第381話「切り札を切って来た」 ベルリク
スラーギィ北縁にしてペトリュク南縁、北関門会議室に三国協商案について会議を行う。是が非でも何らかの決断をしなければならないというわけではない主旨にて、三国首脳級で集まった。各自鉄道で来たので割と気楽に集まった感はある。
鉄道で気楽に……互いに開戦となれば即座に国境線へ大軍を流し込めるわけでもあり、友好的なら大量の商品が行き交う。国家血流圧が激変する時代か。
集まったのは五名。こちらは自分とアクファル。
ゼオルギ=イスハシル。バルハギン=アッジャールの直系、オルフ王、救世神教守護者。幼少時に父王イスハシルが暗殺され、即位してから十八年が経過。太后摂政期が長く、国家分裂の内戦経験も暗殺時から始まって十年経験。そしてエデルトの影響を強く受けながら今日に至り、王としても国としても足場が盤石という風でもない。
ゼオルギ王は亡父の目の術を継いでいるという。その異能は相手の混乱を鎮めつつ嘘を吐けなくするものらしい。オルフの公開情報ではないが、秘匿される前に常識のように広まってしまっている。彼が臣下にあれこれと問いただせば、有る事秘め事包み隠さず喋ってしまう。父王イスハシルの目は比較して気の弱い者を魅了し、狂気へ導くものだった。現王ゼオルギの、何にでも正直になってしまう目も同じく狂気と感じる。普通、理性があれば言葉の制御が利くものだ。
マフダール。オルフの大宰相。全て一任するには不安なゼオルギ王の補佐役。人形操師とまではいかない雰囲気だが、彼の助言抜きに裁決が下されることはまず無いだろう。特に自分ベルリクへ向けてあからさまに顔の血色が変わる程に興奮、憧れの顔を見せる国王の手綱は握らねばならない。大変そうだ。
マフダール大宰相は亡父オダルにかなり似てきている。イスハシルの何が気に入らないんだ、と文句つけに来たことが懐かしい。
スカップ。北大陸西部担当の大陸宣教師。ここ最近で神聖教会圏が体験してきた多くの不幸がこの妖精の暗躍によるものと思われる。バシィール城主以前、マトラに転換点が訪れる前からこの界隈で活動しており、我々が気付いていないところまで見透かしている気がしないでもない。
この赤毛の妖精さんとの付き合いもそこそこ長いように感じる。相変わらず何を考えているかは顔からさっぱり読めない。ほっぺたつねってうにうにしても、兎の飴さんをその口に突っ込んでもやはり駄目だ。
三国協商を発案したランマルカ側の大陸宣教師スカップが進行役を務める。まずは決めやすいところから始めた。
第二次東方遠征時から実質三国協商を結んでいたような滑らかな物流があったわけだが、その無名有実を有名化することについてはほぼ議論も無く三者合意となる。ランマルカ、オルフ、帝国連邦の惑星横断線の維持構築、陸上海底に敷設される電信線についても合意がされた。
ともすれば世界の物流網から孤立しかねない地理的位置にあるオルフからすれば、西側方面との通商路しか頼れないという状況は避けるべき事態である。梃子を入れなければ広いだけの田舎になってしまう。
オルフの対外貿易の玄関口は陸三、川一、海三。
陸西のオスロフ、規模大。オルフ、セレードの国境線は広大な湿地帯で陸路も水路も地図で見る以上に使い辛い。従来は喫水の浅い積載量の少ない船でのやり取りしか効率的ではなかった。エデルト式鉄道が開通してからは湿地帯を迂回する形ではあるものの物流が改善している。
陸南のシストフシェ、規模中。鉄道規格が合わず、軍事面からも接続はされていないが駄獣に運ばせる商路とは比べ物にならない利便性がある。
陸南東のムビャオル、規模小。メデルロマ問題にて不活性状態が続いて長い。昔はスラーギィ、シャルキク方面からの草原砂漠の隊商路として活きていた。
川東のヴスラゲラ、規模大。オド川支流ヤザカ川とオルフを東西に走るアストル川の合流地点。第二次東方遠征時にはランマルカ軍と支援物資がここを大量に通過し、現在も帝国連邦開発計画のために取引量は大規模なまま。川沿い陸路としても良く機能している。
