第312話「七ヶ月掛かった」 ”変な”デルム

 干した牧草を齧りながら、頬に開けた穴で煙管を咥えて吹かしつつ、第二山岳師団ダグシヴァルの仕事現場を見回る。草は良く時間を掛けて食えって母親がうるさかった。思い出してもうるさいが、自分も子供に言ってうるさがられたように正しい。

 空が狭い。左右に万年雪を被った、天に刺さるような高い山が続いている。この峡谷、ヒチャト回廊の底でもかなり標高が高いというのに、あの白い頂きはどれほど高いのか? 調査隊があそこでどれくらい活動出来るか試しているが、一次報告では”ここは俺じゃないと死ぬ”だと。笑える。ほぼ誰が行っても駄目という意味だ。

 山腹の辺りでは山岳工兵が補助水路建設候補地へ旗立てを行っている。取るに足らない小川も集めれば膨大な水量に何れ変わる。天候、気候次第では小川が突然に並みの川程度に肥大し、それでもその川自体が細くても、使いようによって他所の太い川を主幹へ導く水路になる。

 底の方では、工兵のように技術の無い兵達が干し草を齧りながら石屑の片付けをしている。屑と言っても大きい物はもう一度砕かないといけない大きさもある。配下に加わったヒチャト人、ランダン人も一緒に働いている。

 人間でも同族が干し草を齧っているのを見ると興味が湧いてくるらしく、牧草を一本分けて貰って、齧って、不味いと評されている。

 後方から、簡単な線路で作った軽便鉄道を走って物資を届ける小さな列車がやってくる。弾薬使用量は割と限られているので主に食糧。帰りには負傷者や病人、故障した武器に要修理、直せばまた使える道具が送られる。これが通ってからこのヒチャト回廊の支配効率も上がった。敵の攻勢が強ければあの列車へ、回廊各地に散らばる兵士を乗せて前線に一気に集めることさえ出来る。

 主水路工事の最先端、巨大鶴嘴で岩盤を砕いている変な人間がいる。石屑の大半はこいつ一人で作っている。その傍には、変な人間の専門家を名乗る変な妖精がいて、小さい太鼓をトントコ鳴らして掘削速度を緩やかに調律中。ヒチャト回廊は高地民族でも激しく運動すると高山病の恐れがある土地なのでこれは馬鹿に出来ない補佐である。

「そろそろ飯だぞ」

「ごっはん!?」

 声を掛けて振り返ったのは人間の女、サニツァ・ブットイマルス。巨大鶴嘴の一撃は重く強烈、火花が大きく、見ているだけで痛打を受けた感覚に陥る程。そんな大業物ですら摩耗し、特別に太い柄も圧し折れ、何度も交換した残骸が幾つか現場の脇に置かれている。

「でも、作業終了時刻はまだだよ」

 サニャーキの専門家とやらがトントコ鳴らすのを止めずに飯時じゃないと言ってくる。

「休みたい時に休みゃいいんだよ」

 近くの滑らかな岩の上に座る。

「でもでも、作業終了時刻はまだなんだよ」

「ほれ」

 そして直ぐに作業終了、見張り交代開始の鐘が鳴り響く。トントコが止む。

 サニツァは巨大鶴嘴を置いて、甲冑を脱ぎ、小走りに隣へ跳んで座る。一回挨拶すれば懐かれるぐらいに気安いので面倒が無い。

「デルムの王様さんこんにちは! あ、御機嫌よう?」

「おう、機嫌は良いぞ」

 頭を撫でてやると「えへへへ」と笑う。人間にしておくには惜しい女だ。

「今日はね、こう……あそこから、こー、明日のために粉砕!」

 こう、の距離と深さが並みではない。ただ削るのではなく、割って大き目に剥がしていくから、石屑の片づけ要員が十分に確保出来れば土でも掘るような速さなのだ。

「頑張ったな」

「うん!」

 こういった種類の馬鹿力で素直に御しやすい家畜か何か、いれば良いんだが、いないな。ここに走ってる軽便鉄道がある意味それらしいだろか。都合の良い家畜がいなければ代わりに機械へやらせる時代が来ているのだろう。

 サニャーキの専門家とやらは食事を取りに行った。管理担当を名乗るだけはある、か?

