第302話「ここで攻めあぐねる」 ベルリク
暦上で夏に近づいたが、枯れ川のような隙間にはまだ雪が残る。雪解けの増水と合わさり、季節の分かれ目が感じられる。うんこしたい。
その枯れ川の縁でうんこをするためにズボンを下ろして屈む。うんこ休憩次いでにファスラからの手紙を読む。ウレンベレからユンハル経由で送られてきた物だ。
「良い、凄く良い」
内容はマザキが滅亡して亡命する際には帝国連邦へ、そして極東海軍要員にとのこと。むしろ海に追い落としてこっちに連れてきて欲しいぐらいで、ランマルカに協力打診しちゃおうかというぐらい。流石に、おリンちゃんの身内にそんな背信は出来ないが、ちょっと偶然に期待してしまう。気落ちしたルー姉さんの顔も妹同様、可愛いに違いない。
帝国連邦極東艦隊。これは絶対に欲しいので亡命しなくても技術指導にマザキから顧問を招きたいとは考えている。魔神代理領式、ランマルカ式、アマナ式などのどの海軍伝統を主軸に引き継がせるかは慎重に考えるところだが。
「お兄様、画家が絵の下描きを見せたいそうです。さあどうぞ」
「うぉ!?」
まだケツ丸出し状態なのにアクファルが両手を引っ張りやがる。この女!
「どうぞどうぞ」
「待て、うんうんが、うんうんが!」
強制的によちよち歩きさせられる!
「待たせては悪いです」
「まだだって!」
手を引っ張る動作だけで関節を極められてるようで立つに立てない。マジかよ!?
「さあさあ」
「おいこら!」
「どっこいしょどっこいしょ」
屈んだ状態でずりずり引かれる。転んだら地面とズボンが擦れて脱げる、いや、足首で止まる? チンポが削れる!?
「いやー!」
「あんよが上手あんよが上手」
それから適切な処置を施し、石鹸と水桶をうきうきした顔で「総統閣下は清潔をしますか?」と持って来た妖精の衛生兵に「えらい!」と礼を言ってからそれで手を洗い、戦場画家の下描き、色指定したものを三脚台に乗せて並べられているところへ行く。
追撃戦。騎兵隊が小銃弓矢の騎乗射撃を仕掛け、走って逃げ、転び、両手を上げて降伏の意志を示す敗残兵を撃ち殺している。その後方では馬の背に立ち、傍らに猟犬を置き、望遠鏡で遠くを眺めて士官に何か喋っている偵察騎兵がいる。
荒廃した村。焼けた建物、蹄跡が荒らした泥の道。そして井戸の縁に鴉が集って下を覗いている。
攻城戦。重砲兵が、地平線の向こうに上部構造物だけが見えている要塞に対して繰り返し砲弾を装填、発射。脇で士官が諸元表や通信文を読みながら指差し指揮をしている。その爆音の中、疲れて寝ている兵士もいる。
破壊された要塞。瓦礫だらけで兵士が上から元の旗を下に投げて落とし、帝国連邦旗を改めて揚げる。破損した大砲があり、そこかしこに血が染みついている。崩れかかった城門を、切り落とした頭に手足を銃剣先に付けた妖精の兵士が隊列を組んで行進、入城中。
修復中の橋。木組みが川底から組まれ、瓦礫が撤去されている。その隣に仮設橋が渡され、その強度低めの橋を砲兵が順番を守って大砲を運んでいる。順番待ちの砲兵があくびをしている。
処刑。整列させられた捕虜があからさまに怯えた表情をして一斉射撃で銃殺されている。また生きている捕虜がその脇で、歌っている顔の妖精達に生きたまま耳を削がれている。
集団墓地。疲れた様子の埋葬者、荷車と地面に積まれた死体の山。そしてにゃんにゃんねこさんが入った枝編みの檻が荷車に乗せて運ばれている。
野戦。防毒覆面を被った散兵が小銃を持って前進、拳銃片手に号笛を吹いて先頭に立っていた士官が砲弾に下半身を千切られている。
死体が転がる荒野。兵士達が武器を集め、服の中にまで手を突っ込んで漁り、銃剣で死体を突いている。
食事風景。弾薬箱に座り、”半分こ!”と声が聞こえてくる顔の妖精の兵士がマトラまんを二つに割って一つを、肩を並べた人間の兵士に手渡している。
焼けたトンフォ山脈。山の向こうから麓まで、煙が上がって黒く焼けた森が広がり、雪か灰か分からない物が細かく降って、肩に積もったそれを兵士が手で払っている。
ナシュカの肉切り。白黒の馴虎とその相棒の兵士を血抜きに吊るしているところから肉を切り取り、鍋を持つ妖精に渡している。おっぱいが大きい。
塹壕戦後。砲撃で破壊された塹壕と防御施設、兵器各種が死んだ敵兵の肉片と土に混ざって斑になって、その上を肩に小銃を担いだ兵士が足跡つけて踏みながら、足元不安定そうに腕を少し広げて進んでいる。