海北西のアルハエヴォ、規模小。港の位置だけならエデルト、ランマルカとの海路通商に便利だが、そこから内陸へ通じる道が不便で余り発展していない。また冬季の港の不便さは酷いもので、海面が凍結する前から訪れる大嵐で船は係留しておけず、全て陸揚げしなければいけないそうだ。
海北のザロネジ、規模大。オルフを南北に走るウォルフォ川の河口部で深い湾が海面状況を安定させる。厳寒期に海面が凍結する以外は港も非常に使い易い。第二次東方遠征前まではここが最大規模の通商拠点だった。
海北東のアレハンガン、規模大。ヤザカ川の河口部で、ザロネジ程湾は深くないが沖の島々が海流や風を大分緩和する。ランマルカと帝国連邦を水路で繋ぐ重要海港。こちらも厳寒期に海面が凍結する。現在、ザロネジよりも単純な貨物通過量はこちらが上回る。
ランマルカとエデルトは正面切っての戦闘こそ行っていないが敵同士。その上で北海の制海権はランマルカ優勢である。何時でもこの三つの海港からエデルトが締め出される可能性があるということ。
それから現在、オルフはエデルト式の機械を使用しているが、これからランマルカ及び帝国連邦式の機械を採用するようになれば規格も揃い、通商量が激変することは間違いない。エデルトが貧乏くじ引く以外は明るい未来がはっきり見えて来る。
見えているのだがしかし、三国協商条約以上の、何らかの軍事的同盟へ発展するには引き換え条件があるという。オルフ側が提示するのは、
第一。共和革命派指導者ジェルダナを筆頭とする政治亡命者の身柄引き渡し。先王殺害犯以外はその上で恩赦を確約。
第二。帝国連邦が実質管理するメデルロマ領の完全返還。
第三。港湾、水路整備計画事業への積極的な協力。
第四。エデルト式鉄道網からランマルカ式鉄道網への全面改修事業の負担。
即時合意不能な案件が四つ出された。
第一のジェルダナ等政治犯の引き渡しに関してはランマルカとして即答不能とのこと。詳細は不明だが、ただ飯を食っているわけではない様子だ。
そしてスカップはゼオルギ王を前にして秘密を秘密としたままだった。妖精は人間と精神の構造が違う様子。
第二のメデルロマ返還は、エデルトの尻尾ではなく「帝国連邦の最右翼となる覚悟があれば」差し支えないと説明。
「これは服従の勧告ではありません。連邦加入の誘いです。次期総統の座を狙って良いという意味で、実質は黒鉄の狼イディルが掴み掛けた遊牧帝国皇帝の座に最も近い位置にあります。念押しに、総統位は世襲ではありません。総統に成ったとしても構成諸国が遊牧皇帝として認めるかは別問題です」
この言葉、喋るのに差し支えないが、不意というか、思わずというか、反射的に”あっ”と言うような軽やかさで口から出てしまった。人間には間違いなく作用するということか。
第三、第四の事業に対して、帝国連邦の資金、資源、人材が無限ではないことが問題になる。既に進行中の自領開発計画が有り、海外からの発注分も処理しなければならない状況下では困難な要求。会議前の実務協議段階で財務省が、開発計画路線に変更が無いという前提で試算した投資額はオルフ側が納得する規模には至れないと分かっている。一応着手したが小規模、では約束を果たしたことにはならないのだ。もし路線変更した場合は可能となるが、多くの未来設計が破綻することも分かっている。
第四の鉄道規格の変更についての言及は、現在締結しているエデルト王国アルギヴェン家との婚姻による緩い同盟の解除が、相応に差し出す物さえあれば可能という話である。オルフとしてもエデルトの尻尾という立場は居心地が良くないようだ。エデルトの最左翼、という言葉は我々北方遊牧民からすれば違和感しかないので採用されない。
こちらからも条件を二つ出した。四条件を緩和するものではなく、こちらとしてもオルフを受け入れる場合の代償である。
帝国連邦からの条件は、第一夫人をシトゲネ妃に変えることである。アルギヴェンのウラリカ妃との離婚には非ずとも、その婚姻同盟解消をはっきり形にして貰うという意味である。
