第330話「次の戦い」 ベルリク
ウレンベレから北西に回ってガンチョウ北部に到着。
季節を跨ぎ、既に暦上では冬が始まっている。しかし例年に比べて分かりやすいぐらいの暖冬で、降雪が遅く、まだ冷たい雨が降っていた。
ジン江河口部にある龍朝天政北部の主要都市ガンチョウの中心部は南岸、対岸に見えている。北岸部にも都市はあったが占領済みである。ただし完全に焦土化され、廃墟と化していて何も残されなかった。
ジン江線は堅固な要塞線である。大河を水壕として長城、防御塔、河川艦隊、おびただしい守備兵に砲兵が並ぶ。そしてその後方には永住出来るほど整備された兵営、無限に近い交代要員、極太の補給線が用意されている。地上からの目線では長城の向こう側は窺い知れないが、気球を飛ばせば見える。
堤防は南岸だけ固められており、北岸は手付かずどころか撤去済み。沿岸の森林も伐採、焼却済みである。隠れる場所も無い。
古来より氾濫の度に時の政権も脅かして来たこの大河は今、北岸の放棄によりその悩みから解放される可能性を秘めている。整備された南岸堤防は溢れる水を受け止めつつ安定した農業用水、運河を提供する。放棄された北岸は溢れる水を無限に受け入れる放水路と化している。今年の春ぐらいから始まるであろう雪解け水による大水は北岸の地形を破壊して泥濘化させ、気紛れな大雨は支流に中洲や湿地を作ったり消したりすると見込まれている。
そんな北岸から大河を渡って巨大戦列艦の横隊の如き要塞線に突撃することは可能か? 不可能である。数多の敵を血塗れにしてきたがこれに対しては全くと言って良いほどに攻略の糸口が見当たらない。我々が得意とする上流を取ってからの洪水作戦であるが通用する感じがしない。徹底した圧倒的防御力。名将不要、凡将雑兵だけでどうにか出来る体制だ。
これを突破する方法は色々ある。
川の氷結を待って大火力、大兵力で正面突破。
別方向から攻めて背後に出る。
経済崩壊させて維持出来なくする。
内乱を起こさせてそもそもの所有者を替える。
吃驚仰天するような新兵器、新魔術で大破壊してしまう。
要塞線を崩して艦隊を消滅させる程の砲弾を大規模投射。
この六つ、今この場で出来ることではない。川の氷結を待つ作戦は一番に可能性としてあるが砲弾がそれでも明らかに足りない。戦後も見据えた防御体制を考えると兵も足りない。それに川の氷割りを砲弾でやられればどうにもならない。暖冬の影響で川は今、凍っていない。
要所には南北を繋ぐ鉄橋があるのでそこを奪取すれば兵力を送り込めそうな気もするが、当然だがそんな事態となれば躊躇無く爆破して落とすだろう。それに爆破に失敗しても河川艦隊がいる。その艦隊を砲兵で抑えたとしても、鉄橋を渡った先は侵入者を撃退する虎口となっていることは想像に難くなく、百万の命知らずを突っ込ませても死体で詰まって塞がれるような気配がある。更にその一点を仮に突破してもその後方から豊富な予備兵力が叩き潰しに来るだろう。
このガンチョウ北岸部まで鉄道が直結して補給事情が改善したとしても根本的な原因によって限界が見える。立ちはだかる壁は高くて分厚い上に重なっている。
南北総軍によるランダン侵攻は成功した。だがそこから先へは補給事情が悪過ぎて攻め切れないとゼクラグから報告が上がっている。鉄道開通が成れば見込みはあるが、その建設は現在極東優先となっている仮に開通してもどれ程の人と獣と物資が飲み込まれるか想像がつかない。帝国連邦どころか魔神代理領を絞り切ってもどれ程までに攻め上げられるのか?
ワゾレ方面軍をつけたサイシン半島への後レン朝軍の侵攻も地形的な制約、制海権の問題で決着に至る気配を感じられない。それにあそこは敢えて敵対状態を維持させ、ある種の緩衝地帯にしてウレンベレを両天政から守るために使えるので決着しない方が良いとも言える。
攻勢限界を強く感じる。限界や出来ないことなどないという精神が通じぬ物理的限界を五感で感じられる。
ヤンルーを焼いてみたかったが高望みになってしまった。リャンワンを砲撃した昔を思い出すに、もっとやってやりたかった。
我々は結局、龍朝天政の中核地域、人口資源密集地帯にはほぼ手が出せていない。外殻の草原砂漠地帯――ユロン高原周辺部の森林地帯や後レン朝中核地域もその延長――を取っただけだ。我々の得意な戦場で勝利したまでなのだ。不得意な水域、ジン江線に至って足が止まった。
くそ、バルハギンはここを越えたんだよなぁ。征服王朝まで立てて息子に任せて。悔しい。バルハギン如きとか喋ってた自分が恥ずかしくなる。まあ、あちらはたった一年二年じゃなく、生涯かけて数十年掛かりだったわけだが……あれ? それだとそんな恥ずかしくないかもしれないな。
改めて極東方面の軍配置を考え、何が出来るかを考える。出来ないことをうじうじ悩むよりは出来ることをやる。これが帝国連邦軍精神だ。うむ、訓示しても良いぐらいだ。
サイシン半島戦線では光復党軍と天龍艦隊が前線で磨り潰されている最中で、天軍親征軍がその督戦中で、ワゾレ方面軍は更にその督戦中。全くワゾレ方面軍が戦闘に参加しないのは評判が悪いので砲兵を中心に優れた砲火力支援を実施している。この評判のために極東の砲弾供給はあちらへ集中してしまっている。鼻薬代にしては高い。
クトゥルナムの極東軍方面軍はウレンベレの維持と終戦待ちといったところ。親衛隊から人を抜いて良いといったら新旧一千人隊双方から一千人引き抜いていきやがった。遠慮しないのは良いことだ。極東諸族を監視する意味でも千人は過剰ではない。
極東艦隊は艦隊編制の下準備中。主だった艦艇がランマルカからの供与待ちという状況なので終戦後にどうするかという段階。
ハイバル軍はアシュキ川以東のハイバル王国の統制強化中。馬賊未満の放浪集団から、今や三千に迫る軍を揃えた才能が輝く。しかし若くて勘違いしやすい子なので心配と言えば心配である。姉ちゃん好きが高じて勢い余って、たぶん恩人と言って良いようなウズバラクを裏切る奴だ。半分か八割ぐらいそれを後に自覚している感じが笑える。
ユロン軍は自称ユロン高原の勢力圏確定中だった。自称領域内の”反抗”勢力の数と種類が多過ぎてまだ手古摺っていたので秋の内に命令を出し、ユンハル軍筆頭にブラツァン、ガムゲン、その他諸族にも軍を供出させて一気に攻めさせ、逆らう者達の目玉を抉らせ、その辺を徘徊させ平定を完了させた。ユロン軍の面子が潰れた形になるが、いつまでも下らない闘争に明け暮れて貰っても困る。その後、彼等の軍も引っ張り出した。
現在、ウレンベレの軍とハイバル軍を除き、自ら率いる親衛一千人隊に極東諸族軍合計六万をガンチョウまで連れてきている。どうにかして使ってやりたい。
