第290話「赤帽党赤帽党」 チェカミザル

「赤帽軍の皆ぁ! 準備はいいかなぁ!?」

『いいともぉ!』

 上陸船団、櫂を漕いで砂浜へ舳先を向けたまま突入。楽しい音楽がドンチャンチキチキ。

 太鼓でドンドン、鉦鼓でチキチキ、銅鑼でガッシャン、笛でピーヒャラ、角笛でブオー。

 毒瓦斯弾頭火箭、煙幕弾頭火箭、艦載重臼砲が発射する重榴散弾、船舷並べた軍艦からの直接照準艦砲射撃が敵の水際防御陣地に降る。複数構造になっていない塹壕線と、その向こう側の堡塁に満たない砲台から煙と粉塵が柱に、火の手が上がる。紺水舞龍南覇軍旗が焼けて落ちる。

「王様はお面しないの?」

「王様は平気なの!」

「そうなんだ!」

 これから砂浜に上陸する赤い帽子の兵隊さん達は防毒覆面を被る。毒瓦斯が広く散布され、今日は風が弱く滞留している。

 上陸間際、船の上から下を見ると海水越しに砂の模様が見える。浅い。

 火箭、直接照準艦砲射撃が巻き込み防止に終了し、重臼砲は射程を延長して水際防御陣地後方の射撃に移る。陣地後方の林がバサバサと揺れる。

 最初は囮に、長距離航海で痛んだ船、ファイード朝から購入した廃棄寸前の老朽船を複数同時に砂浜に突っ込ませて座礁させ、傾いた。そのほとんどは空っぽで大砲も偽物。何かが乗っていると思わせて撃たせる。被害担当の座礁船は壁になり、水際限定だが交差射撃を受け辛く安全度が高い。

 それでも海面に敵の放った銃弾と砲弾が着水、弾け、血が流れて帽子と死体が浮かんで揺れる。

 上陸船団の先鋒は楽しくピーピーカカカと演奏する山車を乗せた船、浜に突っ込み、押し手が船から下りて、

「……せーの!」

『よいしょー!』

 山車を担ぎ上げた。屋根に乗った自分の足元が揺れる、両手に持った扇を振り上げる。

『わっしょい! わっしょい!』

 山車を皆で持って波打ち際へ上り、降ろす。

 王は踊る。皆頑張れ! 頑張る姿はカッコいい!

 ザガンラジャード神御上陸。ジャーヴァルからこんな遠くの土地まで先端が伸びて届いた。

 そして山車の押し手や奏者、銃砲手を守る防盾を取り付けて前進。盾が銃弾に削られ、隙間を縫って押し手の頭を弾いて帽子と血と頭皮が散る。

「行くぞぉ!」

『おお!』

「皆で歌おう赤帽党歌!」

『皆で歌おう赤帽党歌!』

 演奏が加速する!


  赤帽党! 赤帽党! 海越え山越え赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! どこでも行けちゃう赤帽党!

  島を動かす赤帽党!

  川を曲げるよ赤帽党!

  世界に跳躍赤帽党!

  精気が盛り盛り赤帽党! はい!

 

「赤い帽子の兵隊さん! はい! それそれそれそれほいほいほいほい!」

 御本棒山車が敵弾を集めてお頭に穴が開き、削れ、盾になって前進。撃たれて死んでも怯んじゃ駄目!

『わっしょいわっしょい!』

 続く上陸船が舳先から砂浜に突っ込み、降りた散兵が押して進める。ある程度前進したら横向きにして防御物にする。この上陸船は装甲張りだから銃弾程度じゃ穴が開かない。旋回砲も載せていて缶式散弾で砲撃出来る。砲弾を受けると砕け、砲弾と船の破片が散って十何人と一気に死傷して倒れて血が弾ける。

 上陸船を押さぬ兵が牽制射撃をする。雷管式だからある程度濡れても撃てる。火蓋は海兵隊式に防水仕様。

 山車は前へ進む。演奏と銃撃、旋回砲の砲撃。彼等の防盾には銃眼、砲眼がある。王は踊る。皆頑張れ! 頑張る姿は美しい!