ランマルカからの条件は共和革命思想の合法化だ。現ニズロム公国勢のような共和革命派から転向してお咎めなしといった者達のように明確な主義者であろうとも穏当に扱うこと。これは暴動等の問題行動の合法化には非ず、事件を起こせば逮捕して公正な裁判に掛けて処罰するものである。
オルフの解答はこちらと同じく即答不能であった。
第一夫人の変更は高度に政治的で且つ個人的案件で後継者問題に繋がる。妃達はともかく、太后へ相談無しに答えられるわけはない。
共和革命思想の合法化であるが、将来的に王室排除へ繋がる懸念がある面が気になる。だが禁止しても広まる時は広まるし、排除される程に権威、権力が失墜しているなら主義の有る無しに拘わらず滅亡は不可避であり、そのニズロム公国を代表するような旧共和革命派が大きな一派として存在している以上、既に合法化は無名有実状態である。
今回の会議ではとりあえず、三国協商条約への調印に向けた文言調整の文書取引の約束が為され、それ以上同盟を発展させるための諸条件を解決するまで長い時間が掛るとの共通認識を確認し合った。尚、時間が経てばジェルダナの寿命が尽きる可能性が出て来るが、その時は遺体であろうとも引き渡す努力はするとスカップが約束する。妖精の言う努力するとは人間が口に出すより信頼がおけると、一応自分からゼオルギ王に補足しておいた。
会議の目的を果たしたところで、こう理性が蓋をしていたかもしれない言葉がゼオルギくんを前にして出て来た。目の力が無くても言ったかもしれない。
「黒鉄の狼イディルと黄金の羊シビリは遊牧民の弱点をわかっていました。それは人的資源、人口です。広大であろうとも草原砂漠が抱えられる遊牧人口はわずか。そこでオルフに目をつけて派遣されたのが父君の先王イスハシルです。拡大の限りを尽くして現在三千万人口に至った帝国連邦に対し、国土は比較して遥かに狭いオルフは現在二千万でしたか? 差は圧倒的です。それから、今こちらは後レン朝三千万を有しています。ランマルカは現在、人口に左右されない呪術人形による無人化計画を推進しています……で、よろしいですよね?」
「我が革命政府は自動化社会主義という新たな産業革命の波を迎えており、それに合わせた新進歩主義を獲得しようという段階にあります。無人生産による労働からの解放はまだ空想の域を出ませんが、究極はそこにあります」
スカップは自信満々の様子。人間と妖精の関係をどうするかという共存派と絶滅派の流れは既に古いように感じる。次は自動化社会主義と仲良し社会主義の対決か? 競い合う思想かは分からないが、非労働社会と総労働社会は真反対のような気がしなくもない……やっぱり違うかな?
「三国の合計値は高いものです。それを統一か同盟か共同体か、姿は何にせよ合算すると面白そうな数値になります」
「そうかもしれません」
ゼオルギくんが興味津々と答えてしまう。本人も嘘吐けなくなったりするのか?
マフダールが、本日はありがとうございました、と言う顔を作ったところで機先を制す。彼は悪魔の誘いを払う役目を持っていたはずだが、間に合わせるわけがない。
「ゼオルギくん、君と君の国が欲しい。それにそんな小さなところに座っていたら東から西の果てまで見ることも叶わないぞ」
■■■
三国協商の件で後回しにした客とバシィールで面会。北関門で”余計なことを言わないでください。これは失言ですが、本心です”と嘘の吐けない場でマフダールから言われた翌日。何度も感想が浮かぶが、鉄道は早い。飽きるまで褒めよう。
聖王親衛隊長のアルヴィカ・リルツォグト来訪。初対面ではないし、変な手紙とはいえ文通で交流がある人物だ。いきなり顔を合わせて、誰だこいつ? という間柄でもなく、心を閉ざす雰囲気にはならなかった。普段からの交流が大事と分かる。
彼女は主要国外交代表として格落ち感がある人物だが、表に明かせない、外務長官級でも発言してはいけない何かを持ってきているということならば適役だろう。