ユービェン軍集団はヘンバンジュからガンチョウに至るまで、ウラマトイ臨時集団と天軍主力をジン江線前面に立てている。ヤゴール方面軍とレン朝復古作戦から戻って来たイラングリ方面軍が督戦配置に付く。グラスト魔術使い一個旅団がガンチョウ攻撃用に待機しているが現状攻め手も無く出番無し。選抜非正規一万人隊は後方連絡線警備に集中。これらの部隊は防御も考えて動かせない。
動かせそうな余剰兵力は、ウラマトイ臨時集団に一時的に組み込んでいたシム一万人隊――五千程度まで減ってる――だ。彼等は我々の傘下に入る前に血塗れとなったものの、その後はまともな戦闘に参加していないので別作戦用に連れて行くことにする。これで六万五千まで増加。
この遊んでいる六万五千をどこかで使いたい。今のところ、ユービェン軍集団の管轄範囲で使えそうな場所はない。であればランイェレン軍集団方面で考える。
ランイェレン軍集団はブラブン川線の前面にチュリ=アリダス臨時集団を配置し、レスリャジンの男女一万人隊が督戦配置につく。
黒旅団は禁衛軍拠点インシェから北征軍拠点ヘンバンジュ間のジン江線にて小数兵力で配置についている。現地、川の北岸は標高こそ余り高くないが複雑なタイハン山地が存在し、大軍の展開が不可能であり、南岸は開けていて防衛線が油断無く強固に構築されている状態。中核となるランイェレン市には中央軍の内、古参親衛師団とフレク砲兵師団、グラスト魔術使い一個旅団が配置。
ランイェレン方面の帝国連邦軍支配領域は大兵力が展開出来る地形ではなく守りやすい。そしてそこから対峙する龍朝支配領域は土地が開けていて大兵力が展開し易く守り辛い地形であるものの、大規模工事による要塞線建築で守り易い地形に転化してしまっている。かつてはこちらからバルハギンの軍勢は奇襲的に、迎撃捕捉が難しいこの地域から軍を送り出して中原入りしたものだが、その手は防がれた。
ブラブン川源流の高地から攻め入れるような気もするがあちらの地形は軍の通行どころではない。そんな無茶も突破してくれそうなダグシヴァル山岳師団だが、ヒチャト回廊にて重要な任務に就いており外せない。
状況改善の見込みはある。チェシュヴァン建設師団は鉄道建設に参加し、現在なんとトンフォ山脈以東にて建設作業中である。第二イリサヤル統合支援師団はタラハムに前線工廠建造中。ザカルジンの工廠建設指導終了後にダシュニルの工廠建設も終了し、遂にこちらまで到達した。即時にどうにかなるわけではないが。
■■■
ガンチョウ北岸からユービェンへ向けて進む。次の戦場を探す。
ガンチョウで受け取った、極東地方征服以来受け取っていなかった手紙を道中読む。
ザラちゃんからの手紙。
”次男命名ベルリク=マハーリール”の一文一列のみ。ちっちゃくして弟の名付け親になってしまったな。すごい!
さて、子に親の名前をつけるのは良いとして、マハーリール……何だ?
他人に聞こうかと思ったがこれはザラからの挑戦状だ。父さまはこの謎々が分かるかな? だと? 生意気な! こまっしゃくれちゃんめ!
今までの我が子の命名法則は、
ザラ=ソルトミシュ。初代聖王カラドスの娘ザラ、遠い先祖。アクファルの父方の母ソルトミシュ、遠縁で初代セレード部族王の姫から臣籍降下が代々続いて賎化していった女系。
ダーリク=バリド。捻らず拘らず、セレードの定住系、遊牧系の男性名。
リュハンナ=マリスラ。ジルマリアの母リュハンナ、自分ベルリクの母マリスラ。両親の母の名。
こうなると次男命名の法則としては両親の父の名ソルノク、ビヨルトを使うと収まりが良い感じだがそうはしなかった。父の名、ベルリクを使った。捻らず拘らずというわけではないな。定住系、遊牧系と名前を連ねる法則が適用されそうだ。しかし遊牧系でマハーリールの名前は聞いたことが無い。無いならば作ったか、どこから言葉を借用した? うーん、宿題されちゃったな。
ザラちゃん名義の別の便箋。
手紙にてナレザギーの息子フルースについて触れている。あいつも外に出ている時に生まれてしまったようだな。まあ、こっちのハゲと違ってちゃんと報告を受けているだろうが。
フルースくんとマハーリールくんは歳が同じで、マハーリールくんがちょっとだけお兄さんになるんだと。
ちんこい肉団子と毛玉が一緒に並んでいる光景が目に浮かぶ。隣にウサギのダフィドも据えて、か? それを眺めているザラにダーリク。特盛わっしょいじゃないか。うわ、家に帰りてぇ。
ナレザギーの奥さんがマハーリールくんの面倒もまとめて一緒に見てくれているらしい。良いとこのお嬢さんなら乳母任せだが、そうはしないようだ。俺のクソ奥様はハゲ仕事でメガネ忙しいだろうが、礼の一言くらい言ってるんだろうな……”私は胎を貸しているだけなので”とか言ってないだろうな……流石に自分以外にはそういう発言はしないか。たぶん、きっと。
ダーリクの手紙。
”彗星ってどこに落ちたの? 会いに行きたい”
文字は下手糞。言葉、綴りは教えて貰ったものだろう。内容はザラや周辺の者が気を利かせてあれこれ、お父さんはあーだのこーだのとは書かせていないので添削は無いと思われる。
彗星か。どこに落ちるんだ? うん? 分かんないな。会いに行くって、まあそういう表現もあるよな。
「アクファル、彗星ってどこに落ちるんだ?」
アクファルは無言で拳を額に当てた。あれはアクファルちゃんうっかりの構えだが、こちらに向かってお前うっかりだぞの意志表示でもある。転じてお前アホということでもある。
「あれ、落ちてるわけじゃないのか。いや、流れ星、うん? 隕石だって時々落ちるぞ」
「複数あり、長短の定周期、非周期もしくは推定で観測不能なほどの超長周期とあります。先のベルリク彗星は推定で非周期とされます」
「周期性……あ!」
うわ、恥ずかしい! お兄様、うっかりどころではないな。危ない危ない。地位が上がると無教養も罪だからな。
「……うん、何彗星って言った?」
「お兄様彗星」
”イヒィギャッヒャヒャー!”という嗤い声が聞こえた。幻聴である。
「おい、待て、それ、今つけた名前か? 命名妹様じゃないだろうな」
「魔神代理領天文台が付けた正式名称です。過去、何れの彗星とも別個と確認されたので固有名称がつきました。やったね」
……彗星?
ベルリク=マハーリール。天地星合などと、彗星と騒いでいた時期の誕生だ。
アス・アッル・ヒリールが大天の流れ先、つまり彗星という意味になる。うーん、近いような遠いような。
似た言葉でダス・アッル・バールが大水の流れ口、つまり大河の河口部。あのビナウ川河口の大都市の名前になる。うーん、関係あるか?