日暮れ前。夕日の下、妖精がフレク人に高い高いされて喜んで、人間の兵士が酒を飲みながら踊って、その奥で弦楽器で演奏がされて楽しげ。更に奥には夜戦に活動を開始した黒旅団の黒い騎兵隊列が通りがかっている。
全般的に見たまま描いている。空想を混ぜておらず、人の目線の高さで描かれる。一つ、空から眺めた風景になっていて変だなとは思ったが、気球に乗った視点だと分かった。
画家が緊張した顔で自分の評価を待っている。上手下手かというより、こんな評判が悪くなるような絵を描いたら処罰されるのではないかという雰囲気。
「いかがでしょう」
「善人ぶる気はないから汚いままに描いて下さい。そうそう、絵画展を開いた時に絵の場面で拾った物とかゴミとか、一緒に並べると面白いかもしれません。お、剥製もいいんじゃないですかね。あ、これはやれって言ってるんじゃなくて提案なので、面倒ならしなくても」
「そこまで考えが及びませんでした」
「まあ、暇ならやってみて下さい。そうだ、それが出来るように命令書を発行しましょうか?」
「ありがとうございます」
■■■
帝国連邦軍とウラマトイ軍、互いの主力は街道沿いに展開。正面からの衝突以外にも工夫する。
脅迫伝令をウラマトイ各所に放った。説得力を増すため、にゃんにゃんねこさんを鞍に縛り付けた駄馬を放ったり、健常者に引き連れさせた目玉抉りの列を人の集まる場所へ向かわせる下準備をした。
伝令は”今、帝国連邦傘下に下れば友好的に仲間になったように扱う。それ以外は、殺さず、目玉を抉るか猫のような感じに手術して生かす。殺してくれと頼むようになる。女子供は家畜のような扱いの低い奴隷にする。個人でも氏族でも部族単位でも、王の抜け駆けだって構わない。これから共に戦うか、風にもなれず永遠に誰からも忘れ去られるか選べ”という先触れの台詞の書いた紙を渡してある。
下準備をした上で、こちらにはイラングリ、ワゾレ方面軍と重砲兵群が続々と合流して突破力が向上。正面から強力に攻撃した。
広いウラマトイの草原が広がっているので騎兵戦力を両翼に広げ、浸透させて敵軍の側面、後背を脅かすことが容易になった。火力機動力に勝って負け無し。おまけにウラマトイ軍自体の予備兵力の少なさ、伝統的な遊牧民は離反加速による人員払底、国家統制瓦解からの士気の低さで脱走相次ぎ、トンフォ山脈での戦いのような頑強さが消滅した。王都タラハムの防衛も軟弱で、そこの陥落からは壊走、離反の連鎖となる。やはり重砲があるだけで大分砲撃の度合いが違ってくる。
一応はウラマトイ都市部とその定住民系列の軍は督戦に控える東洋軍に人質を取られているので離反しないが明らかにやる気が失せていて、攻めて押せばその分だけすんなりと敗走する。
遂には督戦する側の東洋軍も諦めがついてしまったかウラマトイ軍を見捨てて急速後退を始め、本来の配置場所である沿岸都市、要塞部へ一気に撤退してしまった。激戦が予想されたウラマトイと白北道の境界線、ユービェン関だが、東洋軍の撤退を優先したせいか防御態勢が甘くてこれも簡単に陥落。グラスト魔術使いに地形を弄らせ、重砲を本来なら障害物になるような高地に引き上げて優秀な砲台としたのが決定打でもあった。
これでウラマトイ主要部はあっさりとこちらの支配下に収まった。臨時集団の編制も始まる。ランダン北部を抑える北方総軍とも司令所が遠くなったので、改めてこちらを極東総軍として再編制した。シャミール大総督に改めて北方総軍指揮権を書類上でも移譲した。魔神代理領各州軍、親衛軍の到着で内実も変わっているからこれで良い。戦況がこれで安定、有利になるのならばラグト両翼方面軍もランダンから引き剥がして極東に送って貰いたいところ。訓練が修了したハイロウ方面軍の編制と配置完了時期が好ましいが、予定は未定としてその件は伝えてある。
ハイバルくんの先例が生きている。ウラマトイで小規模ながら数多くの離反が続出し、己が部族を名乗りたいとする者達が現れている。老いも若きも野心ギラつく面の者達と会い、やれることをやってみろと激励した。
身内からは己の部族を作りたいと言う者は余り出ていない。いるにはいるが、前線に出て来ているのは軍として統率、まとまっている者達なのでそのように自由行動を取れば軍規違反になるのだ。彼らには戦後になるが、新しく広がった国境線警備のために大量の人員を配置するのでその時に新規部族の名乗りを許可することにした。ただの口約束にならないよう、その者達の前で軍務省宛てに指示書も書いてやった。これは民族練成に繋がるので少々強引にでも進める。