「行け行け行け行け!」

『わっしょいわっしょい!』

 散兵が散らばって、撃ちながら前へ広がる。装甲上陸船を縦にして押して進めて前線を押し上げ、横に向けて前線を維持する。

 上陸地点を広く確保したら次は突撃兵が上陸、軽い突撃砲を持って降りて進む。防盾付きの突撃砲が装甲上陸船の間を縫って設置され、反動吸収の脚を広げ、防盾に隠れながら砲撃。

 山車が前へ、突撃砲が前へ、装甲上陸船が前へ、連携しながら交互に緩い坂の、足と車輪が埋まる砂浜を駆け上がる。流木とゴミを踏んで折って仲間の死体、砲弾が作った穴を乗り越えて進む、どんどん進む!


  赤帽党! 赤帽党! 鉄の体の赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! 炎の心の赤帽党!

  鋼の精髄赤帽党!

  力と筋力赤帽党!

  直棒激突赤帽党!

  直棒激突! 赤帽党! はい!


「熱情鉄棒一直線! ほい! ほれほれほれほれしょっしょいしょっしょい!」

 死んでも殺しても前へ皆が進む、進む。元気、元気!

『わっしょいわっしょい!』

 戦闘工兵上陸。皆で前線を押し上げ、山車と装甲上陸船が壁になり、牽制の銃弾砲弾を撃ち込んでいる分素早く前へ行ける。王は踊る。

「頑張れ頑張れ!」

『わっしょいわっしょい!』

 赤帽軍はただ帝国連邦軍を模倣しない。彼等が大陸陸軍であるからこそ採用を一時的に見送ったような装備も使う。

 一つは上陸戦時に使った重臼砲。作りやすいがあちらの重砲に劣る。

 二つはこの組み立て式新型重火箭。弾頭と発射筒が分離し、薬剤も後から詰め替えに入れる。重いので敵の頭を継続的に抑えるのに使い辛いらしい。あと、飛距離が短い。広大な内陸部ではたしかに使い辛いだろう。

 戦闘工兵が重火箭を発射台に乗せて噴進、目標は敵塹壕の前に展開される金茨と地雷原。大爆発、爆風で砂と金茨が舞って散って、地雷に誘爆。破片効果を考慮しない、単純な爆風効果を重視した。障害物の除去装置としては優秀。突破口が各所で開く。そこが行ける。


  赤帽党! 赤帽党! 震える魂魄赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! 食らえ爆裂! 赤帽党!

  固いぞ固いぞ赤帽党!

  偉いぞ偉いぞ赤帽党!

  赤い覚悟の赤帽党!

  覚悟が赤い赤帽党! はい!


「ザガンラジャード突進だ! ほら! そいそいそいそいそらそらそらそら!」

 山車が先頭、突破口を通って、地雷に足を吹っ飛ばされ、そのまま塹壕に突っ込み、抵抗している敵兵を潰して屋根を橋にする。演奏は楽しく止まらない!

 重装備の突撃兵が拳銃を持って続き、散兵が射撃支援をしながら追随。

『わっしょいわっしょい!』

 押し手は短剣と拳銃を持って塹壕内の掃討、楽しい音楽はチャカチャカカンカン続く。王は前へ躍り出て踊って扇を振って頑張れ頑張れと応援する。毒瓦斯は吸っても不思議とへっちゃら。

 突撃兵が塹壕向こうの敵陣地へ突っ込む。拳銃を連射、手榴弾を投げ込む。白兵戦で銃剣を刺し合って内臓が出る。

 戦闘工兵が火炎放射器を持って塹壕と砲台、掩蔽壕、待避所を焼きに行く。燃料缶を撃たれてから炎の方術を受けて爆発炎上、術使いと仲間を巻き込んで丸焼け、絶叫!