マハーリールは語感が魔神代理領共通語の詩的表現風だ。ルサレヤ先生の読み辛い恋愛小説の一説を思い出す。詩的表現にて一文に一々二重三重に意味を込めてきやがるのだが、そこから感覚を得る。
大きなもの、偉大な何かを詩的に、相手が物事を理解している前提で省略する時に”マ”なんとか、にする。先生の小説にはそういう省略しつつ意味を複数にする技法がふんだんに盛り込まれていて読むのが辛かった。
彗星はマ・ヒリール、凄い流れ先という詩的表現が可能。共通語で文字に起こしたマヒリールを、遊牧諸語の文字に移してセレード方言として声に出せばマハーリールじゃないか……これ、父さま正解です、じゃないか。
お名前、ホントにザラちゃんが考えたのか? 入れ知恵しそうな人物もいないし、そうなんだろうな。頭良いなぁ。もう自分より良いんじゃないか? これからまだ成長する? どうなるんだろうな。
ベルリク=マハーリール。親父の自分が存命の内はベルリクと呼ばれそうにない。
ザラの手紙をアクファルへ見せる。理解及ばずか、そのまま沈黙。暗号みたいなものだからな。
「彗星くんだ」
「ベルリク彗星」
「うるさい」
ヴァルキリカ名義の便箋。開封済みで、内務長官印で再封印済み。事務処理みたいにしやがって。
リュハンナの健康診断書。良揃いで健康体とのこと。
紙に押された墨の手と足の形……ちっちゃ、なんだこの皺? 皺までかわいい。紙の墨にちゅーしちゃう。
髪の毛の束、抜け毛だろう。細さは幼児のもの。嗅ぐ……におうような、におわないような。
ルドゥに鑑定してもらおう。
「ルドゥ」
「何だ大将」
「これ、鑑定」
こいつなら一本一本嗅ぎ分ける。
「全て同一人物の毛だ。汚れも痛みも最小限、虱の痕跡も無い。栄養状態も良く、清潔な環境にいると推測出来る」
「そこまでわかる?」
「毛から獲物の状態を診るのは基本だ」
「誰が獲物だ!」
「知らん」
ヤヌシュフからの手紙。
まず愛人に産ませた子供十四人の性別と名前が列挙。最強の男と女達に育て上げる、らしい。
またセレード議会で決定された国外居住者への継承権を無効にする法律については断固反対と表明。因みにアソリウス島嶼伯位はエデルト王冠の下にあるので発言権は全く無い。そういうことは分かっているので対抗として、アソリウス議会にて更なる自治権強化を議決させる、と意気込んでいる。議決した、じゃなくてさせるというところにアソリウス議会の頑張りが見える。
更なる対抗策として妹エレヴィカを妻に欲しいと正式に父ソルノクへ申し入れをしたとのこと。前に冗談半分で言ってみた記憶がある。
エレヴィカも十五歳になるか。十六歳で結婚するとしたらもう婚約しておいてもおかしくはない。単純にセレード人貴族勢力を強めるという意味では賛成。グルツァラザツク家としては、格上のベラスコイ家へ嫁に出すということで名誉。個人的にはもし自分がシルヴと結婚したときの親子兄弟の呼び名が面倒になる……もし、が過ぎるか。
父ソルノクとエレヴィカとの文通内容を読むにこの件には時差があったか、敢えて触れていないのか記述はない。
エデルト側から見れば、一度没落したが再隆してセレード民族意識に火を点けそうなベラスコイ家の存在は鬱陶しさがある。シルヴの重用があるのでそこまで神経質になっていないかもしれないが、無視は出来ない。
今のところ目立って動いてはいないが、自分がイューフェ=シェルコツェークヴァル男爵領継承についてごねるとセレード魂を爆発させられる気配は、内部工作をしておくと有り得る。
このまま何も動かないと男爵位は父ソルノクの死か人事不詳、隠居をもって弟サリシュフに継承される。継承時にヤヌシュフとエレヴィカが結婚していて子供が誕生していれば異議申し立てが不可能ではない。セレードの継承法では長兄が優先――長兄から外に出て行って結果的に末子相続ということも良くある――ではあるが、伝統と風習により実力主義なので、サリシュフより二人の子供が強いと見做されれば順番が入れ替わっても不思議ではない。
ここに誕生した彗星くんも混じると話が面倒になる。法で否定される前の第一継承者である自分の息子、長男ダーリク=バリドは養子縁組でセリン家の者になっている。そして養子には出していない次男ベルリク=マハーリールが長男扱いになって継承順位がダーリクを優越する。更に言えば、男爵領という定住系土地権利は否定されたが、グルツァラザツク家の家長継承という遊牧系族権利が否定されていない。
古い話を持ち出すが、かつてのセレード貴族には土地無し騎兵隊――同胞には手を出さない馬賊――がいて、管理権が曖昧な土地や異民族の土地で勝手に通商、狩猟、放牧、略奪から時に征服まで行っていた。土地での人口扶養限界に至るとこういった者達が排出されてきた。この古い伝統が否定されたことは一度たりともない。むしろ今のセレード王国を拡大させた業の一つとして”放浪軍”の名で賛美されており、記憶の片隅に追いやられていない。今ではそういった者達は国家が扶養する正規軍――小規模自警団等義勇兵含む――や拡大した官僚組織に編制され、移民として他所の地へ移っているため姿こそ存在しないが、影がある。セレード議会がエデルトからの圧力であの非居住者への継承禁止の法を通したのかもしれないが放浪軍にまでは言及されていない。したら民族伝統の否定になり猛反発必至だ。
こうなると定住領主イューフェ=シェルコツェークヴァル男爵としてのグルツァラザツク家と、放浪軍としての遊牧レスリャジン部族長であるグルツァラザツク家が分家して成立出来ることになる。ここで突っ込みが入るとしたら、部族昇格前のレスリャジン氏族はセレードを捨てて放浪に出たのでもうセレード系ではあるが王権下には無かったということだろうか? ただエデルト王ドラグレクをセレード王として認めていないだけという言い訳も出来る。更に自分はセレード国籍を捨てていない。十八年くらい外国で仕事を見つけてこなしていただけなのだ。国外労働者の国籍を認めないなどという法律は存在しない。
加えて実力主義の伝統により今現在、ベルリク=カラバザルにはセレード王権を主張する力さえある。貴族にしては格下過ぎると言うのならばシルヴやヤヌシュフを推戴しても良い……あ、それいいかも。そうしてからドラグレクに挑み、打ち負かすと王冠が手に入る。セレード王冠は聖皇に聖別される必要が無いので神聖教会からの承認は不要。
ドラグレクが標的になるわけだが、あの人物も高齢で、いくら頑丈が取り柄のアルギヴェンとはいえ不死身ではない。ヴィルキレク王太子は経歴も実力も文句無しでエデルト王位第一継承者だがセレード王位となれば議会承認が必要になる。議会選挙、つまり血を表向きは流さない戦争になるのでエデルト王位のように確実ではない。そして可能性は低いと思うが、ヴィルキレクも不死身ではない。
自分がアルギヴェンの人間だとして、セレード王位継承で揉めるのならばと考える曲芸がある。
セレード王国を大公国に格下げした上で対価に軍権を――軍権、外交権しか譲っていない――かなり譲歩した上で誰かを大公に据える。王号廃止となれば反発は強い。
エデルト王国を帝国に格上げした上で実質セレード王国を格下げして誰かを女王に据える。セレードに対して手入れがされているわけではないので反発は少ないだろう。帝国宣言は、神聖教会と仲良しのエデルトなら無理筋ではない。聖別されぬロシエ皇帝が存在する以上、対抗軸としてむしろ出した方が権威的に賢明だ。聖なる皇帝と肩書が被るが、まあ、大丈夫だろう。ただ皇帝とするだけではなく、どうにかしてヤーナちゃん聖王から位を取り上げて聖王兼皇帝にするとかなり強そうになる……中央同盟戦争再発の危険を冒してまでとは考え辛いか?