後方地域、従軍していない者達の間ではどのような雰囲気になっているかは分からない。帝国連邦の非戦闘地域に一旗揚げる地は無い。南メデルロマみたいな境界線が怪しい地域はあるが、あのような係争地は軍が厳重管理しているので有志民間人がどうこう出来るわけでもない。
ウラマトイ国の組織崩壊に伴う東洋軍の後退は計画的で統制が取れていた。ウラマトイ軍を見捨て、おそらくユービェン関をこちらに取らせることは敵の計画範囲内だ。ウラマトイからユービェン関に抜ける道は狭い谷で細く、その先への補給補充が難しい。関を抜ければ一気に平野部が広がり、数に勝る龍朝軍が包囲するように有利に戦える。これへの対処は、昼夜問わずに騎兵を走らせてまずは戦力を白北道へ展開して橋頭堡を確保、続いて重砲兵群主体の主力を進ませた。初動は成功したが、それ以上の進出は東洋軍と、そして新たに出現した軍を前に停滞を強いられた。計画に嵌められた形になるだろう。
ジン江南側からは大軍が動いた。纒軍という半民兵軍を前衛に、再編を果たしたかその最中の北征軍と準備万端の禁衛軍が後備につく。その規模の大きさと事前情報を合わせ、最低でも兵力二百万程度がジン江界隈に配置された。今までの敵と違い、敵地中枢に近いことから補給状態は極めて良好であるから実数以上に手強い。また確かな後備がいる以上、纒軍による攻撃は積極苛烈と予測される。歴史的にもユービェン関が境界線になっていた理由が分かるというものだ。
偵察によるとジン江沿いは過剰な護岸工事でもしたかのような長城となっているそうだ。広い川には河川砲艦、それも蒸気機関搭載で鋼鉄製の強力な兵器が揃っているとのこと。海に面する沿岸部にも同様。一方的な水陸共同作戦で行動されるのは辛い。それで優位を取った経験があるから尚更に理解する。
ほぼ掌握したウラマトイから作戦行動を取るのだが、大きく道が二つに分かれる。
一つ、ユービェン関から広い白北道に出る道。二つ、ウラマトイ南の都市ランイェレンからジン江中流部に出る道。
更に分かれる。ユービェン関起点。一の一、東を行けばユンハル部へ抜ける。一の二、南東へ行けば東洋軍が駐留する沿岸都市部、人口過密なジン江河口部へ辿り着く。一の三、南へ行けばジン江下流部、纏軍に北征軍が待ち構えている。
ランイェレン起点。二の一、南東へブラブン川沿いにほぼ一本道でジン江中流部に当たる。そこから敵首都ヤンルーのあるオウレン盆地が直前に迫るのだが、強力な禁衛軍が配置されて最強に頑強。二の二、南と南西側のジン江上流側。こちらは地形が厳しく未開発なので大軍を通行させられるような道がない。ただ全くの無警戒でもいけない。
ウラマトイ攻めはタラハムまでは一本道一正面であったが、ここから一気に強弱あるにせよ五正面に広がる。
ここで攻めあぐねる。五正面を抱えた状態で攻撃出来る規模ではない。兵力比較して足りず、補給線が圧倒的に細くて弱い。まず五正面を圧縮する。ユービェン関とランイェレンでの二正面に防御体制を敷いて対応する。そしてもう一正面、攻撃するのはユンハル方面。三正面にする。防御から攻撃に転じるのは準備が整ってから。
防御は、白北道も草原地帯が広がっている地形なので、正直敵軍の攻撃は油断しないで騎兵と火力の組み合わせで当面凌げる。拠点防衛に拘らなければ戦線を自在に動かして、突っ込んできた敵を分断包囲させられる。即応的な群壕戦術も限界がある。それは敵も分かっているだろうから、やはり膠着状態になるだろうか。敵の狙いはこちらの撃退よりも膠着、持久にあると思われる。
ただ防御していても仕方が無いので攻撃的にユンハル軍を支援し、彼らの目下の敵外北藩軍を撃破し、旧レン朝残党こと光復党軍を支援して蜂起させ、王朝復古させて龍朝軍を東西から挟み撃ちにしたい。そのために連絡回廊を白北道北部に形成する。地形的には草原、こちらの得意だ。
ユンハル軍の故地帰還と大部族総出の一斉蜂起が成功、また光復党軍と連携して外北藩攻めを始めているという連絡が来ているので初動から躓いてはいない。こうなると主戦場はユンハルと外北藩から旧東王領側にかける大陸極東地域になる。そして帝国連邦の目標である極東地域から東大洋への海の玄関口を手に入れる足がかりになる。既にランマルカ海軍がある程度、沿岸部に橋頭堡を築いているというから、どこに玄関を設置するかは応相談になる。間借りはしたくない。