 皆頑張れ! 頑張る姿が誇らしい!

「突破が成功! 突破が成功!」

『わっしょいわっしょい!』


  赤帽党! 赤帽党! 昨日にさよなら赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! 明日におはよう赤帽党!

  広がる広がる赤帽党!

  出てくる出てくる赤帽党!

  精神昇天赤帽党!

  文化が激震赤帽党! はい!


「尻から火が出る赤帽軍! ひょー! ふれふれふれふれへいへいへいへい!」

 浜の防衛線を突破したら次は拠点攻略、ニビシュドラ国南西、プアンパタラ諸島の一つ、フダガル島の交易都市シェルー。

 艦砲射撃がシェルーに行われるが、港湾入り口の要塞との射撃戦になっていて進捗芳しくない。

 重臼砲の射撃目標は要塞ではなくシェルーに変更され、曲射弾道で市内に着弾。強い要塞ではなく弱い都市を先に落とす。

『わっしょいわっしょい!』

 砂浜には次に砲兵が上陸、大砲の揚陸作業に移る。仮の桟橋が出来たら象さんが荷運びに加わる。

 砂浜からシェルーへの道のりにいる敗残兵を倒しながら前進。塹壕から山車を引っ張り上げて、潰れて絡まった敵の死体を剥がして、前に出て最先鋒へ。屋根に上がって王が踊る。

「追え追え追撃! 追え追え追撃!」

『わっしょいわっしょい!』

 皆頑張れ! 頑張る姿が赤帽党!


  赤帽党! 赤帽党! わっしょいわっしょい赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! わっしょいわっしょい赤帽党!

  どんどんどんどん赤帽党! はい!

  それそれそれそれ赤帽党! はい!

  どんどんどんどん赤帽党! はい!

  それそれそれそれ赤帽党! はい、もう一回! はい!


「弾ける血と汗、美しい! よっ! うらうらうらうらよいよいよいよい!」

 シェルーの城壁は古いがしかし低くて分厚い対砲撃仕様。上陸した砲兵が城壁の銃眼、砲眼、壁上の砲台を狙って破壊射撃開始。石片と肉片が霧になり、その向こう側に隠れている敵の頭を出す瞬間を狙撃する散兵。鹵獲した敵の軽砲と斉射砲も導入。撃ち返された砲弾が大砲を潰して砲兵を四分五裂にした水袋みたいにする。

 戦闘工兵が城壁の高さを測ってから攻城梯子の長さを調整し、敵の射撃が弱ったところを狙って梯子をかけ、突撃兵が駆け上がって城壁に突入。梯子が押し返されて高いところからばったんと倒れることもあるけど赤い帽子の突撃兵さんはちょっと咽るけどまた上りに行く。銃弾に煮た油に糞尿も掛けられて死ぬし熱いしくっさーだけど何度も挑戦。散兵が銃撃で支援する。

 頑張れ! 頑張る姿は素晴らしい。

『わっしょいわっしょい!』

 突入した突撃兵が城門を制圧、迎撃装置を沈黙させる。重臼砲へ合図を出して砲撃が中止されたら正面から赤帽軍入城します。

 王が踊る山車を先頭に、音楽が楽しくバチバチヒャララと、正門に『おりゃー!』と橋って先端衝突打ち破りに貫通する御本棒が御立派!

「御入棒! 御入棒!」

『わっしょいわっしょい!』

 市内に突入!

 家に立て篭り抵抗する敵兵が窓から射撃してくる。浜ほどじゃないけどまだまだ兵隊さん達がバタバタと倒れ、後続が止まれず踏み潰してとどめを刺す。散兵が窓を撃って牽制、狙撃。重臼砲弾が破壊したような建物からでも抵抗があるから油断出来ない。

 突撃兵は窓に銃撃、手榴弾を投げ込み、時間差に追い手榴弾を投げ込んでから棍棒で扉を打ち破って突入して皆殺し。反撃の銃剣で目玉を潰されてもニッコリ!