とにかくあちらも色々出来る。
継承にまつわる事柄を整理してみるとかなり面倒事になっているな。自分が気にしている以上にこれらに敏感になっている父を筆頭にしたセレード諸貴族にセレード王たるドラグレクも眩暈を起こしていそうだ。
この問題、一度関係者を揃えて会議して結論を出した方が良いな。手紙で一方的に意思表示し合っても決着がつかない。まずはグルツァラザツク家の総意だけでもまとめておくべきだ。
正直、父の反対を押し切ってまで男爵位を継承するという気は個人的には存在しない。家長はまだ存命中のソルノクで、決定権はそちらにある。ただ高齢でいつまでも生きているわけではない。孫を見せるついでにヤヌシュフも一緒にバシィールへ呼ぶべきだな。シルヴも来て欲しいけど、たぶんまだ東ユバールで作戦中だろうなきっと。
■■■
ユービェンに到着。かつてはユービェン関と言われて関門になっていたが、門が交通に邪魔なので上部構造物は爆破解体、土塁に石壁は撤去済みである。今後ここで関税を取ったり、不審者を取り調べたりなどしない。交通の要衝ではあるので鉄道駅、操車場を建設してここから南と東に路線が分かれる予定があり、既に測量されて地縄張りがされている。早過ぎない?
現地ではウルンダル世襲宰相シレンサルが出迎えてくれた。腕が千切れててっきり今年来年にでも衰弱死するんじゃないかと思っていたが血色良く、むしろ失った一本分太っていた。健常者でも一線引いたとはいえ痩せるような遠征先での警備任務に従事しているんだぞ。
「我が王よ、報告します。ファランブルより着工している鉄道工事、東、極東へ向かわず南のランイェレン目指して工事が進み、間もなく接続が完了する予定です」
現場裁量権限があるので問題はないが。
「理由を聞いていたら聞きたいな」
「ウラマトイの防御力を固めておかないと極東が孤立、加えてユービェン軍集団が担当しているジン江線は全く攻撃不可能だから、もう少し可能性があるランイェレン軍集団側に攻撃機会を獲得させるために、とのことです。具体的には列車砲というものを素早く前線に投入出来るのは工事期間が短いランイェレン方面だからと。命令責任者は砲兵司令ゲサイル殿です」
「それが正しい」
六万五千も極東兵を引っ張って来た甲斐があったな。まともな攻撃が仕掛けられそうだ。
「列車砲ってのは凄いのか?」
「特別舗装した道でもなければ牛馬で運べない大きさで、重砲より長射程高威力。ランダン攻略戦で大いに活躍したそうです。山脈越えの上り坂では流石に苦労したようですが、機関車の連結でどうにかなるようです」
「面白そうだ」
「個人的には私も見に行きたいのですが」
「うーん、流石になぁ」
後方警戒を怠るわけにはいかない。総統の忠犬シレンサルが背後を見張っているという気配は必要と考えている。
とにかく勝手にこちらの思惑を修正して良い方向に行っている。素晴らしい。ゲサイルに百点!
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ユービェンより、狭い谷底の道、タイハン山地北部を抜けてウラマトイ側の旧関門バンシャルシュンへと至る。そこからはしばらく西へと草原の道を進んでファランブルを目指した。
既に冷たい雨が降るような気候や季節でもなく、雪が降って風に飛ばされてあまり積雪しない。
ガンチョウでは暖冬だと言われ、実感。流石にウラマトイのような内陸の草原砂漠まで来れば例年ぐらいの寒さはあると思ったが、防寒具さえきちんと着ていれば堪えるような寒さではない。やはり暖冬、確実か。
ランイェレン側から攻撃を仕掛ける時には敵要塞砲を列車砲で制圧し、氷結した川を破壊される前に渡らせて六万五千の兵が五万か、あいつらの故郷にいる補充分入れて四万くらいに削れるまで突撃させようと思っている。そうした後に教導団に訓練させ、定数五万編制のユンハル方面軍として正規兵とする予定。
後ろに続く長い隊列を見る。降雪に後方が霞む。
再興を果たしたユンハル人は元気そうだが、他はこんなことをするために故郷を出て来たんじゃないとか思っていそうだな。
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ファランブルへと到着。元から物流拠点、都市としてそこそこ発達していたが鉄道駅、操車場が揃って機関車が蒸気を上げて待機しているからか人口が減ったにも拘わらず活気があるように見える。
六万五千の兵を周囲で野営させ数日休暇を取る。ここから南のランイェレン行きの物資を受け取ったら出発する。
列車砲とやらが無いか駅へ行くと、蒸気を上げていた機関車には炭水車と客車一両しか繋がっていなかった。稼働中の列車はこれだけ?
その客車からは一名、妖精の高級将校が降車……ラシージ!?
それから機関車は動き出し、操車場に向かって他の貨車との連結作業を始めた。列車砲は無い。車両の屋根に土嚢と機関銃を載せているのは見えるが。
走った。
抱き上げて、ラシージも背に手を回してきた。超うれしい!
「どうして!?」
この顔、ラシージだよな? 間違いない。頭の匂いを嗅げば、匂いはそのもの間違いない。
「中洲要塞より特急にて鉄道で参りました」
「鉄道!? 途切れ途切れで建設してたんじゃないか、ああ、開通したのか!」
「はい」
「所有日数は?」
「速度重視にて十日です」
は?
「嘘だろ? 嘘なわけないか。でもそんなに早いのか?」
「電信にて各所へ全鉄道車両運行計画を中断させ、私の移動を最優先させました。機関車、炭水車、工作車、予備線路を乗せた貨車のみ適宜繋ぎ直し、自分と搭乗員、技師、その食糧は客車に詰め込みました。これが一番早いと思います」
「関係各部全てをねじ伏せなきゃ出来ん運行命令だなそりゃ」
「同胞同志盟友同盟、彼等の絶え間ない努力の結実です」
「大事な補給計画を止めてまで、何かあったのか?」
「機密情報を持ってきました。電文ならば事故さえ無ければ一日でここまで到着し、私が直接来る必要はありませんでした。しかし中継局をいくつも跨ぎ、段取りを複数人で何度も踏む手法を取ればそれだけ漏洩する可能性があります。ですから口頭にて。尚、当該案件を委細承知しているのは内務長官のみです。財務長官は不在でしたので緊急性を考え省略しました」
冗談を言わないラシージが冗談ではない手段でやってきたのだ。一体何を聞かされるのか、こう、心臓が変になりそうだ。ただでさえ久し振りに会えて嬉しくて尻尾が生えてたら千切れているというのに。
ラシージを地面に降ろす。いや、勿体ないので持ち上げて肩に乗せて歩く。腰に顔を擦り付ける。
「あー、その話聞く前に鉄道の話、もう少し聞かせてくれ。気になってしょうがないぞ。こっちまで馬で、戦って、一年はかけたってのに、十日だぞ?」
「列車自体は馬の全速力を超える速度が出ますし、補給点検の時間を除けば休む必要はありません。機関故障、列車乗り継ぎ、線路の不具合等々ありましたが全て速やかに復旧されました。山脈越えでは機関車の連結数を増やして対処しました」
「計画は何時立てた?」
「出発の二日前。これは所要日数に含まれます」
実質八日!?
