第261話「紛争継続」 サニツァ

 東方遠征作戦は成功して、スラン川ってところまでレスリャジン部族の領域が広がったみたい。たくさんお爺ちゃん年代の兵隊さんが死んだみたいで、氏族長級の人でも三人も死んじゃったらしい。それからスラン川の源流辺りの方ではまだ紛争継続中みたい。あっちでもこっちでも生存圏の拡張闘争は終わらない。頑張ろう!

 ワゾレ作戦と平行して進んでいたバルリー作戦に参加するよ! ワゾレの方は大体決着がついた。情報部の方から「英雄サニャーキ・ブットイマルスの力を借りたい」ってお願いされたから協力する。

 バルリー作戦の方は最前線に大軍が駐留し、そして遠路侵略しても補給が切れないようにと道路、補給基地、補給体制の整備が優先されてきたので時間が経過した割りには攻撃的に計画は進んでいないみたいで、ジュレンカちゃんが「ボレスのぷにぷに、何時までぷにぷにしてるのかしら」って言ってた。

 対バルリー要塞はとっても南北に長くて頑丈。ダカス山から、マトラ、ダヌア、バルリーが領域を接する百番要塞まで続く。

 ジグザグに掘られた三重の塹壕線。第一線が突破されても第二線から逆襲が仕掛けられる。予備の第三線まで引き込んだらもう敵は迷路に嵌った状態になって各個撃破出来ちゃうらしい。雨が降っても水が溜まらないように排水路がつけられて床にはすのこを敷き、手榴弾を蹴落とす穴、便所、地下寝所が設けられている。

 コンクリート製の掩蔽砲台はマトラ基準の臼砲弾直撃に耐える。弾薬庫と直結する線路が築かれ、貨車を使って砲台まで運べる。弾薬を砲台内に大量に置いておくと誘爆の危険性が高まるので発射点と保存点は分離が望ましい。

 そして今は防御よりも攻撃用の地下坑道が西、悪いバルリー人がマトラの妖精さんから奪った土地に向かって掘られている。地リス頭のチェシュヴァン人さんが応援にやってきて、とっても早く工事が進んでいるらしいよ!

 今のところ悪いバルリー人は積極的に東へ侵略をして来ていないらしいからこんなに立派な要塞を造る必要は無いかもしれないけど、将来的に西側神聖教会圏の人達が聖戦軍を結成して攻撃してくる可能性も考慮して、十年、百年の先を見越しての大工事なんだって。凄い!

 この対バルリー要塞線は必ずしも国境沿いに造られていない。どういうことかと言えば、マトラ及びイスタメル州とバルリーとの間で、マトラ山地――バルリー呼称バルリー高地――における国境線を画定する条約等が結ばれておらず、互いに自領域はここまでという建造物なり旗なりといった現物での意思表示が明確にされていない。領有権の主張は互いに全て自分の物だ、という状態で国際的にも未画定。画定させる要素は建物を建てて、旗を揚げて、帰属意識が鮮明な住民の存在である。

 バルリーへの先制攻撃はウラグマ総督から禁止されている。でもバルリーの地図には、ワゾレどころかマトラまでもがあちらの領域という表記になっていてそこに隙があるみたい。そこからバルリーが明確にマトラへの侵略の意思を見せ付けているという口実に使うらしい。逆にバルリーもマトラの領域だから、そっちに前進しても越境行為ではなくただの移動だと言い張ることも何だか出来るらしい。何だか難しいけど、要は大っぴらに大軍で攻撃を仕掛けなければ国際世論に火を点けるような事態にならないから、ちょっとずつ領域を取り戻していけばいいってこと。

 漸進的旧領有圏奪還闘争を開始する。最初はちょっとずつ、何れはバルリーを通り越してマトラ民族の旧領であるフュルストラヴ公領東部まで!

 対バルリー要塞線を基点に、木を伐採、岩を粉砕、川沿いを基準に道を作って西へと進む。道の基準は大砲を運んでも、雨が降っても泥んこにならない程度。道が延びてきたら塚を建てて距離を示し、駅を建てる。駅の建物には勿論マトラの旗が立つ。

 自分は工兵さん達と一緒に先頭に立って木や岩、崖に沼地を平らにする作業をする。地盤固めて石やコンクリートで固めるのは後からやってくる他の工兵さんのお仕事。情報部現地調査隊の同志ちゃん、測量班の妖精さん達の指示に従って道を延ばす方角を決めて森林山岳地帯を切り開いていく。