「ねえ、草美味しい?」

「美味くて食うもんじゃないな」

 牧草は良く噛んで食べないと消化不良を起こしていけない。干さず青い草なら尚更で、犬みたいに飲み込むと腸閉塞で糞を吐くようになって死ぬ。

「ちょっとちょうだい」

「昔な、飼ってた人間に草食わせてた馬鹿がいたが、腹壊して殺しちまった」

「そうなんだ。あれ? 妖精さんがね、人間は家畜としては効率が悪いって言ってたよ」

「奴隷ならそこそこだろ」

「あ、そっか」

「働けなくても愛玩に飼うこともあるな。鼠獲らない猫とか、獲物に噛みつけもしない犬とか、飼ってる奴いるだろ」

「うん」

 子供の頃は家で女を二人飼ってた。一人からは簡単な四則演算教えて貰った。後で急にいなくなって泣き喚いてたら、二人の家族が買い戻しに来たと親が言ってたものだ。

「サニツァよ、お前あの妖精共に良いように使われてないか?」

「良いよう?」

 サニツァが首を傾げる。人間は馬鹿じゃないが、こいつはたぶん馬鹿だ。それが美徳かもしれないが。

「三倍サニャーキ!」

 サニャーキの専門家が大声を出して、人肉鍋を持って来た。

「三倍サニャーキ!? 何それすごい!」

 サニツァが、おお、と驚き感心する顔になる。

「労働と軍務の英雄サニツァ・ブットイマルスは適切且つ効率的に運用が為されることにより通常より三倍の成果を挙げることが出来るのです」

「すごいね! 三倍だよ三倍! 三倍ってことは……」

「三人サニャーキ!」

「私が三人!? 私とあなたで、一足す一だから……一つ、二つ……」

 サニツァが指を折って数える。たしか、指折らないと数数えられないんだったか?

「一足す一は二! 合わせて三人分だから三倍!」

「三倍サニャーキ!」

「三倍サニャーキ!」

「一足す一は?」

「三倍サニャーキ!」

 サニツァが、やったー、と諸手を上げて左右に振って、足をぱたぱたさせて小躍りし始めた。

 ま、いいか。袋からパンを出して食べる。草に比べると遥かに美味いが、これもまた調子に乗って食べると腹の調子がおかしくなる。こっちは消化が良すぎるのだ。

 サニツァと専門家に、他所で作業をしていたその妖精分隊が集まり出して人肉鍋を食べ始める。ヒチャト人からは大層不気味に見られている。昔からエルバティアの鷹頭が人間を食べる姿を見ているから自分は然程おかしいとは感じはしない。

 ダグシヴァル人とエルバティア人は食べる物が全く違う。奴等の土地で牧草を刈って良い代わりに、肉の食えないこっちの処分したい家畜や奴隷を引き渡すことが良くあった。奴等の気性がもう少し大人しかったら、案外共生だとか出来たんだろうと考える。帝国連邦の内部統制の力次第では出来そうな気配はしている。内務省にも一応提言はしてある。でもやっぱり寝首掻かれそうだからキツいな。短気な鳥頭共め、躾ければ問題無いのは獣人奴隷の例で分かるんだが。

「王様さんも食べる?」

 サニツァが差し出して来たのは人間肉。

「肉食う面してるか?」

「うーん、他の山羊さんと違うから?」

「ちょっと奇形なだけだ」

「そうなんだ」

 両目の色が違い、青と緑で昔から目立っていた。指も六本で、腕も長い。これで頭も回って腕っぷしも強いとなれば族長になるのは思ったより簡単だった。伸ばした髭を編んで頭に巻いて、顔中に宝石の輪を通して、蛇で作った尻尾まで垂らしてやれば人間からも直ぐに覚えられて、交易だなんだで他の部族のアホどもが不誠実に取引している間に、真面目に商売をやれば直ぐに金持ちになれた。そして今、ベルリク=カラバザルに覚えて貰って王号に武器まで貰ってダグシヴァル族の統一までこぎつけた。そしてこのヒチャト回廊で、天政に属することを嫌がり、行き場を無くした人間の山岳民達を取り込めば、公言はしないが小帝国みたいなものを作れるきっかけを得られる見通しがある。