 制圧に時間が掛かりそうな大きな建物には優先して戦闘工兵が派遣され、火炎放射器で燃やして建物ごと焼き殺す。丸焼きになったまま抱きついてきて道連れにされることもあるよね!

 石造りの燃え辛そうな建物の場合は毒瓦斯放射器で燻蒸。人も虫もわっと出てきて、特に食堂なんかゴキブリが凄かったの!


  赤帽党! 赤帽党! わっしょいわっしょい赤帽党!

  赤帽党! 赤帽党! わっしょいわっしょい赤帽党!

  どんどんどんどん赤帽党! はい!

  それそれそれそれ赤帽党! はい!

  どんどんどんどん赤帽党! はい!

  それそれそれそれ赤帽党! はい、もう一回! はい!


「降伏しないといけないよ!」

『はい!』

『降伏しよう! 降伏しよう!』

「死んじゃうから参ったしよう!」

『参ったごめん! 参ったごめん!』

「赤帽党を信じて信じて!」

『信じて信じてお願いよ!』

『はい!』

 家を一軒一軒、手榴弾で制圧。火炎放射器で焼き、毒瓦斯放射器であぶり出し、砲兵が突入して建物へ直接射撃で大穴を開け、捕虜を取り、住民は広場に集め、逆らったらお仕置きザガンラジャード棒でいけない心をお尻の底から直線強制。

 占領区画が拡大。抵抗が段々と薄くなって来たと思ったら、警備隊は後退して港湾部の要塞に篭った。

 そして市長が白旗を持って出てきて降伏する。

 プアンパタラの人間は天政からの移民もいるが、大部分は現地人やタルメシャ大陸部からの移民の混血で、天政の言う中原どころかニビシュドラ国の首都ギバオからも遠過ぎて忠誠心は薄い様子で、市長はあの南覇軍の連中のせいで迷惑していた、とすら通訳が言うには言った。本当かな?


■■■


 シェルー市内の鎮圧と消火は終了。残存兵の狩りも順調。市長の協力も得た。御本棒を載せた山車の走行経路や、市民と一緒に歌って踊る場所も、ザガンラジャードが御立つ祭壇も確保した。次の展開を考える。

 シェルーの港湾設備が要塞で使えないと困る。ここを拠点に、南ニビシュドラのインダラ地方へ、火食い鳥頭の反乱軍を支援する計画である。

 反乱軍の中核になるのはファイード朝で奴隷兵士とされつつも亡命政府の役目を担っていた者達。彼等がインダラ解放軍として龍朝天政の属国ニビシュドラと戦う。それに呼応したニビシュドラ島南沖のカピリ島の風鳥頭も蜂起する。

 このシェルーがあるフダガル島に到着するまで先導してくれたファスラ艦隊、そして我が赤帽軍艦隊は長い航海と、上陸前に行った南覇海軍警備艦隊との戦いで疲労している。拿捕した鋼鉄艦が戦闘に参加したので開戦当初のような一方的な負けは無かったが被害もあり、船の人達もそろそろ休まないと辛い。戦いは先がある。人も休み、船も海上ではなく岸壁に安定して係留させて整備したいところ。敵要塞砲の射程圏内にある乾船渠も使えたら使いたい。砂浜に上げて整備することも出来るが敵の急襲に対応出来ない。

 ここまでの航海は速度第一であった。一直線にシェルーを目指して向い、南覇海軍がこちらの動向に気づいても間に合わないように航行した。その上で後続の暗殺部隊を乗せた船が南洋諸島の各港では天政の駐在武官を殺して回って連絡を封じてくれている。これに加えて連合艦隊が西から、セリン艦隊が南からタルメシャ大陸部沿岸へ陽動の海上遊撃作戦を行っている。

 船員の疲労や、劣る海軍力からこのシェルーへの奇襲が限界点でもあった。それ以上のパラオ方面、北ニビシュドラ方面への進出は敵主力艦隊との遭遇の危険性が高く、上陸前に海戦で撃滅される恐れがあった。だからシェルーを取り、そこからインダラを橋頭堡に龍朝天政の弱いところから攻める。

 ニビシュドラの島は大陸のように広く、たとえ海上補給が途絶えても長期間持ち応えられる地力がある。海上に支配権を確立出来なくても、ニビシュドラ北端の首都ギバオを押さえることが出来れば敵の東大洋と南大洋航路を陸から大きく制限出来る。これはタルメシャで戦う南覇軍を大いに弱らせることが可能。そして魔神代理領の新鋼鉄艦隊の建造と到着まで持ち応え、何れは大陸に上陸してみせよう。ランマルカからの海軍技術協力はなったと聞いた。北の赤き旗の革命の血潮が協力するというのだから信じて待つのが赤帽党。

 ジャーヴァル軍も、南ハイロウ攻めの軍をタルメシャ内陸攻めに転用すると南洋諸島海域に入る前に聞いている。その攻撃とこちらの攻撃が成功すれば大陸で握手出来るかもしれない。

 シェルーでは、後はあの港湾要塞だけである。市の方は古めの城壁だが、要塞の方は最新式に頑丈で要塞砲の性能も良く、先程の砲撃戦でこちらの船が一隻爆発炎上、轟沈してしまった程。座礁させた船は修理して沖へ引っ張り出すので、それから一隻補充すれば一応数だけは揃うが、海軍力で劣勢な内は一隻でも惜しい。艦隊に砲打撃戦を継続させるのは考えもの。

 陸側から要塞を攻めようにも岬のような位置にあって陸路は一本道。地面は岩で掘り難く、海面の満ち引きに加えて悪天候が重なると海水を被ってとてもじゃないが坑道作戦も出来ない。神経を減らすために昼夜問わずにいつも聞こえる用に音楽隊に演奏させ、定期的に毒瓦斯弾頭火箭を打ち込んで、捕虜を薬漬けにしておかしくしてから送り返しているけど在庫は無限ではない。水と食糧圧迫に天政商人だとかも送っているけど食べちゃってないかな? 病人と糞溜めや腐った死体や食べ物と一緒に置いて、病人の捕虜を作成中だけど上手くいくかな? うーん、良く分からない。とりあえず、要塞丸ごと崩壊させるような砲撃をするような砲弾は、撃ち尽くす勢いで撃てばあるけど、今後の作戦展開を考えればやってはいかないということは分かっている。

「そうだ!」

「どうしたの王様?」

「港と船渠が使えないなら、別に作ればいいじゃない!」

『流石は王様! 王様の言う通り!』

 思いついたら即実行。市長に協力を仰いで、既存の別の港や、建設するのに良い地を聞いて建設に移らせる。要塞攻略が成功した後でも予備の施設があれば安心だよね。お仕事を頑張るのが赤帽党。


■■■


 シェルー防衛および要塞包囲、予備港及び船渠建設部隊を残し、インダラ解放軍を直接支援するために赤帽軍本隊はニビシュドラ島南部、ザボア川河口の主要都市スンバオへ入港した。

 ファスラ艦隊が先行してインダラ解放軍の将軍スパンダを帰国させていたので、彼が民兵を率いて開城した後である。民兵と言っても、定期的にファイード朝から送り出されていた訓練された元奴隷兵が中心になって育成していたので正規兵と見做せる程。事前に暴動や暗殺、襲撃や焼討、誘拐や脅迫でギバオ政権派の警備隊はまともに機能していなかったそうだ。

 スンバオにはニビシュドラ国、ギバオ政権から派遣された行政官がおり、人間の守備隊もいたが今では全てが殺されて吊るされている。天政からやってきた、そこそこ歴史のある移民街の住人も皆殺しで、征服の証とその脳と内臓が生で食われ、肉は食肉用に加工されている。勿論、生粋の天政人も対象。