 秋の山には食べられるきのこ、山菜、木の実が沢山ある。道を開きながらご飯も採れる。鹿や鳥に猪、豚、熊にバルリー人もいるから肉も一杯獲れる! もりもり食べてもりもりお仕事。

 道を西に延ばす度にバルリーの兵隊と遭遇する機会が増える。

「君達はバルリー共和国の正当な領域を侵犯している! 即刻立ち去りなさい!」

 って怒鳴ってくる。先に手を出しちゃダメだから、無視して工事を行う。バルリーの方も先に手を出したらダメって考えてるらしくて、こっちが道を延ばす先に塹壕掘ったりして邪魔をする。こっちも道の延長が止まったら防御陣地を築いて守備隊を呼び寄せて相手の攻撃に備える。

「人のお仕事邪魔しないでよ!」

「侵略者め、呪われろ!」

「マトラの妖精さんの土地を奪った侵略者はそっちでしょ!」

「分け分からんこと言うな害獣共が!」

「酷い!」

 ブットイマルスしてやろうと思ったけど、情報部の同志ちゃんが「まだ仕掛ける時じゃない」って言ったから止めた。

 木を登って先を見れば、バルリーもこっちと同じ感じで要塞線を建造しているのが見える。ご飯時になれば湯気が上がり、食べ物の匂いがしてくる。あっちも人が一杯だ。

 紛争継続。絶対に負けない。


■■■


 こっちとあっちで要塞線を造り、その中間地帯に道を作って、互いにぶつかりあったら防御陣地を構築して一先ず停止するということを繰り返した。怠け者の敵よりこっちが道を作って拡げる速度は速いんだけど、直接攻撃が出来ない状況だから何だか勝ってる感じはしない。

 そんな時にワゾレ征服作戦で活躍した特殊任務中隊再結成! 悪いバルリー人をやっつける作戦がもっと進むよ。

 バルリー勢力圏内へ潜入、活動は夜間。昼に寝て夜に動いて、悪いバルリー人達をちょっとずつやっつける。やっつける情報を獲得する。

 まず自分は予備戦力として待機が基本。隠密活動が得意な妖精さん達が悪いバルリー人を捕まえて来る。捕まえて来た人達は情報部の同志ちゃんが尋問して、それからマババくんに意見を聞いて尋問結果が信用に足りるか見定める。元バルリー兵で改心したマババくんは嘘を言っているかどうかが、ちょっとだけ分かるみたい。ちょっとだけでも大事だよね。

 尋問する内容はたくさんあって、所属、所属部隊名に隊長名に規模、割り当てられている任務、今まで何をしてきたか、武器配備状況、食べ物は何か、どんな人物が出入りをしているか、どういう噂が立っているか、着替えはあるか、民間人が働きに来ているか、これだけ挙げても足りないくらい細かい尋問を続ける。マババくんがいるから嘘吐いたってちょっと分かるし、分かったら拷問が酷いんだぞって言えば良く喋る人も多い。そうして現地で調書を取ってから後方に送る。後方ではそれよりもっと細かい内容を聞き取るらしい。

 一つ一つ聞いているだけじゃ作戦に使える内容とは思えないけど、これを何十、何百人って続けて一つの情報にまとめるとバルリー全体が見えてくるんだって。賢い!

 現地でやる簡単な尋問を聞いて自分が分かった大事件っぽいことは、バルリーが傭兵をたくさん募集しているってこと。その傭兵達は前の西方遠征の時の生き残りで、統率があまりされていなくて盗みだとか悪いことばっかりやってて困ってるらしい。だから逸早く最前線に送ることにしていて、バルリー側の要塞線にはこれからどんどん傭兵が集ってくるらしい。

 誘拐する機会は、偶然バルリー人が一人で歩いているところを発見して急襲することもあるけど、相手も警戒を強めているから難しくなってきている。こういう時は無理矢理攫っちゃう!