龍朝もジン江線を維持しながら沿岸部と海路から旧東王領へ兵力を投入することになるだろう。きっと泥沼の内戦が戦争に組み込まれる。
内戦要素が組み込まれれば、表向きの戦争が終わっても戦火は燻り続ける。魔神代理領とは関係の無い戦いが継続される。その時帝国連邦は終戦を受け入れたとしても光復党軍への支援は止めない。それに必要な物と言えば鉄道だ。
鉄道は遂にハイロウまで伸びたそうだ。工期を短縮出来たのは単純に端から建設しなかったからである。
一つ、イリサヤルから東に延伸したもの。
二つ、大内海のヘロセンから東西に延伸したもの。
三つ、スラン川を遡上して中部ゴンガーンから東西に延伸したもの。
三点、五方向に伸びて連結し、ダシュニルに到達。
隧道の高速掘削法、出入り口と中間の縦穴から掘れば四点掘りが出来る工法の流用である。ついでにザカルジンでもディリピス港から王都シバリシ間も開通した。
工期短縮はランマルカの協力があってこそ。あちらからは技術、軍事顧問団がニズロム経由で続々と到着している。
蒸気式起重機搭載の操重車、その発展型の軌道敷設車や杭打ち車、蒸気式地面掘削機が路線で稼働していて鉄道建設が高速化されている。”いずれは列車運搬の超重砲もお見せしよう”と軍事顧問が言っていた。何か、時代を間違っているんじゃないかと思ってしまう。
魔神代理領中央政府主導で講和条約が結ばれる可能性は開戦当初から想定している。つまり帝国連邦の戦意の外で結ばれる可能性。多少期間はこちらの意志で前後させられるだろうが、独走は難しいところ。現状、北方総軍をシャミール大総督に任せている時点で不可能。
目指すのは勝利より、まず持って素早い極東打通である。最悪、極東の港が確保出来なくても次の戦争に有用となる鉄道を敷設しておきたい。
ジン江の線までは無理をして南進しなくて良い。あそこを国境線に出来れば管理はしやすいが。
戦争が終わってしまった際には光復党軍にその続きをして貰うように準備しなくてはいけない。必須は光復党軍との東西連結、可能であればユンハル経由で極東の海まで打通。不確かなことは多いが、やるべきことは決まっている。
■■■
二正面防御体制に必要な戦力を定めた。
ユービェン関はワゾレ、イラングリ、ヤゴール方面軍。選抜非正規一万人隊。ウラマトイ臨時集団。グラスト魔術使い――約半数に割った――一個旅団。
ランイェレンは中央軍。レスリャジン男女一万人隊に黒旅団。チュリ=アリダス臨時集団。グラスト魔術使い一個旅団。
これらの配置、指揮序列の整理をした後に、必要最低限の兵力だけで白北道北部回廊を突き進む。回廊自体の絶対的な維持、防御は志向しないので、そこを抜ける戦力は必要最低限とする。
必要最低限な部隊は、親衛一千人隊、親衛偵察隊、クセルヤータ隊とその予備隊、選抜グラスト乗馬魔術中隊、それから少数の補助部隊――毛象輸送隊も――複数同伴で、千五百名弱。
選抜グラスト乗馬魔術中隊は、馬で移動する程度の馬術を持った者達で編制した。また新型遊底式小銃も装備させ、訓練させて戦闘能力を向上させた。馬の管理はあまり得意ではないようなので、得意な騎兵を技術顧問として組み込んでおいた。顧問の話だと、言葉は通じても会話が成り立たないが、言うことは素直に聞くので気苦労だけがあるという。あと女ばかりで肩身が狭いとか何とか。
女ばかりと言われれば、見たことのあるグラストの魔術使い、全員女の顔だったような気がする。ベリュデイン総督が秘匿する秘術の一端だろうか。何やら良からぬ雰囲気がする。乗馬魔術中隊の指揮官、アリファマから「指揮官です」と一言だけで紹介された者も女だった。
白北道北部回廊を進む。冬の寒風吹き荒ぶ、わけではないので乗馬魔術中隊でも安心出来る。ここには敵の戦線整理の影響か、大規模陸軍を維持させる都市も無いせいか敵軍がほとんどいない。ユービェン関に置いた軍の影響あってか南から攻撃を仕掛けてくる気配も予兆も無い。ここには極東への鉄道を引きたいので終戦まで維持したいが、それは今後の戦況次第だ。
現地人は地形気候柄、遊牧、半遊牧民が多い。ユンハルでもウラマトイでもない少数民族達だ。連絡交渉役として親衛一千人隊に加えたユンハル、ウラマトイの者達に交渉させて臣従を迫らせた。この一帯の寝返りを期待したが、女子供老人ばかり、男と家畜は軍に取られていないそうだ。交渉以前で、得るものがほぼ無かった。