 インダラ人が憎むギバオ人は、主に天政からの移民。原住民と混血して長いが、彼等の感覚では異邦人。種族が違う、意識が違う、宗教が違う。交わることがなかった。

 インダラ人もカピリ人も天政とニビシュドラの人間から珍獣扱い、奴隷扱いを受けてきた。インダラ人はその凶暴さから闘鳥の賭け試合に使われたり、番犬代わりにされたり、食肉とされた。カピリ人は鳴き声が美しく風流だとかで籠で飼われて歌を強要され、羽毛が美しい、薬になると狩り殺されてきた。一部地域では畜産されてきた歴史がある。

 我が赤帽軍と、火食い鳥頭の筆頭スパンダ将軍の解放軍は、続々と応援としてやってくる風鳥頭のカピリ人部隊も加え、スンバオで軍を再編して、どのように共同して動くか、指揮系統を確認した。後は出発して頑張るだけである。

 彼等とは仲良し。我々の赤い帽子には、派遣記念にと彼等から抜けた羽を貰って刺して飾っている。これは我々赤帽軍が人間であったら少し難しかったかもしれない。妖精の中でも耳が長めで背が小さい南方系の姿が友情を助けているかもしれない。

 ニビシュドラ島内にも同胞の妖精、この東側世界では小人と言うが、いるらしいのでそちらとも仲良しになりたいものだ。赤い帽子を贈呈しようと思う。友達の輪を広げるのが赤帽党。

 広場に軍を整列させた。銃兵と砲兵と若干の騎兵に音楽隊、そして象と牛の山車と輸送部隊が揃っている。シェルー港の機能が万全ではないため、食料は現地調達と敵軍撃破で賄える予定だが、弾薬の補給に若干の不安がある。赤帽軍にも帝国連邦を範に取った前線工廠を作れる工作部隊がいて、スンバオで準備をさせているがこれは全軍を支えるものではない。海軍が頼りだ。

 友好の、これから血を流す戦友としての儀式を行う。

「君達も直棒一直線の情熱の赤き血潮の赤帽党だ。種族も思想も関係ない。赤き血潮の先端充填出来る爆発の心があれば誰でも赤帽党。心が赤帽党なのだ」

 スパンダ将軍が赤帽を被る。

「どうですかな? チェカミザル王よ」

「いいね! 似合ってる!」

 彼等には統一の軍服が無いので、我々が用意した赤帽が暫定的にその代わりとなった。将軍の着帽を見て各鳥頭の兵も被る。赤帽軍の兵隊さん達が拍手で歓迎。仲良し!

「偉大なる星の魔女よ、我らに運命を与えたまえ!」

 スパンダ将軍が、まだ生かしておいた泣き喚く人間の子供の足首を掴んで吊り下げ、刀で首を裂いて血を杯へ注ぎ、壇上から投げ捨てる。そして杯を天に掲げてから異形の魔女ガマンチワの像へその血を激しく浴びせた。

「血を捧げたぞガマンチワ、我等に運命を与え給え! インダラとカピリに勝利を! 赤帽党に栄光を! ギバオに涙と血を! 龍朝天政の子々孫々が絶え、落ちぶれ、灰を貪りますように!」

『おお!』

「人間共をぶっ殺せ!」

『人間共をぶっ殺せ!』

「ホヴォー!」

『ホヴォー!』『わー!』『キェピー!』

 魔神教と天文学がジャーヴァルを経由し南洋諸島を通ってインダラで変容した星海の教え。その中でもギバオ政権に禁止されていた、人型の腕持つ三眼の大蝙蝠、吸血魔女ガマンチワは南天の占星術師の始祖であり、血を捧げることによって霊力を発揮し、運命すら捻じ曲げる予言を下すという。

 楽しい行進曲でもある赤帽党歌の演奏を開始し、列整理、そして北進へ!

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