 要塞線間にある防御陣地を夜襲。悪臭弾っていう目と鼻が痛くて涙に鼻水ベロベロになっちゃう煙を出す擲弾を撃ち込んでから、その煙を吸っても平気――でも凄くくっさい!――な防毒覆面を被って、専用に作ったでっかい革袋に煙で苦しんでいるバルリー兵を掴んで一人二人三人ってどんどんしまっちゃう。中から短剣で切れ目を入れて逃げようとするけど、鎖で編んだ網で補強してあるから抜け出せない。そうやって暴れてても一回軽く地面に叩きつければ大人しくなる。思いっきりやると死んじゃうから軽く。

 夜襲って言っても敵は全体的に警戒しているし、騒ぎがあれば直ぐに周囲から兵隊が集ってくるからさっさと逃げる。逃げる時にはもう尋問済みになった捕虜を、目を潰して指を切り落とした状態で置いていく。

 マババくんは元バルリー兵。現地での尋問情報を元に要塞間の警備状況を分析してくれる。暗号で書いてある文書も読んじゃう。とっても賢くて偉い! 誘拐の手助けになる。

 情報部の同志ちゃん達からは「サニャーキがマババくんの面倒みてあげてね!」って言われているから「分かった!」って面倒みてあげる。

 誘拐して尋問したり、抵抗してくるバルリー兵を見てマババくんは時々、急に泣いちゃう。こういうお仕事は慣れてないみたい。

「よしよし良い子だね。マババくんは一生懸命頑張り屋さんの良い子だよ!」

 とか言って頭をなでなでしてあげると落ち着いてくることもある。

 一回、マババくんにバルリー兵のフリをさせて、一杯バルリー兵を誘き出して一網打尽に捕まえたことがあったけど、その日は寝られなかったみたいで苦しんでたから一緒に寝てあげた。やっぱり男の人はおっぱいが好きみたいで、胸に顔くっつけて寝ちゃった。

 マババくんはやっぱりお仕事に慣れていないせいか、バルリー兵を見逃しちゃったりする。見逃す前に何か色々と言ってるみたいで、同志ちゃんはそれを聞くと「あれれ? マババくんはバルリーのお友達なの?」って言う。そうするとマババくん、泣いて「ごめんなさい」ってずっと謝り出す。何だか大変みたい。

 マババくん、段々疲れてきちゃっていきなりしゃがみ込んだりする。

「どこか痛いの? 下痢してなーい? 疲れちゃったのかな? 大丈夫?」

 っていう風に聞いても「大丈夫」って大丈夫じゃない顔で喋る。

「元気出して! 元気ぃ元気!」

 握った手をこうパーって開いて、パって笑ってみるとマババくんもちょっと笑う。

 捕虜を尋問する時に強情な人が時々いる。そういう人の爪を同志ちゃんがマババくんに剥がさせることがあるけど、捕虜より先にマババくんが参っちゃうことがある。

「俺を殺してくれ!」

 っていきなり分け分んないことを叫び出すぐらい疲れてる。お休みさせた方が良いと思うんだけど、同志ちゃんが「マババくんは大丈夫! ちょっと慣れてないだけ」って言う。

 ご飯を作る時は食事当番の人がいるんだけど、マババくん元気無いから肉団子鍋を作って食べさせてあげた。

「美味しいご飯を食べたら元気出るよ!」

「うん」

 その日はマババくん調子良かったみたいで泣かなかった。でもその次の朝になってゲロゲロ吐いちゃって、食中毒かなって思ったけど同志ちゃんが「マババくんは大丈夫! ちょっと慣れてないだけ」って言う。ホントに大丈夫かな? 情報部の妖精さんの方が色々知ってるし頭良いから自分がどう思ってもしょうがないんだけど。

 もう大分捕虜を捕まえて送り返してを繰り返した結果、この任務も終わりが見えてきた。

 バルリー兵は要塞線間の防御陣地を一気に後退させて、隙が無いくらいびっちりと兵隊を配置して昼夜問わず、警戒していない兵隊がいないってくらい完全な守りの体勢に入っちゃった。隠密作戦が物理的に取りづらい状態で、掘削中の地下坑道から、敵陣内部にある出口から出るしか秘密作戦が出来ないくらい。

 こういう厳しい厳戒体制っていうのはとっても疲れるもので、これを長期間バルリー軍に強いることが出来ればそれはそれで戦略目標の達成に繋がるらしいから任務は大成功なんだって。バルリーを支援する勢力も、お金や人に物の流れから見分けがつき易くなって潜在敵の発見も簡単になるみたい。やったね!