拍子抜けする程に戦闘どころか斥候同士の衝突すら起きずに、遂には白北道と外北藩の境界線に当たるライリャン川の畔に到達した。街道経路で到着したわけではないからか、要害も敵軍も姿が無く、遊牧民の女子供が軍用に適さない幼い家畜に水を飲ませている光景が見られただけだ。
雪解け増水で見つけ辛くなっている川の渡河地点を探らせていると、アクファルにクセルヤータが空からユンハルの騎兵隊を誘導して対岸に連れて来た。川向うから渡河地点を教えて貰って渡る。不安定な川底に負けない足の長い毛象が重量物の運搬で頼もしい。
「ようこそ総統閣下! 先発隊、お早い到着ですね」
その騎兵隊の隊長に出迎えられる。
「いや、これだけだ」
「これだけ?」
千五百、これだけ。三十万近い主力は二正面防御に回している。
「そうだ。ここは外北藩の、旧シム藩鎮の領域だが、既に制圧したのか?」
「いえ。東のガルハフトに我が王が、更に極東のマドルハイに光復党軍が攻撃を仕掛けていて、こちらの警戒が一時薄くなっている心持だけです。まだ、この一帯は危険です。東洋軍が兵力を集めつつあります」
「この川に敵の河川艦隊、蒸気鋼鉄艦は侵入するか?」
「この上流側は堤防も灌漑工事もされてないので浅くて砲艦は通れません。畑のある中流より南側は絶対ではありません。行動範囲内です」
「そうか。シムにいる敵軍まで案内しろ」
「最低でも一万人隊の正規騎兵と、東洋軍から派遣された即応軍が三万程いて、加えて増派が見込まれていますが……」
使いに寄越しただけあってこの隊長さん、状況が良く分かっているな。
「勝てる。位置は?」
「はい。ライリャン川中流にあるキルハン市に、ガルハフト派遣途中と思われる即応軍三万が、その北部の平野部に予備と思われる一万人隊が野営中です」
「じゃあその中間地点に案内してくれ」
「本気ですか?」
部下達を見やる。
「お前等、頭がおかしいんじゃないかって言われてるぞ!」
男も女も爆笑で答えた。
■■■
ユンハルの騎兵隊五百を加えて約二千となり、ライリャン川を下って中流の中核都市キルハンを目指す。移動中でも交代で仮眠、食事を取るなりして疲労を最小限に。馬は疲れたら乗り換えて管理部隊に託す。
道中、シムの遊牧騎兵一万人隊の斥候と幾度となく接触。斥候を兼ねる斥候伝令狩りが新型小銃の圧倒的射撃力でもって撃破。可能ならば捕虜にして情報を聞き出し、そして健常な案内役を付け目玉を抉って送り出す。そして伝えるかどうかは分からないが”逆らえば民族諸共根絶やし、降伏し臣従すれば仲間として迎える”という伝言を託す。
斥候伝令狩りは徹底してやっている心算とはいえこちらは少数で、そしてライリャン川流域ぐらいにまでなると湿度も高く、草原から森林地帯に移り変わって来ているので見逃し、取り逃しが増えた。結果、敵がこちらの規模を多めに想定した、威力偵察だけで千騎程繰り出して来る。竜跨隊によればその後方に加えて三千騎以上。
敵が数を揃えた騎兵を出してくれば、竜跨隊、偵察隊と連携して敵位置を把握し、丘ならずとも地形のうねり程度からでも高所を取り、馬の背に立って小銃の有効射程を伸ばして出迎える。
敵騎兵の小銃、弓矢の有効射程がこちらに届かず、こちらの小銃が十分に届く絶妙な間合いにて一斉射撃から始め、遊底式小銃の騎乗連射力を生かして敵が判断を下す前に多数の人馬を射撃死傷。素早い判断で後退を開始しても有効射程圏外には背を向けた時点ではまだ到達せずに射殺続行しつつ、転回が確認されたらこちらも追撃に前進して、騎乗銃撃を繰り返し、追って蹴散らす。
騎乗背面弓射を受けないよう、その有効射程には決して入らないため、目立つ色の鏑矢を定期的に放って代表の強弓使いが追撃しながら距離を測定する。そして森林や丘向こうへ逃げた場合は伏兵が予測されるので無理せず追撃を断念。追撃跡に生存者がいれば目玉を抉って送り返す。手早く抉るための研いだ匙は常備品だ。これで汁物を啜るのが流行り。
最近発見したわけではないが、最近になってようやく技術体系というか、精神修養体系に、敵を食って精神的に優位に立つというものが導入され始めている。明確にこれだ! となったのはトンフォ山脈での馴虎食いである。
馴虎は人間を捕食する者として実態以上に恐怖心を掻き立てられた。そこで逆にこっちが食ってやるとその疑似的で一方的な関係が終焉する。あっちも食うがこっちも食ってやるの関係になると心持が断然に違う。そして敵兵を食ってやる、肉食とまではいかずとも、目玉を抉ったことのある研いだ匙で、清潔のために洗浄した後だとしてもそれで食事をすると殺し合う敵から、殺して食ってやる敵に見えるようになってしまう。捕食者となるのだ。