 ダグシヴァル、エルバティア、山岳系の人間。この三種合わせた共同体はきっと、既存の部族を滅ぼしたがっているベルリク=カラバザルにウケる。そうすれば武器どころか土地や権益まで貰えるだろう。これに気付けている奴はどのくらいいるか? ヤシュート族の連中は、気付くかどうかの以前に川でそれをやらされているが、自分は先に気付いて帝国連邦中の低地人が住みたがらない山々を取ってやる心算だ。現時代人にはあまり理解されそうにないが。

 都市部、工業地帯は妖精に。

 耕作地帯は定住民に。

 草原、砂漠は遊牧民に。

 河川はヤシュートだった何かに。

 北極はフレクに。

 高地は我々に。

 きっとこのように住み分けがされる。産業別土地割り当て法がそれを示唆する。法では高地と低地の境界が曖昧になっている。自分が山岳権益の確保を加速させるようにしておかないと大分低地人に取られるだろう。

 野心を燃やすならば、それは帝国連邦内に山岳帝国を築くことだ。独立を目指せば血塗れにぶっ殺されるが、国家内国家ならばむしろ応援される見通しがある。

「あ! 骨! 骨は食べる?」

「骨も食わないな」

「汁! 汁は飲むの?」

「脂で下痢したら嫌だな」

「うーん、何ならいいの?」

「水、ああ、水がいいな」

「よし!」

 サニツァは汁を飲んで椀を空にして、その辺の石屑に怪力の指で呪術刻印を彫って術を発動、飲料水に変える。魔術も大概おかしなものだが、新大陸由来の呪術、世界がおかしくなったように見える。

「はい、サニャーキの美味しいお水だよ!」

「ありがとう」

「えへへー」

 しかしサニツァ、野心だとかなんだとか、全く無さそうだな。飯さえ食えてれば後は気にしないような面をしている。

「お前、夢あるか」

「ある! おばあちゃん」

「ばあさん?」

「あのね、うちの子のミーちゃんがね、結婚したから、赤ちゃん出来たらおばあちゃんになるの。王様さんは?」

「ひ孫がいる」

「可愛い?」

「俺はあのキャーキャーバタバタ騒ぐのが性に合わないからな。チビ助の内はあんまり相手しないな」

「どうして?」

「どうしてって、そう思うからそうなんだよ」

「そうなんだ」

「ああ、ただ、デカくなった奴等は可愛いと思うぞ」

「そうなんだ!」

 水だが、脂臭くて思ったより美味くなかった。洗えば良かったんだな。


■■■


 軽い砲声が峡谷に連続で響く。敵襲だ。

 ヒチャト回廊はほぼ制圧した。東出口側の防備も固めたが、敵は断続的に部隊を送り込んで来ている。

 新型の長距離速射型の軽山砲の砲声だけで終われば偵察部隊の侵入程度。並みの山砲の砲声も混じり出せば本格的な攻勢の可能性。

 即応部隊に出撃命令を出してから、並みの山砲の砲声も混じり出した。信号火箭も打ち上がる。

 我が軍に加えたヒチャト人に学んだ毛牛騎兵隊――騎乗戦闘は想定していない――を率いて東の前線へ、前線部隊への補給物資も携え、加えて軽便鉄道隊に後方から兵士と物資の集積を命じてから慌てずに向かう。

 東の山砲陣地はかなり堅固にしてある。人間の山岳民でも道具を揃えて天候が良好でなければ登攀困難な場所に配置してあり、避難、死守用の陣地ならばダグシヴァルでも登攀困難な高所、絶壁の上。