 そろそろ無理はしないで次の任務に移ろうかなぁって時に、たまたまマババくんと二人だけの時になったら変なこと言われちゃった。

「二人で逃げよう」

 分け分かんないよね。

「何から逃げるのマババくん?」

「妖精からだ」

「うん?」

「長いことマトラにいるせいか麻痺しているんだろうが、君は妖精じゃない、人間だ」

「え、そうだけどどうしたの?」

「一緒に行こう。ここは人間が住む場所じゃないんだ」

 マババくんが泣きながら言う。またいつもの不慣れかなって思ったけど、喋り方がちょっと違うよね。

「人間はたくさん住んでるよ。遊牧民さん達なんていっぱいいっぱい増えてるし。あ、マババくんはワゾレとこの辺しか見たことないんだっけ! スラーギィにいけば人間いっぱいだよ」

「愛してるんだ! 行こう。人間の文明へ行くんだ」

 え? マババくん変。手を握って引っ張ってくる。力弱いから自分は平気だけど、普通の女の子だったら転んじゃうかも。強引かな?

「ミーちゃんにジーくんにゼっくんもいるのに変なこと言わないで。私、結構お馬鹿だけどマババくんが変なこと言ってるの分かるよ」

「バルリーに来てくれ。目が覚める」

「え? バルリーは悪い敵だから皆殺しにしないといけないし、行く時は命令が無いとダメだよ。作戦作戦!」

「違うんだ」

 マババくん、真剣に喋ってるぽいけどおかしいなぁ。

「うーん、マババくん変だよ。風邪ひいて熱あるの?」

 おでこ触ると、あるようなないような、高熱ってほどは無いかな。子供が高熱出して何だかうぴょぴょー! って感じになることあるけど、マババくんおっきい大人の人だもんね。

「ねえマババくん、君はまだ役に立てるのかな? 立てないのかな?」

 マババくんが護身用に持ってた小銃を、後ろの方から現れた同志ちゃんに向けた。うっそ!?

「いけないんだ!」

 銃身掴んで曲げたら破裂! 「痛っ!?」撃っちゃったの!? 弾けた鉄片を浴びてマババくん血塗れになって倒れた。自分は平気だけど。

「どうしよ!?」

 マババくん、即死はしてないけど意識無いし、ちょっと唸ってる? 呼吸はあるけど、手当て、あ、道具どこだっけ?

「サニャーキ、マババくんは裏切り者だから、そうだね、見せしめにしよう」

「うーん……マババくん裏切り者なの?」

「脱走未遂、脱走の扇動、官品の持ち出しは盗難、秘密作戦中の脱走だから機密漏洩未遂、僕に銃を向けたから反逆罪。死刑だけじゃ済まないよね」

「ホントだ。どうして……酷いよ……」

 マババくんの胸腹開いて内臓取って、後退したバルリー兵の防御陣地から見えるところで木から逆さに吊るす。

 折角新しいお友達出来たってミーちゃんジーくん、ゼっくんに言おうと思ってたのに。酷い。


■■■


 特殊任務中隊のお仕事から一回外れて良いって言われた。どうしてかなって思ったら、演習からゼっくんが帰って来たんだって!

 三七番広場に寄って、ミーちゃんも一緒に行こうって誘ったけど「ジリャーキの糞馬鹿が冬から帰って来ない」から待ってるって。行方不明じゃなくて、ずっと東の方にいて手紙は送ってきてる。手紙の配達指定先が三七番になってるから動けないんだって。ジーくんは馬に乗れるから遠くへ簡単に冒険に行けちゃうし、男の子だからしょうがないのかな。

 ミーちゃんは「送金しようかどうしよう?」って言ってたけど、軍と行動してるみたいだし「今までも一人で大丈夫だったから大丈夫」って言っておいた。ミーちゃんお姉ちゃんは心配性。

 それにしても冬から帰って来てないって、もうそろそろ冬が近いんだけど、一年近く冒険に出たまま。手紙を見せて貰ったけど、向こうで仲間と楽しくやってるらしいから大丈夫かな。あと龍人って変な化け物を何人も殺したって自慢してある。鉄砲が得意で馬に乗れるから、こっちが思っている以上にジーくんはたくましいのかな。

 それから広場に凄くおっきい何かと、剥製ばっかり集めた建物、倉庫があって何だろうって聞いたらミーちゃん「記念碑みたいだけど」って言ってた。

 それから遊牧民さんの男の人達が酔っ払うとチンチン出して格好付けてるのスラーギィで良く見かけたから「あれ何?」って聞いたら「そんなもん知るわけないでしょ」って言ってた。


■■■


 八番要塞の司令部に行った。ゼっくん見つけて嬉しくて掴んでグルグル回したら「おえっ」ってなった。

 一緒にご飯食べたり、ゼっくんにくっついてスリスリしたりしていると、司令部で情報部の人のお話を横で聞けた。日に日にバルリー側の要塞線は強化されていって、人が増えている。正規兵は少しずつ増強され、軍服の支給もされていない非正規兵、後方支援要員は激増、要塞線間の警備部隊は正規兵から傭兵に転換されつつある。現場で見てもそんな感じはあったけど、裏づけが取れたらしい。