「軽荷で行けばそれで済むのか」
「はい。急行に対応するよう組織編制をしておけば現行車両でも六日で可能と見込まれています。今回は予定に割り込ませたので」
「更に六日!」
「はい。では場所を替えましょう」
ルドゥ等親衛偵察隊しか耳が無い郊外の、雪と風と枯れた草ぐらしか無い場所を選び、作り、二人で話し合い、もう一人アクファルが側で聞く。アクファルは現地における総統代理だ。全て知っておく必要がある。
「まず機密情報を二点、お話します。この度、魔神代理領と龍朝天政、魔都にて和平条約締結となりました」
思わず声が出そうになったが堪える。一々大袈裟な反応をするのは止めよう。
「魔都が何らかの手段により龍朝天政の一軍によって奇襲攻撃を受け、中心部の一角が焼き尽くされました。緊急対応に当たった魔族軍、親衛軍第三軍、海軍、警察に大損害が生じております。更に魔神代理が行方不明になりました。御隠れという表現がされ、死亡ではなくあくまでも行方不明ということになっているようです。このような戦略級の打撃を脅迫材料に和平ということでしょう。今後の魔神代理領における混乱は確実で、応じるしかなかったと思われます。尚、大宰相ダーハル閣下は存命です」
この情報が機密情報二点の内の一つ! いや、一つのまだ半分か。
「条約締結を報せる使者が現在、総統閣下の下へと急行しています。使者は魔神代理領より外務長官と付き人の獣人奴隷達、北征巡撫サウ・ツェンリー、仲介役となるエデルトからはカルタリゲン中佐が同道します。彼等は馬、馬車を乗り継いでやってくるのでまだ時間が掛かります。ただし、あちらは魔都から船で大内海入りしてから陸路移動。こちらは魔都から情報が中洲要塞へ到着してから十日をかけて移動したので、私が先着こそしていますが地理的に出遅れています。暖冬とはいえ冬なので歩みは遅いでしょうが、冬の終わりまでにはこちらへ到着するでしょう。この時間差、利用出来ますので使者団には鉄道の使用許可を軍事機密、そして妖精特有の融通の利かなさの演出により与えておりません。勿論、軍務長官である私がこれらの情報を知らないことになっており、中洲要塞を出たことも秘密になっています」
ちょっと、胸の高鳴りがヤバいな。何をしたらいいかまだ分からんぞ。
「使者団の到着と同時に我々は、まずは停戦条約を結ぶことになり、続いて川の向こうの龍朝天政軍が応じることになるでしょう。魔神代理領との関係を考えるならば拒否出来ません。仲介役にエデルトが出て来るということは、我々は東西挟撃の状況下でその停戦の後に和平に臨まなければなりません。計画概要出来ておりますが、帝国連邦は国土開発、人口増加、正規軍再編計画等にしばし専念しなければいけません。そのために平穏が欲しいのでこの和平、我々の戦略を覆されない限りは受けて下さい。そうしなければ将来起こり得る次次元の総力戦に対応出来ません」
ラシージの口から戦争は止めるようにと言われたも同然だ。反発する気などあろうはずも……ラシージの言ならばあるはずもないが、何というか、悲しいというか寂しいと言うか、虚無感が若干ある。
「和平の参考に、まずは双方合意に至った条約の一部を紹介します。魔神代理領は復興費用に、名目的にはこの条約とは別に龍朝天政より金塊にて借り入れをします。そして利息をつけて銀塊で返すことになっています。非常に友好的ですので反故させるようなことは、彼等を黄金の羊とし続けるのならば有り得ません。貿易は即時再開します。既にナレザギー財務長官が和平前から南洋貿易を再開させていますので、既に再開しているとも言えます」
軒並み商人が戦争で撤退した隙を狙って独占しにいったか? 狡い奴だな。フルースくんに言いつけてやろうか。
「南方境界線はほぼ現状追認という形で決着しました。沿岸部はタンバワ州とラノ州の伝統的な境界線で。内陸部はプラブリー国を緩衝地帯に設定することで弾性的に確定です。なおプラブリーは好戦的なため、互いに領土を目的としない戦争を否定しない、ということになります。共通の敵を敢えて作り出して保存し、定期的に好戦派の留飲を下げる場を提供するという密約にもなっております」
密約内容まで知っているということはそれなりの人物からの機密情報の提供ということになるな。紳士協定ということで自分にも極秘なんだろうが、ベリュデイン総督からかな?
「赤帽軍はニビシュドラ島、南洋諸島海域から早期撤退することになります。そしてインダラ国、カピリ国の独立が承認され、ルッサル州南部以南の現支配領域を追認。南覇軍が占領中だったザボア川河口部をインダラ国に明け渡すことになりました」
「現地が分からんが、大分譲ってないか?」
「ニビシュドラ島に関してはそうしなければ戦争が終わらないと判断されたようです」
そんなにも平和が欲しいのか、と聞きたくなるが、欲しいだろうな。互いに攻め手を失ってジリジリと疲れ果てる未来しか見えないといえば見えない。
「これを基準に考え、我々が結ぶ和平内容を予測します。各冊封国現政権の自主性尊重、しかし天政地の譲歩は認められない、だがこれ以上の戦火拡大を否定する。龍朝天政が考えるであろうこの三点を踏まえます。東イラングリ、ラグト、南北ハイロウ、広義のランダン、チュリ=アリダス川流域、オング山脈北側、ウラマトイ、ユンハル、白北道、外北藩、金北道の領有が認められるでしょう。ただし白北道、金北道は天政地や内地に中原と呼ばれる伝統的領土であるという姿勢を崩すことはないでしょう。隙あらば、交渉の余地あらば取り返す心算ということです。それから後レン朝による戦闘を抑制する義務が要求されます。各地で起こっている後レン派の武装蜂起への対処も要求される可能性があります。レン・ソルヒン陛下から武装蜂起の停止布告を出させる必要があると思われます。尚、現在アマナにて行われている内戦に関しましては我々には直接の関わり合いがありません。ランマルカとの問題ですので、その点で和平協議の仲介を頼まれる可能性があります。極東担当の同志アドワルと相談し、頼みの対価を考えておくべきでしょう。私から連絡を取っておきます」
手札が得られそうなのは良いことだな。
「次の機密情報です」
もうお腹いっぱいなんだが。
「魔都奇襲により魔族増加を推進する派閥が躍進する見込みです。そして次期大宰相確実と目されているのがベリュデイン州総督ですが、彼の醜聞です」
あの青い顔を思い出すとゲロ吐きそうなんだけど。
「アソリウス島事件の魔神代理領側の犯人が彼です」
「ちょっと、ちょっと休憩!」
「はい」
愛用の、久し振りに尻をつける低い椅子に座って葉巻を一本ゆっくり、何も考えないで煙の流れる先を目で追って吸い終える。
「続けてくれ」
「はい。ベリュデイン州総督がアソリウス島騎士団経由で入手したのは胎児状態で魔族化させられる魔族の種です。これは事件以前に手に入れたもので、グラストの秘術と呼ばれる一連の技術に必須です。それは神聖教会側の管理下にあった時は聖シッセリアの赤子と呼ばれたものです。妊婦のまま死に、不朽体として保存された聖人の胎から摘出されたそうです。代わりの詰め物が入れられているらしいので事件は発覚していないとされています。魔族化胎児は生理を止めて産気づかず、魔術発動補助のためだけの臓器になるようです。またそれを制御するために全身の骨に呪術刻印を刻み、自然治癒で形が崩れないよう腐敗しない術製金属を嵌めて強度も補っています。呪術刻印は常に発動しており、その対価に寒冷地にいるように体温を奪い続けるので非常に痩せやすく、大食らいの要因です。そしてその上で別の魔族の種か、異なる手段にて母体に最終仕上げをすると見られます。その手段何であるのか、そもそもその手段自体が存在するのか入手経路含めてあやふやで不明です。存在するとしたら独自に発掘か発明かして手に入れた物と思われますのでこれは本人に聞かなければ分からないでしょう」
「はいお兄様」
アクファルが水筒を手渡して来た。嗅ぐと、臭いの強い薬酒だ。
飲む。
うがいして飲む。
腹に染みるなぁ。
「この案件、公表は勿論されておりませんが、私のところへ情報が流れて来るような段階に至っているため、いつか話が広まるものと考えて良いでしょう。聖シッセリアの赤子の入手後にも神聖教会側と魔族の種を介するような取引をしていた経緯は不明です。著名な魔剣ネヴィザすら送ろうとしていた真意、不明です。盗んだ罪を神聖教会に擦り付け、先の聖戦を再開し、当時は推進されていなかった魔族増加案を通そうとしたとも考えられます。この点を念頭に入れて今後の対魔神代理領戦略を考えておく必要があります」
ラシージが冗談を言わないよな。冗談にする内容でもない。
「次に機密ではない、主だった国外情勢を報告します。まずはこちらをご覧ください。エグセン人の間で流行している本です」
ラシージから手渡されたの本の題名は”ベーア人物語”エデルト語版である。流し読みしてみるに、挿絵つきで章題が装飾文字で主要人物の顔や姿を描いてる。楽しい作りになっていて文字が読めなくても捲るだけ面白いし、そこそこ内容が分かる。
「情報部が分析しました。エデルト語、ランマルカ語、エデルト南方言と北エグセン方言両併記、バルマン語と西エグセン方言両併記、東エグセン方言、ザーン語、それぞれ出版されていて表現の違いはややありますが内容に差異は無い完成度です。これは民族概念を改革し、大衆にも啓蒙しようという本で、大ベーア主義を主張するものです。古代エーラン帝国がウルロン山脈北側の蛮族集団をベーア人と呼びました。その範囲はエデルト人、ランマルカ人、広義のエグセン人集団で、ベーア語系と括ります。従来のエグセン語系という概念では焦点が狭いということで再定義された名称です。三語は借用語の違いを除けば方言程度の違いであると科学的に証明されています。この本とは別に”ベーア語概論”という論文が学会で認められています」
「ベーアってそんな大層な分類だったか? 悪口だったろ」
「ベーアとは、エーラン視点から北方の蛮族であり”ベーベーと意味不明な言葉を話す連中”という蔑称でした。フラル語圏の者達が見下して唱えていたもので、歴史的呼称ですが本来の意味を探求した上ではなかったようです。ベーア語概論にてベーアとは彼等の自称で、直訳するなら勢力圏内の人々の集まり”大衆”と言う意味だと分析しています。ベーアという自称を聞いたフラル人がベーベー人と呼んだ、という経緯のようです。その大衆ベーアで一括りに文化圏を作ろうという動きの最先端がベーア人物語という文化人類史を物語仕立てにしたその出版物です。流行の原因は我々の西方遠征に始まる異民族襲来による危機感です。中央同盟戦争、第二次西方遠征、この二つの戦いに我々を呼び込んだ神聖教会そして南のフラル人に対するエグセン人が持つ不信感も本を読むと分かります」
「エデルトが今一番そのベーアの中で強いな」
「その大ベーアの一部にエデルトがなれば一気に少数派に転落しますので、現在のところはその物語を国家として受け入れるかは慎重な様子です。ですが我々と同胞のランマルカにロシエの脅威があります。下位同盟国オルフも復興が済めば侮れぬ存在になりますのでどうにかしなければならないとは考えていると思われます。現在のエデルト人と南部エデルト人、エデルト化したカラミエ人、革命から亡命してきたランマルカ人を合わせて一千五百万人。対してエグセン人は四千万人で、広義に含まれるバルマン人とザーン人も入れれば五千五百万人。エグセン化したヤゴール人であるヤガロ人が二千万人。ベーア系と見做せる植民者が多く、文化影響が強く受ける新大陸南部のエデルト植民地ズィーヴァレントは二百万人。同様の南大陸南部のエデルト植民地ブエルボルは百万人。ベーア系国家外居住のベーア人や、セレード、東ユバールのような別民族ながらベーア系国家共同体に属する中小国も大ベーアの範囲に加えて統一がされれば大帝国の誕生です。統一からの安定が望めれば人口一億の大台は短期に現実範囲内です。色々と世界的野望が達成出来る規模です。大ベーアに対して消極的に思えるエデルトから大ベーア王もしくは皇帝を出すというのであれば実現可能性は低くありません。ヴィルキレク王太子妃はバルマン王の娘なので、ドラグレク王の次代から話が更に現実味を帯びてきます」
身体の頑丈さを基準に嫁探しをするのがアルギヴェン家の風習。加えて外戚に力を持たせたくないので位の高くない――低過ぎるのは問題外――家から貰うのが常。当時はその条件に合致したエルズライント辺境伯の娘が今やバルマン王の娘だ。ベーア構想に利用出来る幸運、機会が降って来ているな。
「加えてバルマン王国は公式に声明を出しておりませんが、第一継承者であるダンファレル王太子がランマルカに亡命しましたのでバルマン王位が揺らいでいます」
「え、なんで?」
「詳細は不明です。これにより継承権の強い男子が不在になります。ガンドラコ家の男子は戦死率が多いため、近縁の家系にも適格者がいないようで、その娘を女王に据えるのが現状、最も正統です」
昔のあの時、ファルケフェンを殺してなかったらというもしもの話が頭に浮かんでくる。だからと言ってどうなるかまでは思い付かないが。
「そうなるとロシエが黙ってはいないな。今もバルマンを取り戻す気だろう」
「はい。次にロシエです」
ラシージから本を二冊手渡される。一冊は”鉄兜”という題名、ロシエ語だ。もう一冊は、聖典か? しかしフラル語ではなくロシエ語だ。一字たりとも加えてならず、削ってならずの聖典がフラル語以外で書かれているというのは神聖教会秩序に反する行為である。
「ロシエによるアレオン侵略の前準備がされていると分析されています。南大陸への足掛かりをアラック王国経由以外にも増やし、エスナルを巻き込もうという動きです。エスナルは現在、新大陸政策の失敗により政権が弱体となっています。新大陸における軍事同盟相手のロシエが撤退することで対ランマルカ、ペセトト闘争で劣勢が顕著になり、綿花栽培が産業であるエスナル領クストラが事実上封鎖状態となっています。その封鎖を解除するには莫大な人命、軍事費が必要とされます。当植民地はエスナル貴族、聖職者が経営者として子弟を送り込み、奴隷を買って送り込んでの大規模農場経営で成り立っています。功労で与える土地が本土内に無かったので新大陸の土地を与えたのが当植民地の始まりです。一方、永くエスナル王国の財政を支えているファロンにおける宝石、貴金属鉱業は王から商人へ特許が与えられ、一攫千金を目指す労働者、山師が集まって冒険的に鉱山開発が進められた植民地です。こちらは王が直接雇った冒険者が獲得したので特許の付与権限を独占しています。両植民地の開発経緯の違いがあり、現状に至り、そこでロシエが仲介に入ってエスナル領クストラの放棄からのランマルカとの和平工作が模索されるとなれば騒動になります。足を引っ張るクストラを捨てるだけであらゆる問題が解決するとなればファロン権益の受益者達は支持します。今までの莫大な投資分を丸ごと、親戚ごと失うとなればクストラ権益の受益者達は血を流してでも譲らないと抵抗するでしょう。加えてフラル系諸国が持つ細々とした複数の新大陸植民地ですが、これはエスナルが一手に防衛を担う代わりに中大洋における貿易特権を筆頭に様々な権利が与えられているという関係があります。国内外の階級を跨ぐ新旧大陸における権益が二百年以上に渡り複雑に、利害や血縁も合わさって絡まり全容の把握が余人には不能になっています。この状態でエスナル、ランマルカの和平が成立し、防衛代行の範囲からその植民地群が外れるということになれば全滅は不可避、つまり当該国から掣肘、干渉は必須です。そして強いロシエに倣ったような新しい強権思想が吹き込まれればそんな面倒なしがらみ、力で抑え込んでしまえと受益者以外が発想するでしょう。我々の解釈と違いますが、先の第二次西方遠征における勝者はロシエ帝国という考えがあちらでは一般的です。強いロシエは正しい存在、という見方が広まっています。そのロシエ流は実態以上に魅力的になります。
現在、その強いロシエ思想の先鋒に立っているのは”鉄兜党”と呼ばれる政治勢力です。新聞連載小説”鉄兜”から始まり、党機関紙”鉄兜”とまでなった新聞から名が取られました。伝説のカラドスから、神聖教会最高の僧籍軍人と言われた聖将エンブリオの遠征、アレオン征服、エスナル形成、そして現代のロシエ革命からの皇帝戴冠まで、代々騎士として参加した架空の一族の波乱で壮大な物語です。非常に読みやすく面白いという評価です。それから宰相ポーリ・ネーネトが演説中に頭部を狙撃されて弾き返し、平気な顔でそのまま続行したという生きた鉄兜の武勇伝が合わさってロシエのみならずエスナル、アレオンにまで大きな波紋を呼んでいます。エスナルが弱っている時に鉄兜党の侵食を受け、ロシエ流革命を遂げてからの大鉄兜党同盟の可能性が考えられています。歴史的経緯と、その小説を読めば理解して頂けると思いますがロシエ、アラック、エスナル、アレオンにかける西征、海に突き当たってからの南征、砂漠で止まって東征、異教徒たちとの戦いの歴史が必然的と説かれています。現地人ならば運命と受け入れるぐらいの説得力が十分あります。
そしてロシエ語版の聖典です。お渡ししたのは第二刷です。エデルト、ヤガロ等では既に地方の独走、非フラル語話者用の参考資料というような形で、非公式にフラル語以外の聖典は存在していました。それが此度、ロシエの国家、カラドス聖王教会公認の正式な出版物として作られました。ユバール、アラック、アレオン、バルマン、フレッテ、ビプロル語、そしてエスナル語版も第一刷が安値で大量に印刷されて配布されています。内容の方も年表が付録で付き、物語も時系列が整理された上で注釈付きになっているというものです。新しい、正しい聖なる神の教えが庶民にも広まれば、今まで知識を独占していたはずの聖職者達の立場も揺らぎます。聖なる神の教えという名目で行って来た、またはそうではない行為への糾弾もあるでしょう。神聖教会による各国への影響力、減じるでしょう。その状態で既に動乱が終わった後の結束された強いロシエに隣接する、これから動乱が巻き起こる分裂する弱いエスナルという構造。エスナルはどういう形になるかはともかく、弱いので飲まれると推測出来ます。飲まれた後は運命に従って旧領アレオン奪還を目指し、ハザーサイール帝国、つまりは魔神代理領への宣戦布告となるでしょう。龍朝天政との戦いで疲弊した魔神代理領とです。既に神聖教会より龍朝天政には使節団が派遣されています。エデルトの軍事顧問団が派遣されたものと無関係なわけがありません。聖皇が山へ再修業しに行くのでしばらく公の場に出ないという声明もあり、海を渡った可能性もあります。ロシエと聖皇は対立しましたが、魔神代理領を共通の敵と認識しています。
バルマン王国はロシエの今後の成功如何でエデルトか、どちらかに飲み込まれるでしょう。独立してはいられません。
これらを更に踏まえて、今後の帝国連邦軍の予定を考えております。総統閣下の民族練成構想を盛り込んでいます」
今まで分裂状態だった西方諸国が二から三くらいにまとまる気配があるということだ。しばらく帝国連邦にも次の戦いに備える平和な時期が必要なのは確実。しかし先制攻撃で結束する前に叩けば? いや、流石に龍朝天政との連戦後では無理だな。
「ヘラコム山脈以東に展開した各方面軍を即座に以西へと戻さずに、国境警備を前提に配置します。同胞諸兵は主要都市の軍事都市化、防衛線構築作業のため帰還予定はありません。そのまま都市住民として定着させます。労働者としても活用して工業化推進、拠点維持のため都市郊外には当面住まわせません。情勢が不安定である現状、造反の可能性がある者に主要拠点は可能な限り任せないようにします。人間諸兵も遠征続きで真っ先に故郷へ帰りたいという要望はあるでしょうが、まずは応えません。ここは素早く行いたいで現時点から準備を始めたいと思います。
配置完了後から現地移住希望者には金銭、物資、扶養者、奴隷、家畜、土地の割り当て等を帰郷者とは差別的に優遇します。軍を基準にする新共同体の創設を目的とします。新方面軍の創設も同時になります。これにより族、軍における移住者の地位向上も自動的に行われます。この点良く広報します。帰郷者は補給、道路の混雑を考慮して分割帰郷とします。また火砲等の重装備は全て現地に置いていきます。分割帰還待機中でもそこから移住を希望すれば、初めに移住を希望した者達よりは劣る待遇で迎え入れます。このことは事前に周知し、移住希望を促します。分割帰還終了後は家族等の呼び込みを許可します。
規模拡大したヤシュート一万人隊を分割し、分割したハイロウ方面軍を支配的に指揮させて水上騎兵軍集団とし、マトラ以東に右翼軍、ユドルム以東に中央軍、ヘラコム以東に左翼軍と配置します。各方面軍の背後に位置し、予備、督戦軍として反乱抑止にも使います。トンフォ以東の極東地域への配置は支配河川域もわずかで未来の話になります。
チュリ=アリダス、ウラマトイ臨時集団は教導団が訓練した後に、予備軍集団として一旦所属地域を定めずに保留。新旧方面軍配置後に戦力不安がある箇所へ補充部隊として分散配置します。訓練期間中に分割帰還が終了していることが望ましいですが不可能でしょう。従来通りの駄獣運送頼りではなく今は鉄道が使えるので予備軍集団の無為な扶養は長期にならないと考えています」
やはり全てはラシージ任せで良いなと思えて来る。状況報告というより事後報告ではないか。計画書ももう出来上がっているのだろう。
「極東方面については閣下からお話を聞きたいです」
「極東方面軍司令及びウレンベレ市長はクトゥルナムにやらせた。親衛一千人隊を二千人に増加させたが、奴に一千人をくれてやった。これが遊牧兵力の真の中核になる。その一千人が自分の故郷から人を後に呼び寄せて増強する。極東艦隊編制準備は、マザキから亡命してきたギーリスの娘ルーキーヤの一団がランマルカの協力の下で行っている。海上戦力として期待できる規模になるまではかなり時間がかかる。ハイバル軍は己の中核とすべき土地を征服、統一闘争中。この軍はまだ自分の配下と将来の配下相手に戦っているので指揮系統下から外れている。措置は後から考えるしかない。ワゾレ方面軍は現在、後レン朝の督戦に当たっている。奴等は和平後も血が流れる派閥抗争を繰り広げる予想がされる。だから混乱が収まるまでしばらく帰郷や移住などの再編計画に参加出来そうにない。ユンハルと極東諸族軍は、停戦までの間に一度血の洗礼を受けさせて弱らせたい。今、連れて来て野営させているのがその軍で、六万五千いる。今の話を聞くとワゾレ方面軍の負担が戦後まで続くのは避けたいな。再編計画に早く組み込みたい。そしてユンハルと極東諸族軍にはチュリ=アリダス、ウラマトイ臨時集団の後に教導団によって訓練させる必要がある」
「中央軍も再編計画に組み込みましょう。軍の中でも信頼出来るので反発を恐れず二つに割ります。帰郷側は最優先で西へ戻し、今も警戒体制を続ける内務省軍、民兵等の負担を緩和。移住側は一旦極東方面に集中配置しワゾレ方面軍の肩代わりをします。そしてジュレンカ将軍に新設する第二教導団を託し、血の洗礼で数を減らした極東諸族軍を訓練させつつ、後レン朝軍を監視させます。後にハイバル軍も訓練します。第二教導団構成員は、ゾルブ将軍の第一教導団から抽出し、そして移住する中央軍兵士で編制します。第一教導団の不足分は各軍から教導団に相応しい人材を集めて充当します。これは従来の人事交流の枠組みです。この件に拘わらず軍と配置する地域が拡大したので第二教導団は必要です。極東方面軍の信頼出来る戦力の不足はレスリャジンの男女一万人隊を割って、男女混合一万人隊にして移住に備え、トゥルシャズ一万人隊長に率いらせば良いでしょう。親子で混乱期を凌いで貰います。中央軍所属ですが、ダグシヴァル師団はヒチャト地方など高地を担当しなければなりませんので別に――山岳戦教導員を別として――分散配置し移住させます。フレク師団のフレク族は新開拓した北極圏へ移住させて空白地帯を埋めさせます。チェシュヴァン師団や第二イリサヤル師団は終戦後も継続して開発事業があるので分割も再編もせずに中央軍と切り離し、独立工兵軍としてそのまま工事作業を続行して全国を巡らせます。そして帰郷した中央軍は解散し、別軍に組み込みます」
ほぼ旧領新領に全軍、全人口を二つに割って振り分けるという再編計画だ。これは数年と言わず、二十年は戦争をしていられないだろうな。
各国境を警備する、土着傾向が強まる方面軍。
都市に居住し、工業労働者としても活躍する妖精達。
方面軍の背後にて水系を支配して土地ではなく水に依存、土着傾向が薄いままの水上騎兵軍。
それらを訓練し規格統一を成して維持する教導団。
後に派遣されて治安維持を担当する内務省軍に警察、補助警察。
何重にも国内を縛り付けて、階層化して、民族を軍命令で移動させて混ぜまくって練成されていく姿が見えてきている。今はそのために平和が必要だ。否定できない。
しかしここから先二十年も戦争しない? いやそんなまさか。この自分が、六十歳ぐらいになるまでずっと平和? 冗談ではないぞ。
「それから諸案件が落ち着き次第、編制を考えているのは国外軍の編制です。これが新しい中央軍となります。解散した旧中央軍が中核になります。少数精鋭で完全独立行動可能で、しかし少なくとも中小の一国を相手に出来る規模を目指します。最初の作戦は混乱が予測される魔神代理領へと赴き、治安維持活動をします。事変勃発前ならば出動する名目は演習です。魔神代理領内のどこかの軍に訓練をつけてやるというのが適当でしょう。構成員は平時に国内へ置いておくと何をするか分からない無分別者を選抜します。国内固めに邪魔な暴れ者を流罪にする心算で行きます。国外軍司令は総統閣下、副官には私が付きます。何れはハザーサイールに侵攻するロシエを迎え撃てるようにしたいと考えます」
「それは嬉しい限りだが……」
いやめっちゃ嬉しいし、二十年もの平和なんて耐えられないから大歓迎だ。帝国連邦の軍事水準を下げないためにも新兵器、新戦術を磨き、最新の戦場を見る上でも必要だ。公私に良い。
「軍務省は?」
「次の軍務長官はゼクラグに任せます。彼の方が私より適任です」
「でも、ラシージがわざわざ副官につく程か?」
ああ、こう言って、それもそうですね、と止めるのは勘弁してくれよ。
「国外軍は自律性の高い国外国家と見ております。高度な判断を迫られ、同胞達も良く統率しなければならず、ランマルカとも交渉する状況もあるでしょう。もしかしたらあちらの最高指導者とも、有り得るかもしれません。その時に下位同胞では危ういこともあります。また総統閣下は国外軍司令としてではなく帝国連邦代表として行動しなければいけません。何か行事があれば、例え戦時でも現場を離れなければならないこともあるでしょう。閣下の代行は妹様でこなせることもありますが、全てではありません。ただの身内と見做されて外交担当として不向きな場合もあります。閣下、妹様、私、それから人間からもう一人を領袖に選べば良いでしょう。編制を始めるまでにはまだ時間がありますので人選は焦る必要ありません。私の副官、その人間代表とその副官、決めておきたいと考えます」
うーん、やはりラシージは最高だな。大体、決まってしまった。
「では、ラシージは和平後の、その各軍行動計画を各司令に周知し、和平通知後即座に動けるように。多少情報が外に漏れても構わないから、とにかく全軍再編の動きが高速となるように。多少の不備は再配置後に修正すればいい」
「はい」
「俺は六万五千の奴等を血塗れにしてやらないとな」
「はい」
「列車砲ってどこ?」
「ランイェレンに現着している分と、私の急行の後に来る分があります」
次の戦い、どうしてやろうか?
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