
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三邦を下した後にマインベルト領内を通過する。
これよりグランデン大公国とマインベルト王国間に存在するいわゆる”エグセン中部諸邦”の領域へ入っていく。緩衝地帯として存在が許されているこの諸邦地域では中世世界観が強いまま中央集権化も進まず、領内交通網も多くが未整備で関門はそのくせ乱立し、封建契約もそれぞれ好き勝手で、君主に話を通したからといってその臣下が従うわけではなかったりと個別対応をしていたらキリが無い面倒な土地だ。まるで未開の奥地。だからこそ地図にも表記出来ないような小邦すら乱立して自治権もそれぞれ強いわけであるが。
おおよそ、中部諸邦の東側はマインベルト王国の影響力を笠に着ている。我々が――体面もあって帝国連邦に付与され、関税同盟には与えられていない――手にしたマインベルト領内通行権を見せびらかせばもう己が丸裸ということは察するだろう。流石に己の力量が理解出来ず、情報から遮断された未開部族ではない。
ジルマリアの提案から諸邦を下す方法が決定された。各領主――そうとすら呼べない、場合によっては村長級にも――に対し、一斉に召集令状を送りつけて参じなかった地域へ骸騎兵隊を派遣、襲撃を仕掛けて見せしめにするというものだ。
いきなり参じなかった全地域に派遣するのは戦力が分散し過ぎるので代表的な地域を選び出し、まずはそこで惨状を作り出すことになる。ようやく出番になりそうだと骸騎兵達がはしゃいだ。
「首集めてもいいんですか!?」
「いいよ」
「そいつらで鍋作って食ってもいいんですか!?」
「いいよ」
「金玉と目玉取り換えたの引っ張って散歩してもいいんですか!?」
「いいよ」
手紙の送り先の選定はジルマリアがリルツォグト隊長と相談して決定し、執筆するのはリルツォグト隊長一人だけ。あくまでそこは関税同盟の仕事である。
通行権は帝国連邦が貰ったり、降伏を勧告するのは関税同盟だったり、我々も中々、面子や契約関係の隙間を縫う曲芸をやっている。
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