 悠々と、折角の増援部隊を疲弊させないように並足で前線に到着する。左右の高所から砲撃が行われており、狙うのは山砲代わりに敵が持ち込んだ、平地ならともかく山地なら重過ぎる軽砲。既にその多くが破壊されている。高所からの、待ち伏せの優位で一方的に撃ち下ろした結果だ。

 敵兵も山砲射撃の間隙を窺い、機を見て時に走りながらも岩場の陰から陰へと走って移動し、正面を抑える水門建設予定地を兼ねる防御陣地の前へ到達する。だがしかし小銃しか持たずに行けば当然、有利な位置から銃撃、砲撃を受けて動くに動けなくなって逃げ出す。

 しかし敵兵、優秀な奴等かもしれない。今までの雑魚共だったら――ランダンの女、少年兵以外――高地慣れしていなくて、慌てて走って高山病でぶっ倒れる姿が良く見られた。今見えている連中は機敏に走り、偵察に使えそうな柱のように立っている岩石を軽々と登って見せている。山砲の至近弾を受ければ素人のように慌てているのは重火器に慣れていないだけだろう。

 望遠鏡で――初めて渡した時は、拡大して見えた対象に手を伸ばしてた――ヒチャト人に確認させたところ、外西藩にいるツァンヤル人らしい。ヒチャト人より高い土地に住んでいるそうだ。それから分かる範囲で分析させるに、ツァンヤルの天道僧が先導役についているそうだ。

 天道教は外からの呼び名で、現地の山岳信仰者の総称みたいなもの。険しい山の道を修行の道として歩いて回り、把握し、道案内役として尊敬、重宝がられている。貴い商人、といったところ。戦争にも従軍して道案内するのでかなり俗っぽいらしい。

 前進して来た敵のツァンヤル人部隊は動きが止まった。

 膠着状態になり、落ち着いて来たので前線部隊から現況を聞く。前進が確認された敵は今対峙している分だけで、千人規模らしい。これを先遣部隊として更なる部隊が前進して来ている可能性はあると思うが確認されていない。前後間の距離が離れ過ぎているだけ? 威力偵察して帰る予定だった? 本当は数の揃った主力部隊がいるが高山病や、山の悪天候で行動不能になっていて、素人風に後方部隊の確認をしないでツァンヤル人達が前進して来てしまい、孤立したのか?

 うーん、エルバティアの連中がいればもっと遠くの状況まで確認出来ることを思い返せば惜しいことをした。あいつらの目の良さは世界一だから少しでも雇って来れば良かった。西から東の大返しで色々、思いつくはずのことを忙しさで忘れている……ああ、一応傭兵の打診はしたがダカス山への移民政策で取り合って貰えなかったんだったか。

 膠着している間に前線部隊と現状の敵配置を確認し、包囲を開始する。敵がこの行動に対応しようとすれば山砲で牽制。そして囲いが完成したら旗を掲げ、包囲の証拠を突き付ける。

「降伏しろ! 飯を食わせてやる! あと仕事もやるぞ! 働きが良かったら嫁も紹介してやろう!」

 ヒチャト人に通訳させて降伏勧告を出す。

 仲間に引き入れたいのだ。高地出身の兵隊になるような奴なんて、故郷で食わせられなくなって追い出されたような連中だろう。見込みがある。

 敵が考える素振りをしたので使者を出す。こちらには降伏したランダン人の女子供が余っていて、土地柄閉鎖的になっていたヒチャト人も近親婚が過度にならないように工夫したがっているということ。それから移住候補先は馬鹿に広い帝国連邦中、どこにでもあるとも。そのような甘い、しかし事実を突き付けさせる。

 そしても一晩も要さずあっさり全員が降伏した。

 また天道僧には金を握らせ、移住したい奴がいるならいくらでも勧誘して連れて来いと仕事を託しておいた。連れて来た人数分、追加報酬を出すとも。

 馬鹿正直に軍隊ばかりやってないで、為政者らしいことをしておくのが賢い。節度を保ち、時勢を読んだ上で。


■■■


 警鐘が鳴らされる。危険なので各所でしつこく連打。反響、共鳴、ヒチャトの峡谷自体が楽器になったよう。

「鉄砲水!」

「てっぽーみーずー!」

『てっぽーみーずー!』

 鐘以外にも声で伝えていく。非常に長い峡谷だが、大声で繋いでいけばあっという間だ。

 続いて爆発音が乾いて響き、また続いて地鳴りの響き。そして岩石に土砂を巻き込んだ濁流が設計した水路を流れ出す。

 遂にコショル川の流れの切り替え工事を行い、最低限の水路を掘って自然堤防と見做せる地まで流して東コショル川とコショル湖を作り出したのだ。ヒチャト回廊から、冬に天政兵を十万と沈めたルラクル湖への水供給も絶たれ、敵が防御陣地としているダンランリン手前の川も干上がる。

 着工から半年、いや七ヶ月掛かった。平時の物資人員豊富な土地での工事ならば遅かったかもしれないが、それらが乏しい戦地でこの規模、この結果は早いのではないか。

 岩盤を土のように砕く英雄サニツァ・ブットイマルス。緒戦では敵を恐怖の底に陥れて早期に粉砕。それからの雑魚相手の戦いには駆り出さず、巨大鶴嘴を握り続けさせた成果である。

 ヒチャト人の言い伝えに学んでコショル川の流れる方向は時に変わるという教え――山の龍がお怒りになるという伝説――を基に、どこに住んではならない、どこに住めなどという情報を活かして地形を調査して工事個所はかなり限定した結果である。

 コショル湖へ接続される水路、川の本数も続々と増えている。警鐘が鳴らされて「鉄砲水!」の声が、爆音が、鉄砲水の轟音が鳴る度に増える。小川や湖を水路に繋げて流している。

 接続水路の警鐘が鳴り終わり、次に別の鐘が鳴る。

「雪崩!」

「なーだーれー!」

『なーだーれー!』

 爆発、白い雪煙が万年雪の高地で上がって、斜面が崩れて雪崩が山を震わせる。一度に、複数個所で響けばそれが更なる雪崩も呼び起こす。大量の雪を新コショル水系へ落とす。大量の雪は夏でも直ぐに解けはしないが、いずれは解けて水嵩が増す。単純に、水路掘りだけでは排水し切れない湖の水を押しやって流す効果もある。川を潰して堰き止めることがあるのでそこは改めて雪洞を掘らなければならないが。

 自然堤防で作られるコショル湖は、何れは堤防を築かなければ容量を越えて氾濫を始めるだろう。勿論貯水は氾濫目的で行っているが、それはあくまでも制御された天政の大動脈であるフォル江へ流し込むための氾濫でなければならない。

 次の作業は今までの工事で掘り出した石屑で、地形に合わせて湖を囲んで堤防を盛り上げること。ここはかなり標高が高いので冬の訪れは早く、グラストの魔術使いが石屑の雑な壁を冬の訪れと共に氷の術で固め、そして大量破壊魔術の呪術刻印を刻んで解放の時を待つ。

 貯水は来年の春まで行って解放か、更にもう一年待つか、最悪、解放しないで溜めるだけでも良いとチビのゼクラグ将軍が言っていた。

 洪水を起こして敵資源への戦略打撃が与えられれば良し。もし与えられなくても、敵戦力がこのヒチャト回廊に引き付けられて陽動になればそれでも良し、ということだ。

 南ハイロウ軍二十万を総員死傷させ、崩壊したらお代わりのザカルジン軍を同盟勢力であるというのに遠慮せずに血塗れにし、それでも足りぬとシンラーブ軍に親衛軍第二軍団を当然のように遠慮なく呼び寄せてまた膨大な消耗戦に投入させる準備をしているだけあって頭の中身が違う。

 一体この豊かではない高地で何十万人殺して、百万に届かせる勢いを維持出来る気力はどこから沸いてくるのやら。相当辛辣に抗議を受けていると思うが、マトラ妖精の歴史的経験を聞くに意味は無いだろう。

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