レスリャジン氏族ぐらいの頃から度胸試しにオルフ人を殺人させたものだが、これが今発展して食い殺すに変質している。自分も似たところだとルドゥに作らせた即席の生臭い髑髏杯で酒を飲んでみたりしている。正直臭くて不味いんだが、景気づけには良い。
我々はキルハンに向けて、その機動を隠すこともしないで進む。当然、シム一万人隊はキルハンの即応軍に通報しているだろうし、こちらの行動を遅滞させるために威力偵察を繰り出してから決戦を挑むか検討している。こちらとしても決戦に持ち込めたらそれで撃破してやろうと目論んでいたのだが、緒戦のこちらの圧倒的な射撃能力に怖気づいたか威力偵察に留まった。おそらく、高確率で即応軍との挟み撃ちを企図している。企図しつつも、分かってて進軍しているこちらの意図をどう読んでいるかは行動が起こるまでは不確定。
■■■
シム一万人隊との決定的な戦闘が行われないままキルハン近郊に到着。ユンハル騎兵の案内もあり、予定通りに敵両軍の中間地点として妥当な位置に到着した。尚、キルハン市には港があり、河川艦隊がいるので相手になどしていられない。艦砲射程圏内、川沿いには絶対近寄らない。
到着してまず行うことは、都市にて堅固な迎撃態勢を取り、大砲も構えている即応軍に対する挑発。
昼間は捕虜や、道中誘拐して来た民間人の目玉を、敵の目の前で抉って送り付けること。にゃんにゃんねこさんとぴょんぴょこうさぎさんは偵察隊が死なないように、観衆の目の前で仕上げて送った。そして、まだ無事な捕虜と民間人を立てて命乞いに叫ばせる。自分達の未来が残酷過ぎて演技指導させるまでもなかった。
これを陽動として、キルハン市へ南側からやって来る伝令や補給部隊、商人に民間人や農民を襲撃させて、敵の目の前で捕らえてこれも立てて見せ、命乞いを叫ばせた。女子供が良い声を出すので活躍する。
これで挑発に攻撃を仕掛けて来れば迎撃するに良いが、敵は慎重で、それからもしかしたらこの辺りの住民に同情の念を持っていないせいか乗って来ない。
次に、夜を待って強弓使いに擲弾矢を暗闇から奇襲に、曲射でキルハン市を爆撃させる。最悪一人の死傷者も出さなくても良い。こちらに被害が無ければ良い。そして置き土産に、死なない程度に動けない程度に傷つけ、その前に蜂蜜水で喉を整えさせた一晩中叫び続ける者を仕上げて市とこちらの中間地点に放置。夜と、その明くる朝に同情して救出に来た一部の有志を狙撃して仕留め、生きているようなら中間地点で叫ぶお友達に加える。
色々と手を尽くした挑発に即応軍は、個々の独走は除いて反応しなかった。シム一万人隊との挟撃連携が成るまで動かないという意志を感じた。これはこれで良し。挑発に乗ったら乗ったでシム一万人隊と疑似三つ巴の形にして混乱させる心算だった。これで敵の短期拘束が確認された。必要最低限の見張りだけ残す。
さて攻撃準備が整ったところで北進し、挟撃するために我々を追尾中だったシム一万人隊の本隊へ仕掛ける。挑発の最中も既にこちらの動向を窺うように追尾して来ていた偵察騎兵隊は一方的に小銃射撃で殺している。不利な地形を選ばないよう努力をしていれば何とかなる。
こちらがシム一万人隊の本隊へ攻撃を仕掛けるのを相手は見て、尚且つ今までの戦闘からこちらの兵力が少数で後詰に止めを刺しに来るような後続部隊もいないと理解し、キルハンを金床に己が鉄槌となれると確信したようで兵力を集中して攻撃を仕掛けて来た。
攻撃の意志を持って動く敵とは戦いやすい。竜跨隊と偵察隊の情報を基に、また高所を取れて視界が優良な迎撃位置へ、あからさまにではなく、徐々に後退、追い詰められるような演技をしながら誘導して配置に付き、馬の背に立った騎兵横隊の撃ち下ろし小銃射撃で迎え撃つ。
グラスト魔術使い達も、敵が交戦距離に入ってからの、土弄り魔術によって瞬時に胸壁を作って相手の予定を狂わせて供与した小銃で射撃を行う。風の魔術による工夫で、シルヴを彷彿とさせる加速射撃で最新の大砲並みの有効射程距離を実現する程。視力と腕が追い付いていないせいで命中率はまあ、運良ければ当たる程度だが。
ユンハルの騎兵隊を遊ばせておくのは勿体ないが訓練と装備が足りないので、敵が接近した時の予備兵力として温存しておいた。
シム一万人隊は練度と装備で劣るものの、数は勝っているし即応軍三万がいると分って強引に攻めてくる。キルハンから即応軍が出撃して向かってきているという連絡も有り、敵両軍は連携がそこそこ取れている。