この訪問も突然に近い。聖王側から外交使節が訪れる旨は事前に外交部で受けていたが、代表として挙げられていた外交官は挨拶だけで早々に退室して親衛隊長との対面である。深めの水面下交渉が望みということだ。
「傭兵契約をお願いしたいと思います。お噂の国外軍とイスタメル傭兵隊」
イスタメル傭兵は軽装備で安価。全て動かすとマトラ低地が手薄になるのでどの程度出せるかは移民達と応相談だ。イスタメル移民がそのまま民兵そして出稼ぎ傭兵にもなれるが、鉄砲持って三、四、五日の農民を非防衛戦に出しては帝国連邦の名折れ。その上で”正規傭兵”だけなら三千弱も出せればいいところだろう。これは関税同盟が危惧する次の戦争規模に対して弱小であり、わざわざ要請する程の戦力ではない。あちらとしては平時から仮想敵として対峙している部隊であるから、実地で実力を確認しつつ、敵に敵を殺させて今後の圧力を緩和しようという考えだろう。分かる。
重装備の国外軍、アレオン戦にて損耗して現在傷病者含め約四万五千。これを本土に戻して人員馬匹に装備を整え再編し、それから動かすお値段は相当な物になる。こちらとしても負担は軽くないのでどうぞどうぞと簡単に差し出せるものではない。武器より命が安い雑兵とはわけが違う。
「お安くしましょうか。現地で補給は受けたいですが無料でも結構ですよ」
「正当なお値段でお願いします。現地での略奪はこちらの許可が無い限り控えて頂きますように」
「そうなると相応に高いですよ。そうですね……五個師団規模の騎馬砲兵を養う心算でいてください」
「五? 騎馬の砲兵で……」
アルヴィカ隊長の脳内で数値が回り出したのが見える。歩兵のように安くない。騎兵のように高い上に砲兵のように更にお高い。
「やっぱ六から七個ぐらいかもしれません。草原で馬を食わせるのと違いますし、砲兵装備が充実していますから人数頭数門数に割り増しが」
「えー……その破産するようなお値段は流石に無理ですが、具体的な数値を出して頂ければこの場で回答可能です、一応、はい」
「当面の予算は組まれているんですね」
「縁の深い銀行が複数ありますので、多少の伸びしろがあります」
「それはこう、こんな形の飾りがついている銀行ですか?」
両手で人差し指と親指くっつけて見せるとアルヴィカ隊長がほほ笑んだ。
金と借りのどちらが重いかは状況による。金も借りも相場は変動するし、踏み倒しも出来る。借りの分割はあまり聞いたことはないが、あれとこれであの時の分とすることは無理筋ではない。金は当然、分割払いが出来て数値化が絶対。借りの方が扱い辛いな。
「そちらの目指す関税同盟、経済同盟から軍事同盟への発展が予測されます。さて、同盟成立によって神聖教会との離別がなり、我々が現在保持している教会税徴収権が喪失となってしまうと考えられます。保証して貰いたいところですが」
関税同盟成立による実質の域内聖領の無力化となれば衝突不可避と思われる。ここで何もしなければエデルトと聖皇領の縦の線は切れ、弱体化は免れない。見過ごすとは思えない。そうなると今、我々の収入源の一つが断たれることになる。
初めはマインベルトとウステアイデンからの徴収だけだったが、予算に苦しむ神聖教会は聖王領内の聖領からの徴収権も支払いに充ててきているのが現状。そんな危うい資金源であるから予算計画に狂いが生じるような歯車として組んでいないが、痛いことは痛い。
「それは教会に請求して下さい。総額に変更は無いでしょう」
「手続きが停止している間の収入を補填して頂きたいものです」
「そうですね……」
アルヴィカ隊長、卓を指で鍵盤のように叩く。
「バルリー大公代行シュチェプ・パシェル及び聖シュテッフ報復騎士団幹部の身柄引き渡しの用意があります。一般と帰化組のバルリー人全ては流石に無理ですが……妖精さん達が喜びそうです。笑顔が見たくありませんか?」
「うん……」
これは想像以上の弱点を突かれてしまった。マトラ妖精宿願のバルリーへの復讐を引き換えにされると不可能な案件じゃなければ断れない。外交官ではなく親衛隊長を会談に持って来た理由はこれか!