 バルリー国内の情報。配給制が一部で始まってて、そういうことに慣れてない住民が抗議活動を行う。そして行っている人達に目玉を抉られた人達を見せたら抗議活動が終わったらしい。それと沢山の防衛国債を発行して傭兵でも武器でも何でも集めまくって、徴兵対象年齢も一気に拡大したり、総力戦体制に移行しつつあるみたい。反マトラ、スラーギィ勢力からも支援を取りつけて義勇兵も続々と入国しているとか。

「ねえゼっくん、今みたいに一気に粉砕しないで敵に準備期間を与えて強くすると戦う時に大変だと思うけど、どうして一気に攻撃しないの?」

「ワゾレ征服には時間が掛かった。バルリー征服はもっと瞬間的に行わないといけない。他国の介入が面倒だからな。最前線に敵戦力、資源、費やした資金を極限にまで集中させてからまとめて潰す算段だろう。敵が最大限の力を投入したものを粉砕すれば後には残り屑しかない」

「そうなんだ! でもこの準備期間で十分介入されちゃってない?」

「本格侵攻と国境紛争じゃ扱いが違う。介入支援の判断は国境紛争扱いだと難しいものがある。だが、その指摘もその通りだ。ベルリク=カラバザルの意向は分からないことがある。深遠なのか思いつきなのかどうかもな」

「偉い人は何考えてるかちょっと分かんないよね」

「そうだな。損害度外視に手応えがある敵と戦いたいだけかもしれない。良く分からん」

「ゼっくんでも?」

「何でも分かれば苦労しない」

「そうだね」

 久し振りにゼっくんと一緒に寝ようっかなぁって楽しみにしてたら情報部から命令。今マトラ、スラーギィ、イスタメルに潜り込んでいる各国諜報員の数が多いらしい。急遽発生したこの、超攻撃的であることは疑いようも無い帝国の存在を察知して情報を探りに来てるみたい。バルリー作戦の展開に対して聖王様から警告が出されてるぐらいらしいし。

 帝国って何って思ったら、どうもマトラ県とスラーギィ県にワゾレ、それから東方遠征で征服してきた地域全部が国として独立するんだって! 何か凄い話になってるよね。

 それから北のオルフでやってる未亡人戦争に介入するための軍を出すことになって、頭領さんにラシージ親分さんが北関門を抜けてペトリュクに攻撃を仕掛ける。

 演習から帰ってきたばかりのゼっくんも、ゾルブ司令さんと一緒にヤゴール王国の方へ行ってまた軍事訓練をしに行く。ちょっと寂しい。でもその時に「東方遠征が終わったばかりでバルリーが控えているのにまた別の戦争か。それでこそベルリク=カラバザル」ってちょっと嬉しそうに喋ってた。ゼっくんが楽しいならそれが一番だね!

 ゼっくんが外の敵をやっつける。自分は中の敵をやっつけるお手伝いだ!

 自分がやることは簡単。ゼっくんが準備を終えて東へ出発するまでその近くにいるだけ。

 出発してからは八番要塞を基点に荷物やお手紙をワゾレ、中洲要塞、北関門、対バルリー要塞線、バシィール城、シェレヴィンツァに配達する。それから疲れているとかいないとか関係無く情報部が決めたところで休んで食べて寝る。それだけ。

 これで何が分かるかと言うと、妖精の重要施設に出入りしているような自分はいかにも重要人物だったり、機密情報を扱っている人物に見える。それも見分けが難しい妖精じゃなく、目立つ格好の人間。その自分に注視していたり、その動向を探っている人物がいたらそれが諜報員の可能性がある。それを情報部が摘発して尋問したり、尾行して仲間や協力者の見当をつけて一網打尽にするっていう作戦。

 自分も怪しい人見つけたら通報するんだけど、バシィール城にいた変な人のことを教えたら「あの人間はシゲくんだね。大丈夫、サニャーキは誰か見つける必要無いよ」って言われた。

 捕まえた諜報員や協力者は洗脳したり交渉材料に使ったり目玉抉って追い出したり広場に吊るしたりするんだって。

 敵は敵だから仕方がないけど、マババくんみたいな裏切り者は許せないよね。許せないけど、自分が手を出しちゃいけないから情報部の同志ちゃんにお任せ。

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