シム一万人隊主力の接近からの『フールアー! フールアー!』と喚声上げる騎兵突撃に合わせて騎兵横隊は後退し、ランダン王にもお見舞いしてやった直前まで馬体で隠蔽した毒瓦斯火箭の扇状一斉発射を食らわせる。揃って吹き上がる噴射煙、広がる飛翔体、地面に転がって馬の脚を打ち、弾頭直撃で殴打しつつ炸裂、爆発と毒瓦斯の飛散で敵主力の突撃を壊乱させる。防毒覆面を付けた騎兵、首狩り隊を先頭に、逆襲に突撃開始。勿論、自分が先頭だ。
「逆襲! 突撃に進め、ホゥファー!」
『ホゥファーウォー!』
『ギィギャアラー!』
正面主力の突撃に合わせようとしたシム一万人隊の両翼は、ランマルカから送って貰った面白い装備をした部隊に任せる。
ランマルカ本島で今頃は量産体制に入っていると言われる先行試作型の回転式機関銃を十丁受け取った。これは機関部一つに対して銃身が十連。これは十斉射がされるのではなく、一発撃つごとに銃身が回転して加熱を分散、銃身破損を防ぐというもの。機関部にある取っ手を回すと発射、排莢、給弾、装填、銃身回転の動作が機械仕掛けで同時に行われる。銃弾は弾倉に四十発、機関部上部に上から差し込む。防盾付きなので正面から互いに有効射程内でも一方的に撃てる。また荷車に載せて運用すると非常に良いと大陸宣教師スカップより助言があり、そのように利用している。
こちらの突撃破砕からの逆襲は、馬が曳く荷車に乗せた両翼五丁ずつの回転式機関銃による高速展開で守られた。一数える内に二、三発発射可能な上に小銃と違って強度も重量もあって反動が強くても問題無いので強装、威力と有効射程も長い。また三脚台に乗せることで旋回砲のように自由に角度をつけられるので、大砲のように一々車輪を回して動かす必要は無い。防盾の安心感、装填時に銃口を向ける先や銃手の目線を動かす必要が無いということもあって狙い付けが断続化して安定している。
機関銃の連射が始まる。次々と花が開いていくように敵人馬の肉が開いて散って骨が断たれて弾け、騎兵隊列など研いだ大鎌で雑草を刈るように薙ぎ倒して、運良く命中しなかった騎兵を死体に蹴躓かせ、殺戮の有様に恐怖させて散らす。
回転式機関銃一丁で百人の銃兵に匹敵する火力という触れ込みだったが、その機関銃の脇に下馬騎兵を配置して銃撃を加算させて組織的にするとそれどころではない。銃身を更に魔術で冷却して機関銃連射を継続させ、即席胸壁を作って防御力を向上させ、それでも近寄れば火の鳥をぶち込んで敵部隊丸ごと焼き払うグラスト魔術使いも組み合わされば二、三百倍の敵でも怖くないかもしれない。瞬時に構築される、騎兵の素早さの機関銃陣地。決して鈍くはない毛象輸送部隊も随伴させれば装備も弾薬も揃って運用次第では移動要塞の様相。
ちょっと余所見をしながら拳銃でシム騎兵の背中を撃つ。必死に逃げ、丸めた背中が張った服に穴が開いて中の綿が血に染まり、しばらく乗馬を続けていたが崩れ落ちて馬で踏み潰した。
首狩り隊が底碪式小銃を連射しながら追撃し、弾切れから拳銃に持ち替えて殺しまくる。節約に槍で脇腹を突っついて回る奴もいる。大分逃げる敵も頭数が減ってきた。
敵の耳を拳銃刀でぺたぺた叩いて、こっちを見た瞬間にスルっとその肩を切り落とし、驚いて重心が崩れたところを見計らって馬上蹴りで落馬させ、その馬の手綱を掴んで奪う。逃げるのに必死だと時々、肉を切ってやっても気づかないことがあるのだ。それだと驚かないで姿勢が安定したまま、死んだまま走ることすらある。これがベルベルの一工夫。
そろそろ個人的な趣味は止めて突撃は首狩り隊に任せて仕事をする。奪った馬を引っ張り「よしよし、よーし」と撫でて落ち着かせる。
防毒覆面を脱ぎ、竜跨隊と連絡を取って即応軍の位置とこちらの位置を把握して次の指示を出す。
挟撃を試みてこちらへ向かって前進中の即応軍の進路上に機関銃部隊を左右に配置させる。彼らには交互後退をさせて遅滞戦をさせる。荷車に機関銃が乗っているので射撃しながらの後退は容易で、場合によっては交互ではなくても良いかもしれない。一応だが、大砲とは撃ち合っても勝てないので原則厳禁と伝えてある。
方々へ散ったシム一万人隊への追撃は程々に、それぞれ各隊が連携出来ないほどの距離になるまでは行わせない。
そして次はこちらまで、防御陣地も無い平野部にまで誘き出された即応軍を相手にする。一万人隊を追撃して殺すと同時に即応軍を包囲するように散開した部隊を信号火箭の合図で集める。