例え外務長官級からバルリー大公代行を差し出すと言われても実行力に疑問がつき、戯言としてしまうところ。だがどんな汚いこともやってのける聖王親衛隊となれば嘘ではない。信頼と実績が物を言う。
バルリー残党は聖王領に対する戦略的手掛かりとして利用してきたことを忘れてはいけない。この道具を手放すのはいささか勿体ないが、しかしマトラ妖精の心情を考えるとそうもいかない。言葉や書面にした約束ではないが魂の契約なのだ。魂に逆らうことは自分には出来ない。
こんな切り札を切って来たか。やられたな、イチコロだ。
「保護を約束した者達を引き渡す不名誉、甘受出来るので?」
「なりふり構っていられないとでも声明出しましょうか?」
「まさか」
「それは冗談、失礼、無理です。ですが夜中にこっそり国境線に縛って転がしておくぐらいは簡単ですよ」
バルリー人への復讐はわざわざ世間へ公表して誇る必要は無い。真にその血に先祖からの恨みを注ぎ込んで墓穴へ突き落とすことこそがマトラ妖精の望みである。全て隠密裏に、外交問題に発展しないように事を運んでも問題無い。真に甚だしく臭い立つものの、行方不明事件として処理が出来る。
「ルドゥ、どうだ?」
暗殺者としても名うてと噂のリルツォグト相手に、護衛にルドゥを配置していた。ついでにマトラ代表として聞いてみた。
「発言する資格は無い」
「個人的で内緒の感想だ」
「そんなものはないぞ、大将。馬鹿を言うな」
あら、怒らせちゃった。
「とまあ……正当なお値段ということで、金庫番に計算させなければなりません。回答、具体的には待てる限界点を教えて頂きたいところです」
「カラドス=ファイルヴァイン陥落まではと考えております」
「ニェルベジツは?」
「まさか」
流石にブリェヘムの王都陥落までは待てないというか、そこに大金庫がありそうだな。
「試算の方、出来上がるまでこちらに滞在しても?」
「構いませんが、妖精さんが案内につきますよ」
「それは楽しみです。あとそれから、前向きにお話を考えてくれるようですので一つお土産がありまして……」
■■■
「さあ皆! この北極同胞さんが持ってきてくれた苔桃のジャムでナシュカちゃんが作ってくれた象さん印パイと、この悪いバルリー人の切り落とし、どっちが食べたーい!?」
『んー……』
「はいはーい!」
「はい!」
手を元気に上げるそこの君。
「どっちも半分こずつってダメですか?」
うるうるの物欲しそうな上目遣いで言われると、良いよ! って言いたくなってしまうが堪える。
「この悪魔大王め、呪われろ!」
「それはダメでーす」
「しょぼーん」
バシィール旧城館区画、今でもナシュカの菜園を兼ねる庭にて妖精の皆と遊んでいる。
皆で囲っているのは、丸焼きの要領で両側の支えから棒に吊るされている悪いバルリー人で、何とあの外交官。お土産とは当初話し合いの相手になると思われた男だったのだ。
前祝いとでも言おうか、何と言おうか、これは傭兵契約が成った際に聖王親衛隊からの、大公代行以下の身柄引き渡しの約束強度を示すものだ。
外交官を務めていただけありこのバルリー人、学もあれば位も高い貴族である。おそらくあちらの帰化、亡命バルリー人界隈で大騒ぎになる。聖王親衛隊の蛮行に結び付けられることは容易いと思われ、聖王自身の名誉に拘わりもする。それでも生贄に差し出して来たということは後戻りはしないと覚悟を見せたわけである。誠実さの示し方は様々あるが、東では指や腹切り、西では身内を切ることで表現された。
……そういえばソルヒンが指を切り落としたかどうか確認していなかったような気がする。見たくもないものは見ないと目が避けていたかもしれない。
彗星ちゃんとフルースくんが細い薪、焚き付けの初めに使う枝を持って元外交官の裸をつついて仲良ししている。
焼き方は炙り。こう、直火じゃなく間接的な熱でじっくり、皮はパリパリで中までジュージューみたいな感じに仕上げる。火はまだ点けていないから夕食だな。
パイなら今すぐ食べられるからおやつだ。
「つんつん」
「やめなさい!」
彗星ちゃんは脇を攻撃。
「お!」
「やめろ糞ガキ!」
フルースくんは元気一杯、枝を尻の穴にずっぽり刺してしまった。
「フルース、不潔だからいけません」
「やー」
ガユニ夫人が肛門を抉るように掻き回して枝を折ってしまったフルースくんを抱えて「閣下、失礼させて頂きます」と去る。普通の遊びと思って参加してしまったらこれだったのだ。一般的に、教育によろしくなかろう。
「まあ、良いものとは言えませんからね」
「やーあー!」
フルースくんはまだここにいたいと母の腕の中で暴れるが連れて行かれる。彗星ちゃんはまだ枝でつついて遊ぶ。
おやつの苔桃パイを短刀で切って、一口食べる、甘く酸っぱくてさくさくで生地も香ばしくて素晴らしい出来。甘い酸いの組み合わせとはなんと素晴らしい。
「おいしー!」
それから短刀で元外交官の頭、髪の毛に陰毛や脛毛を剃って「ひぃ!」と鳴かせる。焼く前に毛は剃っておかないとね。
「さけぶー!」
毛剃り中に暴れたせいで刃に付いた血を指でなぞって取り、近くにいた妖精の唇に塗って舐めさせた。
「さあ皆、今の気持ちは、どっち?」
『むみゅう……』
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