薄く半包囲した即応軍へ銃弾と毒瓦斯火箭を撃ち込む。敵が前へ出れば後退し、常に有効射程で優位を取り続ける。グラスト魔術使いが土の胸壁を作って即席築城をして更に優位を取る。攻撃が激しいなら胸壁に隠れ、曲射に擲弾矢射撃。火薬発射に頼らない擲弾銃。五人張り、六人張り! の強弓使いは遠くまで飛ばせるので小銃より攻撃力の高い擲弾矢を好む。
即応軍はシム一万人隊に合わせようとしたせいで中、大口径砲は前線に到着していない。しかし騎馬砲兵に引かせた軽砲、斉射砲を前線に並べ始める。これとまともに撃ち合う必要は全くないので、確認した場合は勿論、予兆が有り次第、各隊には逃げるよう指導。毒瓦斯火箭で対砲兵射撃をさせても打撃は与えられるが、数の揃った砲兵隊と正面から殴り合う程の火力、残弾は無い。これは練度でどうにかなる問題ではない。
即応軍へ損害は与えたが決定打には程遠い。そして敗走させたシム一万人隊の一部が部隊を再集結、反撃の機会を窺っていると竜跨隊が通報してくる。こうなれば即応軍は放置して全隊を集結させ、そのシム残存部隊撃破へ、機関銃部隊を殿にして急行する。
集中運用した十丁の機関銃弾の壁が敵追撃部隊を、馬に機関銃を乗せた荷車を曳かせながらある種の背面射撃にて殺戮。敵は馬で曳いても射撃用意が必要な大砲を追い付かせることが出来ず、的の大きい騎兵を繰り出せば人にも馬にも千切れ穴が開き、歩兵を走らせれば次々と落とし穴にでも落ちたかのように内臓を撒き、手足を砕き落として潰れて平らになっていった。
弾幕を幸運で乗り切り、距離を詰めて射撃する敵兵もいるが、その銃弾は機関銃兵に届いても防盾に防がれて火花と散る。そして随伴の騎兵が背面射撃、後退支援に先に迎撃態勢を取っていた部隊が一斉射撃、そして無限のように射撃する機関銃が反撃に撃ち殺す。
斉射砲に文句を言っていたラシージもこれには納得していることだろう。
即応軍への包囲が崩壊したがこれは想定内。そして日が暮れる前に竜跨隊の誘導に従って再集結中のシム残存部隊を続々と撃破し、追撃して戦果拡大、そして捕虜はさくっと目玉を抉って放置して手間は最小限。
■■■
即応軍の追撃から逃れ、夜を待つ。疲れた馬を乗り換えた。
そして各地に潜伏させた偵察隊と、空を飛ぶ竜跨隊からの情報を合わせてキルハンには今日中に帰還出来ないと野営を始めた即応軍に対する夜襲を検討し、今日は月が明るいから止めた。
夜の内に更に距離を取る。シム残存部隊が再集結した地から更に離れた場所へ行って仕切り直す。
偵察隊と竜跨隊からの情報を得て敵位置を把握し続ける。また再集結したシム残存部隊がいれば、即応軍と連携出来ない位置、時間帯、日没前を狙って、西日を背負って襲撃。負け癖がついた残存部隊は簡単に敗走。敗走が予測出来るから逃げる方向が予想しやすく、計画的な伏兵で迎撃、殺戮して夜を迎える。
残存部隊が逃げる方向は、きっと即応軍の方向。逃げ込む方向、安心できる仲間のいる方向はそちら側。夜、暗くても地理に明るければそっちへ向かうことが出来る。見逃して向かわせる。
残存部隊をほぼ散らした後は集結してキルヒンに向かう。即応軍は短期決戦の野戦と見込んで長距離行軍、野営の準備をしていなかったので一時都市へ戻っていたのだ。ユンハル軍の攻撃を受けているガルハフトに向かうはずだったのに、まだここでまごまごとしている彼らにはまた夜襲ならぬ挑発を仕掛ける。切り込みはせず、捕虜の目玉抉りとにゃんにゃんねこさんを行って送り返す程度。
そして撤収準備完了した時に景気づけの毒瓦斯火箭を撃ち込んで一斉に退いた。
音で聞き、偵察隊の報告を後で聞けば、キルハンに逃げ込もうとしたシムの残存部隊が誤射されたそうだ。これで相互不信は高まり、我々がその辺りを自由に動き回っているという認識が共有される。我々が頑張って敵に痛手を与えたことにより、こちらへ現状では攻撃する来る予定が無いユービェン関の極東総軍の片割れの影に怯え易くなる。我々と同等、もしくはそれ以上の軍が派遣される可能性が色濃く見えてしまう。不利な野戦を防ぐため下手に軍を動かせなくなる。これで東洋軍が外北藩へ即応軍を先遣に援軍を送る作戦を――おそらく短期だが――麻痺させた。
「次はガルハフトの方へ案内してくれ」
「仰せの通りに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます